FE転生 レフカンディの侯子 作:レフカンディのエテ侯
勧められた麦酒を干す。
一瞬、前世の倫理観が頭をよぎったが、もっと幼い頃からワインを飲んで育ってきたのだ。そこにビールが追加されたとして何程のことがあるだろう。
なにより王の手ずから酌まれた酒杯を傾けないのは非礼というものだ。
それにしても。酒のチョイスにボクは内心でクスクスと笑った。
供されるのがワインではないところに、アカネイアとの文化的差異を感じるなあ。もしもボクが転生者ではなく生粋のアカネイア貴族だったら侮辱されたと感じたかもしれない。
「いかんな。失念しておった。アカネイアの御仁は麦の酒は好まぬのであったな。無理強いてしまったか。すまぬ」
ボクの逡巡を、ビールへの嫌悪感と解釈したモスティン王が詫びを言う。
「とんでもないことです陛下。初めて口にするのでほんの少しだけ躊躇したまでのこと。確かに飲み慣れない味ではありましたが、滋味深い芳醇な味わいに感銘を受けました。これまで飲まず嫌いをしていたのが勿体ないくらいです」
前世で飲んでいたラガービールとは異なった味なので、飲み慣れないのは本当だが、これはこれで悪くない。もっとも母が聞いたら卒倒するかもしれないな。蛮族の飲み物という偏見があるので。
タリス王宮。その最奥。王の私的な部屋にボクは招かれていた。
ボクと王とは将来の婿とその岳父という関係ではあるが、シーダと母とのそれとは違って、親しく部屋に招き招かれる間柄ではない。コミュ力の化身のようなあの二人と比較するのがそもそもの間違いかもしれないけど。
なんにせよ異例のことである。
それだけ王もまたこの会談を重視してくれているのだろう。人払いの願いも叶えてもらった。
「さて。侯子よ。儂に具申したいことがあるとのことだが」
しばらく酒を酌み交わし、とりとめのない話で舌の根を潤した頃合い、モスティン王が切り出した。許可を得てボクは告げる。
「はい。率直に申します。騎士団の創設を。タリスは今のままでは滅びます」
「ドルーアかね」
「いいえ。アカネイアです」
予想外だったのだろう。王の顔に僅かに驚きが浮かぶ。
タリスの王モスティン。その風貌は白髪白髯、絵に描いたような老王である。
ゲーム画面を眺めていて随分と年の離れた親子だなと思ったのも懐かしい。現実になった今もシーダと二人並べば祖父と孫のように見える。
ただし、深い皺の刻まれた顔はいかにも老人然とした物だが、実際にはまだ四十半ばと聞いて驚いた。島の統一に前半生を捧げた英傑だ。若い頃に相当の苦労を重ねたのだろう。
老臣の語る所によれば統一戦争の最中に最初の妻と後継者だった息子を相次いで亡くしたという。シーダの母となる女性を妃に迎えたのも、国を纏めて王に即位した後の話だ。
政戦両略に通じる王だと言える。
その彼になくてボクにあるのがファイアーエムブレムのプレイ体験。つまり将来に起こる戦争の知識だ。
暗黒戦争が終わり、英雄戦争が始まる。痴情の縺れと死んだはずの――そして実際に死んでいる――ガーネフの暗躍という超常現象が絡まり合って起きる最低の戦争だ。
こんなもの実務に長ける現実主義者ほど予想がつかない。
原作において二度の戦役にタリス本島が巻き込まれることはなかった。
この世界でもそうなる可能性はある。しかしそうはならないのではないかとボクは不安に感じている。
アカネイア王に即位したハーディンはアカネイア王国を一度は建て直したとされる。
ではその財源はどこから出てきたのだろうか。恐らくは対帝国との戦争に協力しなかった諸侯から特権を取り上げ、所領を没収し、王室財産としたと見るのが妥当だろう。公平性の面から見ても協力した者たちとの差を付けねば誰も納得しないだろう。
特にレフカンディはハーディンの本領たるオレルアンとパレスの間の土地。優先的に解体されたはずだ。英雄戦争以降、その名を聞くことがないのは、つまりそういうことだろう。
推論に推論を重ねた空論だが、そう間違ってはいないのではないかと思う。
だがこの世界では事情が異なる。
レフカンディ侯カルタスは緒戦から兵を動員し、今もハーディンと轡を並べて戦っている。その領地を没収することはどれほど欲しくとも無理筋である。
ではどこを狙うか。戦争に非協力的だった国だ。港町ワーレン、各地の異民族系の小都市国家、そしてタリス。
「アカネイアは近隣諸国からの収奪に拠って成り立つ国。略奪に来る蛮族となんら変わらぬ存在です」
「それをアカネイア貴族の其方が申されるか」
恐ろしいことを聞いたと顔を顰める王。
「事実ですので」
ボクにとっては頼りになる優しいお爺ちゃんなレフカンディ侯も、平民や奴隷からすると普通に極悪な腐敗貴族である。当然、潤沢な財力も元をただせば彼らからの収奪の下に成り立っている。
弓騎士ジョルジュのメニディ侯爵家、聖騎士ミディアと彼女の父オーエン伯が属するディール候爵家もその実情はそれほど変わらないのではないかなあ。
彼らの性情が特別に邪悪なのではなく制度自体がそうなっている。こんなこと言うボク自身がその恩恵に浴しているわけだが。
仮に闇のオーブに侵されず、暗黒皇帝に成らなかったとしても、遠からず英雄戦争に類する戦争は起きていただろう。他国からの収奪によって成り立つ経済。五大貴族を頂点とする既存の国体自体が詰んでいるのだ。
「神の恩寵満てる神聖王国。アカネイアとはそのような国家と思っておったがな」
「仮にそうであったとしても神意を得たのはアドラ1世だけでしょう。なんなら一度滅びました。次なる神寵よろしき人がいたとすれば神剣を授かった英雄アンリになるはずです。違いますか」
ボクが発した暴論に虚を突かれたのか、王はしばし唖然として凍りついた。
「儂は侯子のことを見誤っておったらしい。それとも五大貴族とは皆、そういうものなのかね? 儂の様な田舎者には思いもよらぬことだ」
盗賊アドラの真実を知る転生者だからでしょうね。当然、口には出せないけど。
「しかし、そうか。タリス騎士団か。良い響きだ」
王は嬉しそうにその言の葉を、舌の上で飴玉のように転がす。彼もまた夢想したことはあったのだろう。だが、実現していないのには相応の理由がある。
「我が国、我が王宮にそのような
シーダの生母が後妻とか、タリス統一の過程で最初の妻子を無くしているとかは独自設定(捏造)です。