FE転生 レフカンディの侯子   作:レフカンディのエテ侯

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シーダ

 エリス王女は王宮内に一室を与えられ当面はそこで過ごすことになった。

 ただし、我が家の侍女が廷臣から仕入れて来た話では、城下に離宮を用意する計画が立ち上がっているらしいので、完成すればそちらに引っ越すことになるのだろう。

 商家等の既存の家屋を改装するのか一から建てるのかは分からないが「その際には資金援助を申し出ておいて」と指示する。王宮が情報を流して来たのもそういう下心あっての物だろうしね。

 しかし離宮か。

 島の東に砦を与えられて、そこで麾下の宮廷騎士団の面々と鍛錬と雌伏の日々を過ごしたマルス王子とは随分と様相が違っている。

 まあ、これについては、かよわい王女一人と騎士団を引き連れた王子との違いか。

 王都のそばに異国から流れて来た武装集団を置いておきたくなかったのだろう。理解はできる。なんなら中間にある残る二つの砦の役目はアリティア軍への備えだった可能性すらある。

 それで手薄になった所を海賊に襲われて王宮を占拠されかけたのはどうかと思うけど。もっともこれは後知恵か。逆に、タリスのさらに東辺にアリティアの戦力が温存されていたから、海賊を駆逐できたのかもしれないし。

 

 馬車に揺られながらそんなことを考えていた。

 ほどなくレフカンディ家のタリス本邸に到着した。

 王都郊外に立地するレフカンディ屋敷は回廊付きの中庭を四つの棟が『回』の字型に取り囲む堅牢な屋敷である。規模は王宮に次ぐ島内で二番目に大きな建造物だ。王宮を越えないように配慮したとも言う。

 周囲には葡萄園をはじめとする農園が付属する。開墾から日が浅いので育ち切るにはまだまだ年月の積み重ねを必要とする未熟な農園だが、アカネイア貴族の理想とする典型的な荘園だ。

 本邸と称するのはタリス島内に他にも幾つかの別邸を確保しているから。あとボクを当主とするタリス・レフカンディ家の本宅という含みもある。だから実のところボクの公的な身分は母が侯爵令嬢なだけの地主でしかないのだ。

 なぜかみんなして侯子と呼ぶけどね。

 

 

 

 馬車から下りると、すっかり見慣れた天馬が馬丁の手で甲斐甲斐しく世話をされているのが目に入った。シーダ王女の天馬だ。王宮で見かけなかったので多分そうだろうと思っていたが、やはり今日も遊びに来ていたか。

 どうも入れ替わりになったようだ。居るのは母の所だろうか、それとも隊長の所だろうか。

 兵舎の方から剣戟の音が聞こえる。

 そちらに視線を向けると、察した使用人が、模擬戦が行われている旨教えてくれた。

 なるほど。そちらか。ボクは一つ頷くと、足を向けた。

 

 練兵場で一組の男女が向かい合っていた。男は剣士で女は槍を構えている。長剣と短槍。得物の相性では槍の方に分がある――らしい――が、その攻防は互角に見えた。つまり素の実力は剣士の方が一段上手なのだろう。

 

「先生とオグマ、どちらを応援するべきか迷ってしまいます」

 

 とはシーダの弁。

 傭兵オグマと天馬騎士ウーナ。最終的に勝負の行方は体力に優るオグマが競り勝ったが、下馬した状態で、タリスの勇者と良い勝負をできる我が家の騎士隊長、だいぶ強いな。聖天馬騎士(ファルコンナイト)の名は伊達じゃない。

 ゲーム的になぞらえれば、彼女はボクにとってのジェイガンポジということになるのだろうか。まだ若いので『聖魔』のゼトや『蒼炎』のティアマト並みの活躍を期待したい。

 

「おつかれさま二人とも。白熱した勝負だったね」

「これは侯子殿。いや、隊長殿が天馬に騎乗した状態だったら、結果は逆だったでしょう」

「何を言われますかオグマ殿。もし私が愛馬と共にあったとしたら、勝負の形はまったく違った物になっていた。貴殿のことです、身を捨てて、一気呵成に攻めに攻め、人馬諸共斬り伏せにかかったはずだ」

「その時にはアンタもそんな短い槍でなく、天駆ける騎兵に特有の長槍を握っているだろう。そう簡単には行かせてもらえんさ」

 

 両人互いの技前を称え合う。

 ボクは武術はからっきしなので、そうなのかあとしか思えないのが、ちょっと寂しいかもしれない。

 一方で興奮しきりのシーダ姫はと言えば、遥か高みにある二人の試合を反芻しているようだった。見取り稽古って奴かな。

 一息ついたところで熱狂を抑えきれなくなったのだろう、隊長に向かっておねだりをする。

 

「先生! お疲れでなかったら、私にも一手指南してもらえないでしょうか」

「分かりました。問題ありません。おい。私と王女の槍を持て。では、侯子、危険ですのでお下がりください」

 

 了承すると、従者に命じて天馬騎士用の槍を持ってこさせる。

 これは確かに長いので事故を避ける為にも下がっておくのが吉だろう。オグマと一緒に距離を取る。

 

「いまさらだけど。シーダ王女もウチの隊長に懐いたものだね」

 

 この三年の間で、すっかり師弟関係が構築されていた。

 ボクたちに見守られながら、シーダ王女は形稽古から天馬を駆っての実地訓練まで一通りの教えを隊長から受けた。傍目にも厳しい修行によく喰らいつくものだ。

 

「同性かつ天馬騎士の先達として学ぶことが多いのでしょう。俺では天馬騎士の技は教えて差し上げられないですからね」

「妬ける?」

「お戯れを……と言いたいですが、そうですね、本音のところではいささか」

「やっぱり!」

 

 ボクたちは男二人で笑い合った。

 

 

「おつかれさま。シーダ姫はすごいね。ボクにはとても真似できないや」

 

 降りて来たシーダ王女を慰労する。

 汗を拭う布を手渡す。気分は運動部のマネージャーだ。するとさしずめ彼女はコーチに扱かれるエースだろうか。他愛もないことを考えて、ふふっと笑ってしまった。

 

「どうかされましたか。侯子」

「なんでもないよ。強いて言えば思い出し笑いかな」

 

 前世のだけどね。

 

「けど良いのかい。君ってば三日にあげずウチに来てるけど、モスティン王はお怒りになられないだろうか」

 

 十二歳と十三歳(彼女の方が半年上だ)。アカネイア大陸の感覚ではお互いにもう子供とは言えない年齢になって来た。男の家に女が来る。あまり褒められた行為とは見なされない。

 すると、王女は「はてな」という風に首を傾げた。

 

「侯子と私は婚約者の間柄ではありませんか」

 

 屈託のない笑顔が眩しい。

 そうなのだ。シーダ王女とボクは婚約をしている。王侯貴族の常としてこの縁組は親同士が決めた物で、そこにボクたちの意思は介在していないが、自惚れでなければ憎からず思われている。はずだ。

 

 事の起こりは母がシーダを気に入ったことにある。

 今では実の息子であるボクよりも彼女のことを可愛がってるんじゃないかと思うくらいに猫かわいがりをしている。

 タリスに来てすぐの事だ。当初、母はタリス王宮のあまりのショボもとい質素さに衝撃を受け、恐ろしささえ感じていた。こんな所に暮らす王の娘とは、どんな恐ろしい蛮族の娘だろうかと戦々恐々としていた所に現れたのが幼き日のシーダ王女だった。

 天真爛漫でいて気品のある当時九歳の美少女に、我が母君はコロリとやられてしまった。

 出会ったその日のうちに、この子をウチのお嫁さんにしようと決めてしまった彼女は、驚くべき行動力を発揮した。方々に手紙を書きまくり、面会し、またたく間に根回しを済ませてしまった。

 彼女にとっては幸いなことにモスティン王とレフカンディ侯も互いに乗り気だった。

 前者はアカネイア最大貴族との縁戚関係を、後者は辺境とはいえ王の称号を得られるwin-winの契約だと考えたのだろう。

 と言うよりも、元々、書簡を交わし合っていた時点で計画自体はあったのだと思う。

 公言した上で破談となれば双方傷がつくので、実際に会わせて相性を確かめようとしていたのではないかなあ。そして問題なさそうだと判断された。

 あれよあれよという間に、お膳立てが整えられて、ボクの立場は、アカネイアのレフカンディ家からタリス王家に婿入りするためにやって来た侯子様となった。

 

 本音を言うと。貴種流離譚の主人公たるマルス王子が落ち延びて来て、レフカンディの本家が没落すれば、この縁組は自然に消滅すると思っていた。

 覚悟を。そう覚悟を決める時期が来たのかもしれないな。

 

「そうだね。シーダ」

 

 その日、ボクは初めてシーダのことを王女ではなくシーダと呼んだ。




もともとシーダをヒロインにする予定は一切なかったんですが
書いてるうちに「これ。双方の立ち位置的に婚約関係にないとおかしいな」と思い至って結果としてこうなりました。
二話を書いた時点では「エリスルートなのか?」とフラフラし、一話を書いてる時点では「タイムスリップしてきたギム子(ポンコツ)とかどうだろう」なんて考えてたんですけどね。
これはもしや「カチュアさん大勝利!」ルートなのか?(マルス様と結ばれる的意味で)

そして三話目にして未だに名前が出てこない主人公
隊長と母親も含めて、原作に登場しないキャラは名前なしで行こうかなと思ってたんですが、でも、そうするといつまでも「侯子、隊長」と身分職位で呼ぶ他人行儀なシーダとか生まれちゃうんですよね。
悩ましい。

追記
その後数話先で隊長の名前が決まったのでこの話にも加筆しておきました
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