【完結】白光のブレイズマン   作:ふくつのこころ

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新章です。

完全蠱毒トラツグミ登場


トラツグミの夜とコドクの壺
トラツグミの夜とコドクの壺:01


 男子高校生、十幸太郎(つなしこうたろう)

 美貌に長身の青年は浮世離れした雰囲気を纏い、制服を着る姿もさながらモデルのようだと囁かれる。

 異性に年齢を問わずにちやほやされ、同性にやっかまれることも少なくない。

 そんな幸太郎に唯一、張り合いながらも、親交を持ち続けているのがエメラルドグリーンの瞳が人目を惹く藤本明(ふじもとあきら)だった。

 

「うわ!!!なんだ、その旧時代的ラブレターはよぉ!!!」

 

「騒がしい奴だな、お前は」

 

 下駄箱を開けると、毎朝のように女子生徒からの大量のラブレターが入っている。

 小さな持ち手のついた扉を開くと、ガサっとラブレターの雪崩が発生し、幸太郎の足元に小さな山を作る。

 それを見た明が横から顔を出しながら不満げな顔を浮かべて覗き込んでくる。

 それが幸太郎の日常風景であった。

 

「だってよー、俺だってモテたいって」

 

「……まだ懲りていないのか、お前は」

 

「我ら男子高校生よ?当然じゃない?」

 

 上靴に履き替え、二人は教室へと向かう。

 しれっとした顔でさも当然のような表情をしている、明に幸太郎は冷静なその顔に呆れた様子を見せる。

 一年の頃、女性関係で文字通りに死にかけた明。

 その場に幸太郎も居合わせたのだが、それについては幸太郎からは責めるつもりは一切なかった。

むしろ、それまでこちら側(・・・・)に全く縁がなかった明が踏み込むことになってしまったのは幸太郎の力不足だと自分を責めているくらいだ。

 あの頃(・・・)から、ずっと自分は変わっていないと内心自嘲する。

 

「幸太郎?どした?」

 

「なんでもない」

 

 明が下から覗き込んでくると、手で押しやる。

 お前が気にするな、と言っても明はそれができるほど物分かりが良くない。

 物分かりが良い性格であれば、そもそも、幸太郎に関わることをしないからだ。

 そのまま、午前の授業、昼休み、午後の授業と一日が難なく過ぎていった。

 

「悪い、今日は先に帰るわ。おかみさんに買い物頼まれちゃってよ」

 

「行ってこい」

 

 放課後、明は幸太郎の席の前でスクールバッグを手にしたまま、手を合わせて小さく頭を下げている。

 幸太郎には明の親代わりである、芳乃が新しく身寄りがない少女を引き取り、娘に迎えた話を知っている。

 その話を語る様子があまりにも楽しげだったことに加え、一つ屋根の下でほとんど同世代の異性がいる非日常感を噛み締めているという明の話を何度も聞いていた。

 

「お前ってさ」

 

「早く行かないのか」

 

 まじまじと幸太郎を見つめる明に幸太郎は眉をひくつかせる。

 

「俺を呼び止めたりなんてしないよな?いつも、待ってくれって言うの俺の方じゃん?」

 

 そういえば、と言う明の言葉に幸太郎は心底憐れむような顔をしたあと、立ち上がった。

 

「男が好きなのか?なら、他を当たってくれ。お前をそう言う相手にする気はない」

 

「かーっ!コイツ、可愛げねえの!幸太郎の馬鹿!また明日!」

 

 手をひらひらさせ、迷惑だと言わんばかりの様子に明は頬を膨らませた。

 となりのトトロのヒロインの少女よろしく、ふん!と愛嬌いっぱいの仕草をとり、風を切って歩いていった。

 ぶつかった男子生徒に一部には舌打ちされるものの、幸太郎の前ではしゃいだりする明朗快活な様子がある一方で凄んだ声と表情で相手を威圧していくのを幸太郎は見た。

 能力面で幸太郎が明に負けることはないと自負しているが、明のように幸太郎が怒ることはない。

 

 あの日(・・・)、たった一人で生き残ってしまった日から、幸太郎は責められることはあれど、幸太郎自身が誰かを責める権利はないと思っている。

 幸太郎は明より異性から興味を持たれやすいが、自分よりも他者を思いやり、他者のことを考えられる明の方が興味を持たれるべきだと思っている節があった。

 独りでいた幸太郎を見つけ出し、手を差し伸べ、親友となってくれた藤本明はまさに十幸太郎にとっては太陽のような存在だったのだから。

 明が帰った後、一人になった幸太郎を学年でも容姿が優れたクラスメイトの女子に誘われるが、幸太郎はこれを断る。

 

 一年の白雪の一件後に昼休みを共にした時も、白雪の友人たちは幸太郎に夢中だった。

 話を振ったり、リアクションしたりと気配りしている明よりは幸太郎に感心があった。

 自分の容姿が優れていることは自覚しているが、それにしても、藤本明を無下にしすぎではないかとも思った。

 帰路につきつつ、さまざまな形の友人たち(・・・・)とすれ違う。

 同じように笑い合い、同じように冗談を飛ばし合っている。

 明だけが冗談や笑い声を上げ、無愛想な顔のままの幸太郎。

 自分たちとは違う関係だった。

 

 今日の買い物を済ませた後、帰路に着く頃には既に陽も沈んでいた。

 メッセージの着信をしたので確認してみると、明からだった。

 

今日はごめん!

またさ、遊びに行こうぜ!それか、ウチでメシ食わねえか?お前、一人暮らしだし、女将さんはお前みたいなイケメン大歓迎だってよ。

なぁ、イケメンってずるくない?美味いもの食わせてやるってんだぜ?

幸太郎!今度、ラーメン奢りな!この色男!

 

 実に明らしい、そのメッセージの文章に幸太郎は夜空の下で笑みを漏らしてしまう。

 

「久しぶりですね、十幸太郎(つなしこうたろう)。まさか、私たちを裏切った貴方が生きているとは思わなかったですが」

 

「……喧嘩なら他を当たれよ。お前を相手にしている場合じゃないんだ」

 

 幸太郎に声をかけたのは、スクエアフレームの眼鏡をかけた二十代の男だった。

 丁寧な語り口だったが、幸太郎はそれを露骨に不快感を見せて返した。

 

「心外ですね。あの地獄(・・)を味わった、血よりも濃い絆を持つきょうだい(・・・・)ではないですか」

 

「俺には、きょうだいはいない」

 

 男の言葉を幸太郎は冷めた口調で切り捨て、呼び止めようとする男を振り切るように歩き出す。

 俺にきょうだいはいない。

 そう言った幸太郎の後を男は音を立てて追いかけ、肩を掴んで振り返らせる。

 

「そうでしょうね、だって、君が殺した(・・・・・)んですから。忘れたんですか?僕のこと。僕は太洸(たいこう)御門太洸(みかどたいこう)

君のお兄さんだった(・・・)者ですよ」

 

 目のハイライトが消えている男、太洸が腕を広げると、幸太郎は迷いなく顔面を殴り飛ばした。

 

「ミカドは死んだ(・・・)はずだ、俺が殺した(・・・・)。……悪い冗談だろ」

 

 

 人間離れした幸太郎の膂力により、御門の顔は腫れ上がるどころか、むしろ頭蓋骨ごと顔が歪む。

しかし、痛みに悶え苦しむ様子は生きているそれと変わらない。

 

「ところが、生きてるんだよ?幸太郎」

 

 後ろからかけられた、優しい女性の声に幸太郎は思わず振り返る。

 

「鈴ねえちゃん?」

 

 明るく、人懐こい笑みを浮かべる幸太郎と容姿の年齢がさほど変わらない女性は幸太郎の姉であった(・・・)十鈴鹿(つなしすずか)だった。

 

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