【完結】白光のブレイズマン   作:ふくつのこころ

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トラツグミの夜とコドクの壺:04

ノートの上に、明の字でびっしりと書き込まれた文字が並んでいた。

鈴鹿の行動パターン、御門の弱点らしきもの(蠱毒の呪いが絡むらしいが、詳細不明)、幸太郎の変身条件——「怒りや絶望がトリガー」。

二人は夜通し話し合い、雨音をBGMに作戦を練った。

明の提案はシンプルだった。

「俺が囮になって御門を引きつける。お前は変身せずに、影から鈴鹿さんを連れ出す」。

幸太郎は最初、猛反対した。

 明を危険に晒すなんてありえない。

でも、明の目が本気だった。

 いつもの馬鹿っぽい笑顔の下に、揺るがない決意が見えた。

 

「お前が変身したら、姉ちゃんが怖がるだろ? それじゃ意味ねぇよ。約束だぜ、幸太郎。絶対に変身すんな。俺を信じろ」。

 

幸太郎は唇を噛んで、ようやく頷いた。

 

「わかった。変身しねぇ。でも、もしお前がヤバくなったら、約束破るからな」

 

「それでいいよ」と明は笑った。

 

「じゃあ、場所は? 御門のアジト、わかるか?」

 

「十邸だ。あいつらの古い屋敷。鈴鹿が昔、言ってた。街外れの山の中、呪いの家系の拠点だって」

 

「十邸か。調べるわ」

 

と明はスマホで地図を検索した。

雨は朝方には止み、曇天の下、二人は明の原付で出発した。

幸太郎は後ろに乗り、風を切る感触に、少しだけ胸のざわつきを抑え込んだ。

 

 十邸は、街から車で1時間ほどの山道の奥にあった。

古い日本家屋で、周囲を竹林が囲み、まるで時代劇のセットみたいだ。

でも、空気は重い。幸太郎の肌がピリピリする——呪いの気配。

門の前に着くと、明が先に降りてインターホンを押した。

 

「あの、御門さんいらっしゃいますか? 幸太郎の友達の明っていいます。話があって来たんですけど」。

 

中から、静かな足音が近づいてきた。扉が開き、鈴鹿が現れた。

幸太郎の姉は、いつもの穏やかな笑顔を浮かべている。でも、目が少し虚ろだ。

 

「明くん……? どうしてここに?」

 

「鈴鹿の姉ちゃん。久しぶり。幸太郎のことで、相談があって。御門さんに会わせてもらえませんか?」

 

と明は自然に振る舞う。

幸太郎は竹林の影に隠れ、心臓の音を抑えていた。

 

変身したくても、約束だ。抑えろ。

 

鈴鹿は少し躊躇ったが、結局中へ案内した。

明が屋敷に入るのを確認すると、幸太郎は裏口から忍び込んだ。

廊下は暗く、畳の匂いが混じった湿った空気。奥の部屋から、声が聞こえてくる。 

 

「幸太郎の友達か。面白いな。何の用だ?」

 

御門の声。低く、滑るような響き。蛟の化け物らしい、冷たい気配が漂う。

 

「えっと、幸太郎が心配で。昨夜、ボロボロになって俺ん家に来て……鈴鹿さんを諦めきれねぇみたいなんですよ。御門さん、鈴鹿さんを手放す気、ないですか?」

 

と明の声は震えていない。よくやった、と幸太郎は思う。

 

御門の笑い声が響く。

 

「手放す? 彼女は私のものだ。蠱毒の勝者として、当然の権利さ。幸太郎は負けたんだよ」

 

「でも、鈴鹿さん自身はどう思ってるんですか? 幸太郎の姉として、家族として……」

 

と明が食い下がる。幸太郎は部屋の襖の隙間から覗く。

 御門は黒い着物姿で座り、鈴鹿は隣に控えている。

明は向かいに座り、必死に話を引き延ばしている。

 

「鈴鹿、君はどう思う? 弟の友達が、こんなに熱心だぞ」

 

御門が鈴鹿に目を向ける。

 

鈴鹿の表情が揺らぐ。

 

「幸太郎は、もう諦めて。私の選択よ」

 

でも、声に迷いがある。幸太郎は息を潜め、タイミングを待つ。明が目で合図を送ってきた——今だ。

 

「鈴鹿さん、本当にそれでいいんですか? 幸太郎、毎日泣いてるんですよ。あいつ、強がってるけど、姉ちゃんがいなきゃダメなんです」

 

明の言葉に、鈴鹿の目が潤む。

 

その瞬間、幸太郎は部屋に飛び込んだ。

 

「姉ちゃん!」

 

 

その瞬間、幸太郎は部屋に飛び込んだ。

 

鈴鹿が驚いて振り返る。

御門が立ち上がろうとするが、明が素早く御門の腕を掴む。

 

「待てよ、御門さん。まだ話は終わってねぇ!」

 

幸太郎は鈴鹿の手を引いて、裏口へ走る。

 

「来いよ、姉ちゃん! 少しだけでいい、話聞いてくれ!」

 

鈴鹿は抵抗しなかった。

いや、抵抗できなかったのかもしれない。

二人で竹林を抜け、原付のところまで逃げる。

 

後ろから、御門の怒声が聞こえた。

 

「逃がさんぞ!」

 

明が時間を稼いでくれている。

幸太郎は鈴鹿を抱えて原付に乗り、エンジンをかけた。

 

「姉ちゃん、ちょっとだけ……俺の側にいてくれ」

 

鈴鹿は黙って、幸太郎の背中に顔を埋めた。

雨の後の湿った風が、二人の頰を撫でる。

明は無事か? 変身しなくてよかったか? 疑問は尽きないが、今は、この一瞬が全てだった。

 

御門の怒声が、十邸の静かな空気を切り裂いた。

 

「逃がさんぞ!」

 

その声は、普段の滑らかな響きを失い、獣のような咆哮に変わっていた。

 

明は部屋の中央で立ち上がり、御門の前に体を張る。

幸太郎と鈴鹿が竹林を抜けて逃げる音が、遠くに聞こえる。

時間稼ぎは成功だ。でも、御門の目は血走り、頰が引きつっている。完全にキレてる。

 

「ふざけるな……あの女を、よくも!」

 

御門は歯を食いしばり、拳を握りしめる。

黒い着物の袖が震え、部屋の空気が重くなる。明は後ずさりながら、冷静を装う。

 

「待てよ、御門さん。鈴鹿さんは自分の意志で幸太郎と行ったんだ。強制じゃねぇだろ?」

 

「意志? ハッ!」

 

御門は嘲笑うように鼻を鳴らす。

 

「あの女は都合がいいんだよ。蠱毒の儀式で勝ち残った私に、忠実に従う。裏切らない、完璧な女だ。私の言う通りに動き、私の欲を満たす……それが彼女の役割さ!」

 

明は眉をひそめる。

御門の言葉は、愛情なんかじゃなかった。ただの所有欲。

鈴鹿を道具みたいに扱ってる。いや、もっと露骨だ——欲望の捌け口で、依存の対象に過ぎない。

御門の目を見ればわかる。

あの目は、もう正気を失ってる。

濁った瞳に、狂気が渦巻いている。

かつての御門は、幸太郎の優しい兄貴分だったんだろう。

鈴鹿の話から、そんなイメージがあった。

家族みたいに幸太郎を守ってたはずなのに、今は蠱毒の呪いに飲み込まれて、こんな怪物じみた姿に……。

 

「可哀想だな、御門さん。あんたも、呪いの犠牲者か」

明は呟き、白光に胸元が輝く。

 

「でも、幸太郎の約束を守るよ。変身は俺がする」

 

明の体が熱を帯びる。

 

明の全身を白い炎が包む。

 

「燃え上がれ!」

 

 叫びとともに、明の姿が変わる。

ブレイズマンだ。

 幸太郎の変身を封じた分、俺が戦う——それが作戦だ。

 

 御門は笑う。

 いや、哄笑だ。

 

「面白い……お前も生き残りか! なら、受けて立つ!」

 

 御門の体が膨張し、黒い鱗が皮膚を覆う。目が細くなり、口が裂けるように広がる。蛟の化け物——長い体躯、鋭い爪、毒々しい息。部屋の畳が裂け、天井が揺れる。

 

「蠱毒の王たる私が、お前を潰す!」

 

 蛟の尾が鞭のように明を狙う。

 

ブレイズマンは素早く避け、拳に白光の炎を纏う。

 

「来いよ、御門! 鈴鹿さんを自由にするためだ!」

 

 二人の超人が激突する。

 蛟の毒霧が部屋を満たし、ブレイズマンの炎がそれを焼き払う。

 十邸の古い壁が崩れ、戦いの火蓋が切られた。

 外では、幸太郎と鈴鹿が原付で街へ向かう。明の安否を祈りながら。

 

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