FE転生 レフカンディの侯子   作:レフカンディのエテ侯

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弓騎士

「ウーナには世話になってばかりだね。ありがとう」

「勿体ないお言葉です」

 

 空の上で忠臣と言葉を交わす。

 王女姉妹の再会を見届けると、ボクはワーレンに舞い戻る。その途上での出来事だ。

 行きでそうしたように帰りもウーナのペガサスに乗せて貰う。落ちれば命はないが、彼女になら安心して任せられる。

 胸甲に覆われた胸に頭を預ける形で騎乗する。傍目には母親の膝に座る子供みたいになっていると思われる。それか彼氏にもたれかかる彼女か。

 そしてボクたちを守る形で六騎の天馬騎士が周りを囲む。

 

「ふふ。お二人は強い信頼で結ばれているのですね」

「そうなんだ。ウーナは母様の乳母子(めのとご)でね。ボクにとっても叔母か姉のような存在なんだ」

 

 部隊長であるパオラの言葉にそう応える。

 ミネルバ王女の直属の部下である緑髪の天馬騎士。いわゆるペガサスナイト三姉妹の長女だ。

 

「そう言うパオラ卿こそ、こんな仕事を任されるんだ、ミネルバ王女の信頼が厚いんだろうね」

「恐れ入ります」

 

 彼女の任務はボクの送迎。言葉にすればそれだけだが、タリスとマケドニアの関係は現状は秘密にしておかないとならない。自ずと任せられる人材は限られてくる。彼女とミネルバ王女の仲が、ゲームで語られた物と同様に、あるいはそれ以上に親密な物であることが察せられる。

 そう。ボクたちを囲むのはマケドニアの騎士たちだ。彼女が指揮する白騎士団の一部隊に紛れ込んでの天空騎行。現在この地域はドルーアの支配する所なので、その一員であるマケドニアの騎士たちに送ってもらうのが一番安全だからね。

 レフカンディの領軍固有の装備を外して外套を纏えば、遠目にはマケドニア騎士の一員に見える。ただ、やはりウーナとしては、オレルアン領空で同僚たちと鎬を削ったマケドニアの天馬騎士に扮することに複雑な感情を抱いている様子だったが、それでも文句を言わずに従ってくれた彼女には頭が下がる。

 何か埋め合わせを考えないとなあ。

 そんなことを呑気に考えていた。

 もしかするとフラグって奴だったのかもしれない。

 

 右隣を飛行していた天馬が前触れなく墜落した。

 そこからは目まぐるしく事態が動いた。

 

「総員降下!」

 

 隊長のパオラ卿が鋭く叫んだ。

 間髪を容れずウーナがボクを前方に押し倒す。天馬の首に頭を押し付けられる。タテガミに顔が埋まって、くすぐったいやら苦しいやらで難儀したが、それどころではなかった。

 

「狙撃です。頭をお上げにならぬよう」

 

 パオラ卿の指示を受けた騎士たちが一斉に降下する。ウーナも追随する。急激な動きに頭がグラグラする。

 

「ぷはっ」

 

 動きが止まった。もういいかな。いいよね。頭を上げて息を吸う。

 岩の陰に隠れていた。

 見れば着陸する間にまた一人撃ち落されたのかウーナを含めて五人しかいなかった。

 ゾッとした。自分たちの天馬が落ちていてもおかしくなかった。死が間近に迫っていたことに背筋が凍りつく思いだった。同時に、天馬騎士たちが組んだ六角形の陣形を、どこか大袈裟だと感じていた自分が、いかに甘い考えで行動していたかを知った。

 

「あの二人は無事だろうか」

 

 下馬して岩に背をあずけて座り込む。

 絞り出した言葉が、本心から心配して出て来た物なのか、気まずさを誤魔化すための物なのか、自分でも分からなかった。

 

「侯子様はおやさしい方ですね。部下たちを案じてくださりありがとうございます」

「御安心を。両人とも地面にぶつかる直前に天馬を飛び降り、受け身を取っておりました」

「私たちペガサス乗りの一番の脅威は落下ですから、その対策は十分に訓練を詰んでいます」

 

 よほどのっぴきならない理由がない限りは、万一落馬しても問題のない高度を飛行しているとのこと。通常の馬から落馬するより、自発的に飛び降り、受け身を取れる猶予がある分、むしろ安全なくらいです。そんな風に説明してくれる。

 

「そうなの。それはよかった」

 

 それが事実なのか、優しい噓なのかは分からないが、少しだけ安心する。

 

「矢が射貫いたのも本人たちではなく天馬の方であったように見えました」

 

 将を射んとする者はまず馬を射よか。

 

「弓。そうか弓矢か。狙撃と言っていたもんね。そりゃあそうだ」

 

 駄目だな。頭がイマイチよく働いてない気がするぞ。いつもならそれくらい言われる前に気づけたはずなんだけど。恐怖は頭を鈍らせるんだなあ。

 

「それにしても。すぐそばに都合よく隠れられる大きな岩があって助かったね」

 

 矢の飛来を遮蔽する巨岩の存在に感謝する。

 

「いいえ。偶然ではありません。我ら天馬騎士は常に隠れられる所に目星を付けながら飛行しております」

「はい。弓はわたしたちの天敵ですからね」

 

 なるほど。弓矢と風魔法という弱点が判っているなら、対策しておくのは当然か。

 

「弓の使い手か。何者だろうか」

 

 一射一倒の弓の名手だ。ただの野盗、山賊の手合いではないだろう。

 

「弓兵。いいえ、この技の冴えはアカネイアの弓騎士かと思われます」

「ドルーアへのレジスタンスを続けるアカネイアの騎士がいると聞いています。とても遺憾ではありますが、まさしくわたしたちがそのドルーアなので」

 

 申し訳なさそうにパオラが自嘲する。

 

「そうかレジスタンス。アカネイアの騎士か。本来なら心強い味方のはずなんだけど。今ばっかりは恨めしいな」

 

 マケドニア兵に紛れる策が裏目に出た形だ。

 

「白旗でも揚げて投降する?」

「お戯れを」

 

 ウーナに窘められる。よし調子が出て来たぞ。

 

「あはは。ごめんごめん。それで相手は一人だろうか。それとも複数。どう思う」

「私見を述べさせていただきます。あくまでも弓騎士はですが、一人だと思われます」

「理由は」

「今回の狙撃は完璧でした。完全無欠の奇襲です。だからこそ、弓の使い手が複数いるのなら同時に撃たない理由がありません」

「あと単純に兵士の姿は見えませんでした」

 

 同意見のようでパオラ卿が補足する。

 

「なるほど」

 

 二人ともあの状況でよく見てるなあ。

 

‐☆・☆・☆‐

 

 四頭の天馬が一斉に飛び立った。急速に高度を上げた彼女たちは、航空ショーの曲技飛行を思わせる複雑な軌跡を描きながら天を舞う。

 

 一射、間隔を置いてまた一射。背の高い草の原に潜んだ弓手が矢を射かけて来る。

 矢が飛んでくる方向が毎回違っているのは、撃つ場所を都度変えているのか、あるいは一人しかいないという判断がそもそも間違っているのか。

 

「巧者だね」

「誠に」

 

 火の魔道書があれば草原に火を放ってやるんだけど、生憎と今日の手持ちは風の魔道書シェイバーだった。マケドニアの陣地に赴くにあたって、最悪の状況に陥ったら竜騎士たちに一矢報いてやろうと選んだ物だ。

 

 ペガサスナイトで敵を釣るのは定石だけど、現実に、それもスナイパーを相手に任せるのは忸怩たるものがある。かと言って下馬したナイトの状態で歩いて近づいても各個撃破されるのがオチだ。

 矢弾が尽きるまでの我慢比べは現実的ではない。

 今は軽やかに避けているように見える天馬騎士たちだが、天馬の足は遠からず鈍るだろう。それにステータスを確認できるゲームとは違うので、本当に使い果たしたのか判別不可能と言うのもある。

 

 こちらから仕掛けないとならない。

 

「ですが欲をかきました。天馬騎士だけと見て与し易いと見切ったのでしょう。最初の戦果で満足して引くべきでした」

「そうだね。じゃあ、お願いするよ」

「お任せください。すでに場所は割れました」

 

 一騎だけ伏せていたウーナの操る天馬が飛び立つ。

 ボクも同乗する。余計な重しを同乗させるのは速度も落ち小回りが利かなくなるだけの愚策と思うかもしれない。だがこれが必要なのだ。

 ボクたちは一直線に射手に向かう。

 相手はどうする。逃げるか。撃ち落すか。

 

「今です!」

 

 ウーナの判断に身を任せる。息を整える間すら惜しんで魔道書を起動させる。虚空から暴風が顕現した。風魔法シェイバー。本来は敵を切り裂く風刃の魔法だが、敢えてそれを暴発気味に発動させて無垢なる強風を招じ入れる。

 

 荒れ狂う風は矢の軌道を逸らせて、明後日の方向に飛び去らせる。また吹き付ける風は叢草を薙ぎ倒し、隠れていた弓騎士の姿をあらわにする。

 そう何度も通じる手ではないが、対応される前に仕留める。

 

「そこだ!」

 

 ウーナが槍を投じる。ボクも魔力に手を入れて、操る風が槍に影響を及ぼさないように細工する。一直線に飛んだ槍は相手に痛打を与える物と思われた。

 

「嘘でしょ! どういう身体能力してるんだよ」

 

 後方宙返りで槍を避けると同時に、空中で一射、着地しざまに二の矢を放った。ただ、さすがに弓を引く力が甘かったと見える。ウーナが抜き打ちの剣で切り払う。しかし、これは牽制だ。動きを制止されてしまった。

 その隙に、この期に及んでは勝機なしと見たのか、弓騎士は再度、藪の中に飛び込むと、そのまま走り去った。ほどなく水の音が聞こえて来た。

 

「川に飛び込んだようです」

 

 それか石でも投げこんで川に入ったと偽装したか。

 一瞬、追うべきかと迷ったが、すぐに打ち消す。倒さねばならない敵ではない。

 

「と言うか。アカネイアの騎士なら本当は味方だったね」

 

 今回は不幸なすれ違いで戦う羽目になったが、あれほどの弓の使い手が生き残って、ドルーアに対抗してくれているというのは心強い。

 

 最初に撃墜された天馬騎士たちを回収すると、ボクたちはあらためて帰路に着いた。幸いに騎士天馬ともにリライブの杖でどうにかなる負傷だったので、そのまま隊に復帰した。

 

 その後は大きな事件もなく、ワーレンに帰還したボクは戦士団と合流し、幾つかの所用を済ませた後、タリス島に向けて出港した。

 

‐☆・☆・☆‐

 

「やれやれ。天馬騎士だけと見誤った。オレも焼きが回ったか。この辺が潮時かね。ワーレンにでも逃げるか。それともいっそペラティまで行ってしまうか。しかし。あの少年の魔道士。どこかで見たような気がするんだが、気のせいか」




疑似『プロテクション・フロム・ノーマル・ミサイル(ミサイル・プロテクション)』。疑似『矢避けの加護』でも可。

感想・評価ありがとうございます。
前回の後書きを「あわよくば5件くらい付くかも!」と軽い気持ちで書いたら、その十数倍の反応を貰えて、ちょっと、かなり、とてもビビった作者です。
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