FE転生 レフカンディの侯子   作:レフカンディのエテ侯

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アリティアの騎士たち

「じい。マケドニアがドルーアに宣戦を布告したというのは本当だろうか」

「すでにお聞き及びでいらっしゃいましたか。はい。このモロドフめもそのように承知しております。時にマルス王子。そのお話はどちらで」

 

 軍議の席でアリティアの王子マルスは自分の師傅であり、騎士団の軍師でもある老将に下問した。

 列席するのは騎士団の長を任じられた聖騎士ジェイガンを筆頭にしたアラン、フレイら高位の騎士たちと王子の竹馬の友たる側近のマリクら魔道士と僧侶たち。軍の中枢だ。

 故地アリティアに上陸した王国軍は破竹の勢いで軍を進め、次々と侵略者の支配から国内の集落、諸都市を解放して行った。アリティア王宮奪還作戦の始動を三日後に控えた日のことである。

 

「マリクが教えてくれたんだ。兵たちが噂していると」

「なるほど。やれやれ。人の口に戸は立てられぬとは申しますが、すでにそれほどまでに広まっておりましたか」

「じいはあまり驚いていないんだね」

「さようですな。ふむ。王子。このモロドフ、あなた様にお詫びせねばならぬことがございます」

「なんだろうか」

「実を申しますと。このマケドニアによるドルーアへの宣戦布告の件。オレルアンを出発する以前より承知しておりました。より正確には宣戦布告が行われる段取りを知っておったのですな」

「それは一体どういうことだい」

「これは王妃様も御承知尽くのことなのですが」

 

 不思議そうな顔をする王子にゆっくりとモロドフ伯爵は語り出す。

 

「話はパレスが陥落する以前に遡りまする。レフカンディ侯爵が音頭を取り、ワーレン商人の仲介でマケドニア王国と秘密裏に交渉を行っていたのです」

「交渉だって。もしかしてドルーアと手を切ってアカネイアに復帰するように要請したのかい」

「いえ。そうではありません」

 

 願望と呼ぶべきだろう。

 年若く善良な王子マルスはアカネイアを頂点とする七王国の秩序とその復活を信じていた。戦前の体制への復帰。それが彼の理想だった。今からでもマケドニアやグルニアが前非を悔い改めて、占領地を放棄して帰国しないかと淡い期待を抱いている。

 もちろん彼の中の現実的な部分は、それは無理があると理解はしている。ただ、それでも一刻も早い平和の到来を願わずにはいられないのだ。

 直接の仇であるグラ王国に対してさえ、故郷から追い払った後は、これに逆侵攻を掛け、征服し返してやろうとは微塵も考えていなかった。

 

 しかし、それは土台から不可能なのだと伯爵は言う。

 

「もとよりマケドニアにとってドルーアは国祖アイオテ以来の不倶戴天の間柄。その敵意、怨讐の念の甚だしきこと我がアリティアの比ではございません」

 

 旧ドルーア帝国で命を使い捨てにされていた奴隷たちが反乱の末に勝ち取ったのが今のマケドニア王国である。血に刻まれたドルーアへの憎しみはアカネイアの諸王国のうちで随一と言って良い。

 

「にもかかわらず、王太子ミシェイルはドルーアと同盟し、民草はそれを支持したのです。どれほどアカネイア王国が憎まれているかが知れましょう」

 

 王宮に仕えて長く、外交官としても活躍し、時にはアカネイア貴族の饗応役なども務めた老貴族は、彼らの理不尽なまでの増上慢をよくよく心得ていた。勇者の国、アンリの裔と持ち上げられるアリティア人の彼ですら、露骨に侮られるのを感じた物である。

 序列において一等下に置かれたマケドニア人への軽侮の念は語るまでもない。

 自分たちが独立させてやった奴隷どもの国に対して、アカネイア人が働く狼藉は見るだに不愉快な物であった。

 

「知らなかった。そんなこと」

 

 マルスは顔を蒼褪めさせた。ショックだった。

 

「僕が出会ったアカネイアの人々は、皆さん立派な方ばかりだった。そうか。僕は守られていたんだね」

 

 アリティアの王宮にいた時もそうだし、オレルアンで戦友となった騎士たちも誇り高い人間ばかりだった。これは如何なることか。考えるまでもない。自ずとマルスは真相に思い至った。モロドフたちが好ましからざる人物は遠ざけてくれていたのだろう。

 

「王家の皆様をお守りするは臣として当然のこと。なにより朱に交わる必要はございませぬからな。それに、その名も高きジェイガン卿がお傍にあって不埒な真似をする者は、もとよりそうそうおりませんとも。哀しいかな愚人はどこにでもいるものゆえ絶無とは申せませんが」

「ふふ。そうだね。ジェイガンにはいつも助けられているね。もちろん、じいもだよ」

 

 話題に挙げられた老騎士が面映ゆそうに黙礼をした。

 

「ははは。ありがたきお言葉。さて。話を戻しますぞ」

「おねがい」

「マケドニアがアカネイアに復帰することはあり得ぬことをご説明しましたな。これが前提です」

「うん」

「その上で侯爵。否。四国同盟の首脳陣と申すべきですな。王妃様もオレルアン王も御賛同の上でのこと。四人の王はマケドニアの王にこう持ち掛けたのです」

 

‐☆・☆・☆‐

 

「なっ! バカな! 裏でマケドニアと手を組んでいると言うのですか!」

 

 赤い鎧を着た若い騎士が怒りも露に叫んだ。

 場面は軍議の後。

 部将たちから麾下の若手の騎士たちへの説明が行われていた。そして話を聞くや否や怒髪天を衝く勢いで一人の騎士が激発した。唾を飛ばさん勢いで上長たる騎士フレイに食って掛かる。生来気性の真っ直ぐな男である。度し難い裏切りに思われた。

 

「おい。やめろって」

 

 今にも殴り掛かりそうな危うさを感じ取った同僚の重騎士が慌てて羽交い絞めに制止する。

 

「放せドーガ!」

「放せるかバカ! 後でお前絶対に後悔するからな」

「ええい! 後のことなんて知るか! 俺は、今、納得が、行かんのだ!」

 

 ずりずりと重甲冑の大男を引き摺りながら進んでいく。

 

「うおっ。この馬鹿力が。アベル、ゴードン、お前さんたちも見てないで手を貸してくれよ。こいつほっといたらフレイ卿どころか、ジェイガン様すら飛び越して、モロドフ伯爵やマルス様まで突撃しかねないぞ」

「あっ! いまお手伝いします」

「落ち着けカイン」

 

 小柄な弓騎士が腹に取り付き、赤い鎧の騎士を緑の鎧の騎士が宥める。

 

「これが落ち着いていられるものかよ!」

 

 慰撫の言葉も甲斐はなく、カインと呼ばれた若い騎士は一層に吠え猛った。怒りの矛先を上司から同僚に向ける。

 

「お前は情けないと思わないのかアベル!」

 

 ライバルと恃む盟友がこの不道徳を唯々諾々と受け入れる様子がもうひとつ気に食わなかった。

 ドルーアと手を組んでアカネイアを裏切り滅ぼした奴らが、今度はドルーアを裏切って戦おうとしている。無節操極まりない。恥ずべき連中だ。そんな奴らと手を組んでは自分たちも卑劣漢に堕してしまう。

 

 さらに気に食わないのは。

 

「奴らが征服した土地の領有を認めるだと。納得がいかん! それでは最後まで忠義を示し戦った両侯国を生贄にするも同然じゃないか!」

 

 カインは両侯爵とその騎士たちに敬意を抱いていた。特に同輩の裏切りによって倒れたメニディ侯爵に対しては、己が主君たるコーネリアス王とアリティア騎士団を重ねている節がある。

 そうだ。考えてみれば、あの卑劣な騙し討ちに関与したのもマケドニアではないか。

 

「おのれラング! おのれマケドニア! なぜ強盗どもに譲歩してやる必要があるのだ!」

「いや。だって。お前。王妃様や侯爵様、オレルアンの王様たちがお決めになったことだぞ。納得いく、いかないじゃないだろ」

「ドーガ! 貴様!」

「しぃー! しぃーですよ! もう。ドーガさん。なんで火に油を注ぐんですか!」

 

 最年少の弓騎士ゴードンが悲鳴をあげる。

 

「ええい。姦しいぞ。貴様ら」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる若者たちを壮年の騎士が叱りつける。

 

「ですが。確かにカインの言うことも分かります。正義に悖る行いだ」

 

 出し抜けにアベルがカインの主張に同意する。痛い所を衝かれたのだろう。騎士フレイは口をへの字に曲げる。彼もまた内心ではそう考えていたのだろう。道義に欠けると。

 

「おお! 信じていたぞアベル。お前もそう思うよな」

「思う。思う。だがなあカイン。俺はこの話を聞いて得心がいったよ。我々がアリティアの奪還に乗り出せたのも、この密約があったればこそだってな」

「どういうことだ」

「マケドニア王国に備える必要があるからグルニア軍が動けないと言うことだ」

 

 ドルーアがグラの救援に兵を出さない理由。何かあるとは思っていたが納得だ。

 逆にマケドニア王国の側から見ると、アリティア、オレルアン、レフカンディに備えてドルーアが戦力を一本化できない今が絶好の離反の季節だったのだ。

 遠からず決裂する関係ではあったのだろう。それをアリティアの出兵が早めた。

 

「ありがたい話じゃないか」

「そんな言い草があるか!」

「では聞くぞ。本心から答えろよ。グルニア騎士団の十全たる支援を受けたグラ王国を俺たちは倒せるか?」

「ぐっ。嫌なことを聞く」

「どうなんだ」

「……りだ。ああ、そうだとも、無理だ。ありしころの王宮騎士団ならばいざ知らず、今現在の義勇兵の手を借りてどうにかやってるアリティア軍じゃ、逆立ちしたってグルニアには敵わん! くそがっ!」

 

 カインとて愚かではない。頭では理解できている。

 それに彼もまた封土を有する領主騎士である。領主が自領を守るためなら何でもするし、しないとならないことは重々承知している。

 

「だが。だがな。それでも俺は納得がいかないのだ。俺たちは奪われた故郷を取り戻すために戦っているんだぞ。それが別の故郷を奪われた人々を踏み台にして為された時、何かが終わってしまう気がしてならないんだ」

 

 血を吐くようにカインは叫んだ。

 

‐☆・☆・☆‐

 

 後日。

 アリティア王宮を解放したアリティア軍は、その勢いを殺さぬ内に、グラ王国内部へと侵攻した。マケドニアとの約定に基づいた行軍であった。

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