後日談、あるいは今回の件の顛末。
朧蜘蛛を退治して以降、小泉白雪は蜘蛛に関する夢を一切見なくなったという。
直接対決をした明は朧蜘蛛から聞いた興味深い言葉を津雲に話してみたものの、津雲は険しい顔をして触れたがらなかった。
「世の中には触れないほうがいいこともある、ってことだな」
「どういうことだよ?」
「無事、あのブ……なんとか?になって勝ったんだろ?それでいいじゃねえか。その後輩って子も助かったんだ」
と、どこか歯切れが悪い様子だった。
何か津雲は知っているのか、と明が聞き出す前に津雲は明を黙らせるためなのか、ホットサンドを口止め料で払ってきたが、これがとても絶品だったことをここに記す。
一通りの朧蜘蛛に対するやりとりはハッタリを交えていたところもあったが、変わらぬ日常を過ごせるようになった白雪を見るのは救われた気分だった。
もちろん、白雪に対して誰が呪いを
「別に言ってもいいんじゃないか、明」
「幸太郎。だが友達なんだぞ?」
昼休みに紙パックのフルーツオレを手に中庭のベンチで一服していると、やってきた幸太郎に明は今回の犯人ともいえる相手を告げるべきかという明の悩みを幸太郎は真剣な顔で頷いた。
視界の先には朧蜘蛛を白雪に遣わした少女と白雪がほかの可愛らしい友人とのグループの中で昼食と談笑を楽しんでおり、校内でも有名人の幸太郎と明に気づくと「せんぱーい!」と明るく手を振ってくれるものだから、明はそれに手を振り返し、何のリアクションも示さない幸太郎の腕を掴んで明は振り返させた。
「やめろ、明」
「お前、本当愛想悪いのな。手ェ振り返してやれよ」
無理矢理、明が幸太郎の腕を掴んで手を振らせたことで、眉目秀麗な幸太郎に手を振り返してもらったことで白雪はじめ後輩一同はきゃあきゃあと嬉しそうに騒いでいたが、幸太郎は酷く機嫌が悪かった。
「ねえ、藤本先輩、十先輩。お礼ってほどでもないんですけど、良かったら、一緒にお昼食べませんか?十先輩のお話、私も聞きたいです!」
「いや、俺は「行く行く!な、幸太郎!」
笑顔を浮かべながら、「先輩たち!」と駆け寄ってきた白雪の申し出に幸太郎が断ろうとすると、明は食いつくように答えた。
ぎろりと隣で睨まれているのを明は感じながらも、視線だけで「ここは空気読んで一緒に食うもんなの!」と甘酸っぱいような青春イベントに大はしゃぎな明に押され、幸太郎は呆れた顔で白雪たちグループの輪の中に入っていくと、歓声が沸き上がった。
十幸太郎、その女子人気はとどまることを知らないのだ。
「ねえ、藤本先輩?」
「ん?どうした、白雪ちゃん」
さあさ、俺も魅惑の花園に参加させていただこう!と内心鼻の下を伸ばしながらも、きりっとした表情を保ちながら、輪に加わろうとしたところで白雪に明は腕を掴まれて引き寄せられる。
これはもしかしてお礼にキスを受ける流れなのか?いやいや、人助けに見返りを求めるなんてそんなのカッコいい男じゃない、なんて自問自答をするくらいに調子に乗っていた時、甘い香りを漂わせながら、白雪は明の耳元で囁く。
「先輩が心配せずとも、
なんのことかと明は思ってたが、話の内容を脳内で嚙み砕いていくうちにそれが白雪に対して朧蜘蛛を呪いとして遣わせた犯人のことを掴んでいるという旨のことだと分かれば、明は震えるようにしながら、白雪の顔を見る。
白雪の表情は笑みを浮かべてはいるものの、その真意を窺い知ることができなかった。
「白雪ちゃん?もしかして、」
「あ、皆まで言わなくてもいいですよ。しーっ、です。しーっ」
明が声を大きく出しかけてしまうと、「白雪~?大丈夫そう?」と白雪の友人が案じるような言葉を白雪にかければ、心配しなくてもいい、と白雪は友人に返していた。
なんてこともないようなやりとりをしているようだが、明は白雪がここでカミングアウトした理由を知りたくて仕方がなかった。
そのまま、白雪は声のトーンを落としたまま、人差し指を立てながら、片眼を閉じてウィンクして見せるさまはとても可愛いらしく、正直なところ、明は惚れそうになった。
「あの子、これから罪悪感を抱えていくことになるでしょう?でも、それでいいんですよ。だって、ここで黙っていたら、もうあの子は私のことを裏切るなんてことはなくなるんですもの。だったら、そこでとるべきは何かってのはもうわかりますよね?藤本せんぱい?」
最後にハートを浮かべそうな語尾で白雪がにっこりと笑うと、そっと頬に口づけを明にした。
「いい子は好きですよ?年上も、年下も。あの子、私があの子の好きな人のこと取っちゃったこと、憎んでてやったんだろうし。先輩も、言っていいことと悪いことはわかりますよね?」
そういって、白雪は幸太郎が巻き込まれている白雪グループに戻っていってしまった。
「女って怖いぜ、女将さん」
明はぼそりとそういうことしかできなかった。
呪いがテーマの蜘蛛回でした。