FE転生 レフカンディの侯子   作:レフカンディのエテ侯

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待ち人来る

 待ち人来る。

 ワーレンから帰島して早一月、ある日マケドニアの商船が入港した。

 一般の島民が知る由もなかったが、その実は商船に偽装された軍船である。積み荷はさる高貴なる少女。聖王女ニーナ。ただ一人残されたアカネイア王族その人だった。

 ともかくマケドニアの船である。

 対岸に位置するガルダからの船や、商機ある所ならどこにでも赴くワーレン商人以外の船が、タリスを訪れるのは有史以来初めての出来事だと古老が言った。島の住人たちは国の格が上がった証拠だと大いに自尊心を刺激され、船着き場から広がった熱狂は速やかに島中に波及した。

 

「みんな楽しそうにしています」

 

 その島民たちの喜ぶ姿にシーダもまたニコニコと笑顔を見せる。

 

「ボクはちょっとだけ罪悪感があるなあ」

 

 タリスが有名になったわけではない。ただの国際的な謀略の一環だ。しかしシーダは気にしていない様子だった。

 

「あら。船が来たのは事実なのだから、いいじゃありませんか」

「かもね」

 

 たしかに考えすぎだったかもしれない。よしっと気を取り直す。

 活況を呈する市場をボクはシーダと歩いて回る。にわかに始まったマケドニアブームで連日お祭り騒ぎである。もっとも誰もマケドニアのことをよく知らないので、ふわっふわのイメージで作られたなんとなく外国っぽい物が売り買いされている。

 

「この木彫りのドラゴン。マケドニアの飛竜って触れ込みだけど、この前まで地竜メディウスの名前で売られてたのを見た覚えが」

 

 商魂逞しいなと苦笑する。と言うよりこの形はどう見てもワニだ。たぶん過去に島外から持ち込まれたワニの木像をコピーしたんじゃないかな。造形が雑なのでコピーのコピーのそのまたコピーくらいかもしれない。その過程で誰もワニを知らないからドラゴンってことになったんだと思う。

 

「ワニですか」

「うん。ワニ。たしかに竜に似てるけどずっと小さい別の生き物だよ。火も吐かないし毒もない」

「小さいんだ。トカゲの仲間なんでしょうか」

「かもね。あ、小さいって言っても竜と比べてだよ。ボクたち人間よりはずっと大きかったなあ。パレスに住んでた頃、ある貴族が飼ってるのを見たことがあるんだ。本来はカダインの辺りに棲息しているんだって」

 

 この世界のワニが地球と同じものなのかは分からない。あるいは飛竜や氷竜がそうであるように、かつては本当に知恵ある竜族だった可能性もある。

 

‐☆・☆・☆‐

 

 タリス王宮。謁見の間。

 通常は奥の壁を背に南面する形で王の玉座が置かれている一段高く設えられた壇の上に、二つの椅子が並べられている。椅子の格も同等。前世の首脳会談のニュースで見た覚えのある、少し斜めを向いた、逆八の字での配置だ。

 座すのはタリス王とアカネイア王女。群臣の前で言葉を交わし、タリスの王がアカネイアの王女を受け入れたことを明らかにする。

 実のところこの二者を同格として相対するのが適正なのか誰も分かっていない。

 冊封国の王宮で宗主国の王女を歓待する際の儀礼などどこにも存在しないので、迎える側も迎えられる側も手さぐりだった。

 

「いと尊き血族の姫君を我が宮居にお招きできたこと幸甚の至りであります。王化の光は我が島にも及び、かねてより聖王の威徳を慕わしく思っておりました。タリスは天離る鄙の地なれば、御不便も多かろうとは存じまするが、再起の日まで気兼ねなくお過ごしくだされ」

「お心遣いありがたく存じます。一代の英傑たるモスティン様にお目にかかれてニーナは嬉しゅうございます。王の統べられるタリスは美しい国ですね。感動いたしました」

 

 それで終わりだ。役目を終えた王と王女はどちらも速やかに退室する。簡素な物だ。繰り返しになるが前例となる有職故実がないので、お互いボロがでないうちに片を付けることで合意していた。

 見届けたボクもさっさとその場を離れる。

 謁見の間を出た後、王宮の女官を捕まえて、シーダに宛てて伝言を頼む。今からお邪魔しても大丈夫だろうかと。アポなしで乗り込むわけにはいかない。特に今日は。しばらく待っていると折り返して来たさっきの女官が許可が出たことを伝えてくれる。

 女官に先導されながら王宮の奥へと進み、王女に割り当てられた応接室に入る。

 

「おぉ」

 

 思わず感嘆の声がもれた。

 実にロイヤルな空間だ。

 シーダ、エリス、ミネルバ、ニーナ。いずれ劣らぬ四人の美姫たち。今この場に四ヶ国の王女が集結していることになる。そうニーナと一緒にミネルバも来ていた。

 王女たちのお茶会にお邪魔する。ホステスはシーダ。王宮の女主人は王妃様だが、ニーナ王女の強張った心を慮れば、年も近いシーダが私人として持て成すのが良いだろうと決まった。介添えにエリス王女が入ってくれている。彼女はもともとニーナ王女と親交があり、気心の知れた間柄だと言う。

 

「ご無沙汰をしておりました。ニーナ様」

 

 ボクはニーナ王女の前に進み出るとお辞儀をする。両足を揃え、右手を胸に添えて、深々と頭を下げる。膝は曲げない。バレエで見られる男性ダンサーのレヴェランスと酷似した動きだ。

 

「頭をお上げなさい。ディオメデス・レフカンディ。あなたの献身はカミュ将軍とミネルバ王女とからそれぞれ聞いています。本来なら、わたくしの方こそ頭を垂れ、あなたがたの尽力に礼を言わねばならない立場です」

「身に余るお言葉です」

 

 頭を上げて王女の言葉に謝意を示す。

 それから少しの間、お互いに無言で見つめ合った。

 こうして見るとやっぱり母様に似ているな。つまりはボク自身とも似ていると言うことだが、瓜二つとまでは言わないが、たしかな血の繋がりを感じさせる。何の事はなくて、ボクの祖母と王女の母親が歳の離れた姉妹の関係にあるからだ。なので母様とニーナ王女とは従姉妹同士と言うことになる。

 もっとも。アカネイアの上級貴族と王族は皆どこかしらで血が繋がっているので特に珍しくもない話だ。なんならボクの父方の一族はアドリア侯の遠縁だし。あのラングと薄くとも血が繋がってるとか嫌な話だなあ。

 そんなことを考えた。

 そう。何て事のない特筆するほどでもない話だ。そのはずなんだけどなあ。あーあ。だから出会いたくなかったんだ。

 

「泣いているのですか」

「あ。御無礼を。お許しください、殿下」

 

 ああ。駄目だな。泣くつもりなんてなかったのに。演技ではなく本当に泣いてしまった。

 ボクは単純だ。こうなると分かっていたから、実際に対面はしたくなかったのだ。死んでいてくれと願ったし、カミュと現地で結ばれてくれと夢想した。だが、そうはならなかった。

 前回最後に会ったのは四年ほど前だが、記憶にあるよりも王女は少し瘦せたように見えた。幼さの残る少女から大人の女性に近づいただけとは言いきれない翳りがある。

 無理もない話だ。地球で言えばまだ中学生の少女である。親兄弟を含む一族を全て失い、実際に手を下したのとは別人だとはいえ、その家族を殺した連中の一員の庇護の下でずっと過ごして来たのだ。心に負った傷は深い。

 ボクは彼女に同情してしまった。もう見捨てることはできないだろう。

 

「見苦しい姿をお見せしました」

「そんなことはありませんよ」

 

 涙をハンカチで拭う。醜態だ。演技でならいくらでも泣くし喚くと決めているけれど、感極まってマジ泣きするとか前世ぶりじゃなかろうか。

 周囲から注がれる温かい視線。恥ずかしいなあ。

 コホン。気を取り直して、次いでミネルバ王女に礼をする。

 

「ありがとうございます。ミネルバ王女、よくぞニーナ様をお連れ下さいました」

 

 実は来ない可能性も疑っていた。

 カミュを信じていなかったわけではない。誓言した以上はやり切る男だ。そこは信用して良い。ミネルバもそうだ。ただ同時に、護送計画にマケドニアを仲介者として挟んだ時点で、ミシェイルが介入し、そのままマケドニアに連れ去ってしまう未来も少なからずあると思っていた。

 王太子ミシェイルは未婚だ。ドルーアと袂を分かった今、ニーナとの婚姻は占領地の統治の正統性、民心の慰撫と強力な武器となる。

 たまたま寄港した先のマケドニアで、聖王女ニーナは王太子ミシェイルと熱烈な恋に落ち、覇者の証たる炎の紋章を託された英雄王ミシェイルがドルーアを平らげ、アカネイアを三度再建する。

 そんな筋書きもありえた。

 事実、パレス王カミュが潰えた場合の、二の矢としてアカネイア王ミシェイル誕生ルートも検討済みだった。そうなったらそうなったで道が開けるのではないか、そういうことだ。

 もっとも、先方からすれば、アカネイアの王女との間に子を儲けるなど御免被ると言いたいかもしれないが。

 あるいは改善の兆しが見え始めた妹たちとの再度の破綻を恐れたか。

 

「礼には及びません。過日に契った約束を果たしたまでのことです。それに私たちは船を廻しただけです。真に尊敬するべきはニーナ王女を脱出させ、我らの船まで守り抜いたカミュ将軍と彼の忠勇なる部下の方々です。そして受け入れることを決断為されたモスティン陛下の至誠。素晴らしい。私も騎士として、王女として見習わねばならないと思っています」

 

 今日の彼女は王女としての要素を前面に出しているようで、先日の密談とは打って変わって物腰柔らかな態度である。着ている物も鎧や軍服ではなく貴婦人が着るのに相応しい女性的な装いだった。

 

「ボクも日々その思いを新しくしています。やっぱり君のお父様は凄い方だねシーダ」

「本当にそうだと思います。私たちアリティアから落ち延びて来た者たちも快く受け入れてくださいました」

 

 エリス王女が同意する。

 思いがけず始まった父への賛辞にシーダは照れくさそうに微笑していた。

 その後、四半刻ほど談笑して過ごした。

 

「では皆さん。ボクはこの辺りで失礼しようと思います」

「ええ。久しぶりに出会えて嬉しかったわ。ディオメデス。従姉殿にニーナが宜しく言っていたと伝えていただけますか」

「承知いたしました。ニーナ様。後日、母からも誘いがあるかと思われますが、是非、我が家にも遊びにお越しください」

「きっと伺わせていただくわ」




ようやく時間が出来て「やるぞー!」ってなったところで腱鞘炎になってしまいました。

ところでこの小説はもともと乾燥海藻類さんの『FEトラキアから始まる転生物語』を読んでて盛り上がったFE熱から始まったんですが、休んでる間に同氏による暗黒竜物『FEマケドニアから始まる転生物語』が始まって完結してたのでちょっとビビりました。

これから読んできます。
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