【完結】白光のブレイズマン   作:ふくつのこころ

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史上最大のラブコメ:05

 

 週末の午前中、街の大型ショッピングモールは学生たちで賑わっていた。

 

「明くん、今日は私に付き合ってくれるのよね? 楽しみ!」

 

 ヘレナは私服姿で現れた。白のオフショルダートップに淡いブルーのフレアスカート。金髪が陽光に輝き、長い脚が自然と視線を集める。コーカソイド系の整った顔立ちと、日本人の制服とは違う華やかな雰囲気で、周囲の視線を独り占めしていた。

 

 明は照れくさそうに頭を掻いた。

 

「まあ、デートって約束したしな。普通に楽しもうぜ」

 

 二人はまずファッションフロアへ。ヘレナは明の腕を自然に絡め、店から店へと移動する。明は最初こそ緊張していたが、ヘレナの意外と気さくな物言いに徐々に笑顔を見せた。

 

「この服、どう?」

 

 ヘレナは試着室から出てきた。タイトなトップスとデニムのショートパンツ。

プロポーションの良さが際立つ。明は思わず目を逸らしかけた。

 

「いいんじゃね? 似合ってるよ」

「ふふ、もっと素直に褒めてほしいな」

 

 ヘレナはくるりと回り、明の反応を楽しむ。学生らしい他愛ない会話が続き、明はヘレナがただの「運命の王女」ではなく、一人の少女のように笑う姿に少し心を動かされた。

 次に二人は水着売り場へ移動した。夏が近いこともあり、ビキニが並ぶコーナーは活気づいていた。

 

「明くん、見てて。どれがいいと思う?」

 

 ヘレナは数着を選んで試着室に入った。数分後、カーテンが開く。

 黒と金のグラデーションが入ったビキニ。

抜群のプロポーションを惜しみなく誇示する姿だった。

豊かな胸元、くびれた腰、長い脚——ビーズ星人の王女らしい完璧なボディラインが、照明の下で輝いている。

金髪が肩に落ち、青い瞳が明をまっすぐ捉える。

 明は一瞬、言葉を失った。心臓が大きく跳ね、顔が熱くなる。思春期の男子として、これは反則すぎた。

 

「……お、おい、ヘレナ……それ、ちょっと大胆すぎじゃね?」

 

「ふふっ、悩殺されかけた? 明くんの顔、真っ赤よ」

 

 ヘレナは悪戯っぽく微笑み、ポーズを取る。明は必死に平静を装いながらも、視線が泳ぐ。ビーズ星人のフェロモンが微かに漂い、明の本能を刺激していた。

 

「まあ……綺麗だよ。すげえ綺麗だけど……人前で着るのは控えめにしろよな」

 

「明くんのためだけに着るのもいいわ」

 

 ヘレナの言葉に、明はさらに赤面した。二人は水着を買わず、代わりに軽食コーナーでクレープを食べながら休憩した。

ヘレナは明の過去の戦いを聞き出し、優しく手を握る。

 

「あなたが傷つくのを見たくないの……」

 

 その瞳は本気だった。明は複雑な表情で頷くだけだった。

 一方、ビーズ星の母艦内で、女王は娘との繋がりを通じてデートを観察していた。ほくそ笑む唇が、甘く弧を描く。

 

「……いいわ、ヘレナ。もっと近づきなさい」

 

 女王は目を閉じ、若かりし日の記憶を思い出した。

 地球に降り立った頃。喧嘩っ早く、炎のような男——小野寺辰五郎に出会った。ブレイズマンとして人類を守る彼に、女王は強く惹かれた。種族の血による名付けの婚姻を望んだが、辰五郎は一人の女を愛していた。

 その女——小野寺芳乃。

 女王は知っていた。芳乃が子供を作れない体であることを。彼女は辰五郎に囁いた。

 

「彼女はあなたに子を残せないわ。捨てなさい。私を選べば、永遠の愛と力を与える」

 

 しかし、辰五郎は笑って首を振った。

 

「ガキができねえからなんだよ。俺は芳乃を選ぶぜ、お姫さん。悪いな、俺は俺がカッコよくねえ男にはならねえ」

 

 その言葉は、今の明の言葉と重なる。真っ直ぐで、熱く、誰かを守るために自分を曲げない男。辰五郎は彼女を姫さんとしか呼ばず、名付けの婚姻は果たせなかった。

 

 芳乃への嫉妬は、今も胸の奥で燻っている。違うオスと結ばれ、愛娘ヘレナを産んだ自分。なのに、辰五郎の心は最後まで芳乃にあった。明がヘレナを選べば、すぐに召使いたちに芳乃を嬲り殺すつもりだった。復讐の炎は冷めない。

 

 「辰五郎……あなたの()は、まだ私を狂わせるのね」

 

 女王の笑みは冷たく、しかしどこか哀しげだった。

 デートは夕方まで続いた。ゲームセンターでプリクラを撮り、手を繋いで街を歩き、夕陽が沈むテラス席のあるカフェへ。二人はオレンジ色の空の下、並んで座っていた。

 ヘレナは真剣な瞳で明を見つめた。

 

「明くん……返事は? 私を、伴侶に選んでくれる?」

 

 風が金髪を優しく揺らす。明はコーヒーカップを置き、ゆっくりと口を開いた。

 

「ヘレナ。お前はすげえ綺麗で、強いし、俺を守ろうとしてくれてるのもわかる。でもよ……」

 

 明はヘレナの目を見つめ返した。エメラルドグリーンの瞳に、炎のような光が宿る。

 

「ヘレナが地球に来いよ。一緒に暮らそう。まだまだやりたいことたくさんあるから。学校行って、飯食って、友達と馬鹿やって、ナナちゃんや女将さんと笑って……そんな普通の毎日を、俺とお前で作ろうぜ。運命とか、王女とか、そんなんじゃなく、ただのヘレナとして」

 

 ヘレナは目を大きく見開いた。予想外の返事だった。地球に留まれ、一緒に暮らす——それは求婚ではなく、対等なパートナーとしての誘い。ビーズ星の王女としてではなく、一人の少女として扱う言葉。

 

「……明くん」

 

 ヘレナの声が震えた。喜びと、戸惑いと、母の命令との葛藤が混じる。

 テラスに沈む夕陽が、二人の影を長く伸ばす。遠くで女王がその光景を感知し、眉をひそめた。

 

「なんと……芳乃の側に、私の娘を?」

 

 明はヘレナの手を優しく握った。

 

「危険があるのはわかってる。でも、俺は逃げねえ。一人で抱えねえ。お前も、俺の全部を受け止めてくれよ」

 

 ヘレナは涙を浮かべ、頷いた。怪物化した時の怒りはどこへやら、少女のような微笑みが浮かぶ。

 

「わかったわ……地球で、あなたと生きる」

 

 その瞬間、ビーズ星の計画に微かな綻びが生まれた。

 呑み処あかねでは、ナナマチが窓辺でため息をついていた。芳乃は静かに酒を注ぎ、辰五郎の写真に語りかける。

 

「明はあんたに似てるわね……本当に」

 

 夜の帳が下りる頃、明はヘレナを店まで送った。芳乃とナナマチが出迎え、三人で夕飯を囲む。ヘレナは少し緊張しながらも、笑顔を見せた。

 運命の時は一刻一刻と迫っている。ヤドリギの影、ビーズ星の艦隊、そして女王の嫉妬。

 しかし、藤本明の炎は、誰のものにも簡単に屈しない。

 テラスでの言葉は、ただの始まりに過ぎなかった。

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