邪眼の愛し子   作:じょうじょうじ

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想定外のエルフ

目覚めた時目の前に裸のリオンが寝ていた。

「わお!?」

思わず突き飛ばしてしまってから自分も裸であることに気付く

「あー・・・」

昨夜の出来事を思い出したが後の祭りだ。

「変わった起こし方をしますね?サウィル・・・!」

猛獣が拳を握りしめていた。

俺は深呼吸したのち腕を広げ向き直った

「顔は勘弁してください」

みぞおちだった

 

その後俺たちは乾いた服を着替えた後オラリオについた後について考えることにした。

「オラリオについたらまずは寝床と稼ぎ口が必要だな」

 

「やはり冒険者になるのがどちらも得られて良いですね。私は武器の扱い方は心得ていますし。サウィルも養えそうです。」

 

「え、俺無職?俺も冒険者になるつもりだったんだけど」

 

知らぬ間に無職前提にされていて思わず言い返すとリオンは心配そうな顔をする

 

「しかし冒険者は死と隣り合わせの危険な職業です。大聖樹の守り人として訓練を受けてきた私と違いサウィルは昨日までろくに動く機会もなかったでしょう。あまりに危険だ。」

 

「でも俺は頑丈さならリオンより丈夫な自信がある。リオンの足手まといにはならない。」

 

「しかし・・・」

 

なおも食い下がる様子のリオンに必殺技を使う

 

「頼むよ、リュー姉さん」

 

「ねっ…!」

 

日頃年上ぶってくるお子さまは姉と呼ばれることにかなり弱い。

今まで幾度となく窮地を救ってきた切り札は今回もその威力を発揮した。

リオンは表情を崩さないようにしているつもりだろうが薄く頬は紅潮し口許も弛みを隠せていない

 

「ま、まあいいでしょうとりあえずファミリアに入らなければ始まりませんしまずはそれぞれ入れるファミリアを探してから考えましょう。」

 

俺の勝ち。

 

「なんで顔を逸らすんですか?」

 

「ちょっと顔が抉れたから見ない方がいい」

 

「ふーん…」

 

勝ちったら勝ち

 

「そういえばオラリオにはいつごろ着くんだろう」

 

「…さあ?」

 

その後1日経っても着く様子がなく結局港町についたのは3日後のことだった。

しかもオラリオ近郊の港町ではなく中継地点として寄港しただけだったのだが世界の広さを全く知らなかった俺たちはやっとオラリオに着いたと思い込み脱け出し、どうやら違うと気付いた時には後の祭り。

船はとうに出航してしまい俺たちは途方にくれるのだった。

 

「金を稼ごう」

 

俺の言葉にリューは大きく頷いた。

リオンが長年貯めていたというお小遣いは宿代と食費二人分ですぐに使い果たしてしまうことが分かった以上他に選択肢はなかった。

 

 

金稼ぎの内容については二人別々の働き口を見つけることにした。

この街ではヒューマンが多くエルフであることを珍しがられはするが里のように排斥されるようなことはなかったのは幸いだった。

結局俺は容姿の珍しさを買われて酒場の呼び込みと接客で雇われることに成功した。

意気揚々と宿に帰るともうリオンが帰っていたのだが沈んだ表情をしていた。

多分働き口が見つからなかったんだろうな…

 

「そんな沈んだ顔してどうした?リオン。俺はもう働き口を見つけたがお前は?」

 

いつもならムキになるはずの挑発をしてみたがろくに反応もなくこっちを見ることすらなかった。

 

「…どうした?何かあったのか、酷いこと言われたりとかなら俺がそいつに一発」

 

「…逆だった」

 

「え?」

 

「皆優しくしてくれたんです。私たちが里から出た経緯も同情してくれたんです…なのに私は彼らの手を握れなかった。咄嗟に手を払ってしまったんです」

 

「リオン…でもそれは」

 

仕方のないことだろう。今までずっとエルフ以外の人間と出会ったことがなかったんだから

 

「私はエルフの高慢さと潔癖さを嫌って里を出て!自分はあいつらとは違うと思い込んでいただけだった!」

 

リオンは泣きながら叫んでいた。

 

「結局私は同じ穴の狢でしかなかった…同類だ、私とサウィルを忌避していたあいつらは…」

 

いつも太陽のように輝き俺を導いてくれたリオンのこんな弱々しい姿を見るのは初めてで、俺の中を何かが駆け巡った。

 

「私なんかがサウィルと一緒にいていいわけなかっ」

 

「違う!!!!」

 

俺は思わず叫んでリオンを抱き締めていた。

 

「サウィル…?」

 

俺が今まで出したことのないほどの大声と抱き締められた驚愕にリオンが顔を上げる

 

「俺はお前ぇゲホッゲホッゴホッ!!」

 

大事なところだというのに生まれてこのかた叫んだことのなかった俺の喉は早くも重体だ

俺だっせぇ…!

 

「サウィル!?」

 

ほらリオンもめちゃくちゃ心配してる

これはカッコ悪いな…

せめて言い切ろう

 

「ぉれは、お前のことをそんな風に考えたことなんて一度もない…」

 

「ぁ…」

 

「リオンは既にあいつらでは絶対にしない、できないことをしてきているからだ。」

 

「お前は俺に名前をくれた。文字も知識も優しさも絆も」

 

「サウィル…」

 

「何より『自由』を与えてくれた」

 

「リオンだけなんだ。あの里で世界で俺に何かを与えてくれたのは。」

 

「そんなリオンがあいつらと同じなんてことは絶対にない。」

 

「…」

 

「リューなら出来る。俺に話しかけて、手を取ってくれたように。」

 

リオンはしばらく黙って俺の胸に額を押し付けていた。俺も恥ずかしかったから黙っていた、しばらく静寂が続いたが俺がいまいち響いてなかったらどうしようと心配しはじめた頃、リオンは顔を上げて目元を腫らした顔で向かい合った。

 

「サウィル」

 

「は、はい」

 

「宿で大声を出さないように」

 

「は、はい、え?」

 

何故か叱られた

 

「だってリオンが泣いてたから思わず」

 

「泣いてない!」

 

「えぇ…」

 

「…でもありがと。元気でました」

 

ならいいか

その後リューはしばらくエルフ以外の人に馴れる訓練をしていくことに決まった。

明日は朝から酒場で仕事を覚えることになっているので早く寝るとしよう。

リオンと一人用のベッドに潜り込み眠る。

予定外のトラブルではあったが明日から始まる生活に少し心を踊らせて瞼を閉じた

 

 

 

 

 

 

「リュー」

 

「え?」

 

「リューって、呼びましたよね。これからはそう呼ぶように」

 

俺は少し考えた

 

「いや言ってないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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