FE転生 レフカンディの侯子 作:レフカンディのエテ侯
「こいつぁ。とてつもない街だ」
誰かが言った。甲板に集まった人間たちは大騒ぎだった。なんて大きい街だろうか。
山を背に海を臨む天然の良港。海から見るワーレンは目路遥かに街並みの広がる巨大都市であった。
船の旅も終わりが来た。
灯台の小島を横切り泊地に入る。この灯台が海と港湾とを区切る境界である。物の本によると灯台を建てるために築かれた人工島であると言うその島を突端にして二つの釣り針形の堤防が港を囲んでいる。
船はそのまま防波堤の中の穏やかな水域を進み、ほどなく石造りの岸壁に接岸する。
「タリスの港じゃ、小舟を使って船まで行き来したが、ここはすげえなあ。こんなバカでかい船が直接乗りつけられるのか」
感嘆しきりといった様子のサジ。渡り板を御機嫌に歩きながら船と岸壁を交互に見る。
「おい。気を付けろ。調子に乗ってると落っこちるぞ」
「言ってくれるじゃないかバーツ。俺の見る所お前もだいぶ浮かれてるみたいだが」
いまにもスキップしそうな友人の足取りをからかう。反撃を受けたバーツはチェっと決まり悪さを誤魔化すように舌打ちした。
「たしかに凄いね。タリスにも欲しいや」
タリスの港にはこの規模の大船を接岸させられる施設がないので、船は沖合に停泊した上で、艀を使って人と貨物を輸送している。
でも今ある港は水深が浅いんだよなあ。
大掛かりな浚渫工事をして水深を深くするか、逆に十分な水深のあるところまで埋め立てて港を拡張する必要がある。あるいは長い桟橋を作るか。前二つは非現実的だし後者もメリットが少ない。別の場所に新しい港を造るのが現実的だろうなあ。
どちらにせよ十年、二十年は先の話だろう。
タリス人御一行様はワーレンの港に上陸した。
アカネイア最大というのも頷ける立派な港だ。
美しさではパレスに軍配が上がるが、活気ではこちらが上かもしれない。
様式も様々な船が停泊し、大量の人間と荷が行き交い、各所で荷揚げ・荷積み用の木造クレーンが稼働をして……。
「奴隷が回す謎の装置だ!」
前世で有名なミームの実物に遭遇した興奮で変なテンションになって思わず叫んでしまう。周囲の「は?」という怪訝な視線が痛い。
いや、だって、しょうがないんだ。
複数の人間が力を合わせて棒を押しているのを見たら、ボクと同じ転生者なら絶対同じリアクションするはずだから。
もちろんギャグとして使われる無意味な苦役ではなく、キチンとした意味のある行動である。クレーンのロープを巻き上げて荷を積み下ろししている。
「ははは。侯子、あれはクレーンを動かしているのです」
世話役の軍人が笑って教えてくれる。
「そうだったんですね。読んだ書物の挿絵に描かれていたのですが、何をしているのか説明がなく、ずっと不思議だったのです」
助け舟をこれ幸いに無知を装う。
「そうでしたか。本は良い物です」
神妙な顔で金髪の傭兵隊長はうなずいた。
彼に先導されて、ボクたちは今度は運河に浮かぶ高瀬舟に乗り込んだ。
喧騒を背に水路を遡り、タリスではお目に掛かれない五階建て、七階建ての高層建築が立ち並ぶ市街地を通過する。実際に高いんだけど、運河の水面という地面より低い場所から見上げると、とてつもない高さに感じるなあ。
二十一世紀の地球を知る自分でも大都会と呼ぶのを躊躇しない繁栄を極める人界の華。同行するサジマジバーツらは圧倒されて言葉もない様子だった。
ワーレンはいわゆる『自由都市』である。
自治都市とも言う。すなわちアカネイアの聖王に直接臣従する形を取ることで自治を勝ち取った街だ。近隣諸侯の支配を受けることなく豪商たちの合議により市政の運営が為されている。
アカネイア王家が滅んだと見るやドルーアに多額の献金を行い自治を保った。とても逞しい。
そしてまた、ゲームの中では一つきりの町として描かれていたが、真のワーレンはそれに留まらず、都市同盟と称するべき巨大な機構。この地方の自由都市群と半自立の傭兵団、水軍、開拓地の農民団から成る総体である。
自治を保ち得たのも金貨のみに拠らず、その剣槍があっての物だろう。
その扇の要としてあるのが盟主ワーレンである。
必然として、そこで商われる武具の質も高い。魔道や神秘が絡まない尋常の兵器の質は大陸最高だとの評判だ。
今回、ワーレンに戦士たちを連れて来たのは、彼らの装備を更新するためだ。
なにせタリスに流通する武器は基本的にあまり質が良くない。
使っている鉱石の質が悪いのか、設備の問題か、はたまた単純に鍛冶職人の技術が足りないのか。鋼と呼ぶには心許ない物ばかり。
北から襲ってくる蛮族たちの方が高品質の斧を持って来るということで察して欲しい。
金属加工技術は農具の質や開墾の効率にも直結するのでこれも重要な課題だな。
ワーレン滞在中の仮の宿に武器商人が売り物を手にやって来る。
思い思いの武器を手にわいのわいのと盛り上がる戦士たち。
修学旅行の土産物屋で騒ぐ男子学生みたいだな。
ちなみに連れてこられたメンバーは恨みっこなしの抽選で決まった。
発足から一年を間近に控える戦士団の面々の練度も高まってきたので、この辺りでそれに相応しい武器を持つべき時期が来たと判断した。
と言うのが表向きの話だ。
「ありゃ。どこかお出かけですか?」
「うん。ボクも欲しいモノがあってね。ずっと探してたんだけど、先日、ようやく持ち主と連絡がついて、今回、商談の場を設けることが叶ったんだ」
「そうなんですか。侯子様くらいのお金持ちでも手に入らない物があるんすねえ」
「あはは。すごい貴重なモノだからね。お金じゃどうにもならないんだ。譲ってもらえるかは交渉次第かな」
「へえ。譲ってもらえると良いっすね」
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
気の好い戦士たちに見送られて商談に向かう。
彼らの引率は家臣たちに任せて、ボクは本命の仕事をこなすとしよう。
ボクが訪問したのはワーレンで一番の愛玩鳥を商う豪商の屋敷だ。古今東西、鳥の飼育は上流階級の愛好する趣味の一つだ。ファイアーエムブレムで一番有名な趣味人としてはテリウス大陸が誇る愛の人、美の守護者オリヴァーだろうか。
言動と所業はさておき、審美眼だけは同じ貴族として見習うべきものがあると思っている。いやマジで。
「そんなわけでボクも貴族の末席として、鳥を一羽、お迎えしようと考えています」
商談の相手を待つ間。屋敷の主人から稀少な鳥を見せてもらったり、飼育についての話を聞かせてもらう。なかなか有意義な時間だった。
そうして一時間ほど経過したころ。
端正な面立ちの金髪の貴公子が来訪した。彼こそが待ち人。実に見事な白馬の王子様的な人だなあ。流石はファミコン版の時から飛びぬけて美形に描かれていた人だ。
「すまない。待たせただろうか」
これに「今来たところです」と答えたらベタなラブコメのデートシーンみたいだな、なんてことをふと思った。
「とんでもない。なにしろ御亭主のお話があまりにも興味深くて、とても時が経ったとは思えません」
屋敷の主人――の振りをした眼前の騎士の部下――を褒める形で、気にしていないこと、十分な持て成しを受けていることを伝える。
「何とお呼びすれば?」
「貴公の好きに呼んで欲しい」
「そうですか。そうですね、ではジークさんとお呼びします」
「承知した。貴公はマークだったな」
「はい。マークです」
こちらも偽名もとい仮名である。FE的にこれしかないと思われたので。
「そうか。マーク。鳥屋の主人から聞いてはいるのだが、もう一度貴公の口から直接聞かせてもらえるだろうか」
「もっともなことです。行き違いがあってはなりませんからね。折り入って譲っていただきたいモノがあるのです」
「ほう。それは一体何であろうか」
婉曲で芝居がかった遣り取りでお互いに少しずつ核心に近づいていく。胃が痛い。
「この世に一羽しかいない稀少な鳥について」
奴隷が回す謎の装置
ここでは昔の船に搭載されていた人力の巻き上げ機である「キャプスタン」に類似した装置。棒を数人で押して回すことでクレーンのロープを上げ下げする。
実際には港や工事現場で使われた人力クレーンはハムスターの回し車みたいな装置に人間が入って足で踏んで歩く形式が主流だったっぽいです。