【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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 仮面ライダーハルガ!前回の3つの出来事!

 1つ!さくらは、巨大ロボットによって破壊されたはずのアジトが、元に戻っているのを目の当たりにする。

 2つ!組織のリーダー的存在であるウッドは、トラロックを発動。そこにいたオルタグアは一斉に消滅した。

 そして3つ!人間を殲滅させようとするウッドたちに対し、不利な状況で苦戦していたさくらとロウの前に、炎のハルガことルイが復活した!




EPISODE 10 オルタグアとベロアグア

 

 

「戻ってきたか、、、」風のハルガは囁いた。

 

 烈々と燃えたぎる炎の中から、紅い戦士が姿を現した。それを目にした軍服の男は、顔を驚愕の色に染めた。

 

「まさか、なぜひとりでにベルトが!」

 

 炎のハルガは、仮面の奥で大きく息を吸いながら、空を仰いだ。それから、身体のなかに溜まっていた悔恨や当惑をすべて吐き出し終えると、敵の姿をきりっと見据えた。

 

「ルイ!」風のハルガが叫んだ。

 

「あの装置が発動したら、人間が殲滅される!それより前に壊してくれ!」

 

 炎のハルガは返事をするより先に、紅い炎をまとって飛び上がった。

 

「させん!」

 

 ウッドは凄まじい速度でルイに迫り、紅い身体を地面に向かって突き飛ばした。直後、男は背中に気配を感じて振り向いた。それとほぼ同時に、ウッドを取り巻く蒼穹の大嵐。軍服の男は逃げ場を失っていた。

 

 炎のハルガはウッドに飛ばされたあと、地面に着地した。紅い戦士は、地面に座り込んでこちらを見ている女に近づいた。

 

「ルイ、なの、、、?」

 

 さくらは信じられないものを見るような顔をしていた。

 

「ああ」

 

 ルイが答えると、さくらの表情はわずかに緩んだ。彼女の瞳は安堵の涙に包まれて光った。

 

「詳しいことは後で話す、今やるべきなのは、あれを止めることだ!」

 

 そう言ってルイは、タワーの上部に見える黒い装置を指した。

 

「俺たちが戦う理由は、人間を守る、だろ?」

 

 ルイはさくらに向かって手をさしのべた。

 

「うん」

 

 彼女はルイの手を掴み、立ち上がった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 ふたりは尖塔の頂上部に到達した。箱型の装置の横に高くそびえる柱に、緑色に光る縦長の画面が設置されていた。画面には、5つの円が表示されていた。

 

「なんだこれは、、、」

 

「たぶん、これと同じ装置が全部で5ヶ所に置かれてるってことよ」

 

「ほんとかよ」

 

 ルイは装置の目の前で、拳を後ろに構えた。それを見たさくらは、慌てて彼を止めた。

 

「待って、これを壊したら、他のが作動しちゃうかも」

 

「、、、ひとつずつ壊すってことか」

 

 さくらは頷いた。

 

「でも時間がないわ、それにここは、、、」

 

 突然、けたたましいエンジン音が、下の方から響いた。地上を見下ろすと、座席が空白の2台のバイクが、タワーに向かって走っていた。その前には、黒い鳥のメカが飛んでいた。

 

「ここは、風のハルガに任せよう」ルイは答えた。

 

「行くぞ!」

 

 掛け声とともに、ルイは尖塔から飛び降りた。さくらも続いて地面に降下した。

 

「ロウ!ここは頼んだ!」

 

 軍服の男と戦っていた風のハルガは、一瞬ルイの方を振り向いた。さくらは、ルイが風のハルガである青年を知っているような口を聞くので、不思議に思った。

 

 ふたりは各々のバイクに跨った。2台のマシンは、それぞれ西と東に向かっていった。

 

 風の戦士と高速で移動する軍服の男は、タワーから100mほど離れた場所で激闘を繰り広げていた。蒼穹の風の威力は、炎が復活してから、少なからず増しているようだった。

 

 軍服の男は、全方位を嵐の渦に囲まれていた。ウッドの額に汗がつたっていた。だがそれは、相手の戦闘力に対する怯えではなかった。男はさっきから、全然別のことに焦っていた。

 

(とうに正午を過ぎている、、、なのに、なぜ発動しない、、、)

 

 事実、時計の長針は正午から5回ほど動いていた。

 

(やむを得ん、、、私が作動させる)

 

 ウッドはそう決心すると、すぐに凄まじい勢いで嵐に突撃した。

 

 ロウは、相手がいともたやすく嵐を振り切ったので、唖然とした。立ち尽くす風のハルガを前に、軍服の男は口を開いた。

 

「お前たちがわけのわからぬ計画を進めている間に、我々も進化した。」

 

 ウッドは泰然たる口ぶりで語りながら、風のハルガにゆっくりと迫った。

 

 だが風のハルガには、臆する様子がなかった。青年はふっと息をもらした。

 

「かもな、、、だが勝つには、仲間が少なすぎだな。」 

 

「なんっ」

 

 ウッドの言葉は、複数の灰色の鉤爪と翼によって遮られた。鳥のオルタグアたちが、軍服の男に一斉に襲いかかっていた。

 

 ウッドは最初の攻撃を喰らった後、凄まじい速度で横にずれて、別の鉤爪を回避した。

 

「なぜだ、、、なぜ生きている!」

 

 そのとき男は、空の上にたくさんの翼がはためいているのを発見した。それらは、こちらに向かってぐんぐんと近づいていた。

 

(まさか、、、電撃が届かないはるか上空にいたのか)

 

「忘れたか、俺たちは、お前らにない大事なものを持ってる。俺ひとりの力じゃない。仲間だ。」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 さくらは、装置のひとつが設置されている方角へ、バイクで移動していた。彼女はちょうど、街を流れる川に掛けられた、大きな橋の上を走っていた。橋梁の両際には、弓のように歪曲したアーチが、橋の内側に傾いていた。

 

 さくらはマシンの速度を最大限まで引き上げて、目的地に向かって突き進む勢いで走っていた。そのとき、白いバイクの前に、素早く現れる人影。

 

 影は、さくらのバイクに正面から衝突した。ぶつかった後も退くことなく、白いバイクにピタリと食いつき、速度を落とさせた。

 

 さくらのバイクは橋の中央で止められた。目の前に立ちふさがっているのは、赤い髪の男だった。

 

「キキス、、、!」

 

 驚く彼女に構わず、キキスはさくらに向かって拳を振り上げた。彼女はバイクの座席に跨っていたので、回避しきれなかった。攻撃を受けたさくらは斜め後ろ方向に飛んだ。

 

 だが彼女は素早くプレートを取り出し、ブースターD606を装填した。勢いよく煙を噴出させ、宙で回転してから、橋の床に両足で着地した。

 

 さくらは着地した直後に、顔を前へ向けた。キキスはこちらに向かって駆け出していた。さくらは身構えた。

 

 そのとき、彼女は頭上に風のはためきを感じた。翼を生やした灰色の影は、キキスに激突した。

 

 上空から、次から次へと鳥の姿をしたオルタグアが現れた。翼の生物たちは最初の1体と同じ軌道を描いて、赤い髪の男に向かって急降下していった。

 

 キキスは初め、止むことなく身を翻して、オルタグアの攻撃から逃れていた。だが、先に襲いかかったオルタグアが彼の背後に迫った。キキスはオルタグアの突撃を受けて、3mほど飛んだ。

 

「オルタグア、、、今は信じるしかないわね」

 

 鳥のオルタグアとキキスの戦いを眺めていたさくらは、独りつぶやいた。それから、急いでバイクに駆け戻り、エンジンをかけ、元々向かっていた方角へとバイクを走らせた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 同じ頃、ルイはコンクリートのパイプなどが散らばる工場敷地にいた。数歩駆けては立ち止まって、周りを見渡しながら再び進むということを繰り返していた。

 

 パイプの山のうしろから、二階建ての建造物が姿を見せた。建物の上部に、黒いボックス状の装置が見えた。

 

 ルイは装置めがけて走った。途中、並んで置かれているコンテナの横を通った。そのとき、黒い影が彼に飛びかかった。

 

 炎のハルガと黒い影は絡まるようにして地面にころがった。ルイは左足を上に振り上げ、相手を自分の身体から引き離した。

 

 目の前には、黒い鎧が立っていた。

 

「お前、、、!」

 

 ルイは右半身を後ろに下げ、腰を低くした。かつては共に戦った黒いヘルメットを、鋭い目で見据えた。

 

 そのとき、彼の正面の空から、翼を生やした灰色の影が現れた。鳥のオルタグアは、黒い鎧に背後から急接近した。

 

 黒い鎧は、オルタグアと衝突し、10mほど飛ばされた。地面とぶつかった拍子に、黒いヘルメットが鎧から離れた。

 

 ヘルメットがはずれたところには、人の頭がなかった。

 

「無人、、、!?」

 

 ルイは空を見上げた。10体ほどのオルタグアが、上空をぐるぐると旋回していた。

 

「ここは頼む!」

 

 ルイはオルタグアに向かって叫んだ。

 

 炎のハルガは両脚を曲げて、体勢を低くした。彼の全身をまとう火炎が、下半身に吸い込まれた。ルイは黒い装置に向かって勢いよく飛び上がった。

 

 

 しばらくして、辺り一面に巨大な光が広がった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「仲間、と言ったな、、、」

 

 多数の鳥のオルタグアに押され、風のハルガから20mほど離れたウッドが、口を開いた。

 

「仲間など、いつか消える。望まなくてもな」

 

 軍服の男は、目の前に群がる灰色の怪物たちに向かって突き進んだ。

 

 そのとき、けたたましいエンジン音が響いてきた。紅と白に輝くふたつのマシンが、まっしぐらにこちらに向かっていた。

 

 炎のハルガの全身に、紅い炎が烈々と燃えたぎっていた。火炎は座席から広がり、車体のボディを覆い尽くした。紅く染まった前輪が飛び上がり、炎のバイクは上に向かって突き進んだ。

 

 鳥のオルタグアに囲まれたウッドは、上へ向かって凄まじい速度で飛び上がった。軍服の男の身体は、紅いバイクに突撃した。

 

 はたして、ルイのバイクは地面に叩きつけられた。座席から転がり落ちた炎のハルガに、軍服の男が急接近した。

 

 ウッドが紅い装甲に再び衝突を仕掛けようとしたそのとき、鋭く尖った鎌が水平方向に回転しながら、ウッドの身体に斜め上向きに斬りかかった。

 

 軍服の男は鎌と接触してからの僅かな時間のうちに、横へ跳んで避けた。ウッドを斬りつけた鎌は、回転しながら宙に弧を描いて離れていった。ウッドがその先に顔を向けると、赤い眼で自分を睨みつける女がいた。ウッドはそちらに身体を向けた。

 

「さくら!」

 

 彼女の危険を察したルイは地面から飛び上がり、軍服の男の視界を遮るように覆いかぶさった。

 

 ―つもりだったが、ウッドは目に止まらぬ速さでルイから離れ、再びルイに迫った。炎のハルガは20mほど飛ばされた。

 

 軍服の男はさくらの方に向かった。だがそこへ、翼を生やしたオルタグアたちが、四方八方から急接近した。

 

 鳥のオルタグアの加勢も虚しく、彼らは凄まじい勢いで飛ばされた。すでに立ち上がっていたルイは、すかさずウッドに飛びかかり、腕を後ろからまわして羽交い締めにした。

 

「さくら、装置を頼む!」

 

 ルイは叫んだ。炎のハルガと軍服の男は、もがきあっていた。

 

「でも、、、」

 

 彼女は迷っていた。ウッドに苦戦するルイを置いていくのは、いやだった。

 

「俺を信じろ。こっちは任せてくれ!」

 

「、、、わかった」

 

 さくらは背中と両脚のブースターを最大出力まで引き上げた。タワーの外壁を足で蹴り、しのびの如く駆けあがった。上部に達した彼女は、軽く宙に舞った。

 

 そして、またも赤い髪の男が待ち構えていた。

 

「キキス、、、どうして邪魔をするの、、、」

 

 さくらは失望と嫌悪の混じった瞳で彼を見つめた。

 

「さくらさんを連れ戻すのが、俺の役目っす」

 

 キキスは、少しも遠慮のない口調で言った。

 

「いやよ!あなたたち、一体何をたくらんでるの?」

 

 赤い髪の男は、彼女の質問に答えなかった。キキスは右腕を胸の前に掲げた。男の右手には、細長い棒状のものが握られていた。

 

「Game on!」

 

 曇りのない陽気な声で、キキスはそう言い放った。次の瞬間、男と彼の薙刀は、さくらの眼の数cm前にあった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 炎のハルガと風のハルガは多数のオルタグアたちとともに、ウッドを止めようと必死に戦っていた。体勢を低くして、ウッドを睨みつけるルイの視界に、屋上の縁に立つさくらの姿が映った。彼女の前には赤い髪の男がおり、その手に握られている薙刀が、さくらの腕の鎌と刃を擦り合わせていた。さくらはブースターを装着していなかった。

 

「さくら!」

 

 彼女はルイの叫び声を聞いたが、振り向くことは出来なかった。身の動きを軽くするためにブースターを外したのが間違いだった。少しでも全身から力を抜けば、体勢が崩れ、地面に真っ逆さまだ。

 

 焦るさくらにはお構い無しに、赤い髪の男は両腕の力を一層強めた。さくらはそれに応えるように腕を押し出したが、遅かった。

 

 キキスの視界から、茶髪の女は消え失せた。

 

「Game, over!」

 

 キキスは高々と宣言した。だがその数秒後に、黒く鋭い鎌が彼の身体に斬りかかった。

 

 赤い髪の男はうしろへ回転しながら、5mほど後ずさった。

 

「What a,,,」

 

 顔を上げたキキスの前には、鎌を携えた女が、さらにその背後で大きな翼をはためかせる3体の巨大な鳥がいた。

 

 そして、この男にとってさらに恐ろしいことに、その3体の鳥の怪物の背中には、オルタグアがそれぞれ10体ほど乗っていた。

 

 総勢30体ほどのオルタグアたちは、さくらの脇をすり抜けて、キキスに向かって急接近した。獣の鉤爪や鱗で覆われた拳の猛烈な攻撃に加え、岩盤のように硬く、磐をも粉砕するような突進が、彼の身に襲いかかった。

 

 キキスがオルタグアたちに手足を振りかざしている隙に、さくらはタワーの中心に突き出た装置に迫った。そして両腕に装填した鎌を、思い切り振りぬいた。

 

 視界が大きく光った。彼女は目を瞑った。

 

 稲妻の走るような、ばちばちという音がわずかに聞こえたので、目を開けた。装置があった場所には、黒い破片が散らばり、明るい紫色の稲妻が大気へ放出していた。装置の場所を示す画面は、すでに消えていた。

 

 だが消えたのは人類への脅威だけではなかった。さっきまで戦っていた赤い髪の男の姿がなかった。

 

 キキスと戦っていたオルタグアたちは、男が消え去った後もタワーの上部に存在していた。が、さくらが彼らに近づこうとしたとき、オルタグアたちは力尽きたように倒れ込んだ。そして、これまで彼女が怪物を倒した時もそうであったように、大気の中へと消えていった。

 

 さくらの胸のうちには、なんともやりようのない蟠りが行ったり来たりしていた。茫然と立ち尽くすさくらの背後から、こっつこっつと足音が聞こえた。

 

 彼女は振り返った。輪郭が浮き出るほど、身体にぴったりと張り付いている黒いスーツ。それを身にまとっているのは、金髪の女だった。

 

 ブロンドの女の青い眼は、さくらの顔をまっすぐに見据えていた。さくらは思わず後退りした。

 

「アイゼ、、、あなたもなの?」

 

 組織の裏切りを信じたくないさくらがそう尋ねると、女は静かに口を開いた。

 

「次に会ったときは、敵よ」

 

 それを聞いたさくらの瞳は、悲しい色をしていた。彼女の中には、返したい言葉もなかった。

 

 アイゼはさくらに背を向け、歩き出した。3歩ほど進んだところで足を止めた。

 

「、、、カイラもね」

 

 そう告げると、金色に光る髪は風のように去っていった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 炎と風のハルガは、ウッドと睨み合っていた。タワーの上で放たれた巨大な光は言わずもがな地上にも届いていたので、軍服の男は装置が破壊されたことを認めるしかなかった。

 

「貴様らごときに、我々の計画を止められてたまるかっ」

 

 ウッドはそう言うと、その場に残像を残した。男は、ルイとロウの立っている場所を中心にして、円に沿って高速で駆け巡った。

 

 すると、ふたりの頭上から一筋の電撃が宙を走った。白い稲妻は、ウッドの残す像にぶつかった。それとともに、男の影が実像となった。

 

 茶髪の女が、ブースターを噴出させながら地上に降り立った。

 

 勢いがゆるんだウッドに向かって、更に電撃が放たれた。男は白く光る電気の縄で、地面に束縛された。

 

「ぅぐぬぉ」

 

 風のハルガはここぞとばかりに、両腕を広げて蒼穹の嵐を発生させた。

 

「いくぞ!」

 

「ああ!」

 

 蒼穹の渦は、ウッドに向けられたものかと思われたが、そうではなかった。風の嵐は、ふたりのハルガの身体を巻き込んだかと思うと、凄まじい速度で別々の方向に追い出した。

 

 ふたりのハルガは宙を貫くほどの勢いで飛び上がった。上空に達すると、ふたりの距離は20mほど離れていた。

 

 炎のハルガは宙で前方向に回転し続けた。真紅の炎が、標的に近づくにつれて憤りを増した。

 

 風のハルガは、自分の身体を中心にして再び蒼空の風を吹かせた。前へ伸ばした脚を軸にして、高速で回転した。

 

 ふたりは加速度をぐんぐんとあげていった。炎のハルガは、ウッドの手前5mほどで回転をやめ、足を前に押し出した。

 

 二色の筋が、軍服の男をつんざいた。

 

「この私を圧倒するに、十分すぎる能力、、、」

 

 地面にへばりつくように倒れた軍服の男は、言葉を漏らした。それから、その厳格な顔つきに似合わぬ、狂気じみた笑い声をあげた。

 

「ははははっはははぁっああああ」

 

 笑いが絶叫に変わるとともに、爆炎が広がった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「だがお前、生身でこれだけ戦えるとは、何者なんだ」

 

 戦いを終えた風のハルガは、身をまとう蒼い装甲を解いたあと、さくらに尋ねた。

 

「ただの人間よ」

 

 さくらはすんとして答えた。だがちょうどそのとき、彼女の視界に消滅していくオルタグアの姿が映ったので、さくらの顔は歪んだ。

 

「あとはおれたちに任せろ」

 

 風の青年ことロウは、消えてゆく灰色の影たちに向かって別れの言葉を告げた。

 

 さくらは、オルタグアの消滅に茫然としていた。

 

「気にするな、奴らはこの時代に実体を持たない。だから死んだわけじゃない、この時代の身体を失っただけだ」

 

 さくらの様子を見たロウが説明した。

 

「、、、どういうこと?」

 

「俺たちは、未来から来たんだ。」

 

 そう言ったのはルイだった。さくらは狐に包まれたような顔を、彼のほうに向けた。

 

「オルタグアは、姿こそ人間と変わらないが、遺伝子上で異なる性質を持つ種族なんだ。俺たちの未来では、オルタグアが人間との共存を実現していた。

 だが一方で、俺たちとは別の未来にも、オルタグアに似たような奴たちがいた。それがベロアグア。奴らは人間を全滅させようとしているんだ。

 かつて、、、この時代の一年ほど前、ベロアグアはこの時代にやって来て、人間を殲滅させようとした。オルタグアはそれに気づき、同じようにこの時代に来て、ベロアグアと戦った。」

 

 ここまでの説明を、さくらはただ黙って聞いていたが、突然弾けたように喋りだした。

 

「じゃあ、オルタグアは人間を守るために戦ってたっていうの?そんなの嘘よ!だって、今までオルタグアは人を襲ってたじゃない!」

 

「人を襲ってたんじゃない、別の世界に移送してたんだ。人間をベロアグアから守るために。」

 

「まさか、そんな、、、」

 

 彼女は下を向いた。同じ心境をシャングリラで味わったルイには、さくらの気持ちが痛いほどに分かった。だが、彼女のほうが断然長い間戦っていたので、その重みは当然自分よりも相当なものだろう、と思った。

 

「、、、なんで、ルイは知ってるの?」

 

 さくらは視線を落としたまま、彼に尋ねた。

 

「記憶を、取り戻したから」

 

 さくらはルイの言わんとすることがすぐには分からなかったが、その直後、彼はありえないようなことを口に出した。

 

「俺も、オルタグアなんだ。」

 

 さくらは思わずルイの顔を見上げた。青く澄んだ彼の眼は、堂々としていて、しかし申し訳ないような色をしていた。

 

「ルイが、オルタグア、、、そんな。でも、オルタグアは人間を守るために、、、それなのに私たち、勝手に倒してたの」

 

「まあそうなるな。」

 

 ロウが答えた。それからすかさず―というのも、この男には、さくらがどういう反応を示すか大体分かっていたからであるが―彼は付け加えた。

 

「お前たちは過ちを犯したかもしれないが、罪には及ばない。」

 

「え、、、?」

 

「未来は不確定で不完全。それゆえに、過去の時間に干渉できる者は限られている。時間移動を許された者、それが俺やルイだ。一方で、お前たちが戦ってたのはいわばアバターのようなもの。この時代における仮の肉体に過ぎない。やつらは元の時代に戻ったんだ。一度仮の肉体を失ったら、二度と時空を行き来できないからな。」

 

「だけど、今までのことが全部、意味なかったってことじゃない、、、それに、組織は何なの?なんで私たちに、オルタグアを倒すように仕向けてたの?」

 

 さくらがそう聞くと、ロウはちょっとだけ戸惑った顔をした。それから、何かを言おうと唾を飲み込むが、重たくてなかなか出てきてくれないらしかった。

 

 青年の様子を見かねて、ルイがかわりに口を開いた。

 

「やつらが、ベロアグアだよ」

 

「え、、、」

 

 ルイの胸のうちで、さくらを傷つけたくないという思いと、真実を包み隠すことを許さない信念とが、ぶつかり、揺れていた。それでも彼は、現実を隠すことの方が、のちに彼女を今以上に傷つけてしまうだろうと信じた。

 

「やつらのことはだいたい知ってる。記憶を無くす前までのことしか、覚えてないけど」

 

 さくらは2、3歩うしろへ下がったあと、その場にへたり込んだ。

 

「じゃあ、今まで何のために戦ってたっていうの、、、?」

 

 さくらは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

「今までの戦いは、全部無駄だったの、、、」

 

「俺たちは、人間を守るという強い覚悟の上で戦ってたんだ。その思いは、無駄にはならない。俺はそう思ってる。」

 

―そう、無駄ではない―

 

 突然、荘厳な声が響き渡った。

 

「誰だ」

 

「テイラ!?」

 

 ルイの言葉に被せるように、ロウが声の主の名を呼んだ。

 

―オルタグアが殲滅された今、これ以上シャングリラに人類を移送するのは、時間の無駄―

 

「どういうことだ!」

 

 風の青年は、誰もいない空に向かって叫んだ。

 

―ベロアグアと戦え、、、それが、人類を守る唯一の道だ―

 

 






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