FE転生 レフカンディの侯子   作:レフカンディのエテ侯

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世界の終わり

 パレスが落ちた。

 

 その報せに母は失神し、ウーナは「つまらん冗談はよせ」とペガサスを走らせて来た同輩の胸倉を掴み、憤怒の表情で怒鳴りつけた。

 ボクもまた激しく動揺していた。

 倒れた母を介抱する使用人たちの姿を呆然と眺めていた。頑丈だな。それとも幸運か。母が倒れる時にテーブルから落下した茶器が割れていないことに場違いな感心をする。

 永遠の都パレス。中原の光華。それが失われた。

 聖王国の藩屏グラが裏切り、勇者の国アリティアが落ちた時点で定められた未来であったのだろう。

 分かっていたはずなのに、世界が終わったような恐れに全身が苛まれる。心臓が激しく脈打ち、口の中が激しく乾いた。心の片隅で、レフカンディ健在のこの世界ならば、何もかもが上手く行くのではないかと甘いことを考えていたのだと思い知らされた。

 深呼吸をして心を落ち着ける。

 

「ウーナ。少し下がってくれるかな」

「申し訳ございません。醜態を晒しました」

 

 我に返ったウーナが後ろに下がる。

 彼女が元の同僚に「すまなかった」と詫びを入れるのを眺めながら、侍女が差し出す水を口に含む。果実と香草の風味にほっとする。少しだけ気力が回復した。

 

「いや。いいよ。君が代わりに怒ってくれたような物だ。さもなくばボクが罵倒していたかもしれない。そうなれば彼女も立つ瀬がないだろう。それくらい信じがたい、嘘のような話だからね。ああ。すまないね。こういう言い方は、急使のキミを軽んじる物だな」

「あるまじきことです。こうして玉梓(たまずさ)の任を言付かり、果たし終えた今でも、小官自身、これは何かの間違いではないかと思えてなりません」

 

 折り目正しく(こうべ)を垂れる天馬騎士。

 よく見れば鎧のあちこちに傷が入っている。鎧下の布地にも拭い難い血の汚れが目立つ。激しい戦いを生き残った歴戦の勇士だ。

 最後に一言「ウーナ卿からは後で何か埋め合わせてもらいます」と軽口を添える。それを聞いてばつが悪い顔をする騎士隊長の姿が面白くて思わず笑ってしまった。

 

「はは。こういう時でも人間というのは笑えるものなんだね。気分が上を向いたように感じるよ。質問して構わないかい」

 

 御意のままにと使者は応じる。

 

「王家の皆様。ことに陛下とお妃様、ニーナ王女はどうなされたのか分かるかい?」

「申し訳ございません。我らレフカンディ軍の本隊は王都とは遠く離れたオレルアンの地にて戦っておりましたので確たることは何も。南の三侯の御家中であれば何か掴んでおられるやもしれませんが」

「そうか。御無事であれば良いのだが」

 

 我ながら薄ら寒い言葉だ。原作では王女ニーナを除いてアカネイア王族は全滅する。そしてボクはニーナ姫にどうか死んでいてくれと願っている。現時点では、彼女自身には何の咎もないのに。

 

「お爺様はオレルアンの戦陣。伯父上とその一家はレフカンディの本領に。王都にいたのはお婆様とお父様、それと伯母上方とその子女たちか」

 

 王都の屋敷を差配する女主人たる祖母。王宮の官僚を務める父。他家に嫁いだ伯母らとその子の従兄弟たち。又従兄弟(はとこ)や分家も含めれば三桁の数の一族が王都で暮らしている。

 

 こうなると知っていて見捨てて逃げて来た自分にそんな資格はないかもしれないが、どうか無事でいて欲しい。

 そう強く願った。

 

 一応、疎開を勧める手紙を送ったりはしてたんだけどね。パレスを離れるのを嫌って効果は無かった。

 愚かとは言うまい。王都が一番安全だという認識もあったんだろう。

 ボクだって前世知識の千里眼がなければ、堅固な防壁に囲まれた王都から、タリスの辺境まで移住しようとは思わなかったはずなので、偉そうなことは言えない。

 

 その後、ボクと意識を取り戻した母とが返信をしたためる間、わずかに休息すると、暇を請うた天馬騎士はそのまま戦場に戻って行った。

 その際、自分もまた幕下に合流するべきではないかと逡巡するウーナの内心の葛藤を見透かすように「卿には姫様と侯子様とをお支えする使命があるだろう。そうあれかしと候は望んでおられる」と叱咤して去った。

 

 

 

 それから数日が経過した。

 もう少し詳しいパレス陥落とその後についての情報はワーレン商人経由で齎された。

 

 驚天動地の話の後も、タリス島内ではなんら変わらぬ日常が続いていた。ボク自身、この件で何かできることがあるわけではない。いつも通りに荘園の運営をして日々を過ごしていた。戦士団と商館についてはあくまでも王家の事業だ。幸いどちらも順調である。既に現時点で例年にない税収が見込めると王宮の財務官僚たちは大喜びだ。

 母は心労で寝込んでしまった。幸いシーダの見舞いもあって段々と気力を取り戻しつつある。

 タリス・レフカンディの騎士隊は、半ば代償行為染みた熱心さで訓練に取り組んでいる。オーバートレーニングにならないかとちょっと心配だな。

 

 書簡を広げる。

 軽く通読し、あらためて頭から精読して行く。

 

「なるほど」

 

 文面に混乱が現れている。パレスの失陥は百戦錬磨たるワーレンの豪商たちにとっても寝耳に水の出来事だったことがうかがえる。

 

 この速報を既知の情報と併せて頭の中で整理する。

 

 当初、アカネイア軍は侵略者を相手に互角以上に戦っていた。

 グラの地を橋頭保に攻め寄せる帝国軍をレフカンディの騎士たちは正面から受け止めた。

 侵攻序盤のアリティアを落として意気上がる敵の勢いを、ここで食い止められたのは非常に大きく、それによってアカネイアの誇る重装騎士たちが間に合った。

 そして配備を終えた聖騎士団に場を引き継ぐと、レフカンディ侯は麾下の騎士団を率いて北方に転戦した。選抜した騎兵と天馬騎士のみから成る高速部隊を先行させる念の入れよう。

 突如として参戦したカダインの魔道兵とグルニア騎士団の混成部隊に苦慮するオレルアン王国への救援である。

 オレルアンを抜かれると北からレフカンディを侵されるので、領内を戦場にしない為の純粋に自家の都合ではあるが、救援を得たオレルアン王国の面々が喜んだのも確かであろう。

 騎士の鑑よと賞賛を受け、吟遊詩人たちはその武勲詩を歌って回った。ボクをそれを聞いて、詩人に金を握らせて歌わせたんだろうなと思った。

 

 その後、アリティアの残党が合流して、オレルアンの地で戦い続けているのは、以前に語った通りである。

 

 またアカネイアの南部。つまりレフカンディ以南の王都パレスと三侯国が占める地方だが、その地では西方諸侯の旗頭メニディ侯ノア様と南方の盟主ディール侯シャロン様がそれぞれ侯国の騎士団を率いて勇戦された。

 マケドニアの竜騎士団が現れればノア様の御子息であるジョルジュ卿の独擅場となる。『大陸一の弓使い』の誉れも高き聖弓パルティアを預かる彼の率いる弓騎士隊は、まさしく空を飛ぶ者たちの天敵だった。

 弓騎士ジョルジュ。ゲームでは名前倒れのあまり振るわないユニットだった。

 ボク自身が前世では「大陸一(笑)」と令名にそぐわぬ彼の平凡な腕前をネタにしていた口だが、今世では考えを改めた。ボク自身が同じことをしているので分かるのだが、たとえ作られた風評・名声であっても、勇者に率いられる部隊は強い。なにより戦後にはアカネイア弓騎士団を任せられる男だ。もともと指揮官として優れているのだろう。

 

 そのような形で両軍の戦力は拮抗し、戦場は膠着状態に陥って早くも数か月に及んでいた。

 識者たちの見るところ、戦争はこのまま長期化するが、最後には地力に勝るアカネイア側が勝利するだろう。そう考えられていた。ワーレン商人たちも大方がそう考えていたと書き記している。

 

 均衡を崩すに至った事件は三つ。

 

 カダイン最高司祭とアカネイア魔道宮祭司長を兼務し、戦争ではアカネイア側に立って戦っていた大司祭ミロアが、カダインを乗っ取った魔王ガーネフに敗れた。

 たしか娘のリンダを庇ってマフーの直撃を喰らったんだっけ。あれ、それとも、これは二次創作の話だったかな。どっちだろう。

 ともあれ、アカネイアの魔道士の最高位者が死亡したのが一つ。

 

 次にアカネイア軍の総司令官オーエン伯が陣中で謎の怪死を遂げた。暗殺が囁かれている。意思決定者を急に喪失した軍団の指揮系統はほんの僅かな乱れを生じ、その蟻の一穴を黒騎士カミュは見逃さなかった。

 一気呵成の猛攻に聖騎士団は壊走した。これが二つ目。

 

 最後の決め手となったのはアドリア侯ラングがマケドニアの竜騎士団と内応したこと。それまで領地で穴熊を決め込んでいたラングが突如として兵を起こし、友軍を装ってメニディ侯に近づくと、これを奇襲して殺害してしまった。

 そこへ襲いかかる竜騎士の群れ。半壊した弓騎士隊になす術はなく、飛竜を駆る騎士たちは地上を歩くしかないできない歩兵の群れを、悠々と刈り取って行った。

 ほどなく主と軍主力を失ったメニディ侯国は占領された。

 

 正直なところ、なぜこの状況でラングが裏切ったのかが分からない。その点は文通相手も不思議に感じているようだ。

 極端なことを言えば、ミロア司祭の死と聖騎士団の壊滅は、結局はアカネイア王の直轄領の話でしかない。王都パレスは陥落するかもしれないが、五大貴族が健在ならば、巻き返す目は十分にあった。

 それとも外部からはうかがい知れない何らかの必然があったのか。疑問は尽きない。

 

 ともあれラングは裏切った。

 

 一人残されたディール侯に出来ることはもはや無かった。

 最後まで奮戦するも、衆寡敵せず、陣没を遂げた。

 

 グルニア、マケドニア、グラ、そこにアドリアを加えたドルーア帝国の軍勢が王都パレスを襲った。

 攻城戦は記録的な短時間で終わったと言う。

 

 王宮の最奥に隠れ潜んでいたアカネイア王は、王都の中央広場に引きずり出され、恐怖する群衆の眼前で有無を言わさず首を刎ねられた。

 王家の一族もまた死を間近に控えた老人から生まれたばかりの赤子まで、そのことごとくが殺し尽くされた。

 もともとアカネイアの王族は、百年前の第一次ドルーア戦争でも族滅の憂き目に合っており、現在の王家はそこから唯一生き残った王女アルテミスの血統から始まる脆弱な一族だった。数が回復しきっていない。

 皆殺しにするのは容易だったろう。少なくとも全員行方知れずになっている。書簡の中でも全員死んだのではないかと推測されている。

 

「原作だと。ニーナ王女が黒騎士カミュに匿われているはずだけど、果たしてこの世界ではどうなっていることか」

 

 本音を言うと、一人だけ生き残らせるとか面倒なことをしてくれやがって、全員殺すか全員助けろよって理不尽な怒りを感じている。

 もっとも。原作ではあらかた粛正が終わってから着任したカミュに怒るのは筋違いなのは分かっているし、仮に優秀とは言えただの一将校でしかない彼にそんな権限は元からないだろう。権限があれば秘密裏に匿ったりせず、堂々と助命しているはずだ。

 

 だからこれはただの八つ当たりである。

 

 不愉快な話の続く中に朗報もあった。

 お婆様を始めとするレフカンディの一門は健在。屋敷は接収され、別邸の一つに一族纏めて軟禁状態に置かれてこそいるが、すぐに殺されることはないだろうと目されている。

 北の地で大軍を維持するお爺様や、国主代行の伯父上、お婆様の御実家のさる貴族家への人質として有意と判断されたようだ。

 原作において聖騎士ミディアが囚われていたのも同様にディール家への牽制だったのではないかと思う。たぶんこの世界でも捕虜になっているんじゃないかなあ。

 またその判断には、少なからずアドリア侯ラングの働きかけも影響があったという。

 額面通りに人質として有効で、同時に、もしもドルーア帝国が敗戦した場合に備えて、諸侯に恩を売っているのだろう。「蛮族の群れから同胞を守るためにやむなく裏切ったのだ」言い分としてはそんなところか。はなはだ遺憾な話だが、分かっていても、感謝せざるを得ない、厄介な男だ。




大きく世界が動きました。でもタリスは動きません。田舎なので。
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