FE転生 レフカンディの侯子 作:レフカンディのエテ侯
さて、これで騎士団創設に立ちふさがる資金の問題は解決した。
北方異民族とワーレン商人を繋ぐ中継貿易。万事解決、万々歳だ!
と言い切るのは気が早すぎるけど、この辺境の島国に富を呼び込む為の橋頭保を築いたのは間違いない。
ララベル。ひいてはその後ろにいるワーレンの商人たちが興味を抱いたのがその証拠だ。利があるうちは彼らは心強い協力者になってくれるだろう。
「単純な話だけど。男手が兵隊に取られることで富が減るのが問題なら、兵隊がそれ以上の富を産み出せば良いんだ」
「兵士たちが産む富ですか」
シーダが首をかしげる。
もちろん兵士とその集合体が直接何かを産み出すことはありえない。もちろん略奪とかでもない。一種の比喩だと思って欲しい。
「あら。軍隊は巨大な消費を産んでくれますわよ」
「キミたち商人の立場からするとそうだろうね」
女商人がからかうように茶々を入れる。ララベルさあ。たしかにその通りではあるんだけど、それは次の段階の話なんだって。需要と供給が両端にあってもそれを結びつける金がない。
「シーダ。君は海賊と聞いて何を想像する?」
「海賊ですか。哀しいです。彼らは港町を襲って人を攫って行きます」
「そうだね。じゃあ、ララベル、キミはどうだい?」
「なるほど。ふふ。海賊ですわね。通行料を徴収し、船の荷を奪い、人質を取って身代金を要求する。水先案内人を自負している方たちも居ないことはありませんけど、まあ、厄介な方たちですわ」
ララベルの答えにシーダは目を丸くした。
「ぜんぜん違います」
奴隷目当ての人狩りと身代金目当ての営利誘拐。
海賊の間にも北の海と南の海とで経済格差があるというのはせちがらい話だ。
シーダが知るガルダの海の海賊たちと、ララベルの語るペラティの海の海賊たち。これらは一口で海賊と言ってもだいぶ有り様が異なっている。
これまでタリス島に南の海から海賊が襲撃してくることはほとんどなかった。それは単純に奪う物がろくになかったからだ。タリスを襲うくらいなら、アカネイアの町々や、ワーレン商人の船を襲って荷を奪い、通行料を取った方が遥かに儲かった。
タリス・ワーレン間を航行する船が少なすぎたのもある。
シーダには聞かせられないが、モスティン王がこれまで諸部族の反発を名分に敢えて軍隊を整備しなかったのは、海賊のもたらす被害と防衛のコストが釣り合わなかったからだろう。
「けど、これからは違う」
輸出と輸入の船が行き交うことになる。
また貿易によって島に持ち込まれた富は、いずれ島中に行き渡る。瘦せこけた子鼠のようだった寒村が、丸々と肥えた豚に変わる。
これをタリスは守って行かないとならない。
「つまり。海賊退治だ」
その日、ボクは兵を率いて出陣した。
囁くように詠唱し、祈りを込めて呼び起こす。
魔道の書を通して破壊の力が顕現する。
曇天を割り火球が大地に降り注いだ。
隕石に擬せられる天変地異の大魔法メティオ。
天来の石火矢は地を均した。十人抱えの破城槌と百の火矢とを一つに纏めて更に数十倍にしたような大破壊。質量を持つ魔道の火が丘陵ごと砦を叩き崩した。
火の手が上がり天を焦がす。
空もただでは済んでいない。魔法の余波で雲が消し飛んだ。大熱量によって雲を形作る水と氷の粒が一瞬で蒸発してしまったのだ。燃えた草木に含まれていた水分も合流して、そのうち更に大きな雲と成り、大雨を降らせることになるだろう。
「重火器並みの射程と威力で反動が存在しないっていうのも反則だよなあ」
たとえどれほどの強弓でもけして届かない超々遠距離からの砲撃さながらの一方的な蹂躙。炎上する海賊の砦を船上から遠目に戦慄する。
我ながら恐ろしい威力の魔法を使ってしまった。初めて使うわけではないが、何度見ても新鮮な驚きがある。
単純な威力だけならこれを凌駕する魔法も無いわけではないが、影響範囲と構造物に対する破壊力という点では最大級だろう。
これが英雄戦争の終盤には戦場を乱舞するんだよなあ。敵軍から味方に向かって。
いよいよ両戦役に深入りすまいという思いを強くする。できればシーダにも出て欲しくない。ただ、どっちも無理なんだろうなあ。
と。今は目の前の海賊の相手だ。
ちょうど最初の一人が這い出してきた。
「矢をつがえろ」
舷側に並ぶ弓手たちに指示を出す。
「頃合いだね。放て!」
一斉に構えた長弓から矢が放たれる。放物線を描き幕が落ちるように降る矢の雨が、崩れ行く
メティオの齎した地揺れに煽られ、係留されていた船もあらかた転覆してしまっているので海に逃げることも許されないまま、一人、また一人と倒れて行く。
頃合いを見て陸上戦力を送り込み、完全に制圧する。
悪党以外に用のない砦だ。放っておいたらまた別の海賊に利用されるだけなので、後腐れなく破却する。最後にもう一度メティオを発動し、丘陵ごと根城の洞窟砦を叩き壊した。
「これはまた……凄まじい魔法でございますな」
船長が畏怖するようにボクを見る。この規模の魔法を目にするのは初めてらしいので無理もない。使った当の本人であるボク自身が畏怖を覚えるのだから。
タリスに軍船なんて気の利いた物は無いので、ワーレン商人からの傭船である。船長もまたワーレンの冒険商人だった。
「畏れながら、魔法など見慣れたつもりでいましたが、とんだ思い上がりであったようです。これを使えば敵船など一撃で海の藻屑だ」
それとも自分たちが撃たれた場合を想定するべきか。なんてことを興奮と恐怖の入り混じった複雑な顔をしてブツブツ呟いている。
「動いている船に狙って当てるなんて神業、できっこないよ」
なにより、ファイヤーやブリザーのように魔道士を起点に放たれる魔法と違って、空中という無関係な固定された位置から火球を落下させる魔法だ。よほど空間を把握する能力に優れた魔道士が使わなければ、無関係な海面を蒸発させるのが関の山だ。
リンダやマリクのような本物の天才たちなら可能かもしれないが、少なくともボクには無理だ。
タリス・ワーレン間のとある島に砦を作って商船を襲う厄介な海賊の一党がいた。
天然の洞窟を活用した堅牢な砦であった。ワーレンの商人たちも手を焼いていた。
それがこの日、消えてなくなった。
ボクとタリスの軍兵が消した。
タリス王国は航路を守る意志と力を有することを広く示した。
ひとまずワーレンへのメッセージはこれで十分かな。
Q.後半になったら大量に使い手が湧いてくるメティオが大魔法なの?
A.『紋章』だとオーラ、エクスカリバーと同格の武器レベルBの魔道書なんですよね。
これを超えるのはガーネフのマフー(A)だけ。