今回のオチ、あるいは後日談。
ブレイズマンこと藤本明の活躍で古巣のヤドリギとの糸が完全に切れたナナマチ。
彼女は芳乃の夫、辰五郎の伝手を使い、この街で生きていくための身分を手に入れ、芳乃の店で住み込みで働くことが継続となった。
すでに常連からも芳乃の娘のようなポジションを確立していたこともあり、ナナマチは評判も良かった。
呑み処あかねの看板娘、
それが新しいナナマチの名前であり、彼女の新しい所属でもある。
「本当にありがとう、明殿」
営業終了後、明日の仕込みや後片付けが終わり、ゴミ集めにモップがけを済ませた明が椅子に座って伸びているところにナナマチは声をかけた。
看板娘が現れたことで連日繁盛し、掃除以外にも明が接客や配膳で駆り出されることが増えた。
相変わらず、ナナマチの前でも芳乃は明に檄を飛ばすが、娘ができて嬉しそうなのは明でも目に見えてわかる。
「俺の方は何も。俺は場所を用意しただけ。頑張ったのはナナちゃんだよ」
「それでも、だ。貴方には私を助ける必要はなかったはずだ。住まいの世話どころか、命を助ける必要もない。この暖かさを享受していれば良かったんだぞ?なぜ、私にそこまで?」
中の氷が全て溶け、水滴の滴るピッチャーの底を布巾で拭き取り、二つのコップに水を注ぐ。
ナナマチの疑問への解答には少し悩んだ後、冷水を注いだコップを差し出す。
「おやっさんも女将さんもお人好しだったから、ってのもあるかなあ。俺もナナちゃんみたいに拾われてるから、見逃せなかったって言うのが本音だ」
「明殿と女将さんは本当の親子に見える」
ナナマチは明の苦笑いに不思議そうに返すと、明は困ったような表情を浮かべるだけだった。
「長く一緒にいたら、似てもくるだろ。ナナちゃんも、女将さんみたいになるんじゃない?いつかわからないけど」
「そうでしょうか?」
ナナマチがそれ以上の言葉を続けようとすると、それを汲み取ったように明は頭を振る。
まだ何も言っていないのにも関わらず、だ。
『あの子はね、馬鹿なくせに聡いんだよ』
芳乃が言っていた言葉を思い出す。
強い結びつきで繋がっている二人であれば、明から母親と呼んでもおかしくないのでは、と言おうとしたのを悟ったかのように。
「さて、少し遅い夕飯だけど、食べられるかい?二人とも。今日は親子丼とお吸い物だよ」
「やったー!!腹減ってたんだよ、女将さん!ナナちゃんも腹減ったろ?」
「今日は確かに多忙な一日でしたからね」
タイミングを見計らったかのように、トレーに載せた二つの丼と椀。
付け合わせの漬物という、その保存食はナナマチもすっかりハマってしまった。
特に白菜の漬物がナナマチの好みとなっていた。
「とっとと、手を洗ってきな。明、ナナ」
芳乃は柔らかな笑みを浮かべ、二人の息子娘同然の居候が手を洗い、夕飯を食べる様子を眺めた。
ナナマチは芳乃が時折、明の食事作法に文句を言いながらも、笑っているのを見た。
ふとした瞬間に憂いを帯びた表情を浮かべているのも。
普通というものをナナマチはよくわからないが、この二人の関係も複雑なのだろうと思った。