FE転生 レフカンディの侯子 作:レフカンディのエテ侯
パレス陥落の日から半年が経った。
変わらずタリスには平和な時が流れている。
そして大陸の情勢もこのところは落ち着いているようだった。王都が陥落し、王族がすべて行方知れずとなったことで、南北で睨み合う両軍は自然と休戦状態になっていた。
北部を占めるオレルアン・レフカンディ・アリティアの連合軍は旗頭を欠き、それぞれが目指す目標のズレが目立つようになって来ているようだった。
開戦以来絶えていた、天馬を伝令に走らせる余裕が侯国軍に生まれたことで、あらためて情報が入って来るようになっていた。
レフカンディに都合の良い視点で編集されているので、額面通りに受け取るのはまずいが、情報の入手経路が増えるのは助かる。
整理しよう。
現状国土の防衛が上手く行っているオレルアン。
本領こそ守り抜いたが、一族の多くと膨大な財産を王都に残しているレフカンディ。
祖国を占領されたアリティア。
オマケで開戦以来半ば蚊帳の外に置かれているサムスーフ。
流石に即座に空中分解するということはないだろうが、紋章の盾を掲げたアカネイア王族でも現れない限り、纏まるのは無理なんじゃないだろうか。
業腹だが、王女ニーナの生存と、一日も早い降臨を願わずにはいられない。
一方のドルーア帝国。彼らは彼らでけして一枚岩というわけではない。
こちらは主にワーレンの商人たちから提供された情報になる。
構成員の大半が生粋の竜族マムクートであった第一次ドルーア戦争におけるドルーア帝国と異なり、今回の暗黒戦争こと第二次ドルーア戦争における新生ドルーア帝国は、その構成員の圧倒的多数を人類が占める。
その人間たち。地竜の王にして暗黒竜たるメディウスを信奉する者たちを除けば、ただただ反アカネイアで集まった者たちである。
だからこそ、パレスを落とし、王族の族滅を果たしたことで、継戦の意欲が著しく減退していた。戦争には勝ったし、領土も分捕った、北伐など敢えて危険を冒さずとも、今ある分で満足するべきではないか。そんな風な声が日増しに増えている。
帝国に参与する各国の王たちも、併呑した領土の経営に専念したがっている様子が、傍目にもあからさまであった。
マムクートたちもその声は無視できないのではないかと商人たちは推測している。
多分だけど実際にはメディウスの完全復活まで時間を稼いでいるだけなんじゃないかなって気はするな。それさえ成ればすべてひっくりかえせると思っているのだろう。
各地で占領軍の将校による軍政が始まった。
中には虎の如く苛烈な物もあったが、その大半はほどほどに真っ当な統治が行われていた。中には一番の圧制を敷いているのがラングだという笑えない話も混ざっている。
またグラ国王ジオルに至っては、ただただアリティアのコーネリアス王を討ちたかっただけではないかとさえ囁かれている。
パレスが落ちるやさっさと帰国し、新しく手に入れたアリティアというオモチャを大喜びで弄りまわしている。
こんなところだ。
レフカンディからの情報をワーレンに渡し、ワーレンからの情報をレフカンディに渡す。そんな情報のハブをここ数か月続けている。
手紙を読んで手紙を書き。また手紙を読んで手紙を書く。読んで書いて読んで書く。眼精疲労と腱鞘炎になりそうだ。
元よりボクは転生者で真っ当な十二歳児ではないが、我ながら小学六年生相当の子供がやる仕事じゃないよなあ。
あ。
そうそうボクも十二歳になりました。シーダに追いついた。やったね。
まあ、当たり前の話だけど、もうちょっとしたらまた彼女の誕生日が来るので、元の木阿弥なんだけど。木阿弥は違うか。
現実逃避気味に馬鹿なことを考えていると、小間使いの使用人が入って来た。
「侯子様。馬車の御用意が整いました」
「ありがとう。もうそんな時間か」
礼を言って立ち上がる。あのままだと書斎の椅子にお尻から根が生えかねないところだった。
変わらず時が流れていると言ったが、かといってタリスにもまったく変化がないわけでもなかった。戦火を逃れて疎開してくる人間が見られるようになっていた。
さっきの小間使いの少女もそうだ。
たしか名前はクライネだったかな。
元は母と親交のあった貴族の家に仕えていたが、戦禍の影響で困窮した主人から雇い止めに合い、退職金代わりに持たされた紹介状を携えて我が家の門を叩いた。
なかなかのガッツの持ち主だよね。
王宮に着いた。
顔見知りの役人たちと声を掛け合いながら、勝手知ったる城内を闊歩する。
目的地は礼拝堂。そこでリフ司祭から杖魔術と薬学について学ぶことになっている。傷薬。他のゲームだとポーションやエリクサーと呼ばれるような霊薬、魔法の薬の類だ。
教え子はボクとシーダ、王家の家臣の中で見込みがあると判断された人たち。
「侯子様。先日もまた手紙をお届けいただき、ありがとうございました」
そしてエリス王女だ。顔を合わせるなり、毎度、律儀にお礼を言ってくれる。
タリス・レフカンディ間のペガサス郵便。エリス王女も熱心な利用者だった。戦地に残った母と弟と毎回、分厚い手紙を遣り取りしている。
ところで。エリス王女に絡んで気になっていることがあった。それはこの世界では復活の杖オームの扱いはどうなっているのかと言うことだ。
エリス王女がタリスに亡命しているこの歴史だと、もしやオームの杖もタリスに来てるんじゃって思ったんだ。
まさか本人にオームの杖はどうしたのかと聞くわけにもいかない。直接尋ねるのはあまりにも不自然なので、世間話の中でそれとなくオームの杖を話題に出して探りを入れるのに、軽く一年くらいを要した。
なにせ僧侶リフを教師に迎えての杖魔術の鍛錬の日くらいしか接触機会がない
結論から言えば、エリス王女はオームの杖を持っていなかった。もっと言えば、死者を蘇生させる杖だなんて、御伽噺の中の誇張された伝説ではないかと考えている。
「そうですね。もし本当にそんなことが可能なら父に蘇って欲しいです」
亡き父を想う娘の切なる願いだった。またそれは同時に戦地で苦労をしている母と弟を思いやっての物でもあったのだろう。
でも、そうか、コーネリアス王の復活。その手があったか。盲点だったな。なにもファルシオンを振るうのはマルス王子でなければいけないという法もない。
同時に「なんでエリスの逃亡をガーネフが見逃したんだ」という疑問に答えが出た。
と言うのも、旧作ではガーネフにエリスが攫われたのは、彼女がガトーから授けられた復活の杖オームが欲しかったからという筋立てになっていた。
ところが、リメイク版である『新・紋章』だと、杖はドルーアの復活の神殿で発見されたことになり、エリスを連れ去ったのもオームの使用条件が王家の血を引く女性だから、王族であるエリスを必要としたという話に変わっていた。
入手場所もエリスの初期装備から祭壇の横の宝箱だったかな。
王族の女性なら誰でも良いので、原作のガーネフは、たまたま手に入ったエリスをこれ幸いと攫ったけれど、逆に言えば無理にエリスにこだわる必要もないということだろう。
もっとも。あの邪悪な魔道士ならば、勇者の国アリティアの王女に無理強いて使わせるのが面白いくらいは考えてた可能性はあるか。
だが、これは危うい話でもある。
オームを使える王家の血を引くの女性というのはシーダにも当てはまるのだ。なぜ由緒も何もない一代で国を建てたモスティン王の娘であるシーダに使用可能なのかは分からないが、少なくとも原作ゲームでは使用可能だった。
ガーネフへの対処なんてボクの手には余るぞ……!
主人公はカタリナまでは覚えていますが、彼女の『孤児院』での名前がアイネだったり、妹分にクライネがいたりした諸々細かいことは覚えていません。