【完結】白光のブレイズマン   作:ふくつのこころ

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伝奇ものの皮をかぶった特撮ヒーローです


事の発端

 人生で変わった瞬間といえば、あの力を手にした瞬間だろうと特徴的なエメラルドグリーンの瞳に星空を映し、夜空を見上げながら、藤本明(ふじもとあきら)は考える。

 そして、“苦くも誇らしい思い出”と今では呼ぶことができる。

 

 

「藤本君、私と付き合ってくれますか?」

 

 

 高校一年生の春休み前日、体育館裏にて。

 同級生の中でも屈指の黒髪美人、久保高嶺(くぼたかね)に放課後呼び出されたかと思えば、まさかの展開だ。

 容姿端麗かつ才色兼備でクラスカーストも上位であり、スタイル抜群であれば、断る理由が見当たらない。

 いつもイケメンの親友、(つなし)のオマケ程度にしか本命の相手にも思われていなかったことを思いだしてみると、これは破格のランクアップではないだろうか。

 もちろん、この告白への返事は決まり切っている。

 

「ああ!こちらこそ、よろしく!」

 

 頬をほんのりと赤らめ、上目遣いに明を見る彼女には二つ返事でオーケー以外ありえなかった。

 

「それで、突然なんだけど、私と一緒に帰省してくれないかな?」

 

 

 一人暮らしをしているという、学年一の美女のそんなあまりにも唐突なお願いにさえも、明はすぐに了承の意を示した。

 

 

 

 

「本気か?久保高嶺と?さっそく帰省するのか?」

 

「そんだけ、俺のこと気に入ってくれてんだろ!嫉妬してもいいんだぜ?」

 

「誰がお前なんかにするものか」

 

「ツレねえやつ」

 

 眉目秀麗という四字熟語の似合う、背の高い男子生徒は紙パックのフルーツオレを手に眉を顰める。

 まつ毛も長く、いかにも美形といった顔立ちだが、不服そうな表情は“うげえ”の擬音が相応しいといえるだろうか。

 苦手なことなどないと豪語する完璧超人だと周囲から持ち上げられているが、本人もそれが正当な評価であると信じてやまない。

 しかし、調子に乗りまくっている親友の藤本明を切り捨てながらも、わずかに口角が上がっていることに明は気づき、こいつなりに喜んでくれているのだろうと捉えることができた。

 こんな不遜な態度をとっているものだから、藤本の親友である十幸太郎(つなしこうたろう)は周囲に誤解を招き、現に学年でも浮いている。

 

 学年一の美女に告白された一大イベントを誰よりも先におめでとうの言葉も言わず、関心を示さない男に共有しようとやってくる、藤本明でなくては十幸太郎とはうまくやれないだろう。

 

「で、その久保の故郷というのはどこなんだ?」

 

 ここになってようやく、十は藤本に根負けして話を聞くことにした。

 公園のベンチで男子高校生が2人、紙パックを持って駄弁る。

 話題は親友に告白した学年一の美女にいろいろすっ飛ばしたうえで一緒に帰省してくれないか、とのお願いに最近の女子高生は進んでいるな、と真顔で頷く十にお前も高校生でしょうよ、と達観したようなコメントをする親友に明は突っ込みを入れた。

 

「高嶺ちゃんの故郷はここね!あー、高嶺ちゃんの親御さんってどんな感じなんだろうなぁ。ゆくゆくは結婚すんのかなぁ、俺たち」

 

「俺ほどに顔がいい男が現れたらどうする。まぁ、俺には及ばんだろうが。……ほう、ここか。なぁ、おい明」

 

 十は明に見せられた携帯の画面にある、久保高嶺の故郷の名前と住所を読み上げるなり、明を見つめる。

 

「なんだよ。高嶺ちゃんの写真なら渡さねえけど」

 

「いらん。俺もつれていけ、嫌な予感がする」

 

「ハァ!?お前の勘は洒落にならねえから、そういうのいうのやめてくれませんかね!?」

 

 明は相変わらず、想像通りの反応をしてくれると笑みを浮かべる幸太郎と対照的な飛び上がってしまう明。

 ヤマカンでテスト範囲を予測して見せるほか、悪い時の勘は決まって大当たりさせて見せる十の言葉には明は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。ただ、そんな言葉でさえも、十は決して藤本明の幸せを邪魔したいのではなく、心配に思ってのことだとは13歳からの3年間の付き合いを通して分かる。

 そして、そこで恋人との時間よりも親友との友情を取り、十幸太郎を同伴させていいかとその場で明は高嶺と通話し始める。

───そういう、すぐに俺を信じてくれるところが明のいいところだ。

 必死に謝りながらも、親友を信じ、高嶺と交渉する明を見ながら幸太郎は思った。

 

 

 

 そして、その勘は本当に当たってしまうことになった。

 十を連れていくことは了承してもらうことはできたのだが、久保高嶺の正体を知ることとなる。

 久保高嶺の故郷はいわゆる、山奥の閉鎖集落といったところで高嶺はそこの巫女の家系にあるという。

 そこで、以前から久方ぶりの祭を行うため、巫女となった高嶺は伴侶となる人間を連れてくる必要があった。

 白羽の矢が立ったのは、以前より校内でもお人好しで評判な藤本明だった。

 

「正直、顔の好みは十くんの方なのよね。でも、十くんはなんでもできちゃうし、勘も鋭いでしょ?だから、私の意図にも気づかれると思ったの。

 だから、アホそうなあんたを選んだってわけ。本当、気持ちよく引っかかってくれるわ。

 あと、藤本。あんた、本当に駄目よ?自分の彼女のほうを信じてあげなくちゃねぇ!?普通、連れてこないでしょ!いくら親友でも十を!

 十も、藤本も私たちの神様の生贄にしてあげるわ。

 ───カマ野郎にはそれが一番幸せよね?」

 

 祭の正体は村人たちが古くから崇める、神のような存在を呼び寄せるためのもので藤本明はその生贄に選ばれたのだった。

 本性をあらわにしつつ、その美しい顔を歪め、花嫁衣裳の着物姿で異形を背後にし、祭壇の上で短刀を藤本の首に押し当てながら、高嶺は妖しく微笑みかける。

 涙を目に浮かべる、明の無様な命乞いを聞いてから、殺してやろうと思ったのだ。

 

「十は、十だけは助けてやってほしい。高嶺ちゃん!」

 

「高嶺さん、でしょぉ!?生贄のぶたがぁ!」

 

 それでも、藤本明は十幸太郎が死ぬよりも、自分が死ぬことを選んだ。

 無様に頭を下げ、土下座しながら高嶺を見上げると、高嶺は明の顎を蹴り上げる。

 かっこ悪く、それこそ、鼻血を噴き出しながら、涙を流すさまが高嶺の怒りを誘う。

 

「おれ、おれがふぉんだんです……。ふぉれのせいで、しなれたくない……」

 

 そう言いかけたあたりで何かが後ろから飛び出し、そして神と呼ばれる異形の腕によって振り払われ、弾き飛ばされる。

 古い日本刀を持った、十幸太郎だった。

 

「こうたろうっ!」

 

「あら、十くん。わざわざ、このカマ野郎を助けに来たの?残念ね。貴方の命乞いまでして守ろうとしてくれたのに。当の貴方がそれを断るなんて。

 ───本当、人の気持ちがわからないバケモノよねぇ!」

 

 十は日本刀を支えに立ち上がるも、その表情は驚きに満ちたものだった。

 

「へ、へへ。お前、いいところとっていくなぁ」

 

「見捨ててもよかったんだ。わがままを言ったのは俺の方だからな。……どうして自分の命を優先しない?」

 

「お前が親友だからだよ」

 

 十が明に駆け寄ると、明の顔は酷く腫れあがっている。

 それは高嶺にいたぶられたものか、それとも異形の神によるものなのか。

 “呪い”には因縁(・・)のある十が推測するに、肌が焼き爛れ、複数ある腕で高嶺の身体に手を這わせている異形の神がその場にいるだけで毒を振りまいているのだろうとみた。

 対処できるような方法、たとえば、同等の力を持っていれば。

 このお人好しな親友を助けることができるだろうに、その力は今の十幸太郎は持っていない。

 ならば、せめて、少しでも長生きできるように自分が立ち向かわなくては、と十は日本刀を手に異形へと切りかかった。

 

「(身体が動かない。また幸太郎を一人にしてしまうのか?)」

 

 幸太郎の推測通り、異形の神の毒に侵され、明の意識は徐々に薄れゆく。

 今際の際になっても、明は十のことが心配でならなかった。

 

「(いま、この場で立ち上がる力が欲しい。あの気持ち悪いのから、高嶺ちゃんも、幸太郎も守りたい)」

 

 異形の神に好きにされているのが高嶺の望みであったとしても、殺されてしまうのではないか。

 そんな心配をしてしまう。

 親友も、手酷いフラれ方をされてしまったけれど、あの美しい彼女も守りたいし、あの気持ち悪い怪物に敵うことなら。

 

 神様ともタイマン張れるような力があれば。

 

『なるほど、とんでもない小僧だ。もう片方のほうが望ましいが、オマエは確かに覚悟を示した。

 であれば、この(ちから)はオマエにこそふさわしい。

 見せてみろ、お前の輝きを!その心を!』

 

 意識を失う瞬間、一つの声が聞こえた。

 その声のあと、明の身体を群青の光が包み込み、刹那、一条の蒼い光の柱が現れ、異形の神をその炎で焼き尽くした。

 

「土壇場でどうにかできる奴がいつでも、最も恐ろしいんだよな」

 

 異形の神をその炎でもって焼き払ったあと、光が消え、その場で倒れている明のすぐ近くにしゃがみ込み、その人影は独り言ちた。

 

 

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