数日後。
街外れの、いつも通りの薄暗いラーメン屋「麺蔵」。
カウンターに並んで座る幸太郎と明は、どちらもまだ体に包帯を巻いたままだった。幸太郎の左腕は吊られていて、明の額にはデカいガーゼが貼ってある。二人とも、まるで戦争から帰ってきた兵隊みたいだ。
大盛りの醤油ラーメンがドンと置かれる。チャーシューが山盛りで、ネギが溢れんばかり。
「…ったく、こんなボロボロでラーメン食える体力が残ってるってのが、逆に怖ぇよな」
明がまず箸を手に取りながら、ぼそっと呟く。
幸太郎はスープを一口啜ってから、ふっと息を吐いた。
「俺も思った。御門の毒霧浴びた後遺症で、味覚死んでんじゃねぇかって。でも…ちゃんと旨ぇ」
「だろ? 生きてるって実感、こういうところで一番来るわ」
二人はしばらく無言で麺を啜る。ズルズル、チャプチャプ。店内のBGMは古い演歌が小さく流れている。
明がチャーシューを頬張りながら、ふと口を開いた。
「なぁ、幸太郎。あの時さ……お前、俺のこと信じてくれてたよな?」
幸太郎の手が一瞬止まる。
「……信じてたよ。最後まで、変身しねぇって約束守れるって思ってた」
「なのに結局、盛大に破ったじゃん」
「うるせぇ。お前が尾に巻かれてぶん投げられてたの見たら、誰だって理性飛ぶわ」
明がくすっと笑う。血のついたガーゼが少しずれる。
「まぁな。でもさ……俺も、実はちょっと安心したんだよ」
幸太郎が眉を上げる。
「は?」
「お前が変身しなかったら、俺一人で御門倒すしかなくて……多分死んでた。ぶっちゃけ、もう白炎も出せねぇ状態だったし」
幸太郎は箸を置いて、明をじっと見た。
「……バカか。お前が死ぬの見たら、俺も絶対リオックになって暴走してたよ。どっちにしろ最悪のパターンだ」
「だよな。だからさ……結果オーライ、ってことにしとこうぜ」
二人は同時にスープを飲む。少し間があって、明がまた口を開く。
「でもよ。姉ちゃん、今どうしてる?」
幸太郎の表情が少し柔らかくなる。
「実家に戻った。昨日電話あったけど、『しばらく静かに暮らしたい』って。……でも、声はちょっと明るかった」
「そっか。よかった」
明がチャーシューをもう一枚つまんで、ぽつり。
「俺たちも、しばらくは静かに暮らそうぜ。もう変身とか蠱毒とか、勘弁な」
「だな。……でも」
幸太郎が小さく笑う。
「また何かヤバいのが出てきたら、どうすんだ?」
明もニヤリと笑った。
「決まってんだろ。一緒にぶっ飛ばすに決まってんじゃん」
「約束破るの、どっちが先か賭けようぜ」
「上等だ。次はお前が先に変身すんなよ?」
「それはお前だろ。いつもカッコつけて先に突っ込んでくじゃねぇか」
二人は顔を見合わせて、ゲラゲラ笑い出した。店のおっちゃんがカウンター越しに「うるせぇぞ、ガキども」と言いながらも、どこか嬉しそうに新しいメンマをサービスで乗せてくれた。
ラーメンを平らげた二人は、満足げに丼を置く。
「次は替え玉行くか?」
「まだ腹に余裕あるならな」
「じゃあ、俺が奢る。……命の恩人料金ってことで」
「おいおい、恩人料金って何だよ」
「知らねぇの? 命を助けてもらったやつは、一生ラーメン奢らなきゃいけねぇんだよ」
「んな古い因習ねぇよ!」
また二人の笑い声が、狭いラーメン屋に響いた。
外はもう夕暮れ時。街灯がぼんやり灯り始めている。
傷だらけの体を引きずりながら、二人は肩を並べて店を出た。
まだ痛む。まだ怖い記憶もある。
でも、隣に悪友がいる。
それだけで、明日もなんとかなる気がした。
明に重たい感情向けてるのが幸太郎