デバイスの可能性宇宙移動システムによってナナマチが転送されたのは、すっかり日も暮れかかった地方都市だった。
他の可能性宇宙における言語翻訳アプリを起動しつつ、この街にハンゾウがくれたヒントである“ブレイズマン”の所在を探そうとするも、通行人のほぼ全員がナナマチの言葉を訝しみ、相手にしなかった。
「ええと、ぶれいずまん?ってなに?何かのアニメかな?」
「悪いけど、暇じゃないのよ。他をあたってくれないかしら」
「映画の撮影か何かやっているのかい?それとも、コスプレかい?よくできているなぁ」
手甲と脚半、それに着物のようなナナマチの忍者装束はナナマチの第一印象を良いものとしなかった。
ナナマチが訪れた世界はほとんどが文明レベルが高い世界が多く、超常的な異能を持つ者は広く知られているもの、という大前提がある世界だったのだ。
ハンゾウが遺した“ブレイズマン”の言葉、その言葉が嘘だとは思わないが、ここまでブレイズマンとやらの知名度が低いとナナマチは疑いそうになっていた。
『統合統一国家ヤドリギ所属勇士、ナナマチ隊員補足』
「マズいッ!」
自動人形に発見されたことでナナマチは他世界にテクノロジーの流出を防ぐべく、デバイスによって対象を制限した特殊フィールドを張る。
自動人形とナナマチ以外を対象とし、ブレイズマンの検索はそのままにとすることで通行人の動きが止まる。
この閉ざされた世界では、ナナマチと機械人形だけが動くことができる。
特殊フィールドが張られたことにより。ナナマチはナナマチは支給されている電磁ナイフを取り出し、機械人形と格闘戦を繰り広げる。
侵略活動における斥候に使用される自動人形は現地の電波を狂わせるが、その中でも活動できるようにと特殊なコーティングがされているのが“勇士”達に支給されている電磁ナイフである。
ナナマチの格闘の中に電磁ナイフによる突きが繰り出されると、その刃は自動人形の回路を狂わせ、一撃で機能を停止させる。
動きが止まったところにナナマチが自動人形の胸に蹴りを入れると、自動人形は地面に体勢を崩した。
“勇士”の装備を無効にできる、
しかし、そのダダルキがこの場に居らず、自動人形だけなのであれば、話は変わってくる。
的確に自動人形の急所である眉間を狙い、電磁ナイフの刃先で眉間の奥にあるスイッチを押すことで機能を停止する。
ダダルキが作った自動人形は限りなく人間に近い弱点を再現しているが、それこそ、
「高性能も、考えものだな!!」
電磁ナイフで突きを繰り出す。
電子回路が特に集まっている個所を狙うと、ナナマチの目の前にいる一体は破壊することに成功するも、背後からの自動人形に気づいたとき、反応が遅れてしまう。
(しまっ……)
自動人形が手刀を回転させ、凄まじい速度でナナマチに突き刺さらんと──しなかった。
刃が触れようとした瞬間、自動人形は途端に炎に包みこまれる。
「炎?もしかして、」
ナナマチが振り返った時、そこには掌の上に火球を出現させている少年が照れくさそうに笑っていた。
「お困りみてえだな、お姉さん。俺は藤本明!────ブレイズマンだ」
※※
ブレイズマン。
彼こそ、ハンゾウが言っていた人物なのだろうけど、それにしたってイメージとは異なっているとナナマチは感じた。
ハンゾウが言っていた、バングルを渡すべき相手が目の前の少年なのだろうかと考えているところに藤本明の火球が自動人形へと炸裂する!
派手な音を立てて自動人形が爆発すると、明はナナマチの手を掴んで走り出した。
「おい、まだ自動人形が!!!」
「まわりに見られたらヤバくねえ!?」
「いまは世界を閉ざして……待て、なぜおまえは動けている?」
走っている最中、ナナマチは違和感に気づく。
この閉ざされた世界において、自由に動けるのはヤドリギの技術で作られたスーツを着ている“勇士”と自動人形しかないとされている。
他にありうるとすれば、そういった科学的なものを超越した存在だと思われるが、表立って異能者らしいものがいない、このブレイズマンが存在する世界ではありえないことだろう。
ただ、当の本人はナナマチの方を見てクエスチョンマークを浮かべている。つまるところ、全く心当たりがないのである。
「ん?さあ、分かんねえ」
「ああもう!頼りになるのかわからんな!お前!!」
「なぁ、お姉さん!追いかけられてるってことはよ、あいつら、何かを辿ってきてんだろ?電源切るなりできねえ?」
「お前、そんな単純な───。それに、私は、使命のために」
言い淀んだナナマチの言葉を引き取るように、明は続ける。
「やるだけやってみようぜ。使命を達成するにも、生きてなくちゃ意味ないだろ。アテがねえなら、ウチくる?」
ナナマチは手を引かれている中、デバイスの閉鎖設定を解いた後、電源を落とした。
自動人形が追いかけてくる様子がなく、明の腕を引っ張ってナナマチは止まった。
「んあ?どうしたんだ?」
「自動人形からの、追跡が止んだ。考えたこともなかった。デバイスの電源を落とすなんて。私は常に使命を優先に生きてきたから」
「立派じゃん。警察官かなんか?……敬語のほうがいい?」
「ケイサツカン?なんだそれは」
すっとぼけたような顔が少し腹が立つが、そんな風に苛立つことさえも馬鹿らしく思えた。
自分が考えられなかった、考えもしなかったようなことを思いつくとは、恐るべき天才かそれとも考えなしの馬鹿か。
ナナマチが手を振りほどくと、明は振りほどかれた手を二度見した後、少し残念そうな顔をしていたのがナナマチにはわからなかった。
「……あかね?」
ナナマチが明に連れてこられたのは、呑み処あかね。
明の住んでいる小野寺芳乃が経営する飲み屋であり、明の実家でもある。
「行くところなかったら、ウチ来れば?部屋の一つや二つあるだろ!行くところあんの?」
「……ない。どこにも。ただ、ブレイズマンに会えって言われているだけだ。そのあとは何も考えていない」
「なら、待ってろよ」
ナナマチが顔を下に向けると、引き戸を開いて「女将さーん!!行く当てがない女の子連れてきた!!部屋あるよな!」と大声でいうものだから、その返答として「女の子を連れてきたのかい!?アンタ、変なことやってないだろうね!?」と大声が聞こえてくる。
叩く音がしたり、説教の応酬が続く中、ナナマチがそっと店内に入ると、明の胸倉を掴んでいる芳乃と目が合い、取り繕うようにして明の胸倉を離した。
「ウチの子がすまないね、お嬢ちゃん。で良かったかね?」
「大丈夫です」
中性的で端正な顔立ちであるので性別の確認を芳乃がすると、ナナマチはそれを肯定する。
女将さんはなんでわからねえんだよ、美人さんじゃんと横から明が口にすると、ブラインドタッチならぬ、ブラインドビンタを受けていた。
「ここまで連れてきたところからわかるとは思うけど、うちの子はお人好しで馬鹿なんだ。一応、空いている部屋はある。好きに使いな」
「女将さん、マジ!?」
「明、話は終わってないよ。ただし、アンタにはアタシの店を手伝ってもらうよ。働かざる者食うべからずってね。明にも小遣いをやる代わりにちゃんと働かせてる。ウチも身体だけでかくなっていく馬鹿を育ててるのもあるんだから、ただってわけにが行かないからね。もちろん、風呂も食事も保証する。それでいいね?」
明が目を輝かせながら口をはさむと、芳乃は口元を緩ませつつ、話を続ける。
「まあ、ほとんどバイトみてえなもんだよな」
ニシシ、と明るく笑いながら、よく冷えた缶ジュースを冷蔵庫から三本取り出し、芳乃とナナマチに手渡す。
「ブレイズマン、これはどう飲めば?」
「マジ?缶ジュースをご存じない?」
「本当に変わった子だねえ、明が連れてきた子。名前はなんていうんだい?明、アンタが開けてやんな」
芳乃は席に着き、プルタブを起こして開くと、ナナマチは明の方を見る。
明が自分の缶ジュースのプルタブを開けると、自分にかけられた言葉に目を丸くし、芳乃の言いつけに従ってナナマチのプルタブを起こして開けた。
慣れた手つきで開けているさまはナナマチには不思議に映り、まじまじと缶を見つめた後、明を見つめる。
「そういえば聞いてねえや。俺は名乗ったけど」
「アンタはぶれいずまん?って呼ばれてるみたいだけど。何かの映画とか見たのかい?」
「ち、ちげーし!」
かんぱーい、と緩く、それぞれが缶ジュースを持った手を挙げ、それぞれが呷る。
ナナマチは口元を覆っている布を外す。
中身は普通の炭酸ジュースであり、ナナマチにとっての初めての炭酸は喉元を通るまでに感じるシュワっと弾ける飲んだ後のスッキリした爽快感を感じられるが、この未知の飲み物にはまだ慣れなさそうだった。
「私はナナマチ。“勇士”に所属していた。」
「ナナマチ?それだけ?まあいいか、ウチの人もいろんな付き合いがあったことだしね。明もあの人に似て変わったのと知り合いになったんだろうとしておくよ。
アンタ、接客するときは、そのマスク。外しておきなよ。綺麗な顔をしてるんだ、出さなきゃ勿体ない。……そういえば、アタシからも自己紹介しないとね。アタシは小野寺芳乃。明の母親代わりみたいなもんで、この店をやってる。この子はアタシを女将さんだと呼んでるが、アンタもそう呼んでくれたらいい。あかねでもいいけどね」
「わかりました、女将さん。ここで今日からお世話になります」
綺麗にナナマチがお辞儀すると、芳乃は満足気に笑った。
「よろしくね。困ったら、明に聞きな。明、変なことしたら分かってるね?」
「いやしねえけど!?」
「そうだね、ナナ。アンタの部屋は二階の明の部屋の斜め前の部屋にでもしておこうかね。あそこは空き部屋で使っていないから、そこを好きに使えばいい。他に荷物はないのかい?」
「今着てるだけです」
「わかった」
資料でしか見たことのない椅子、カウンターやこの世界この時代のテレビが置かれている天井付近に置かれた棚を見上げ、物珍しそうにしている様に芳乃は何か放っておけないものを覚えた。
「……明ァ!この子の買い物に行くよ!!」
どうやら、この親子はとても良く似ているようだとナナマチは思った。