呑み処あかねのカウンター席。
そこには朝食をかき込む、藤本明の姿があった。
朝食の目玉焼き、味噌汁を平らげ、白飯を三度おかわり。
今朝のこの食べっぷりにナナマチは思わず感嘆してしまう。
女将である、小野寺芳乃を後見人として過ごす日々で明の健啖家ぶりに驚かされる毎日である。
「ご馳走様!女将さん!ナナちゃん!いってきます!」
手を合わせ、駆け足でトレーに載せた芳乃こだわりの食器をシンクに持っていき、蛇口を捻って出した水につける。
カバンを手に今すぐにも飛び出さんとする活発な男子高校生。
「あ、オソマツ様でした?お気をつけて、明殿」
呑み処あかねのロゴ入りのエプロンがすっかり似合うようになった、彼女は未だ溶き卵を白飯に入れて食べる卵かけご飯に馴染まないのか、ゆっくり食べている。
言葉遣いは芳乃の真似で接客しつつ、主に芳乃の仕事の手伝いをしている。
かつての環境が携帯食料で手早く食事を済ませることもあり、料理という“手間”は楽しめていた。
「ああもう、またあの子は……。明ァ!ナナがアンタにお弁当作ったよ!!」
「
ナナマチの呼びかけに芳乃はニヤリと笑って応える。
血縁はないというが、明と芳乃の笑い方はそっくりだ。
当初は明に倣って、女将さんと呼びかけたものの、芳乃の願いで
「持っていきな!」
不機嫌な猫を描いた弁当袋を芳乃は明の背中に投げつける。
明は振り返るまでもなく、反射神経でしっかりキャッチした。
王城と戦っている姿を確認しているため、ナナマチは驚かなかったが、明の戦闘センスはずば抜けていい方だろうと推測できる。
「ナナちゃんの手作り!?ッシャア!!」
「ったく、あの子は……」
振り返るまでもなく、明が喜んでいるのは声色でわかった。
明が開けて行った引き戸を閉めつつ、ため息をつく芳乃はどこか優しい表情を浮かべている。
飛び出していくのをああだこうだは言いつつも、明の明朗快活なところを好ましく思うのは芳乃も変わらないらしい。
実際、ヤドリギを追われ、行く宛を失ったナナマチは呑み処あかねに連れてこられたことは幸運だったと思っている。
「朝から元気ですね、明殿」
「落ち着きがないったらありゃしないよ。
そりゃあ、アイツの親友のがモテるのも当然さね。あれくらいの年の子は大人びてる方がモテるからね」
小さく息を吐きつつも、ナナマチと目が合った芳乃は柔らかく笑う。
明の親友とは十幸太郎のことだろう。
小野寺家の食卓に上がる話題の中で彼が多いのはよく知っている。
端正な顔立ちで物静か、それでいて高身長だとか。
普通の青春を送ったことがないナナマチでも綺麗な顔だ、との印象を受けた。
とはいえ、こちら側の世界で右も左もわからず、あまつさえ、かつての仲間に殺されかけたのをナナマチは明に救われている。
人懐っこい笑顔、エメラルドグリーンの瞳に湛えた優しい光。
「綺麗な瞳ですよね、明殿」
「なんだい?アンタ、わかるみたいだね」
無意識のうちにつぶやいた、ナナマチの言葉。
一方、朝から気分良く登校する明。
朝から親友と登校できないのは少し寂しくもあるが、良い男は親友の春を祝ってこそだと奮い立てた。
しかも、今日は呑み処あかねに居候しているナナマチが弁当を作ってくれたのだ。
これがテンションを上げずにいられようか。
「綺麗な子だな」
明の視線の先に捉えたのは、同い年くらいの学生だろうか。
そのコーカソイド系の金髪美人は少女にも女性にも見える。
袖に青のラインが入った、半袖のブラウスにスカート。
綺麗な異性に敏感な思春期男子アイが胸ポケットには何か描かれているところまで見えた。
後スタイル抜群な点も。
そういう、“綺麗な女の子”はたいがい、十幸太郎に惚れる。
オトナの余裕というのが足りないからだというのが芳乃の言葉だが、なんともわかってない話だと感じる。
ただ、藤本明の“いちばん良いところ”とは。
「おい、アンタ、何してんだ!」
見ず知らずの異性がオトナの男に腕を掴まれているのを見た時、迷わず駆け出せる点である。