FE転生 レフカンディの侯子   作:レフカンディのエテ侯

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波紋を起こす

 唐突だが戦士が一番に欲する物とは何だろうか。

 

 類稀なる名馬。手に馴染む優れた武器。それとも得難い好敵手だろうか。

 あるいは金が第一、勝利の後の略奪が何よりの楽しみだと(うそぶ)く者もいるだろう。

 ボクが見るところ彼らが共通して求めてやまぬ物が一つある。

 

 高踏に言えば、栄光ある戦い、子々孫々まで歌い継がれる武勲(いさお)(うた)

 卑俗に言えば、度胸試し、仲間内でデカい顔ができる武勇伝(ヤンチャ)

 

 すなわち名誉だ。

 

 

 

 海賊の討伐に参加した兵士たちは一人の例外もなく勇者として迎えられた。

 英雄たちの凱旋を一目見ようと島中から人が集まったことで、タリス唯一の海港は、季節の大市にも劣らぬ活況を呈していた。

 

 

 白馬に跨る若武者の凛々しい姿を見ろ! アレこそ聖王国から来られた公達(きんだち)、我らがシーダ姫さまのお婿さまだぜ。ありがたや。ありがたや。おい知ってるか。若君がお腰に佩いていらっしゃる剣。ありゃあレピアーっつうお貴族さまの武器なんだぜ。へへん。俺なんてもっと詳しいもんね。その剣を留めてるベルト、シーダさまがお贈りになった物だって噂だぜ。そりゃあ知らなかった。仲よき事は美しき哉。タリスは安泰だな。

 

 周囲の立派な鎧の騎士さまたちもカッケーなあ。大岩が動いてるみたいだ。それにあの大きな剣! あれに掛かれば海賊なんてイチコロなんだろうなあ。

 

 おい見ろよ。あのドヤ顔で行進してる浮かれ返った色男。樵夫(きこり)のバーツじゃないか? 本当だ。てーと。いたいた。やっぱりサジとマジの二人も一緒か。相っ変わらずどっちがどっちか分かんない奴らだな。あたしは分かるよ。あのガチガチに緊張して手と足が同時に出てるぶきっちょさんがサジだよ。そうかあ? 俺にはあっちがマジに見えるがなあ。どっちでもいいよ。おーい! よくやったサジマジバーツ!

 

 おや。あの禿頭の爺様は薬師のリフさんじゃないかい? 薬師って言うなよ。癒しの杖魔法を修めた高徳のお坊さんだぞ。そうだったの。腹下したり頭が痛い時に薬くれる親切な爺さんだとばっかり。まさかだよな。杖ついてる割には健脚だなあとは思ってた。お前たちなあ。リフ師は王宮でシーダ様やアリティアから逃れて来たお姫様に杖魔法の教授もされている偉い御方なんだぞ。王宮!? そう聞くとなんか後光が差してる気がしてきたな。

 

 猟師のカシムもいるぞ。はは。(やっこ)さん服に着られてやがる。けど立派なもんじゃないか。ずっと幸薄そうな面してると思ってたが、どうしてどうして、こうやって見ると、なんだ、思慮の深そうな顔に見えてくるな。この後、王さまからお褒めの言葉がいただけるんだろ? お袋さんもさぞ鼻が高いことだろうよ。

 

 

 沿道の人々が思い思いに喋り倒す。

 想像以上の盛り上がりに、これならサクラを仕込んでおく必要もなかったくらいだなとボクは鞍上でそう思った。ちなみに分かるかもしれないが「聖王国から来られた公達」と言ってたのはとりあえずサクラである。声に聞き覚えがある。

 大根め。まず普通のタリス島民は聖王国とか公達とか使わないんだよなあ。

 危うく微笑が失笑に変じるところだった。

 

 今日の演目は美々しい貴公子と彼に率いられた勇士たち。

 清潔感のある揃いの衣装を用意して、儀仗の剣を全員に持たせた。制服(ユニフォーム)の力は前世の世界のお墨付きである。三割増しで男前に見せてくれる。

 僧侶リフは当人がやんわりと拒絶したのと、元から登城に耐える法服を所持していたので、それを着てもらっている。

 甲冑騎士(アーマーナイト)たちも鎧姿の方が映えるだろうという判断でそのまま。

 

 それでお前は魔法使いの癖にどうして剣なんて持って馬に乗ってるのかって?

 こっちの方が大衆のウケが良いから。よく分かんない呪い師より白馬の王子の方が好かれる以上、当然、そっちを選びます。王侯貴族っていうのは人気商売だからね。

 

 今回の海賊退治にオグマとウーナには遠慮してもらったのも、同様のこすっからい計算に拠るものだ。

 タリス最強の勇者として絶大な尊敬を勝ち得ているオグマ(美丈夫)と有角の天馬に騎乗する凛々しくも美しい女騎士という目を引く要素しかないウーナの二人がパレードに参加すると、最悪、観衆の印象と注目が全部そっちに持っていかれて、オグマとウーナとその他大勢になってしまいかねない。

 それは困る。割と切実に。

 有能で人気のある臣下に嫉妬して遠ざける暗君ムーブはあるあるだが、実際自分がその立場になると、なんでそんなことをするのか実感として理解できちゃうな。気を付けよう。

 脇道にそれた。

 

 そう。人気だ。

 ボクとモスティン王は、この農夫と樵夫、漁師と狩人から成る二十余名のちっぽけな烏合の衆を人気者にしないとならない。無辜の民草が憧れ、身分ある戦士たちが誇りを満たせる栄誉ある戦士団に育て上げる。

 その第一歩として、今日これから、この張り子たちに虎の毛皮を被せる。

 

 第二部の舞台は王宮のバルコニー。

 群衆の見上げる中、タリス王モスティンは海賊討伐に参加した勇者たちを迎え入れた。顔を合わせて一人一人に声を掛け、手ずから短剣を下賜した。

 短剣が手渡される度に群衆は歓声を上げ、目を輝かせ痛く感動する平民の戦士たち。

 純朴だなあ。

 彼らを利用している自覚があるので、良心が痛む。ただこれを感じなくなった時がお仕舞いなので、甘んじて受け入れるべき痛みだ。

 最後に討伐軍の代表としてボクがお言葉を頂戴する。

 そして今回はそれだけで終わりではない。スペシャルなゲストが居るのだ。

 侍従の合図に応じて一人の中年男性が進み出る。例の傭船の船長だ。バーツ以下の志願兵たちが顔に疑問符を浮かべている。あれは「やべ。このオッサン、なんか偉いさんだったのか?」って顔だな。うん。船長が偉くないわけないでしょ。平民の中でも普通に上層市民だよ。

 とはいえ。商船の船長は王宮の式典に呼ばれる身分ではない。また、船を使わせてくれた協力者という点でまったくの部外者という訳でもないが、今回の式典の趣旨的に出席は御遠慮願いたいのが実際の所。

 

 これは彼がとある役儀を帯びているからだ。

 ワーレン商人は王に向けて最敬礼すると高らかに述べた。

 

「ワーレン総督並びに評議会の名代として陛下に御挨拶申し上げます」

 

 というわけ。特使。外交官である。志願兵たちも観衆もいまいちピンときてないっぽいけど、外交的にはむちゃくちゃ偉い人だからね。

 

 タリス王とワーレン総督の連名で、ボクたちは両国間の航路を脅かす海賊団討伐の武功を顕彰された。これによってこの即席の戦闘集団は二ヶ国の元首から承認を受けたことになる。

 

 最後に、特使が「ますますの活躍を期待します」的な言葉を贈り、それを受けたモスティン王が語りだす。

 

「ワーレンの特使殿に感謝を。勇敢な若者たちに祝福を。さて、目出度き席に何を言い出すのかと思われるかもしれぬが、中にはここ最近の急激な動きに不安を感じている者もいるかと思う」

 

 静かな語り口だった。怯える民衆を慰撫せんとする意思が察せられる優しい声だ。

 

「グルニアのロレンス殿を覚えているだろうか。そうだあの時代を生きた人間が忘れられようはずもない。彼の御仁の協力なくしてタリスの統一はならなかったであろう。それほどの名将であった。将軍の知遇を得られた事。我が畢生の僥倖である」

 

 グルニア王国第一の将星ロレンスは若き日の遍歴騎士の時代に、部族長モスティンと友誼を結び、タリス統一の事業に参画した。モスティン王のお膝下である王都で彼を知らない者はいないだろう。

 

「我が娘シーダの許嫁である侯子殿はアカネイアのレフカンディより参られた。北方異民族の商人と南方ワーレンの商人とを我がタリスで結びつける施策は彼の発案に拠る物である。気宇壮大なる若者を婿に迎えられる事、余は誇らしく感じている」

 

 次にボクのことを誉めそやす。

 ロレンス将軍とボクと。共通点は外からやって来て島を変えたことだろうか。

 

「タリスは小さい。これは何も面積だけを指してこう言っているのではない。ロレンス殿、侯子殿、どちらもたった一人の外から来た男だ。それが為した事業の何と大きいことだろうか。だがそんな彼らですら、大陸にあっては砂場で遊ぶ幼い子供に過ぎない。それだけ大陸は大きいのだ」

 

 いきなり褒めると思ったら、どうもだしに使われたらしい。

 

「聞いてもらいたいタリスの民よ。大陸は動乱の季節にある。秋の霜が花を蝕み散らせるように、花の如き国々が無惨にも散って行く時代だ。散り落ちた花が水面に刻んだ波紋は、ついには恐るべき高波となって今にも我が国を飲み込まんとしている」

 

 殊更に脅しつけようとする声色ではない平坦な語り口が、かえって真に迫って聞こえるのだろう。喧騒がシンッと静まり返った。

 

「嵐が鎮まるまで国を閉ざせば良い。我が国は永らく内に閉じ籠って来た。十年一日の変わらぬ社会だった。ならば無理に変わる必要は無いのではないか。多くの者がそのように考えているのではないだろうか。だがそれは本当だろうか。余はそうは思わない」

 

 ボクもまた老王から発せられる気に圧倒されていた。

 

「二十余年の昔を知る者は思い出せ。知らぬ者は知って欲しい。かつてタリスは麻の如く乱れていたではないか。今の平穏は如何なる仕儀に拠る物か。余が全島を統一したからか? 否である。それは結果に過ぎない。すべてはアカネイアの文物を取り入れたが為だ。島が豊かになって、我らはようやく分かち合う事が出来るようになった。あの時代に立ち戻ってはならない」

 

 モスティン王は声も高らかに綸言(りんげん)を発した。

 

「余はタリス戦士団の創設をここに宣する」

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