FE転生 レフカンディの侯子 作:レフカンディのエテ侯
マルス王子を待ってたら、エリス王女がやって来た。
オマケにジェイガンたち王宮騎士団や軍師のモロドフ伯爵も居ないとのこと。
え? マジで言ってる? シーダとエリスだけじゃガルダの海賊ガザック一味も倒せなくない? 海賊に敗れた高貴な美女二人とか、それ完全に薄い本の導入なんだけど。
いやいや。
頭に浮かんだ不埒な考えを振り払う。
「お父君のことお悔やみ申し上げます」
「ありがたく存じます。侯子様」
まずはお互いに王侯貴族らしい腹の探り合いから……いや、もう単刀直入に行くべきだな。
「その。不躾なことをお聞きしますが、アリティアには王子殿下もおられたと聞き及んでいるのですが、マルス様はご一緒ではないのですか」
「お気遣い感謝いたします。ですが問題ありません」
気丈に振舞っている。じゃないな。これは警戒か。
それも当然か。故郷を遠く離れた落ち延びた先で、縁も所縁もない外国の貴族が、いきなり面会を求めれば、何事かと思うだろう。
本当はボクもこんな性急に事を進めたくはないのだが、この質問への回答如何で、するべき行動がまるで変わってくるのだから仕方がない。
「弟はオレルアンの地にて王弟ハーディン殿下と共に戦っています」
「御健在なのですね! それはなによりです」
あ。よかった。思わず最悪の事態を想像してしまったが、全滅したわけではないんだ。
演技でなく素で快哉を叫んだ。唐突な奇行に面食らったのか、エリス王女は少し目を丸くしている。同時にボクが本心から弟の生存を喜んでいると理解したようで、ほんの少しだが愁眉を開いてくれたように見えた。
「ボク……私は昔から勇者アンリの伝説が大好きで、その子孫であるアリティア王室の皆様、特に年も近いマルス王子に勝手に憧れと親近感とを抱いていたのです」
ボクのマルス王子への思い入れは前世から持ち越された筋金入りです。現時点ではこの世でもっとも王子を評価しているまである。
極言するとファルシオン自体は、ユグドラル大陸における神器と聖戦士の関係と違って、誰にでも使えるはずなので、マルス王子がいなくても構わないと言えば構わないのだが、では誰に振るわせるのかで大揉めに揉めるのが目に見えていた。
魔竜討ちし英雄アンリの再来。戦後を見据えればあまりにも魅力的な雷名だ。
自家と同格だったはずの相手が上に立つのをみすみす見逃せる貴族はいない。必ずや足の引っ張り合いが起こっただろう。
神剣の正統なる担い手が健在なのはあらゆる陣営にとって福音であると言える。
エリス王女から続けて彼女の逃避行の話をうかがう。
失陥するアリティア王宮から脱したエリスら姉弟はまずオレルアン王国へと落ち延びた。両国の立地を考えると原作でも通過した可能性はある。ではなぜこの歴史ではマルス王子はオレルアンに残留したのか。
どうやら正史と違って、レフカンディ侯国軍が正常に機能した結果、帝国軍の戦力がそちらに割かれたことで、グラ王国のアリティア攻めの勢いが僅かに鈍った。
その分だけ脱出にも余裕があり、原作で囮を務めたフレイと彼が率いる部隊も健在であり、また原作ではナレ死したリーザ王妃も生き延びている。
こうなると大分状況が変わってくる。
「つまり。母君リーザ王妃を旗頭に糾合されたアリティア騎士団の生き残りたちが、オレルアン王国の狼騎士団と合力し、またその陣には私の祖父であるレフカンディ侯カルタスも轡を並べていると」
「その通りです」
やるじゃんジッジもといお爺様。
「それはとても良い話を聞かせていただきました。戦争が始まってからは天馬騎士を伝令に飛ばすのも惜しまれるようで、本家からの便りも途絶え、母と共に一族の安否を案じておりました」
本当にありがたい。
けど、そっかー。ほとんど口実に使っただけだったんだけど、ボクの行動がこんなに影響を与えるなんて、なんだか嬉しいなあ。
これはもしかするとサムスーフ侯も裏切らないんじゃないかな。
彼と彼の領国に関しては、正直、いたしかたない面があると思うんだ。地図を見てもらえば分かるけど、レフカンディが帝国に吞み込まれると、途端にサムスーフは陸の孤島になる。
後背に山賊と海賊――北から海を越えて侵入する異民族も含む――の脅威を抱えながら、ドルーアを正面から迎え撃てというのは無理難題と言う物だ。
立地的に戦局に大きな影響は与えないと思うが、単純に敵の戦力が減って味方の戦力が増えるのは喜ばしい。
でも喜んでばかりもいられないのか?
シーダ王女がマルス王子と絆を深めないと、彼女の従軍はなく、そうすると当然傭兵オグマとサジマジバーツの参戦もない。レナとジュリアンはナバールに切り殺されるし、そのナバールも遠からず山賊の用心棒として野垂れ死ぬだろう。死ぬかな? アイツは死なない気がするな。そのまま普通にマルス王子の敵対陣営に雇われて血の雨を降らしかねない。
ロレンス将軍も彼女の説得がなければ、最後の踏ん切りがつかず、そのまま陣没してしまう可能性がある。そうなればユミナ・ユベロのグルニアの双子を匿う相手がいなくなり、彼女らも生き残れないかもしれない。
禍福は糾える何とやら。何かが上手くいけば何かが上手くいかなくなるものだなあ。何か考えないといけないな。
その後、しばらく談笑してから、ボクはエリス王女の前から辞去した。