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" おまえに不死の力を与えよう ー おまえが払う代償はたったひとつ "
うずまく炎の中で、少年は運命のこえを聞いた。
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EPISODE 1 炎
21歳の青年、ルイが、デパートでの買い物を終えて自宅にもどったとき、あたりの住宅はおそろしく静かだった。ルイが家を出たときに路地を無邪気にかけまわっていた子どもや、世間話をしていた老婦人たち、険しくほえる犬は、そこにはいなかった。ルイだけがひとりこの空間にとり残されたかのようだった。少し寒くなってきた秋風がルイをぶるっとふるわせた。
とはいえ、彼が4人の家族とともに暮らしている、青い屋根の家につくまでは、このような不気味な静けさをたいして気にとめなかった。
ルイには父と母と、もうすぐ15歳になる妹がいた。妹の名はミクという。ルイとミクは互いのことをほかの誰よりも理解し、信頼しあっていた。
家のドアノブを握ったとき、ルイは中側から押されているような重みを感じた。
「ただいま」
と言いながら戸を開けた。返事がなかった。ルイの足元に中年の男が横たわっていた。父だった。ルイの父親は目を開けたままあおむけにねていた。その奥の廊下で、妹と母が抱きあったまま倒れていた。
ルイは父親の身体に触れた。まだ少しあたたかかった。彼は少しだけ安堵した。
だが、それもつかの間、ルイの父親の身体は、シャボン玉の弾けるように消え失せた。それに続いて、母と妹のぬくもりも弾けてなくなった。一瞬の出来事だった。空っぽの廊下を、青白い明かりが照らしていた。
「なんだよ、これ」
なんの前ぶれもなく起こった惨事に、ルイの胸はさわぎだった。彼は家族を失ってしまったのだ。息が荒かった。
ルイは家の外に逃げ出した。ルイの身体は、生きている人間のぬくもりを欲して、ひとりでに隣の住宅に駆けこんでいた。
隣に住む60代なかばの老婦人は、ドアから3歩ほどのところで丸くなっていた。
「助けて」
と、ルイは荒々しい声をあげた。それを聞くやいなや、老いた隣人はシャボン玉のように弾けて消えた。ルイは身体中の血がぬけていくような感覚をおぼえた。
足音がした。ふりかえると、鋭い青色の眼がこちらを見つめていた。
その生き物は、目線の高さはルイと変わらないが、背中にコンドルのような大きな翼があった。顔には白いくちばしをもち、身体は暗いグレーだった。視線を下ろすと、先が鋭く尖った、かぎ爪があった。ルイの身体に戦慄が走った。
ルイがその場に立ちすくんでいると、目の前の奇怪な生物のうしろから、同じ青い眼が現れた。怪物は3匹いた。
怪物たちはこちらに向かってきた。ルイの心臓の音がどうどうと荒ぶっていた。彼はかろうじて2本の脚で立っていた。
突然、空を割るような大きな音が轟いた。1匹の怪物が、音が聞こえると同時にまっすぐ上に飛びあがった。それから少し遅れて、残りの2匹がその場に倒れこんだ。
飛びたった1匹はしばらくの間、翼をはためかせて上空を旋回していた。だが、仲間が起きあがらないのを見ると、はるか遠方の空へと消えていった。
怪物が現れてからずっと、ルイはまるで息をするのさえ忘れていた。危険が去ったとたん、ルイは骨がぬけたようにへたばりこんだ。それと同時に、彼の頭はぼんやりとしはじめた。
ルイの意識がなくなる寸前、赤い瞳が彼の顔をのぞきこんだ。
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目を開けると、すこし黄ばんだ天井が目に入った。ルイがなにか考えるよりもさきに、甲高い女の声がした。
「目が覚めた?」
ルイは起きあがった。そこには、赤い瞳の女の顔があった。
女は若い顔つきをし、さらさらとした茶色の髪をさげていた。彼女はルイが寝ているベッドの横で、背もたれのない椅子に座っていた。
ルイがとまどった様子を見せていると、女が口を開いた。
「あなた、名前は?」
「悠刻(ゆうこく)、ルイ」
と、ルイは少し遅れて答えた。女は、そう、とだけ答えた。
ルイが部屋を見まわすと、一面じゅうホワイトアッシュの壁紙だった。部屋の隅にたんすのようなものが1つ置かれていた。
「ねえ、さっきのやつらのこと、なにか知ってるの?」と、女は尋ねた。
「え?」とルイは目線を部屋の内装から女にうつしながら聞き返した。
「あいつら、あなたを見つけてもすぐに襲わなかったじゃない。あんなの初めてよ。」
女の言葉を聞いたルイは、あの恐ろしい鳥のような怪物たちを思い出した。それからすぐに、彼の頭の中に生々しい記憶がよみがえった。自分の目の前で家族が消えたことを思い出した。
「夢、、、だよな?」
ルイは自分に言い聞かせるように言った。だが、それを聞いた女は少しうつむいて、小さく、しかし、はっきりと首を横にふった。
「いいえ、つらいかもしれないけど、あれは現実よ。」
女は、ルイの家族と隣人に起こった惨事を知っているようだった。
「そんな、、」
”現実”という言葉がルイの胸の中にずっしりと覆いかぶさった。
だがルイは、家族が死んだとは思わなかった。というより、思いたくなかった。なんらかの原理法則で消えてしまっただけで、死んだわけではないと考えた。そうすることで、必死に絶望から逃れようとした。
「あいつらはオルタグアって呼ばれてる。」
女の声が沈黙を破った。ルイの意識は外の世界に引き戻された。
「おるたぐあ?」とルイはオウム返しに聞いた。
「そう。理由はわからないけど、いろんな場所に現れて、次々と人を襲ってる。」
女は喋っている間、ルイの眼を見ていたが、強く鋭い眼差しだった。赤い眼にまっすぐ見つめられて、ルイは妙な緊張を覚えた。
「さっきのやつらも、、、」とルイはたずねた。
女は少し頷いたあと、視線を窓の外にそらした。
「私は、やつらを止めるために戦ってるの。本当は仲間がいるんだけど、ちょっと意見が合わなくて。ひとりで戦ってる。」
女は、なにか言葉が返ってくるのを待った。だが、ルイが何も言わないのを見ると、慌てて付け足すように言った。
「別に気にしてないんだけどね、ひとりのほうが気が楽だし。」
女の顔は笑っていたが、瞳の奥が悲しい表情をしているように見えた。
その時、ルイのうしろで、窓をコツコツとつっつく音が聞こえた。うしろをふり向くと、小さな鳥の形をしたものが窓の外に浮いていた。
鳥のような姿を見て、ルイの脳裏に怪物の姿がよぎった。だが、獣のような怪物とはうってかわって、目の前の鳥は機械めかしい見た目をしていた。その鳥は、雀くらいの大きさで、黒く宝石のような光沢を放っていた。
「見つけたのね」と女が少し興奮した調子で言った。
ルイが小さな機械を興味ありげに見つめていると、女が説明した。
「鳥型のメカよ。さっき生き残ってた怪物を見つけたの」
ルイが意識を失う前、女が遠くから放った銃弾は2匹の怪物を射抜いた。だが、残る1匹は倒すことができず、逃げられたのだった。
「えっと、おるた、、、」
「オルタグアよ。」と女はもう一度教えた。
「私、行くわ。あなたはどうする?」
ルイはいきなり質問されて、面食らった。彼は、見知らぬ女の目的を読み取ろうとした。ルイが思考をめぐらせていると、女が再び口を開いた。
「疲れてるならもう少し寝てて。」
そう言って、女は部屋を出ていった。が、ふと思い出したように引きかえして、
「私の名前、さくらって言うから。」
そう言い残して、女はさっきよりも急いだ様子で部屋を出た。それから5秒もたたないうちに、玄関のドアをバタンと閉める音が聞こえた。
ルイは、さくらが突然いなくなって、あっけにとられていた。ふとうしろをふり向くと、小さな機械はいなくなっていた。
外の景色は明るかった。ルイは、あの出来事から少なくとも一晩は経過したことを知った。
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家を飛び出したさくらは、外に停めておいたバイクへ駆け寄った。白く輝く、大型のリッターバイクだ。さくらがバイクにまたがると、彼女の頭に白いヘルメットが現れ、自動で装着された。
小さな鳥のメカはその間、家の上空をぐるぐると旋回していた。さくらがバイクに乗ったのを見ると、彼女の背中側の空へ飛んでいった。
さくらはエンジンをかけた。大きな車体を180°ふり向かせて、メカの後を追った。さくらがバイクを走らせている途中、何人かの人が逃げてくるのとすれ違った。人々はみな、おびえた顔つきをしていた。
さくらはメカを追って3kmほど移動した。そのとき、メカがするどく、高い鳴き声を放った。それは、さくらが狙っている相手が、距離にして100m以内にいるという知らせだった。
さくらの前には、大きなショッピングモールがあった。人の気配はなく、しいんと静まりかえっていた。さくらがエンジンを切ると、辺りは完全な静寂につつまれた。
さくらは、大型バイクからとびおりて、車体の後ろにまわった。バイクに取り付けてあるサイドバッグを開けて、中から狙撃銃を取り出した。それと同時に、頭に被っていたヘルメットが変形し、彼女の目元を覆った。標的が障害物をすり抜けて見える、特殊レンズだ。物体の温度が色に反映されて映る。
さくらはショッピングモールの入り口まで近づき、レンズ越しに辺りを見まわした。店頭が並ぶ向こうに、1匹の怪物の姿が明るいライム色に映った。
「いた」
とさくらは呟いた。
さくらがバイクから離れようとすると、鳥のメカは上空から降下し、バイクの後部に着地した。
「荷物番、お願いね」
と、さくらは小さな機械に言った。そして狙撃銃を抱えてその場を離れた。
さくらは、できるだけ足音をかき消すように移動した。建物をまわり、怪物が直接見える位置にたどり着いた。
怪物は、店が並ぶ通路の屋根の上にいた。こちらに翼の生えた背中を向けて立っていた。さくらはその場でしゃがみこみ、右膝を地面につけた。立てた左膝に左の肘をつけて狙撃銃を構え、銃のスコープを覗きこんだ。
そのとき、怪物がこちらを振り返った。まるでさくらがそこにいることを前から知っていたかのような、落ち着いた素振りだった。
さくらが引き金を引くのと同時に、怪物が飛び立った。
さくらは一瞬、怪物の姿を見失った。が、次の瞬間、彼女の上の方から怪物の鳴き声がした。怪物は、頭上5mほどまで接近していた。
さくらは身をひるがえし、怪物との衝突をかわした。彼女は銃を地面におき、両腕をカマキリのように構えた。すると、さくらの両腕に斬撃用大型カッターが装着された。
怪物は、上空を旋回し、再びこちらに向かって急降下してきた。
さくらは鎌のような武器を胸元で構えたまま、攻撃のタイミングを見はからった。
怪物とさくらとの距離が10mほどになった。そのとき、怪物は身体を回転させた。脚を振り上げ、さくらに鉤爪を見せた。大きな鉤爪がさくらに襲いかかった。
怪物の鉤爪が彼女の頭をかっさらう寸前、さくらは前へ踏みこんだ。彼女はそのまま身体を素早く回転させ、怪物の鉤爪をめがけてカッターを振り抜いた。
さくらの攻撃は見事に命中した。怪物の両足がかき消された。
だがしかし、怪物は相手を攻撃できる鉤爪を失ってもなお、戦意を失うことはなかった。怪物は再びこちらに向かってきた。さくらは身をひるがえして、よけた。
「しつこいわね!」
とさくらは言った。そして腕に装着していた鎌を上空に放った。鋭くとがった鎌は、ブーメランのように空中に弧を描いた。その間に怪物はさくらにかなり近づいていた。衝突する寸前、さくらは身を転がし、避けた。それと同時に、先ほど投げたカッターが怪物の翼に命中した。
翼を傷つけられた怪物は、飛行を続けられなくなり、まっすぐに落下した。地面にぶつかるとともに、怪物の身体は煙と化し、あとかたもなく消えていった。
さくらは、ふぅ、とため息を漏らした。
その時、けたたましい音が聞こえてきた。雀のメカが鳴き声をあげながら、さくらの方へ飛んできた。
「どうしたの?」
とさくらは小さな鳥に問いかけたが、雀のメカはひたすら鳴き続けた。
そのとき、翼のはためき合う音がしはじめた。空を見渡すと、遠方の空に複数の怪物が見えた。怪物たちは、こちらをめがけて猛スピードで飛んできていた。さくらの身体に戦慄が走った。
怪物の数は6匹だった。彼らはすぐに、さくらが肉眼で確認できる位置まで近づいた。
群れの6匹のうち3匹は、ショッピングモールの屋上に着地した。が、残りの3匹は、飛んできたそのままの勢いでさくらめがけて急降下した。
さくらはなんとか身をひるがえして3匹の怪物の攻撃を避けた。が、彼女が一息つく前に、先程着地していたほうの3匹が一斉にさくらに急接近した。
彼女はとっさの判断で鎌を頭上に構えた。さくらは目をつぶった。
ドォゴーンという轟音が鳴り響いた。雷鳴のような凄まじい音だった。さくらは、自分の身体が砕けた音だと思った。
だが、いつまでたっても、彼女の意識はずっとそこにあり続けた。さくらは恐る恐る目を開けた。
そこに立っていたのは、さっき自分の家にいた若い青年、ルイだった。
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ルイは、なにかを棍棒のように両手で持っていた。さくらが戦闘中に地面に転がした狙撃銃だった。
「あなた、どうして」
と、さくらは問いかけた。彼女は、ルイの登場にとても驚いた顔をしていた。
ルイは、さくらの方を振り向かずに口を開いた。
「またひとりで戦ってる気がしたからさ。」
その口調からは、さっきまでのひ弱な青年とはうってかわった、堂々とした態度が感じられた。さくらは、勇敢な青年の背中を眺めていた。
一方で鳥の怪物たちは、ルイの登場に非常に困惑している様子だった。6匹で集まって、青い眼でルイをにらんで警戒している。対するルイも、いつ襲いかかってくるか分からない怪物たちに身構えていた。
ルイと怪物たちとの睨み合いが、しばらく続いた。
突然、1匹の怪物がルイに急接近した。
ルイは持っていた狙撃銃で身をかばった。怪物の鉤爪が、ルイが握る銃をかっ切り、浅い傷を残した。
ルイが1匹の怪物と奮闘している間、ほかの怪物たちがさくらめがけて飛んできた。ルイはさくらの身が危ないことに気づいた。
彼は、目の前の怪物の大きな眼に右脚で蹴りを入れた。そしてさくらの方へ走った。ルイはさくらの身体を抱えあげた。そのまま横へ飛び、彼女を狙う怪物との激突をよけようとした。
だが、ルイが横へ飛ぼうとした瞬間、彼の背中は、怪物の鉤爪とまともにぶつかった。
ルイとさくらの身体は弾き飛ばされて、地面に転がった。ルイの身体はかなりのダメージを負ったはずだった。だが、
「大丈夫か?」
と先に口を開いたのはルイだった。さくらは荒い息をしていた。
「大丈夫」
とさくらは答えた。怪我はしていないようだったが、ゆっくりと起き上がる様子から、体力を消耗しきっていることは見てとれた。
そのとき、怪物たちが地上におりてきた。
「おい、どうしたらいい」
と、ルイは言いながら、怪物の方を睨みつけた。さくらの身をかばうように、腕を斜め後ろに広げた。
「わかんないのにきたの?」
と、さくらは興奮した様子で言った。
「しょうがないだろ」
と、ルイはややぶっきらぼうに答えた。
「まずいな」
ルイは、次にとるべき行動が思い浮かばなかった。背後にいるさくらは、いざというときのために、呼吸を落ち着かせようとしていた。怪物たちは今にもこちらに向かってきそうだった。
そのとき、ルイの視界に、白く輝くものが映った。その輝くものは、遠方の空からこちらに近づいてきているようだ。近づいて大きくなるにつれ、それは赤色を帯びていた。
怪物たちも気づき、身構えた。
それは、炎の塊だった。風に吹かれているからか、火炎が鳥の翼のような形になびいていた。
炎の塊は6匹の怪物の間をすり抜けた。怪物たちは驚いて、翼をはためかせ、地上を離れた。
赤い炎は、怪物たちを追いやったあと、ルイに向かって飛んできた。そして、ルイの目の前で止まった、かと思うと、すぐにルイの周りをゆっくりと回り始めた。
「なんだこれ」
と言うと同時に、ルイは反射的に立ち上がった。
「まさか」
と、さくらが声をあげた。ルイはさくらの方へふりかえった。だが、さくらは口をあんぐりと開けて見せるだけで、それ以上は何も言わなかった。
その時だった。ルイは、身体の奥底が熱くなるのを感じた。骨と筋肉が燃えるように熱かった。だが、痛みは感じなかった。ただ身体の中に、烈々とした炎がたぎっていた。
一方で、ルイの身体の周りもまた、炎で燃え盛っていた。赤い炎が彼の身体を完全につつみこみ、周りから姿が見えなくなった。
さくらは、なにか呼びかけようとした。だが、かける言葉を思いつかず、結局燃えるのを見ているだけだった。
烈々と燃えたぎる炎の中で、ルイの身体は炎と一緒になった。
次の瞬間、炎の中から現れたルイの姿は、人間のそれではなかった。
ルイの身体は、真紅に染まっていた。彼の胸部から肩にかけてを、熱いアーマーが覆っていた。ルイの腰には、炎の模様が象られたエレメントが装着されていた。
「炎のベルト!」
と、さくらは小さく、それでいて興奮した様子で叫んだ。
怪物のうち1匹がルイをめがけて突進してきた。
ルイは右腕を少し後ろに下げ、構えた。すると、彼の拳を紅蓮の炎がまとった。怪物がルイに接近した。ルイは熱い拳を前に振り出した。炎のパンチが、怪物の身体を突き破った。
さくらは驚いた。怪物の仲間たちも、驚いた様子を見せた。ルイだけが、まったく動じた様子を見せなかった。
ルイは、残っている怪物のほうに顔を向けた。彼は怪物たちの方へ歩みだした。すると、5匹の怪物は翼を大きく広げ、上を向いた。5匹の肉体は消失した。それと共に、白く輝く塊が、怪物の数と同じ分だけ出現した。5つの光は、上空の1ヶ所に向かって浮上していき、やがてひとつになった。集まった光は、ひときわ強く、赤い閃光を放った。
次の瞬間、そこには、巨大な鳥型の怪物がいた。さっきまでの1匹の怪物の大きさの、10倍は超える巨躯であった。
巨大な鳥は、ルイを見下ろした。怪鳥は、息を吸い込むように首を縮めた。そして大きなくちばしを開けたかと思うと、轟くような咆哮とともに、嵐のような風を吐き出した。
赤い炎と一体化したルイの身体は、激しい風を受けても、びくともしなかった。
だが、後ろにいたさくらが巻きぞえを食らった。彼女の身体は吹き飛ばされた。さくらは悲鳴をあげたが、どうどうと轟く嵐の音で、彼女の小さな声はかき消されてしまった。
ルイの青い眼は怪物をじっと見上げていた。彼の身体を取り巻く炎は決して絶えなかった。
やがて、嵐は静まった。巨大鳥は大きな翼をはためかせて上空へ飛び立った。
ルイは、身をかがめて体勢を低くした。すると、彼の周りを渦巻いていた炎が、脚の周りに吸い込まれていった。
炎が全てルイの身体に吸い込まれて、なくなった。そのとたん、ルイは跳び上がった。彼は、上空にいる怪物をめがけて、空を一直線に急上昇していった。
彼と怪物との距離が30mほどまで狭まった。ルイは、空中で身体を素早く前転させ、頭を下にし、足を上に蹴り出した。そして、さらに勢いを増して上へ上へと突き進んだ。
ルイの足が怪物にぶつかった。彼の身体はスピードを緩めなかった。怪物の巨体は上空へ突き上げられた。
すぐに怪鳥の肉体は力に耐えられなくなった。ルイの身体が巨体を突き抜けた。
上空1000mで、大きな爆発が起こった。
3秒ほど遅れて、地上に爆音が轟いた。
それからしばらくして、ルイの身体が凄まじい速度で地面に落下した。彼は見事な構えで地上に着地した。
ルイの身体の至るところから、赤い炎が煙となって吹き出た。火炎はしだいに薄れ、大気の中に消え入った。
彼の身体は人間の姿に戻っていた。
姿が戻ったルイは、ふと我に返ったようにあたりを見回した。そして、遠くで倒れこんでいるさくらを見つけた。
ルイはさくらに駆けよった。
「おい」
と声をかけたが、反応がなかった。
「おい!」
ルイが再び呼びかけると、さくらはうっすらと目を開けた。
「大丈夫か」
「さっきの風に、やられちゃって」
さくらは小さな声で言った。
「もう、だめみたい」
「だめって、、しっかりしろ!」
とルイは力強く言った。だが、さくらは首を小さく横にふった。
「お願い、私の代わりに、やつらを止めて」
さくらは消えそうな声でささやいた。そしてゆっくりと目を閉じた。
「おい、しっかりしろよ!」
さくらは返事をすることなく、じっとしていた。
彼女の口元からは、かすれるような息がもれていた。
お読みいただきありがとうございます。
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<注意書き>
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