今回も、一万字を超えました。無駄な文字はないと自負していますので、最後までお付き合い下さい!
仮面ライダーハルガ、前回の3つの出来事!
1つ!3人の戦士は、協力して巨大兵器に襲われた街の人々を救う。そんな中、ロウの不審な言動にルイとさくらは困惑する。
2つ!苦悩を抱えるロウのもとに、オルタグアの導き手であるテイラが訪れる。そして彼は、ベロアグア組織のひとりであるアイゼの正体が、かつての恋人キルアであることを知らされる。
そして、3つ!ルイとさくらは残存するオルタグアと協力し、逃げ遅れた街の人々を避難させる。街の巨大兵器との戦闘を終えた後、ふたりはアイゼとの決着をつけるべくバイクで疾走した。
銀色に光る雪原の中、ブロンドの女は真っ白の毛皮のコートを纏って立っていた。毛皮の袖を通った両腕の先の手は、黒いズボンのポケットに入れられている。襟の部分は白いリボンで結ばれ、彼女の首にしっかりとしがみついていた。
ふたつのエンジン音が、真っ白の景色の中に轟く。彼女の背後で機械音は止んだ。しばらくすると、白い地面の表層の、柔らかい雪が潰れて溶ける音が近づいてきた。
「似合ってるわね」
聞き覚えのある声に、アイゼは振り向いた。そこには紅い戦士とともに、赤い眼をした茶髪の女が吹雪の中を歩いている。その澄んだ眼は、女の身体を覆う白い毛皮に視線を向けていた。
「来たか」
アイゼは応じる。真っ白な地の上を進んでいたふたつの影は、彼女の数メートル手前で歩みを止めた。
「他の仲間はどうしたの」
さくらは相手に向かって挑発的に語りかけた。だがアイゼは彼女の質問に応じなかった。
「お前たちは、私を倒せるか」
そう言うと、女は左腕をコートの袖から抜いた。そうして白い毛皮をばたっと開けたかと思うと、左手には白く光る刀が残っていた。ルイはその刃の輝きに見覚えがあった。
「あれは、イヴナが使ってた刀、、、」
~~~~~~~~~~
戦いの前日―
雪のふり積もった針葉樹が辺りを覆い尽くしている山の地。木々に囲まれた中で、ふたつの影が交差する。
黒い影の方は大柄でありながらも、充分に素早い動きで相手を捕らえようとする。対する一方は相手に比べて身体が小さく、その分細やかで俊敏な動きを見せていた。薄紫色が、身体の動きに合わせて揺れ動いていた。
突然、双方の動きがぴたりと止んだ。黒い毛皮の猛獣はばたりと倒れ込み、地面に伏した。
勝ち残った者は、両手に光る刃を据えていた。薄紫の髪の女は、仕留めた獲物の方を振り返った。
「イヴナ」
木々の間から声がして、女は振り向いた。視線の先には、真っ黒のバトルスーツに身を包んだブロンドヘアの女が現れた。女は色のない表情を浮かべていた。しかしそれは、イヴナのように感情が抜けているふうではなく、自らの心を無理やり押し殺しているようだった。
「何」
イヴナは表情を変えないままに口を動かす。
「その刀を貸してくれないか」
アイゼの青い瞳は、白く光る刃に視線を向けていた。
「一本でいい」
「、、、故」
「何故かと聞いているのか」
彼女が問いかけると、イヴナは無言で頷いた。
「私はこれから、炎のハルガたちと戦いに行く。だが奴に私の正体を知られてはならない」
「、、、」
「ルイは私の戦い方を知っているから」
アイゼは、黒いグローブに包まれた左手を胸元に引き寄せると、端の指から流れるように折りたたんで拳を握った。話を聞いたイヴナは特に迷う様子もなく、右手に握っていた刀を相の方へ無造作に放り投げた。
「ありがとう」
相手から刀を受け取ったアイゼは、その場を立ち去ろうとした。すると、後ろから短い言葉で呼び止められた。
「待」
振り返ると、イヴナは右脇に白い毛皮のコートをたずさえていた。彼女は何も言わずにそれを胸の前に差し出した。
「くれるのか」
相手はこくりと頷いた。アイゼは相手に近寄り、白い毛皮を受け取った。そうしてそれを目の前に掲げてじっくり見つめた後、イヴナの背後に倒れている黒い体毛の肉体と見比べる。
「無駄に動物を殺すのは良くないぞ」
アイゼは諭すような口調で語りかけた。それを聞いたイヴナは、アイゼの手に掲げられた毛皮のコートを見た。それから視線をゆっくりと移し、相手の顔を覗き込まんばかりの眼差しでアイゼをきりっと見つめた。
「、、、無駄ではなかったな。悪い」
アイゼは自分の非を認めると、相手に背を向けた。
「あいつはもう、気づいているかもしれない」
彼女の囁き声が、風に運ばれるようにしてイヴナの耳に入った。しばらくして草木を踏みつける音色がしたかと思うと、白い毛皮を纏った女の影は薄紫の元から遠ざかっていった。
~~~~~~~~~~
「これで終わりにしよう」
金色の髪に包まれたマスクの下の唇が、目の前のふたりの戦士に言葉を告げた。
「ねぇ、アイゼ。あなたは何のために戦ってるの? 」
「言わなかったか、私は人類を滅ぼすために戦う」
「それはお前の意志なのか」
ルイはそう言った。彼の眼は、相手の真意を貫かんとしていた。
「何」
「あんただけじゃない、他のベロアグアの奴らもだ。人類を滅ぼすためにって言うけど、全然そんな風に感じないんだよ」
さくらは、何を言い出すのか、と青年を咎めようとした。だが、彼女もここ数日で似たようなことを感じていたのを思い出す。
街を襲うロボットは明らかに思いやりなどは持っておらず、無慈悲に―無慈悲という表現さえ当てはまらないかもしれない―人間を殺そうとしている。それに対してベロアグアの構成員たちは、自分とルイには容赦なく斬りかかるが、人間に直接危害を加えている様子は、一度も見た試しがないのである。
「本当は迷っているんじゃないのか、あんたも、ほかの仲間たちも」
ルイは相手の胸に人間の心がわずかばかりでも残っていると信じて、それをすくい取ろうとするような眼差しで白い毛皮を見つめた。しかし女の口から出た言葉は、彼の期待していたようなものではなかった。
「迷っていたら、ここに来ることはなかっただろうな」
白い毛皮の下から伸びる黒い腕が、身体の前に刃を掲げる。
「覚悟しろ」
アイゼの言葉は、ひとりでに宙に浮いていた。というのは次の瞬間、刃の宙をかすめる音がしていた。
アイゼの身体は真っ白い雪の上を駆け巡る。その動きは信じられないくらいに速い。
その上、隙がないのだ。こちらが相手の位置を見定めたと思った次には、女の残像は異なる軌道を描いているのである。
アイゼの残像の輪の中にいるふたりは、互いに顔を見合わせた。さくらのヘルメットは、戦闘用に変形していた。
「あのときの作戦でいくわ! 」
「ああ! 」
ルイの返事を聞くと、彼女はD156を握った両手を前に差し出し、銃口を構えた。
ヘルメットのディスプレイには、相手の残す影が5m間隔で映っていた。画面には相手の動きの予測が表示され、約0.3秒ごとに彼女の周囲を一周していた。
中央の赤い照準に、予測された標的が入り込んだ。すかさず、さくらは引き金を引いた。
白い稲妻は、宙を真っ直ぐに貫いた。そして、相手に直撃した。
―ように見えただけだった。アイゼは高速移動の軌道を僅かに上へずらし、電撃を回避していた。
さくらは負けじと、今度は続けて稲妻を撃ち放った。だが白い筋はひとつも標的に当たらない。
突然、差し迫る白い刃。ルイとさくらは反射的に身を逸らすも、完全には避けられなかった。ふたりは反対方向に弾き飛ばされ、雪面を滑る。
体勢を崩しかけた炎の戦士に、容赦なく降りかかる刃。ルイは咄嗟に腕を掲げる。ハルガの装甲と金属がぶつかる音色が聞こえる。
アイゼの刀は方向を変えて次々と襲いかかる。その動きの一つ一つはほんの瞬き。
相手はあまりにも素早く刀を引き下げ次の攻撃にかかるので、幸い受ける衝撃は小さい。だがそれでも、ルイは腕部の装甲を身の前に構え、防御に徹するので精一杯だった。
一度でも攻撃を与えることが出来れば、十分な隙を生み出すことができるだろう。だがその一手にかかっている。断続的に後退するルイの足は地面の雪を削り取っていた。
突然、金属質の音が止む。ルイは何も考えず、相手の戦略がどうであろうと、この一瞬の隙に賭けた。
果たして、彼の黒き拳は見事に相手の刀を打ち砕いていた。
黒いマスクのアイゼはぱっと顔を上げる。目の前に差し迫る黒い握り拳。彼女は頭を貫かれたような衝撃を受けた。
女の身体は雪面を転がった。黒いマスクは女の顔から転げ落ちたりしなかったので、よほど頑丈に頭に固定してあるとみえた。
女はよろめきながら立ち上がる。そこへすかさず電撃を放つさくら。白い稲妻の網に縛られた女は、抵抗の姿勢も見せず、地面に立ち尽くしていた。
黒いハルガは飛び上がる。相手の斜め上の空に達すると、右足を前に押し出す。
ハルガの脚の装甲は一直線に標的に向かった。そして相手の肉体を打ち破ろうとしたそのとき、さくらの悲鳴が聞こえた。
「待って! 」
彼女の声を聞いたルイは、集中を緩めて前を向いた。次に起こった出来事は、ほんの一瞬のうちに過ぎ去った。
突然、ルイの前に降りかかる蒼穹の竜巻。それはルイとさくらを吹き飛ばし、辺りに粒状の雪を撒き散らす。
視界が奪われた中、ルイは身をかがめて風圧から逃げた。
わずか1.3秒後に、嵐はおさまっていた。雪の上には、ルイと、さくらの姿しか残っていなかった。
「、、、ロウ! 」
彼は嵐を引き起こした張本人の名を叫んだ。だがその男はすでに消え去っていた。
「どうして、、、」
さくらもまた、蒼い戦士が彼らを襲ったことを悟っていた。
ルイは空の彼方を見つめた。細い蒼色の光の筋が、白い地平線へ潜り込んだのを目撃した。
「追うぞ! 」
~~~~~~~~~~
太陽が西の空に沈もうとしている頃。
波の音が響く海岸線。その砂浜に、蒼い風を取り巻く青年が颯爽と立っていた。
ふたりの戦士は、蒼い戦士の謀反から5分後に、彼に追いついていた。
「ロウ! 」
ルイは相手の姿を認めるや否や、彼の名前を思い切り叫んだ。
「目を覚ませ! あいつはお前の恋人じゃねえ! 」
「違う! 」
そう叫び返すロウの声は、悲しい色をしていた。
「あいつは、、、あいつはキルアなんだ」
「えっ」
と先に反応を示したのは、ルイの傍らに佇むさくらだった。彼らの仲を引き裂く原因となったあの女について、そのほんの一面しか見たことのない彼女でさえ、驚きのあまりしばらく茫然としていた。当然、かつて仲間として共に戦っていたルイが受けた衝撃は、計り知れないものだった。
「あいつが俺たちの前から姿を消したのは、訳あってベロアグアに協力していたからだ」
ロウは静かに語り始めた。
「なんで、、、なんのために」とルイは震える声で尋ねた。
「俺のベルトには、呪いがかかってる。その呪いは、俺にハルガとして戦う力を与える。だけどその代償として、俺が愛する者の命を殺しにくる」
そう話すロウの声は悲痛なものだった。
「なんだよ、それ、、、」
「キルアは、俺がこのベルトを手にしたときから、それに気づいてた。だから、俺がいつか呪いに気づいたときに、俺を苦しませないために、そのためだけに俺たちの前から消えた。そしてベロアグアの一味になった。誰にも気づかれないままに、倒されようとしてた。そうすりゃ俺が楽になるって」
話の規模の突拍子のなさに、ルイは目を丸くする余裕さえ持っていなかった。「そんな、、、」
「けど俺は呪いの存在を知っちまった。だから、、、俺があいつを守ってやらなきゃなんねえ。呪いが司る運命は、俺がねじ伏せなきゃなんねえ」
「だからって、」とさくらが口を挟んだ。「だからって、私たちを裏切るの? 恋人のためなら、人間の敵になるの? 」
「うるせえ! 」ロウは込み上げる感情を露わにして叫んだ。「お前も、分かるだろう、、、お前にも、失いたくない存在があるだろう」
「いるよ」とさくらは答えた。「でも、その人を守るために、その人の心を裏切るようなことはしたくない」
「口ではいくらでも言えるさ」
そう応じるロウの声は、さっきよりも荒々しくなっていた。
「だがどうすればいい? どうしようもないだろう! あいつを見殺しにしろって言うのか! 」
「そうじゃなくて、他にもやり方があるでしょ! 」
「ない! 」と彼は言い切った。「それは俺が一番よく分かってる。呪いをかけられたときからな、、、」
ルイはただ黙って、砂の上に茫然と立ち尽くしていた。ロウの胸の中を駆け巡る葛藤が、望まずとも自分の身体に入り込んでくるようで、まるで己のことのように苦しかった。そして何より最も彼を痛めつけたのは、たとえ彼の脳裏に、ひょっとして自分も人間を裏切りロウを守ろうという気がよぎろうと、揺らいだ心をすぐに引き止めてしまうだけの大きな存在が、彼が何を引き換えにしても守りたい大切な人間が、彼の脳裏に浮かんでくることだった。
「ロウ、、、」
彼は静かな声で仲間の名を呼んだ。
「お前は悪くないよ」
ルイの言葉は相手には少し予想外だったらしく、感情が追いつかない顔でルイの方に眼差しを向けていた。
「俺がもしお前なら、たぶん同じ決断をしてた。だから、キルアを見捨てろなんてことは言わない」
「、、、」
「けど、今の俺は、人間を守る覚悟を背負って生きてる、さくらと一緒に。だから、手加減はしない」
ロウはわずかに頬を緩めて微笑む。「お前らしいな」
そう言うと、青年は片腕を横に広げ、風の流れを捉えるように構えた。すると、彼の腰に蒼い気流の象られたベルトが出現した。
「ちょっと、なんでよ! 」さくらは叫ぶ。「なんで戦うの」
ルイは優しく、しかし相手に反論を認めさせぬようなしっかりとした口調で答える。「下がってろ。これは俺たちふたりのけじめだ」
ルイは右足を下げて腰を落とし、戦闘の構えをつくった。強い眼差しで、相手の仮面を見据えた。
蒼い一筋の光とともに、風のハルガがこちらをめがけて飛んできた。戦士はルイに向かって左脚を振り下ろす。
ルイの身体は炎で覆われた。蒼穹の攻撃を両腕で受け止めながら、紅いハルガに変身する。
一段と紅い炎が湧き出る。紅い炎は、蒼い風を押し返した。
ルイは蒼穹の戦士に向き直った。風のハルガは腰を落として、右手を奥に構えていた。対する炎のハルガは、体勢を低くし、両腕に紅い炎をまとった。
風をまとった拳がルイに突き出された。ルイは炎に包まれた両腕を前へまわし、攻撃を防いだ。
が、相手はすぐに左手で攻撃をしかけてきた。炎のハルガは両腕を頭の前でクロスさせ、防御の体勢をつくった。すると、真紅の炎はその大きさを増した。
ルイの炎が、激風を押し返した。彼は掲げていた両腕を降ろし、右腕を身体の横に構えた。そして右半身を勢いよく前へふり出し、相手の装甲に熱いパンチを叩き込んだ。
―つもりだった。風のハルガはルイの拳が届くよりも速く、上へ飛び上がっていた。
蒼穹の戦士は、風にのって上空20mほどまで到達した。宙で1回転したのち、右手を突き出すとルイに向かって凄まじい速度で迫った。
竜巻の殴打が、ルイのベルトに激突。凄まじい衝撃を受けた彼は、そのままうしろへ30mほど飛ばされた。
「手加減はしないんじゃなかったのか! 」
風のハルガは奮い立つ声で怒鳴る。
「本気で来い、ルイ! 」
ロウの声が荒々しい風に乗って響き渡った。彼の瞳には闘志が燃え盛り、その姿勢は、かつて仲間を率いて的と戦っていた日々を思い出させた。
風のハルガは、両脚を揃えて地面を蹴った。一瞬にして宙に飛び上がり、落下よりも速い速度で大気を切り裂いて上昇していく。
炎のハルガの斜め上50mの位置に達すると、身体を前方向に一度回転させる。その勢いを利用して両脚を前へ突き出し、標的に向けた。背骨をまっすぐに伸ばし、その軸を中心にして高速で回転する。風の勢いが次第に強まり、その回転速度も増してゆく。
蒼い疾風がルイに迫った。炎のハルガは臆することなく、地面に佇む。
渦に巻き込まれる寸前、ルイは黒い小型装置を取り出した。
蒼と紅の装甲が激しくぶつかり合った。風の戦士の身体は凄まじい速度でスピンを続けていた。ふたりの周りには砂埃が舞い上がり、その壮絶な戦いの様子を周囲から隠していた。
突如として、蒼い装甲は跳ね返された。砂嵐の中から投げ出されたロウは、地面を転がる。
風が静まると同時に、砂の嵐も薄れた。中から現れたのは、黒い装甲のハルガだった。
黒い姿に変身したルイは、右足をゆっくりと一歩前へ踏み出した。相手に向かって、重い足取りで突き進む。砂の上を踏みしめる一歩ごとに、彼の胸には葛藤が広がっていた。
だが突然、彼の足取りはぴたりと止まる。その視線の先に立ちはだかっていたのは、風の戦士を庇うように立つ、ブロンドヘアの女の姿だった。
「来るなと言ったろ! 」
ロウの声が荒々しく響き渡る。黒いマスクに覆われたアイゼは何も言わず、ただ静かに立ち尽くしていた。
「キルア! 」ルイは声を張り上げる。「本当にお前なのか! 」
金色の髪が風に揺れる女の姿。その風景に、ルイははっきりと見覚えがあった。
黒いバトルスーツに身を包んだ女は、ゆっくりと左手を顔へやった。ややうつむくと、顔を覆っていた黒いマスクを引きはがすようにして、その素顔をあらわにした。青い瞳の女の顔は、ルイにとって馴染み深い表情だった。
「私はベロアグアの導き手に忠誠を誓った。今の私は、人類を破滅へと導く者よ」
「まさか、、、」
ルイは思わず後退りした。消えた仲間が、敵組織に入り込んでいたことが信じられなかった。
「でも、迷ってるなら帰ってこいよ、、、」ルイは震える声で言った。相手が本気で人間の敵となったなど、思いたくもなかった。
「迷っている、か」とキルアは応ずる。
「私たちの存在はあくまでも可能性。この時代における肉体は、不完全なものよ」
「何が言いたい、、、」
「同時に、心も不完全。多少なりとも迷いが生じるのは当然と言えば当然。それを感じたのなら、少なくとも私よりは一歩、確かなる存在に近づいたということ」
女の言葉を聞くルイの息は、だんだんと荒くなっていた。ちょうどそのとき、離れて様子を伺っていたさくらが、危険を察知してルイのもとへ駆けつけた。
「ルイ! 」さくらは呼びかけた。
キルアはさくらの方にちらりと視線を向けると、口を開いた。
「もっとも、それが意志の弱さを表すわけではないわ」
彼女がそう言い終えると、まるでその言葉を裏付けるかのように、背後からふたつの影が現れた。いずれもベロアグアの構成員にして、ルイとさくらの宿敵だった。
「なんで、、、なんで戦わなくちゃならないんだ! 」
ルイの声が切ない叫びとなって響く。
「お前たちはなぜそんなに人間を滅ぼそうとするんだ!」
彼の言葉に、灰色のスーツの男は冷淡な笑みを浮かべる。
「君たちの未来では、人類と、異なる種族とが共存しているらしいね」
それからふいに笑みを消し去り、なんとも言えぬ表情をルイに差し向けた。
「だが、そんな未来は唯一の可能性に過ぎない」
「何を言ってんのよ! 」
ルイの傍らに立つさくらがそう叫ぶ。
「あんたたちに何があったのか知らないけど、幸せな未来を知ったのなら、戦いをやめればいいじゃない! 」
彼女は悲痛の叫びを放った。だが、その思いは相手に届かなかった。
「私たちは戦わなければならない、、、君たちもそうだろう? 」
カイラの言葉に、ルイの心がざわめく。彼は、かつて自分がカイラに向けて放った言葉を思い返していた。
―目の前で、大勢の人が、たくさんの命が消えていくのを見た。俺はそれを、ただ見つめることしか出来なかった。だけど今なら、この力がある。この力を使って、人々を救いたい。だから、俺は戦います―
あれから様々なことが変わった。かつて戦っていた記憶を取り戻し、それまで敵だと思っていた者が仲間であったことに恐れをなした。でも、人間を守るために、シャングリラに送られた緑山先生のためにも、覚悟を決めて戦うと決心した。
だが、なぜだ。かつて共に戦っていた仲間が、己の願いのために人間を敵に回した。そんなことがあるなんて、思いもしなかった。俺は仮面ライダーだ。街を守る戦士になると、心に決めた。それが正しいのか、分からない。人間を守ることが正解なのか、答えられない。だけど、大切な人々を裏切りたくない。同時に、大切な仲間を傷つけたくない。それでも―
「戦うしかないのか」
ルイは震える声でそう囁いた。彼の言葉には不安と覚悟が混ざり合っていた。
「こっちはいつでも準備万端っす 」
ロウの横に立つ赤い髪の男が、不気味なほどに明るい調子でそう言った。
ロウは嫌な顔をしながらも、立ち上がって口を開く。
「降参しろ。ふたりじゃ勝算はないぞ」
青年の警告を聞いたルイは顔を横に向け、視界の端で背後の海の波を見つめた。
「覚悟は決まってる」
ルイの言葉は静かだが、その内には強い意志が感じられた。
「俺は俺の信じるもののために戦う。俺が信じる人間のために、仲間のために! 」
波の音が耳に広がり、波しぶきが空中に舞う。うねる波が彼の背後から打ち寄せ、白い泡がたつ。その中からはサメの姿をしたオルタグアの群れが現れた。
「まだ残ってたのか! 」
ロウは驚きの声をあげる。次から次へとサメの怪物は姿を現し、ルイとさくらの背後に並んだ。
「海の底まで雷は落ちないもんね」さくらは言った。
カイラは驚異的な跳躍力で飛び立ち、ルイの背後に降り立った。それから炎の戦士に一蹴り入れると、周囲に群がるサメの怪物たちに立ち向かった。
一方、キキスは凄まじい速度でさくらに迫ってきた。彼の薙刀とさくらの2本の鎌が交差し、金属同士が激しくぶつかり合う音が響いた。
ルイは、かつての仲間と対峙していた。その瞳には迷いが見え隠れし、決意が交錯している様子だったが、彼は炎の殴打を相手に差し向ける。
ロウは風を引き起こし、ルイの身体を押し止める。その間に、キルアは炎の背後に回り込み、地面を蹴って連続打撃を放つ。
キルアのキックを受けて後退したルイは、足を開いて腰を低くする。炎の力を解放し、両脚が真紅の色に覆い尽くされたかと思うと、高く飛び上がる。それから目にも止まらぬ速さで急降下。炎をまとったパンチとキックを繰り出し、相手の身体を貫かんばかりの破壊力をふるった。
カイラはオルタグアの群れの中に颯爽と立っていた。次々と迫りくる怪物に左の手のひらを向け、青白い電撃を放つ。その攻撃は素早く正確で、誰一人として男に近づくことが出来なかった。
そこから30mほど離れた場所では、薙刀と鎌のせめぎ合いが行われていた。赤い髪の男は長い武器を振り回し、防衛と攻撃を同時に行う。対するさくらは、華麗な動きで相手の攻撃を避けつつ、一瞬の隙を狙って腕の鎌を振るう。
薙刀と二本の鎌が、同じタイミングで前に繰り出された。双方は互いに負けじと力を込めて、相手を押しやろうとする。ふいに、ふたりの身体は弾性的に跳ね返され、互いに後退する。
さくらはすぐに相手の方に視線を向け、次の攻撃に備える。だがそのとき、視界の端に青白い電撃が迫っていた。
彼女は咄嗟の判断で身を横によじり、感電を避けた。しかし、彼女が身を動かした先には、冷徹な笑みとともに、銀色の機械の腕が待ち構えていた。
カイラのロボットのような左腕はさくらの後頭部を力強く掴む。その瞬間、さくらは全身の身動きが取れなくなった。しばらくして、頭の中にあった何かが抜けたような感覚を覚えた。
男の手がさくらから離れる。途端に、一度消し去られた大事なものが、頭の中に戻ってきたように思った。身体の自由を取り戻した彼女は、恐怖と警戒の声をあげる。
「なにしたの! 」
カイラは彼女の問いには答えず、冷ややかに微笑むと青白い電撃をさくらに向けて放つ。
ちょうどその頃、炎の戦士は左拳を大きく振り、ふたりの敵に炎の殴打を見舞った。再び構え、次の攻撃にかかろうとした彼の視界の端に、ふたりのベロアグアと対峙しているさくらが映り込んだ。
「さくら! 」ルイは叫び、目の前のロウとアイゼをその場に残してさくらの方へ走る。
ルイは両腕に炎をたぎらせる。殴打を繰り出し、キキスとカイラを同時に攻撃した。
炎の戦士は灰色のスーツの方に身体を向けた。1、2歩前へ踏み出し、宙へ飛び上がる。上空で右拳を大きく振りかぶったルイは、カイラの元に迫る。
突然、青白い光がカイラの全身から放たれた。次の瞬間、男の姿は跡形もなく消え去っていた。ルイの炎は虚空を貫いた。
彼は後ろを振り返った。さくらに立ち向かおうとするキキスの元に、風のハルガとキルアが合流していた。
ロウは無言でルイの方を振り返り、仮面の内側から相手を見つめていた。ルイは何か呼びかけようとしたが、言葉のほうは浮かんできてくれなかった。
ロウ、キルア、キキスの周りに、砂埃が舞い始める。蒼い戦士の引き起こした風がぐるぐるとまわり、ベロアグアの仲間を覆った。蒼穹の渦に包まれた三人は、風の流れに沿って、太陽の沈んだ空の彼方へ消えていった。
「信じてるからな! お前たちが帰ってくる日を! 」
ルイはそう叫ぶ。その言葉は明るいが、彼の胸の中にはまだ荒波がたっていた。
「、、、行くか」
「うん」
さくらは軽く頷き、ふたりは歩き出した。
彼が足を前へ踏み出したそのとき、身体の中を右から左へ何かが通り抜ける感覚を味わった。疑問に思ったルイが自分の身体を見ようと首を傾けた途端、全身に雷のような衝撃が走った。
「ぐはっ」
うめき声とともに、ルイはその場に倒れ込む。彼はまだ意識を失ってはいなかった。
「ルイ! 」さくらは叫んだ。突然悲痛の声をあげた彼のもとに駆け寄ろうとした。彼女の足を、不気味な声が止めた。
「戦いの後って、一番油断するよねぇ」
さくらは後ろを振り返った。声の主は、気味の悪い笑みをにやりと浮かべた女だった。その淡い髪の色には、見覚えがあった。
「イヴナ! 」
さくらは女の名前を叫ぶ。すると相手は首を傾げるような仕草をして、口を開いた。
「あんた、まだ生きてたのかぃ」
「は? 」
さくらは、これまで何も喋らずに刃を差し向けてきたあの女が、目の前で生々しい口調で話していることに薄気味悪さを感じた。
「まあいいや、あんたは逃してやるよ。放って置いても死にそうだからさ、あっはっはっはぁ! 」
奇怪な笑い声を響き渡らせると、イヴナは飛ぶように砂の上を突っ走り、姿をくらませた。
「う、、、」
さくらの背中からうめき声が聞こえた。深い傷を負ったルイが、懸命に身体を起こそうとしていた。
「ルイ! 」
彼女は駆け寄る。彼の背中は、人間と同じ赤い血で染まっていた。
「う、、、ん」
ルイは返事をしたが、間もなく地面に伏した。
お読みいただきありがとうございます!
今回もここで裏話を語らせて頂きます。
今回のサブタイトルは『紅蒼の数』。何と読めばよいのか、散々悩まれたことかと思います(そうでなければ、なんと読むことにしたのか、あとで教えてください)。
製作者としての答えは、"こうそうのけじめ"です。
数という漢字には、けじめ、物事の成り行きや情勢といった意味があります。また、めぐりあわせ、運命という意味も含まれているそうで、ハルガにピッタリだ、と思ってこれに決定しました。
今まで様々な場面で"運命"という言葉が使われていましたが、今回のお話をお読みになった方は、少しばかり納得していただけたでしょう。
ロウが心配? 私もです。ですが、信じるしかありません。
さて、今回はサメのオルタグアさんたちにサプライズ登場してもらいました、如何だったでしょうか?
元々は復活を予定していなかったのですが、読者様の声を聞いて再登場させました。
サメオルタグア(正式名称はエリークス、オルタグア図鑑をご覧下さい)のデザインは、初登場時に簡単なイメージ画をあげました。時間と気力次第できれいなバージョンを描くかもしれません。
それにしても、ルイは無事なのでしょうか。それに、カイラが戦闘中にさくらにしていた仕草も気になるかと思います。
が、それについて明らかになるのは少し先です。何故なら、、、
次回は"外伝"です!!!(ずっとやりたかった!)
本編からは一度離れて、サイドストーリーです。主人公は、既に本編に登場している誰か(もちろん決まっています)です。
これまでは敢えて描写を伏せていたキャラクターの過去を、スピンオフ形式で描いていこうと思います。
今後とも『仮面ライダーハルガ』をよろしくお願いしますm(_ _)m
次回、EPISODE VELOURGWA(17) に御期待下さい。