【完結】白光のブレイズマン   作:ふくつのこころ

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史上最大のラブコメ:03

 少女の細い腕を掴む男は、明らかに酔っていた。

朝の通学路で酒臭い息を吐き、制服姿の少女に絡むなど、ろくでもない大人だ。

 

「おい、アンタ、何してんだ!」

 

 明は迷わず男の肩を掴み、引き剥がした。反射的に体が動いた。ビーズ星人のフェロモンなど知る由もないが、本能が「守れ」と叫んでいた。

 男は苛立った顔で振り返り、明の胸倉を掴もうとしたが、明の動きの方が速かった。軽く体を捻り、男の手首を捻り上げて地面に押し倒す。柔道の基本技に、戦闘経験で磨かれたキレが加わっていた。

 

「痛っ……!ガキが余計なことを!」

「この子に手を出すんじゃねえよ。警察呼ぶぞ」

 

 明の声は低く、威圧感があった。男は舌打ちをして立ち上がり、逃げるように去っていった。周囲の通行人がちらりと視線を向けるが、すぐに日常が戻る。

 助けられた少女は、驚いたように金色の長い髪を揺らして明を見上げた。コーカソイド系の整った顔立ち、青みがかった瞳が輝いている。制服の袖に青のラインが入ったブレザーは、近くの私立校のものだろう。胸ポケットには小さな星の刺繍。

 

「ありがとう……あなた、強いんですね」

 

 少女の声は柔らかく、少し訛りのある日本語だった。明は照れくさそうに頭を掻いた。

 

「いや、大したことねえよ。藤本明だ。そっちは?」

 

「……わけあって名前を名乗れないんです」

 

「じゃあ、ヘレナ!おまえをヘレナと呼ぼう」

 明は一瞬、目を丸くした。

ヘレナ——その名前に、どこか懐かしい響きを感じた。ビーズ星人の王女である彼女は、心の中でほくそ笑んでいた。

計画通り。母の演出した「偶然」の出会い。ブレイズマンの炎を持つ少年、小野寺辰五郎の血を引くこの少年こそ、運命の人。

 

「じゃあ、ヘレナ。一緒に行こうぜ。遅刻しちゃう」

 明は自然にヘレナの鞄を持ち、並んで歩き始めた。

ヘレナは少し驚きつつも、嬉しそうに微笑んだ。後ろ姿の完璧さは、明の予想通りだった。長い脚、優雅な歩き方。思春期の男子として、つい視線が泳ぐ。

 

 一方、呑み処あかねでは。

 

「明ったら、また何かしでかしてるんじゃないかしら」

 

 芳乃がコーヒーを淹れながら笑う。ナナマチは弁当を作った余韻で頰を赤らめつつ、頷いた。

 

「明殿は本当に、困った人を放っておけないのですね。……あの瞳、優しいのに強い光があります」

 

 芳乃は目を細めてナナマチを見る。養子として迎えた明の良さを、ナナマチが素直に認めてくれるのが嬉しい。

 

「アンタも、明に惚れちゃった?」

「えっ!? そ、そんな……私はただ、恩返しを……」

 

 ナナマチの慌てぶりに芳乃は大笑いした。ヤドリギの追手から逃れ、この店に身を寄せた少女。

地球の常識に馴染みつつある彼女にとって、明の存在は光だった。

 

 学校に着いた明とヘレナは、教室でさらに注目を集めた。金髪の美少女転校生と、明るい人気者の藤本明が一緒に登校したのだから当然だ。

 幸太郎が席から立ち上がり、微笑んだ。

 

「明、朝から派手だな。また女の子助けたのか?」

 

「バレバレかよ。ヘレナ、こいつが親友の十幸太郎。頭いいし、顔もいいし、モテモテだぜ」

 

 ヘレナは幸太郎に軽く会釈した。幸太郎の落ち着いた雰囲気に、わずかに目を細める。だが、心はすでに明に向いていた。ビーズ星人の女王——彼女の母は、遠くからその気配を感じ取り、満足げに笑っていた。

 

「……ブレイズマン。あの(・・)辰五郎の息子か。ようやく、見つけた」

 

 女王の声は、宇宙の彼方から響く幻聴のように、ヘレナの頭に届く。ヘレナは胸に手を当て、運命の鼓動を感じた。

 

 授業中、ヘレナは明の隣の席に座ることになった。

ノートを共有したり、休み時間に他愛ない話をしたり。明はヘレナの知識の広さに驚かされる。地球の歴史から、星の話まで。

 

「ビーズ星……って、なんかSFみたいだな。お前、外国人?」

 

「ええ、そういうことにしておきましょうか。明くんは、炎のような人ですね。暖かくて優しい」

 

 ヘレナの言葉に、明はどきりとした。

エメラルドグリーンの瞳ではないが、青い瞳も美しい。

 放課後、明はヘレナをあかねに誘った。

 

「女将さんの店、飯旨いぜ。ナナちゃんの弁当も最高だけど、夕飯も食べてく?」

 

「嬉しい。お邪魔します」

 

 二人が店に着くと、芳乃とナナマチが出迎えた。芳乃は一瞬、ヘレナの雰囲気に何かを感じ取った。

ビーズ星人の気配——辰五郎が昔、関わった相手の匂い。

 

「おやおや、明の新しいお友達? 綺麗な子ねえ」

 

「女将さん、ヘレナっての!転校生」

 

 ナナマチは少し複雑な表情をした。明の側にいる美しい少女。

自分とは違う、華やかな存在。だが、すぐに笑顔を作った。

 

「いらっしゃいませ、ヘレナさん。手作りクッキーでもどうぞ」

 

 店内は賑やかになった。

ヘレナは芳乃の料理を褒め、ナナマチと女子トークを交わす。明は幸太郎を呼び出し、四人でテーブルを囲んだ。

 しかし、夜が深まる頃、異変が起きた。

 店の外で、黒い影が動いた。

ヤドリギの残党か、それともビーズ星人の刺客か。明の戦闘センスが警鐘を鳴らす。

 

「みんな、下がってろ」

 

 明は立ち上がり、扉を開けた。そこにいたのは、銀色の髪をした男——ビーズ星人の戦士だった。

 

「王女殿下をお連れしろと、女王陛下の命だ」

 

 ヘレナが明の後ろに隠れる。

だが、彼女の目は興奮していた。

これは計画の一部。明の力を試すための。

 

「明殿!」

 

 ナナマチが駆け寄る。芳乃はカウンターの下から、古いお守りのようなものを取り出した。辰五郎の遺物——ブレイズマンの炎を呼び覚ます鍵。

 明の体が熱くなった。エメラルドグリーンの瞳が輝き、手のひらに炎が灯る。

 

「さんきゅーな!」

 戦士が攻撃を仕掛ける。

光のビームのようなエネルギー。

明はそれを炎で受け止め、反撃した。

カウンター席での朝食の余韻など吹き飛ぶ、激しい戦い。

 幸太郎が冷静に援護。ナナマチはヤドリギの力で影からサポート。芳乃は客を避難させつつ、微笑む。

 

「明、行け。あんたの道は自分で切り開きな!」

 ヘレナは明の戦う姿を見て、胸を高鳴らせた。

母の言う通り、この少年は特別だ。

 戦いは明の勝利で終わった。戦士は撤退し、「また来る」と言い残す。

 

 店内に戻った明は、息を荒げつつヘレナを見る。

 

「大丈夫か? なんか、変な連中だな」

 

「ありがとう、明くん。私を守ってくれて……好きになっちゃいそう」

 

「な、なんてことねーよ!」

 

 直球の告白に、明は赤面する。

ナナマチは少し寂しげに、しかし優しく微笑んだ。

芳乃は「青春ねえ」と酒を傾ける。

 

 その夜、ビーズ星の女王は娘に語りかけた。

 

「ブレイズマンを手に入れなさい。辰五郎の炎は、私のものだった……今度は、我が娘のものよ。あの女に奪われた辰五郎、私の辰五郎」

 

 ヘレナは窓辺で星を見つめ、明の顔を思い浮かべる。運命の茶番は、まだ始まったばかりだった。

 翌朝、再びあかねのカウンターで朝食を平らげる明。

 

「ナナちゃん、今日も弁当ありがとな! 」

 

「もう、明殿は……」

 

 ナナマチの声は柔らかかった。芳乃は二人の様子を見て、辰五郎の面影を重ねる。

 学校ではヘレナが明に寄り添い、幸太郎がからかう。日常と非日常が交錯する日々。

しかし、ヤドリギの本格的な襲撃が近づいていた。

ビーズ星人の陰謀も絡み、明の運命は大きく動き出す。

 明は駆け足で学校へ向かう。背中に感じる弁当の温もり。

綺麗な瞳の少女。

親友。そして、炎の力。

 

「今日も、元気にいくぜ!」

 

 

 

午後の授業後、ヘレナは明を屋上に連れ出した。

風が金髪をなびかせる。

 

「明くん、私は貴方と出会うべくして出会ったの。

すべてを捨てて、私と結婚しましょう?」

 

 明は目を丸くしたが、すぐに笑った。

 

「マジかよ。でも、全ては無理だ。女将さん、置いていけねえよ」

 

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