【完結】白光のブレイズマン   作:ふくつのこころ

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目標が日曜日更新ということなので、完成でき次第、なるべく投稿したくもあります。


夢に巣食う蜘蛛:02

 白雪曰く、その蜘蛛は夢に現れるようになったという。

 

 夜に決まって現れる、その蜘蛛に関係する夢を見たときに限って白雪は起きるとげっそりと何かを持っていかれた(・・・・・・・)感覚があるといった。

 その夢は決まって白雪が最後には必ず蜘蛛の巣に捕らわれ、頭から食われることもしばしばあり、寝起きの感覚は最悪だと苦笑いを浮かべた。

 

「正直、お前がどうかすることでもないと思うが」

 

 何か分かれば伝える、と白雪と連絡先を交換し、別れたあたりで幸太郎は親友に声をかけた。

 

「お前、分かってねえなぁ。毎日寝られないくらいに辛い思いをしてるんだぜ?そんな子がダメ元であっても、藤本明を頼ってやってきてくれたんだったら、それはもう応えるしかないんじゃない?」

 

「そうは言うがな」

 

 幸太郎はため息をついた。

 閉鎖集落での一件以降、明と幸太郎を助けて集落から脱出したという“恩人(・・)”からの依頼もあるが、こうした怪奇現象絡みによく出遭(・・)っている。

 そもそも、閉鎖集落で現れた青い炎(・・・)とも形容すべき存在がその手から放つ群青の炎でかの神格存在を焼き払って以降、明は異能を見に宿した。

 神格存在、怪異とも渡り合えてしまう異能を人の身で手に入れてしまったのがいろんなことに頭を突っ込みたがるお人好しの大馬鹿野郎であったなら?

 力があることをいいことに首を突っ込み、そのお節介を発揮していくだろうことは幸太郎にも目に見えて明らかだった。

 一番、人間としての本性が現れるとされる危機的状況でさえも、自分や自分が命の危機に瀕する原因となった女さえも助けたいと言うのが藤本明なのだから。

 

津雲(つぐも)なら、白雪ちゃんの言っていた蜘蛛の種類が分かるだろうから、聞きに行くとして。まわりから見た白雪ちゃんのことが知りたいな」

 

 津雲(つぐも)、とは閉鎖集落の一件で神格存在を明が青い炎によって打ち倒した際、たまたま(・・・・)居合わせたという人物である。

 

「珍しいな、明。お前ほどの女好きが小泉白雪のことを押さえていないとは」

 

「バッカ、俺は純愛派なんだよ。っていうか、女好きってどういうことだよ幸太郎!?お前そう見てたの!?大!親友の俺のこと!」

 

 幸太郎は真顔で明に皮肉を言うも、明は照れた。

 皮肉は通じていなかったらしい。

 そのまま、その勢いで明は幸太郎に寝耳に水とばかりに食って掛かった。

 

「その割にはハニトラで死にかけていたが。事と次第によっては、俺は今回は降りるからな」

 

「そう言っちゃって。そのセリフはフラグなんだぜ、十幸太郎くん?」

 

「味噌ラーメン煮卵トッピング大盛りを次回所望するからな、明」

 

「そ、そんなー」

 

 なんて、賑やかな掛け合いをしつつ、彼らは午後の授業を迎えることになった。

 

 それから、放課後のことである。

 

「そろそろ来る頃だと思っちゃあいたが、お前さんは本当にトラブルを持ち込んでくることの才能があるな?」

 

「持ち込んできちゃいないんだって。ただ、解決してやりてぇって思ったのよ。しばらくずっと眠れてねえんだぜ?後輩の女の子が。そりゃあ、力になってやりてえだろ」

 

 放課後、明と幸太郎はスーツ姿のアウトローが店主をしている古書店にやってきていた。

 その店主の壮年の男の名前こそ、津雲(つぐも)である。

 スクエアフレームの眼鏡、顎に蓄えた髭は整えられており、伸ばした髪は一本にまとめて結わえ、清潔感があって不快な印象は感じさせない。  

 そんな男が明の言葉で呆れているのが伺える。

 渋みのあるダンディな声で呆れる様子は異性を惹きつけることだろう。

 

「そいつに巻き込まれる友達のことも思ってみろ、藤本。それにだ。お前の保護者にもお前に万が一のことがあったら、顔向けができねえぞ?」

 

「俺は意地でも帰るからいいんだよ、家に。掃除もしなきゃならねえし。教えてくれよ、蜘蛛のこと。夢の中に出る蜘蛛なんて聞いたことがねえ」

 

「はぁ、(つなし)も大変だろう?此奴に振り回されちまってたら」

 

「俺はもう慣れた。明のコレ(・・)は生まれつきみたいなもんなんだろうってことにしてる」

 

 呆れているのか、それとも諦めているのか。

 それでいて、明らかに堅気(・・)ではない容姿に目上の自分に対して敬語を使うことがない二人の様子に津雲は諦めながら、店の奥の喫茶スペースのソファに座らせると、茶の準備をし始めた。

 つれないようでいて、面倒見のいい津雲は胡散臭い印象は拭えないものの、面倒見がよく、色々苦労してそうだなと十は直感で感じた。

 

「そいつはたぶん、朧蜘蛛(おぼろぐも)って奴だな」

 

「朧蜘蛛?」

 

「形がねえ蜘蛛、雲。空に浮かんでる雲があるだろ?アレと同じように実態がなく、寄生先の魂に巣食っているモンだな。だいたい、そういうのは呪うときに使う。結構歴史が長くて、昔から寝ている人間が急死するケースはだいたい朧蜘蛛のような呪いによる仕業だ」

 

 明と幸太郎の前にソーサーを敷き、その上に紅茶で満たしたティーカップを置く。

 アンティークの棚やシャンデリアと津雲の趣味がうかがえる、その空間はまるで中世貴族の屋敷を思わせる。

 こういった古い家具を集めるのが津雲の趣味であり、ティーセット類もその趣味に含まれているのだという。

 

「そんな蜘蛛を使ってまで呪われてる、って相当に恨まれてんだな。その後輩の女の子ってのは」

 

「結構、かわいい子だからな。色々あるんだろ、きっと。そんで、どうやって退治すればいいんだ?」

 

 明が紅茶を一口飲んだ後に続けた言葉に津雲は苦い表情を見せた。

 

「正直、この呪いに関してはお前が首を突っ込まないほうがいい。まだ懲りてないのか?あれだけの思いをあの場所でしておいて。普通は日常の裏にあるものと出会ってしまったら、それを知らない・気にしないふりをして生きていくモンだろう」

 

 津雲はカウンターに戻り、古い本を開いた。

 接客するつもりがないように見えるが、あれは朧蜘蛛に関する資料を探しているのだと明と幸太郎は知っている。

 

「そんなんで懲りてりゃあ、藤本明はやってらんねえよ。最初にも言っただろ、後輩の女の子が困ってんだ。だから、その蜘蛛をどうにかしてやりてぇ。蜘蛛がそいつの、白雪ちゃんの悩みの種っていうんだったら、そいつをなんとかしてやりてぇ。高嶺ちゃんのことは確かに怖かったけど、それとこれとはまた別だろ?」

 

「ロクな死に方しないぞ、このままだと」

 

「誰かが困ってんのを見捨てて、それで毎日を楽しく暮らしていけるほど、俺は腐っちゃあいねえよ」

 

 あっさりと、それでいてきょとんとしながら言い切った明の様子に津雲はため息をついた。

 

「朧蜘蛛の取り除き方は簡単だ。呪いを受けている対象の夢の中に入り、その蜘蛛が張っている巣を入り込んだ奴が剝がしちまえばいい。そうすれば、朧蜘蛛の呪いは術者のほうへと返される(・・・・)

 

「返される?」

 

「人を呪わば穴二つ。誰かを呪おうとなんてするやつが呪いをかけて、ただで済むはずがないだろ?行きはよいよい、帰りはこわい。失敗した呪いは術者に返される。どうせ、呪いをかけられたほうも、かけたほうもろくでなしなんだ。だったら、ここはてめぇにその矛先が向かねえようにするのが賢いと思うがね。

よく考えることだ。……あと、あまりここに呼び込んでくるんじゃねえぞ、クリーンな古本屋でやってんだからよ」

 

 津雲がカウンターから出てきて、明たちに見せた本の挿絵には眠っている女性の手を握り、妙な道具を握っている男の思念らしきものが女性の夢の中に入り込んで蜘蛛にナイフを握って挑んでいるというもの。

 文章の記述からしてフランス語、のように見えた。

 津雲は妙な首飾りを一緒に明に差し出した。

 

「必要なものはやるし、方法も教えてやる。ただし、やるのはお前らだ。呪いに関わるなんざ、もうごめんだね」

 

 

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