【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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 これは、未来人の過去、現代人の未来の物語を、綴ったものである。




EPISODE VELOURGWA (17) ウッドの軍兵

 

 

 来治32年5月7日午前10時―

 

 円形に近い壁に囲まれた館内に、緑色の制服に身を包んだ青少年たちが整列する。いずれも今年度の精鋭隊候補に選ばれた若者で、上を向いて爛々と闘志に燃える眼をしている。今年度とは言ったが、精鋭隊という枠組みで兵隊訓練を行うのはこれが初めての試みである。

 

 私は今、軍事総督として若者たちの前に立っている。彼らに配った紙が行き渡ったのを確かめると、話を始めた。

 

「これより、我々ベロアグアの拠点である五都についてと、発電及び防衛設備について説明する。中には既に知っている者もいるだろうが、改めて我々から説明させてもらおう」

 

 

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五都概略図

 

 

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深都地図

 

「まず、我々ベロアグアの国は5つの拠点に分かれている。光都、耀都、鈴都、颯都、そして深都だ。それぞれの拠点は異なる役割を担っている。光都は五都の中心に位置しており、主に燃料やエネルギー資源の運搬の中間地となる。耀都は最も面積が広く、一般兵士の育成を行っている。颯都は作物などの生産地としての役割を持っている。また、風力発電と太陽光発電システムによるエネルギー供給も行っている。

 

 ここ深都は軍事機関の中心地として、主に最新兵器の開発と、精鋭兵士たちの育成を行っている。今やっているのがそれだ。鈴都は五都の中で最も面積が狭く、立地条件も他の拠点に比べて劣っている。それゆえ、緊急時の連絡地点や避難場所として用いられる。鈴都へ行く道は、耀都と光都から繋がる二本のみで、いずれも主要道路ではない。耀都と鈴都を結ぶ道路の中間には休憩地点が置かれている。

 

 そのほかの4つの拠点には、最低でも一本以上の主要道路が繋がっている。すなわち、鈴都除く四都の間は安全に移動ができるという訳だ」

 

 そのとき、若者のひとりが右手を挙げた。私は彼に言いたいことを話すよう促した。

 

「なんだね」

 

「では、鈴都への移動は安全が保証されていないということですか」

 

「その通りだ。しかし、鈴都へ繋がる道はいずれも山間地帯を通っている。陸軍が攻めてくる可能性は低い。警戒するならば、空だ」

 

 手を挙げた若者は私の言葉に頷く。

 

「だが、耀都と颯都の障壁上撃退砲が、常に光都以北の上空を監視している。相手が集中攻撃を仕掛けてこない限りは、それほど危険ではない。」

 

 それから私は深都を囲む障壁と天井板の説明をした。各拠点及びそれらを繋ぐ主要道路には高さ100mから150mの障壁が設けられており、外敵からの急襲を防ぐ。上空からの攻撃を防ぐ天井板は集水の役目も果たしており、集めた雨は山地の谷を通って諏訪湖へ流れ込む。

 

「深都の障壁には4つの門がある。北に位置する玄武門と青龍門、南に朱雀門、そして軍事拠点と深都の山地を隔てる黄龍門だ。かつて西側の障壁に白虎門があったが、現在は完全に閉鎖し、新設した障壁で囲まれている。理由は深都の西部に敵の軍事基地ができたためだ」

 

 ひと通りの説明を終えた私は、話をやめて皆の顔を伺った。

 

「何か質問がある者は手を挙げよ」

 

 すると、一人の青年が手を挙げた。

 

「もう少し詳しい地図が欲しいのですが」

 

 そのとき実は一番聞かれたくないと思っていたことを尋ねられた私は、小さく頷いて口を開いた。

 

「今の君たちには必要ない。まずその紙に載っている情報をすべて、頭の中に入れることだ」

 

「でも、僕はこの兵団に入る前に、もう少し詳しい情報を見た事があります」

 

 私は何も答えなかった。だがそのとき、私の背後に控えていた男が口を開いた。

 

「より精密な地図データは、今朝人為的に消去されていた」

 

 私を含め深緑の色に染まった集団の中、ひとりだけ灰色のスーツを着た男は淡々とした口調で言った。

 

「というより、盗まれたと言ったほうが正解かもしれない。いずれにせよ、我々深都軍事部は昨年の10月以来、一度も門を開放していない。すなわち、今もこの深都の中に裏切り者、或いは侵入者が潜んでいる」

 

 目の前に集まった隊員たちは、しだいに不安の声をもらし始める。

 

「今ここにいる君たちの中に、その人物が紛れ込んでいるかもしれない。君たちの最初のミッションは、その不届き者を見つけ出すことだ」

 

 私は耐えられなくなり、男に囁いた。

 

「いい加減にしろ! このことは機密情報として扱うと言っただろう。これから訓練を受けて鍛えていかねばならぬ時に、混乱を招いてどうする」

 

 すると彼は、肩の上に乗せられた私の手の上に、自分の手を重ねて口を開いた。

 

「こんな程度のことに混乱しているようでは、敵の兵器ひとつ落とすことも出来ない。ちょうど良い足切りになっただろう」

 

 私は言葉を返すことが出来なかった。彼の言うことはいつも正しい。だがそれなら先に言えば良いものを、毎度話にきりがついた後に口を開くものだから、なんとも腹立たしいのだ。

 

 それはそうと、私は彼の優秀な知能と冷静な判断を評価し、自分のあとを継ぐことを何度も彼に話した。しかし、彼は自分が総督の座に就くことに頷いた試しがない。

 

「では、明日の朝8時にこの場所に集合だ。解散」

 

 そう言って私はその場をひきとろうとした。そのとき灰色のスーツの男が私に話しかけた。

 

「ウッド、被験者試験についての提案がある」

 

 私はゆっくりと彼の方を振り返って応じた。

 

「後でだ、カイラ。私は少し疲れた」

 

 

 

 

 次の朝、円形競技場に集まった若者たちに向かって、私は話し始めた。

 

「これより、君たちが訓練を行うことになる地下軍事施設についての説明を始める」

 

 

【挿絵表示】

 

深都地下軍事施設地図

 

 広大なフィールドでの戦いを想定した訓練を行うメインアリーナ、それに次ぐ各訓練場。水中での戦闘に備える水中訓練場、異常事態での戦闘に備える振動訓練場、空中での戦闘や異なる環境下での戦闘に備える重力訓練場、そして休憩所について、私は彼らが知るべきことをくまなく説明した。

 

「これを見て分かる通り、すべての訓練場を含む部屋は円形に近い形となっている。これはどの方向からでも見え方が変わらない状態で、空間把握力を培うためだ」

 

 そして私は次の話へとうつった。

 

「さて、君たちにはこれから試験を受けてもらう。すべての試験を通過した者だけが、精鋭隊として戦うことになる。試験の内容は、いずれも単純な知能や運動能力だけでは突破できないものとなっている」

 

 私がそう言うと、隊員一同はつばを飲んで私をぎらぎらとした眼差しで見つめた。

 

「試験は3つのステージに分かれている。1つ目は『滑空』、高度500mの地点から落下し、滑空翼を展開して15秒以内に安全に着地することがクリア条件だ。ただし、翼を展開するのは地上から100mより離れたところで行わなければならない。100mを過ぎても滑空翼を展開していなければ、私が強制的に落下をやめさせる」

 

「残る2つの試験についても先に話しておこう。第2の試練は『見切り』、被験者は一人ずつ、高速で地上を移動する私と対戦する。私の動きを見定め、一回でも私の身体に触れることができれば試験を突破できる。ところで私の最高移動速度は前回の測定では秒速820mだったが、今回の試験では最大でも600mに留めることとする」

 

 若者たちはざわついたが、私は構わず話を続ける。

 

「そして最後の試験、『心核』。これには私の旧友であるカイラに手伝ってもらう。被験者は一時的に過去の記憶をすべて失う。その状態で戦闘兵士のホログラムと対戦し、相手を打ち砕くことができるかどうかが試練突破の判断基準だ」

 

 それから10日後に最初の試練、「滑空」を行い、候補者全員が見事にクリアした。次の「見切り」ではおよそ30名ほどが脱落した。

 

 

 

 

 来治32年6月20日午前9時―

 

 3つの試験を見事にくぐり抜けたのは、21名の若者たちだった。最初の集合で私に質問をしかけてきた青年もその中に含まれていた。最近おぼえたのだが、青年の名はヴィーマンと言った。

 

「この場にいるのは、見事に3つの試練を乗り越えた精鋭21名。諸君には、潜下遺伝子誘導手術を受けてもらう」

 

「それは、、、」とヴィーマンが声をもらした。

 

「ああ、君たちが『覚醒』と呼ぶものだ。君たちの体内に潜んでいる改造型遺伝子を引き出し、その肉体をアップグレードする。この手術は二段階に分けて行う。一回目の手術では簡易的な遺伝子誘導を施し、君たちの身体との適合率を確かめる。そこで適合率が一定水準を満たしていれば、肉体改造施術を行う」

 

 はたして、次の日に行った一回目の施術では21名全員が適合率の条件を満たした。

 

 

 

 

 来治32年6月23日午前11時―

 

 今日も21名の精鋭隊たちは訓練場に集合し、私が前に立って話をする。

 

「これより、精鋭隊の出撃に備える訓練を始める。第二回目の誘導手術は、訓練が終わってから実行する。これは肉体がアップグレードする前に基礎的な力を身につける必要があるからだ」

 

 若者たちのうちの何人かが私の言葉に頷いてくれた。

 

「では、君たち精鋭隊が担う計画を発表しよう。『天竜川南下計画』だ」

 

 天竜川とは、諏訪湖の南にかつて流れていた川の名前である。現在は湖の南西に位置する水門によってせき止められているため、川床が露出している状態だ。この計画ではその川床沿いに南に下り、深都の西に位置する人間の軍事基地に南東から回り込む形で攻め入るという作戦だ。

 

「現在、深都から出られる門はすべて北側と東側にあり、西側にはない。よって彼らは西側の警備をあまり固くしていない。そこで、閉鎖していた釜口水門を開放し、水を放流するとともに我々も南へ下るという手順だ。」

 

「じゃあ、拠点に戻るときにはどうすれば良いのですか」

 

 と、頭のきれるヴィーマンが質問をしかけた。

 

「ああ、帰還する際には南東の朱雀門を使う」

 

 

 

 

 来治32年6月27日午後19時―

 

 私はひとりで自室に籠もっていた。腕を組み、先日発表した計画についてあれこれと思考を通わせていた。あれは私の手で計画し、カイラが少しの変更を加えて完成したものだ。果たして今度こそ我々は人間を打ち負かすことができるだろうか。

 

 ふいに金属の擦れる音が部屋の入り口から聞こえた。そちらに視線をやると、ドアノブが回って扉が開き、その奥から灰色のスーツが現れた。

 

「なんの用だ、カイラ」

 

 私は計画の思考を邪魔されて、少し苛立った声をあげた。彼は何も喋らずに私の方に近づき、艶のある薄い長方形を私の前に差し出した。そこには何者かの指紋の画像が拡大されて写り、その下に白い小さな文字が並べられていた。

 

「なんだこれは」

 

「私の卓上に残っていた指紋だ。データを消去した犯人の」

 

 そう言って彼は詳細情報の文章の一番上を指でさした。そこに綴られている文字を目にした私は思わず息をのんだ。

 

「テシオン、、、」

 

 その名前は、精鋭隊21名のうちのひとりだった。顔を上げると、カイラは取り繕ったような沈んだ表情を浮かべて、口を開いた。

 

「自ら言い出すのを待っていたのだが、期待にはそぐわなかったようだ」

 

「お前、まさか最初から知ってたのか」

 

 私がそう言うと、カイラは顔を変なふうに歪めて、首をすくめた。

 

「全くお前という奴は! 」

 

 と叫んで、私はふいに口をつぐんだ。いけぬ。また怒鳴ってしまった。怒りが頭に昇りやすいのが己の悪い癖だと、何度も自分に言い聞かせているのだが。

 

 私は自分の座席に腰かけた。部屋の壁に飾っている蝶の図を眺める。

 

 私の父は日本屈指の蝶好きであった。同時に反社会的な科学者だった。自然と人類との調和を目指す父は、己の理想に逆らう人間を「自然から離脱した個人」として排除しようとしていた。そのために必要なものとして、「融合進化論改造手術」の技術を作り上げた。

 

 私が父の研究を知ったのは、数え年にして8つのときだった。父は、人類の「融合進化」は、反逆者を迎え討つための道具ではなく、自然との調和の象徴なのだと話してくれた。その時には既に、5万人の賛同者が父の完成させた手術を受けていた。最初の被験者は父自身だった。

 

 父の改造手術を受けた人々は、同胞どうし、或いは普通の人間との間に子をつくった。改造された遺伝子を受け継ぐ彼らは「新世代」と呼ばれ、より安定した神経系を持っている。私もそのひとりだ。

 

 私と何人かの同胞たちは、父の考えは間違っていると思った。人間も元をたどれば自然から誕生した生命体なのだから。全人類が自然と一体になることができれば、完璧な調和が果たされる。だから、反対する者が現れても、それを排除する必要はない。父の理想に異論を唱えていた人々もいつかきっと、理解してくれるはずだと。

 

 私は父が最後の一息をつく瞬間まで、彼の教えに背いていた。人間は分かり合えるものだと、そうあるはずだと信じてやまなかった。だがその甘い考えは、父の死後わずか3週間後に壊された。

 

 現実は想定していた何十倍も冷酷だった。人々は改造手術の痕跡を残す我々を人外として見下し、人間社会の排除対象とした。最初は民衆の間でそういった運動が広まるに過ぎなかったが、いつからか政府がその考えに従って動き出した。国が我々の排除を正当化した途端、それまで憐れむような目を向けてくれていた一部の人間たちも、顔を合わせることすらしなくなった。

 

 もの想いにふけっている私にカイラは少しだけ苦笑すると、部屋を立ち去った。

 

 

 

 

 来治32年6月28日午前8時―

 

 精鋭隊21名を軍事館前の広場に集合させた私は、口を開いて話し始めた。

 

「今日は報告しなければならないことがある。入隊式で君たちに話した裏切り者についてだ」

 

 一同は両手を後ろに回し、じっと黙って私の言葉の一語一句を聞いていた。

 

「我々はあの後もしばらく調査を続けていたのだが、先日、深都のデータベース管理室に残っていた犯人の指紋が発見された」

 

 そうして私はゆっくりと息を吸った。

 

「テシオン、君の指紋だ」

 

 残る20人の隊員たちは、揃って彼の方に顔を向けた。テシオンは呆気にとられたような表情をしていた。

 

「だがこれだけの事実で彼が犯人であると定まったわけではない。何か異論があるなら、今ここで言いたまえ」

 

 私は彼に視線を流した。

 

「いや、俺は、、、」

 

 テシオンは何を言って良いのか分からないようで、口をいろんな形にがくがくさせていた。そのとき、彼の隣に整列していた隊員が声を上げた。

 

「精鋭隊の入隊式の前日、軍事館から出てくるテシオンを見ました」

 

 そう言ったのは、あのヴィーマンだった。何だと、と私は彼の方に首を傾ける。

 

「なぜもっとはやく言い出さなかったのだ」

 

「彼は、僕の友達だから、、、」

 

 ヴィーマンはうつむいてそう答えた。私は深いため息をつき、そうか、と応じた。

 

「テシオン、君の犯行の真偽と処遇について話をする。私の部屋に来たまえ」

 

 

 

 

「さて、まず何のために軍事館に忍び込んだのかを聞かせてもらう」

 

「俺は、あの夜ヴィーマンに誘われて軍事館の前に行ったんです。僕は軍事館の前で彼を待ちながら、館内の様子をこっそり伺っていました。どんな機械が潜んでいるんだろうって」

 

「そんなに面白いものはここにはないよ」とカイラが口を挟んだ。「計算速度最高峰のコンピュータくらいしかね」

 

 私はカイラの顔をじっと睨みつけ、余計な言葉を挟まぬよう黙らせた。

 

「そのときです。俺は3階の窓に人影が映るのを目にしました。暗かったので、はじめは軍事部の人かと思ったんです。でも次の瞬間、その人影は僕の方に顔を向けて、手招きしました。僕はその人の意図がよく分からなかったけど、そんな真似をするのはヴィーマンしかいないと思って、軍事館の扉に向かいました」

 

「すると、君だけではなくてヴィーマンも館内に入ったということか? 」

 

 私はいささか彼の言葉に不審を抱きながらもそう尋ねた。

 

「いや、違います。そのときはヴィーマンが先に館内に入って俺を待ってるんだと思ってたけど。それで、俺は急いで階段を駆け上がって3階につきました。俺は彼の名前を呼びました。でも、誰も答えませんでした。そればかりか、奇妙なことに、3階の廊下に並ぶドアというドアが、全て開かれていたんです。僕は様子がおかしいと思ってそのうちのひとつの部屋に入りました。そうしたら―」

 

「そうしたら、はちゃめちゃにされているコンピュータを見つけた、と言いたいのか」

 

 彼は首がすっとぶくらいの勢いで私の言葉に頷いた。

 

「私も君のことを信用したい。だがしかし、君の言うことが本当ならば、そのときヴィーマンはどこにいたのだ」

 

「それは、、、」とテシオンは声をくぐもらせた。「次の日の朝にそのことを話したら、軍事館なんか行ってないって。しかも、俺を誘った記憶なんかないって」

 

 私は顔を歪ませた。

 

「それで、君はどう思うのだ、この事件について」

 

「俺は、、、」とテシオンは口を開いた。「たぶん、俺があの夜に見た人影が犯人なんじゃないかって思ってます。というか、きっとそうです。でも、それが誰なのかはわかりません」

 

「それがヴィーマンである可能性はないのか」

 

「それは、、、」と彼は口を開き、何か言おうとしたがやめたようだ。それからがっくりと肩を落とし、低い声でこう言った。

 

「僕が犯人です」

 

 

 

 

 来治32年6月29日午前8時―

 

「我々は深都のデータベースに対して情報の複製と削除を行った犯人が、テシオンであることを認めた」

 

「しかし同時に、彼の行いは我々軍事部に対する反逆などではなく、ちょっとしたいたずら心によるものであったことを認め、彼に対する処遇はなしとする」

 

 案の定、隊員たちはざわつく。ただ一人、彼の友人であるヴィーマンだけが安堵の表情を浮かべている。

 

「これから君たちには第二回潜下遺伝子誘導手術を受けてもらう。テシオンも含めてだ。君たちも、彼に対する余計な詮索や加虐などは慎むように」

 

 21名の隊員は3日間にわたって施術を受けた。テシオンの死亡が確認されたのは、その翌日である。

 

 

 

 

 来治32年7月6日午前7時―

 

 いよいよ天竜川南下計画の実行日が明日に迫っていた。20名の隊員たちは出撃に向けて、改造施術後も訓練を続けている。1名の欠落分は、カイラが自ら出向くことになった。

 

 テシオンの死後、様々な調査を行った。カイラに言わせれば、彼は相当運が悪く、肉体の進化に内部機能がついていけなかったということだ。その確率はおよそ1.9の10の-58乗%であり、全くもって運が悪かったという片付け方のほかに選択肢がない。あるいは、何者かの小細工によって施術中に彼の肉体に変化をもたらした可能性もあるが、私とカイラは全員の手術を見守っていたので、異常があれば気づいていたはず。結局、テシオンの死の原因は分からぬままだ。

 

 私が自室のソファに深く腰かけていると、扉をこんこんと叩く音がした。

 

「失礼します」

 

 透き通った声とともに部屋に入ってきたのは、精鋭隊員のひとり、ヴィーマンだった。私は身体を起こして彼の方を向いた。

 

「なんだ」

 

「明日の、計画についてなんですけど。少し提案があります」

 

 それは釜口水門を出た後に通るルートを少し変更するというものだった。彼の提案は実に理にかなっており、つい先日まで訓練兵であった若者の口から出てきたとは思えないほどだった。

 

「カイラも悔しがるだろうな」

 

 私は冗談を言いながら、彼の提案を承諾した。

 

 

 

 

 来治32年7月7日午前8時―

 

 私は「天竜川南下計画」のもと、出撃する隊員たちを見送った。諏訪湖から流れ出る水流に従い、カイラを含めた21人の戦士たちが南へと下った。最後のひとりの背中が見えなくなると、私は水門の自動閉鎖システムを作動させ、障壁上に登って周辺を見渡した後、軍事館に戻った。

 

 

 

 

 ドアがばたりと開かれたのは、その1時間後だった。私は大きな音に驚いて、そちらに顔を向けた。茶色い扉の前に、灰色のスーツの男が倒れ込んだ。彼は左肩を右手で押さえていた。

 

「どうした!? 」

 

 私は椅子から立ち上がった。そして彼の方に近づこうとしたが、そのとき、彼の左の肩にあるべきものがないことに気づいて、思わず立ち止まった。

 

「やられた」

 

 彼は震える声で言った。

 

「ヴィーマンが人間の駒だったんだ! 」

 

「まさか、、、」

 

 私は彼の左肩から滴り落ちる赤い液体を見つめながら、震えていた。

 

「計画が陸軍に筒抜けだった、、、精鋭隊は、ほぼ全滅、じきに、、、この、深都にも、、、攻めてくる」

 

 カイラは床を赤く染めながら、荒々しい声でそう言った。私は震える怒りを押し殺して、静かに言い放った。

 

「門を閉めろ」

 

「しかし、、、まだ帰還していない兵士が」

 

「いいから閉めろ! 」

 

 あとから考えると、このときの私はどうかしていた。相手は左腕を失くして動くこともままならぬというのに、傷の手当よりも先に門の閉鎖を指示したのだ。

 

 カイラはしかめっ面をしていた。動くことのできぬ苦痛に顔を歪ませているのだと思っていた。だが違った。

 

 私はそのとき悟った。彼が軍部総督に就くのを拒む理由を。彼にはできないのである。愛しい同胞の子供たちを見捨てることなど、彼の心には到底できないのだ。であれば、私がやるしかない。

 

 私は立ち上がった。カイラが寄りかかっているドアの縁に向かった。

 

 部屋を出るとき、少し立ち止まって彼を見下ろした。彼の目には涙が浮かんでいた。無き左腕を貫く痛みではなく、自分の心を裏切って同胞を見殺すことへの苦痛であった。

 

 私は間もなく朱雀門に向かった。そして、高さ30mの大きな扉を、兵士たちの帰るべき場所への道を、自分の手と意志で閉ざした。

 

 その時のこと、どのような道順で門に辿り着き、どのくらいの時間をかけてそれを閉ざしたのかということは、全く憶えていなかった。ひとつ憶えているのは、父が死んだときでさえ涙を流さなかった私が、泣くまい、泣くまいと必死に歯を食いしばっていたことだ。

 

 そしてもうひとつ確かなのは、生まれてからずっと怒りのたちこめていた私の心が初めて、悲しさと悔しさに負けたことである。

 

 

 *

 

 

 あれから2週間後。

 

 私は計画失敗後の事務的処理を済ませ、自室のデスクに腰掛けて茫然としていた。私がつくった計画に従った兵士たちは、全員その命を戦場で散らしたのだ。裏切り者も含めて。

 

 ドアの開く音が聞こえた。

 

 カイラが入ってきた。彼があの事件以来顔を見せたのは、初めてであった。彼は真っ直ぐな眼をして、無言で私の座っている机に向かってきた。彼の目には何の迷いも見えなかった。負けた、と思った。

 

 ふと気になって、彼の左腕に目を向けた。そこには銀色の機械兵器が、手の形に曲げられて彼の肩から吊るされていた。関節部の至る所が、赤く錆び付いていた。

 

 突然、その機械の腕が動いた。2本しかない指の間には、厚さ5cmほどの紙の束が、しっかりと握られていた。

 

 彼はそれを私の目の前に、すんと置いた。あまりにも無駄のない整った動きだったので、最初私は置かれたことに気づかなかった。

 

 私は彼の顔を見上げた。その眼はゆっくりと私の方に動いた。彼は依然として無言だった。言わなくても、私なら理解すると思っているのであろうか。

 

 私は彼が置いた書類の山に向き直った。そして恐る恐る、その最初の一頁を開いた。最初の頁には、次なる計画の名が大きく刻まれてあった。

 

『超時空軸降下計画』

 

 

 

 

 来治32年8月21日午後10時―

 

 深都のデータベースに侵入して詳細地図を盗み、テシオンの施術中にコイルにかかる電圧を倍増させていたのがすべてヴィーマンの仕業であったことが判明した。

 

 テシオンがなぜヴィーマンを庇ったのか、私には分からなかった。

 

 






 お読みいただきありがとうございます!初めての外伝、いかがだったでしょうか?


 今回はベロアグアのサイドストーリー第1弾ということで、ベロアグアのリーダー格であったウッドの過去を、日記のような、或いは総集編映画のような、不思議な形式で描きました。本当は細かく描きたい気持ちもあったのですが、外伝をあまり長く書きたくないと思ってこのようなスタイルになりました。今後も各キャラクターを主人公としたエピソードを描いていく予定です。

 ウッドという名前。これまで特に疑問を抱かなかった方も多いかもしれませんが、その由来は鬱怒(うつど)という言葉です。積怒と同じ意味で、怒りを重ねることや、つもりつもった怒りのことを指します。本編で登場していた時も、何度か怒っていましたね。

 それと、外伝オリジナルキャラクターであるヴィーマンとテシオン。それぞれの名前の由来は、

ベロアグアと人間のハーフ→Velouragwa-human→V-man→ヴィーマン
無実→innocent→tecionnn(もじり)→テシオン

 でした。ヴィーマンはベロアグアとしての誇りよりも、人間でありたいと強く願っていたのです。テシオンは、最初から自分は犯人ではないと訴えていたのですね。

 ほかのキャラクターたちの名前の由来は、またの機会に。


 では、今後とも『仮面ライダーハルガ』をよろしくお願いします。


 次回 EPISODE 18 に、御期待下さい。(次回は本編に戻ります。どんな状況か忘れてしまった方は、EPISODE 16をお読み下さい!)


作者X(旧Twitter):https://twitter.com/kamenrider_jy

裏話の呟きまとめ:https://min.togetter.com/YPAgxvj


小説に関する情報はサークル内で発信しています。気になる方は、こちらの投稿にいいねをしていただければ、サークルのメンバーに追加致します。
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