FE転生 レフカンディの侯子   作:レフカンディのエテ侯

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今回はシーダ視点の一人称的三人称です。


飛んで来た

 今日は朝から王宮中がそわそわしています。

 いつも王様のお仕事でお忙しいお父様も、美味しいご飯を作ってくれるお母様も、なんだかとっても上の空です。

 これはお誕生日会かお客様がやってくる日の空気です。でも変だなとシーダは思いました。お誕生日会なら誰のお誕生日でしょうか。私の十歳の誕生日は再来月なので違いますし、お父様とお母様でもありません。

 そうするとお客様があるのでしょうか。

 首を傾げて、はてなと頭を捻っていると、お城の外からワァッというざわめきが飛び込んできました。

 それを聞いたお父様は椅子から立ち上ると、お母さまと顔を合わせて頷き合い、バルコニーへと歩きだされました。お母様も後を追います。その際、愛娘の肩にそっと手を添えられて、着いて来るようにとうながされました。

 

 なあにあれっ!

 

 いけない。思わず王女らしくない叫び声を上げてしまいました。慌てて口をふさぎます。傅役(もりやく)のばあやが聞いていたら、ガミガミお説教が待っています。

 ですがそうはならなかったでしょう。なぜなら、ばあやも大きく口を開いて、あわわわわとはしたない驚き声を出していたからです。

 落ち着いた姿を見せていたのは王様であるお父様だけでした。お母様も驚いて目を丸くされていましたし、お城の兵士たちもみんな驚いていました。

 

 空の向こうからそれは来ました。

 

 十数頭のペガサスが見事な隊伍を編んで南西の空から天翔(あまがけ)て来ました。

 よほどに訓練を積んだ騎士たちが御しているのでしょう。高さは一定の高度が保たれ、天馬同士の間隔も微動だにしませんでした。

 

 外から聞こえて来た音の正体は、それを見たタリスの島民たちが驚き慌てて立てた物だったのです。

 

 シーダも天馬を駆けさせる訓練を少し前から始めていたので、それがいかに大変なことかよく分かりました。

 

 なにより驚くべきは、仲間たちに囲われて中央を飛ぶ五頭のペガサスの妙技です。

 馬車の車室(キャビン)を思わせる豪華な箱状の物を吊るして運んでいます。それも、まるで魔法でもかけられたように小動(こゆるぎ)もしていませんでした。

 

 彼らは。ペガサスナイトの一団ですから彼女らと呼ぶべきでしょうか、箱を運ぶ天馬騎士の集団はそのまま王宮の上まで飛んでくると、お城の中庭に箱を降ろしました。

 下馬した騎士の一人が、箱の側面の扉をうやうやしく開きました。

 すると中から人が出て来たではありませんか。

 この人がお客様なのでしょうか。いいえ、そうではありません。その中年の男の人は、シーダの知る限りだと王宮の侍従のじいやに似た雰囲気を持っていました。

 彼は、バルコニーに立つお父様に向けて、優雅な仕草でお辞儀をしました。

 

「よくぞ遠路参られた!」

 

 お父様が大きなお声で出迎えの言葉をかけられます。

 

 シーダはたまげました。

 こんなお客様の登場は前代未聞のことです。

 

「それ。皆の者、お客人を丁重にお持て成しせよ」

 

 お父様が王様のお顔で侍従と侍女たちに命じます。

 

「二十に迫るペガサスか。あれだけで我が城など容易く攻め落とせような」

 

 パタパタとお城の使用人たちが駆けて行く音に紛れるように呟かれた、絞り出すようなお父様の言葉がシーダの耳に残りました。

 

 

 シーダから見たお客様の第一印象は「変な子」でした。

 アカネイアの貴族。それも五大貴族と称される権門中の権門の出身だと聞いているのに、ビックリするくらい物腰が柔らかいのです。

 

「お初にお目にかかります。シーダ王女」

 

 以前にお父様であるモスティン王に連れられて赴いたアカネイアの王都パレスでは、何度も不愉快な目に合わせられたので、どんな嫌な子が来たんだろうと心配していたのですが、絵物語に出てくる王子様のように優雅な少年でした。

 青い瞳は夢見るようにキラキラと輝き、瑞々しい桃色の頬に、ほどよい長さに整えられた金色の髪がお人形のようでした。

 年齢はシーダと同じくらいでしょうか。

 シーダはもうすぐ十歳のお姉さんです。この子もそれくらいかなと思いました。聞けばちょうど半年違いでシーダがお姉さんだと分かりました。ちょっとだけ年下です。

 

 もちろん、それだけならば「素敵な人」であって、シーダも変だとは見做さなかったでしょう。

 

 この人、私じゃなくて、なんだか遠い所を見ている。

 

 シーダはピンと来ました。この男の子は自分を見ているようで見ていないと。なんだかとてもムカムカしました。一瞬でも素敵と思ったのはトンデモないことでした。パレスで出会った意地の悪い貴族の子供たちよりもよっぽど失礼な人です。

 それに見た目は子供なのに大人と話しているような感じがして不気味でした。

 プンプン怒ったシーダは大人たちに訴えます。「あの子変よ」と。けれども、ばあやも侍女たちも大好きなお母様でさえも取り合ってくれません。

 

 お父様に至っては信じられないことを言い出す始末です。

 

「あの少年がお前の婿となるレフカンディの若殿だ。シーダよ。好きになれとは言わん。ひとまずは新しくできた友人だと思って接してみなさい」

 

 お婿さん!

 

 それはつまりお母様にとってのお父様と言うことです。シーダはビックリしました。なんてことあの男の子と私がそうなるの。そんなことを言われても困ってしまいます。

 

 それから何日かして、シーダは男の子のお家に遊びに行くことになりました。

 王妃様であるお母様が、男の子のお母様であるレフカンディの侯女様にお茶の席へお呼ばれしたのです。

 

 馬車に乗って王都の郊外にあるレフカンディのお屋敷に向かいます。

 そんな所にそんな物があるだなんてシーダは知りませんでした。不思議に思って聞くと、しばらく前に完成したのだそうです。

 御者の老人が楽し気に話すことには、島中から大工さんと人足が集められて、工事現場はまるでお祭りのようだったという話です。

 

 そうする内に到着したお屋敷は、お城の次くらいに大きなとても立派な建物でした。

 

 シーダは緊張してきました。よく考えると、お客様をお持て成しする経験はありましたが、お友達のお家にお招きされるのは初めてです。

 

 お屋敷の召使いに案内されて、お屋敷の中にお邪魔します。

 玄関広間に、あの男の子とよく似たとても綺麗でかわいらしい女の人がいて、シーダと王妃様を出迎えてくれました。このお屋敷の女主人であるレフカンディの侯女様です。

 

 彼女は人好きのする笑顔で二人に近寄ると、お母様の手を握って「ようこそいらっしゃいました」と歓迎しました。

 それに応じて「お招きありがとうございます」と王妃様もお礼を言います。お母様に続いてシーダもご挨拶をします。

 

「お招きありがとうございます。タリス王モスティンが息女シーダです」

 

 緊張しながらもどうにか教えられた通りのお作法をきっちりとやり遂げました。ところが、終わった所で油断して、えへへっと頬を緩めてしまいます。

 

「まあ。お可愛らしいこと」

 

 天真爛漫。百点満点の笑顔です。

 生粋のパレス貴族の侯女から見ると、シーダのそれは落第点も良いところでしたが、そんなことまるで気になりませんでした。

 

 王都を遠く離れた土地に来て、彼女も開放的になっていたのかもしれません。ここで言う王都とはアカネイアの王都のパレスと言う意味です。

 

 そこにするりと入って来たシーダの笑顔をたちまち気に入ってしまいました。

 

 和やかな空気の中でお茶会が始まりました。

 はじめて食べる素敵なお菓子にシーダは魅了されっぱなしです。

 その微笑ましい様子を見守りながら二人の貴婦人は話に花を咲かせます。

 

「それじゃあ。王妃様は母と面識がおありだったのね」

「はい。何年か前に夫に付き添ってパレスに赴いた折に、王太后様が主宰されたサロンの席で、レフカンディの奥方様とお話しさせていただく機会がありました」

「まあまあ。なんてこと。お母様ったら教えておいてくれたら良いのに」

「二言三言言葉を交わさせていただいただけですから、覚えておられなくとも何もおかしくありませんわ」

「それでも! 本当に、お母様ったらもったいのないこと。王妃様もシーダ姫もこんなに素敵な方たちなのに。そうだ、手紙を書くわ」

 

 その後、侯女は本当にその日のうちに母親に宛てたお手紙をしたためるのですが、その時にはもうすっかりとシーダを気に入った彼女は、息子の婚約者にするべきだと熱弁しました。

 

 茶飲み話も落ち着いた頃、女主人の息子が王宮から帰って来ました。

 シーダたち母子が侯女に持て成されていたように、レフカンディの侯子はタリスの王宮で王から歓待を受けていました。

 その帰りです。

 侯女は帰宅した息子を呼びつけると、お茶会に一緒に参加しなさいと言いつけました。

 

「ごきげんよう。王妃様、シーダ王女、数日振りですね」

 

 にこやかに挨拶します。相変わらずお人形さんのような男の子です。

 

「あらためて紹介するわね。私の息子です。仲良くしてあげてちょうだいね」

「はい」

 

 第一印象があまり良くなかったので、シーダは内心でちょっと嫌だなあと思いましたが、失礼にならないように愛想良く振舞います。

 

「この子ったらモスティン陛下を尊敬しているんです。タリスに行きたいと言い出したのもこの子なのよ。私は知らなかったのだけど、陛下が一代でこの島を統一なされたのですって」

「はい。そうです。お父様と廷臣の方たち、それとお友達のロレンス様が力を合わせて、タリスを統一されました」

 

 シーダは誇らしげに応じます。勇者アンリの冒険にも負けない偉業だと信じていました。それを尊敬していると言われて、おやっと思いました。もしかして、良い子なのかしら。

 

「どこで知ったのか、それをこの子ったら、まるでアドラ一世のようだ、現代の生ける英雄だってはしゃいじゃって、陛下にお会いしてみたいと言ってきかなくて」

 

 くすくすと笑う母親に、からかわれた息子は恥ずかしそうに頬を赤らめました。

 

 お父様を褒められてシーダはとても嬉しい気持ちになりました。それになあんだあと思いました。なるほど。この子ってば私の向こうにお父様を見ていたのね。子供っぽいところもあるんじゃないか。そう思うと、途端にかわいらしく思えてきたのでした。

 

 そんなこんなで、お婿さんは分かりませんが、お友達にはなっても良いかなと思ったのでした。




もちろん主人公がシーダの向こうに見ていたのはお父様じゃなくてマルス様です

はじめて描写される主人公の外見(ただし9歳の頃)。
色合いに特に深い意味はなく、ニーナと同じ金髪碧眼にしただけです。
決めてから、思い至りましたが、同じアカネイア高位貴族のジョルジュおよび平民出身のアストリアも金髪なので、アカネイア人には多い色なのかもしれませんね。
マルス様やシーダと同じ青系のミディアとかもいますが。
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