仮面ライダーハルガ、EPISODE 16 の3つの出来事!
1つ!ルイとさくらは、謎の存在であるアイゼと激闘を繰り広げる。だが止めをさす寸前、蒼い風が彼らを妨害し、アイゼを連れ去る。
2つ!オルタグアの仲間であるキルアは、ロウのベルトにかけられている呪いで彼が苦しまないよう、ベロアグアに寝返ったという事実が判明。真実を受け入れたルイは、海中に残っていたサメ型のオルタグアとともに、集結したベロアグアたちと戦う。
そして3つ!戦いを終えてアジトへ戻ろうとしていたルイとさくら。そこへ姿を消していたイヴナの刃が襲いかかり、ルイは重傷を負ったのだった。
力つきたルイの頭が、さくらの膝の上にのしかかった。
「病院に行かなきゃ」
さくらはそう言うと、バイクのもとへ行こうと立ち上がった。ところが、駆け出そうとしていた彼女の服が後ろから掴まれた。振り返ると、意識を失ったと思っていたルイが右手で彼女を止めていた。
「大丈夫だ、行かなくていい」
ルイは弱々しく、しかし芯のある声色で囁いた。ところがさくらの方は、ちっとも落ち着いていられなかった。
「大丈夫じゃないわよ! 」
彼女の目には、ルイが息も絶えそうな様子に映って見えた。さくらの言葉に対して彼は首を横に振る。
「俺たちは、ベロアグアに狙われてる。病院に、行けば、そこにいる人たち、襲われるかも、しれないだろ」
「でも、、、なんとかしなきゃ」
「大丈夫、ハルガの力は戦う力だけじゃない。回復力も、人間の数十、、、」
ルイの言葉は半ばで途切れ、今度こそ彼の意識は深い夢の中に沈んでいった。
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「しかし、信じられないな」
灰色のスーツに身をまとった男が声をあげた。男は、真っ黒の部屋の中央に立っている青年を、冷淡な眼差しで見つめていた。
「かつて、あれほど人間を守ると言って我々ベロアグアを目の敵にしていた君が、仲間を裏切ってこちらにつくとは」
青年は答えない。彼の目にはなんの色も映っていなかったが、それは部屋の暗さゆえではないようだ。
「ロウ、ルイのところに戻れ」青年の後ろの壁に寄りかかって立っている金髪の女は言う。「私はロウを守るためだけにベロアグアについたわけじゃない。もし呪いが消えたとしても、私はベロアグアの味方をやめないぞ」
それを聞いた青年は驚きの表情を浮かべ、咄嗟に彼女の方を振り返った。
「なぜ、、、」
青い目をした金髪の女の視線は、自分の方を見つめる青年のそれと一度交わされたが、すぐに横へ逃げた。
「私は知ってしまった。ベロアグアの過去を」
キルアはそう告げた後、何か付け足そうかと考えていたが、ふいに青年の視線をこれ以上浴びてはいられなくなり、寄りかかっていた壁から浮き上がって部屋の入口に向かった。
「待ってくれ! 」
ロウは部屋の壁へ溶け込むようにして消えた彼女のあとを追う。黒い側面に囲まれた四角い筒のような廊下に出ると、数m先をブロンドの女がこちらに背を向けて歩いていた。一目散にその背中に駆け寄り、ようやく女にたどり着いた彼は相手の肩に手をおいて自分の方に振り向かせた。
「何故なんだ、一体何があった」
ロウは女の身体にしがみついたまま、険しい眼差しを送っていた。彼女は自分の肩におかれた恋人の手に自分のを重ねると、ゆっくりと引き離した。視線を落とすキルアの瞳は、哀しみの深淵に沈んでいた。
「私たちは、ベロアグアがなぜ人間を襲うのかを知らなかった。だからあのときは戦えた。でももう無理だ、私は人間を信じられなくなった」
そう言うと、女の身体は闇の中へ向かって一心不乱に駆け出し、暗がりの中でわずかに揺れていた髪の金色もやがて見えなくなった。
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翌朝。
深い闇の中をさまよっていたルイの意識は、ふいに明るい部屋の中へと誘われた。彼は、ちょうど地下アジトの上に位置するセーフハウスのベッドで寝ていた。
「大丈夫? 」
声のした方に視線を移すと、赤い瞳がこちらを見つめていた。ベッドのそばに腰かけているさくらが、心配そうな表情を向けている。同じような出来事が前にもあったな、とルイは思った。
昨晩ルイが倒れた後、彼女は一度病院に行くかどうか迷った。色々思考を巡らせて悩んだ末に、彼を信じることにしたのだ。
「ああ、なんとかな。すっごく痛いけど」
彼はゆっくりと上半身を起こしながらそう答えた。ルイの言葉を聞いたさくらは彼に安堵の笑みを向けたのだが、ふいにその笑顔が崩れ、彼女は激しく咳き込みはじめた。
「どうしたんだ」
ルイは自分の身体の痛みを忘れて彼女に近づこうとした。さくらはなんでもないというふうに首を振るが、苦しそうに胸を押さえていた。
「大丈夫、風邪ひいただけよ。最近すごく寒いから」
やがて彼女の胸のうちが静かになって落ち着くと、心配そうな眼で見つめるルイに対してさくらは口を開いた。
「あの変な女にうつされたのかもね」
ルイは不審な目で彼女を見つめたが、さくらはまるでなんとでもないように明るい笑顔を向けていた。
「そうだ、これ」
そう言ってさくらは、真っ赤な色の長い布を取り出した。
「なんだ」
「街を守るヒーロー、”仮面ライガー”の証」
「そうか」
ルイはさくらから赤色のマフラーを受け取った。
「ありがとう」
「私がいなくなっても、絶対忘れちゃだめだよ」
「え? 」
ルイは顔を上げて彼女の目を見返した。
「わかった? 」
彼女の目は本気だった。
「ああ、分かったよ。絶対忘れないし、絶対に君をいなくならせたりしない」
さくらは静かに微笑んだ。
「ぐっ」
突然、背中の傷の痛みが彼を再び襲った。ルイは起こしていた身体をベッドに投げ出した。
「治るまでちゃんと休んでて」
さくらはそう言ってルイの身体に毛布をかけた。彼女の左手には、さっきルイが受け取ったものと同じ色のマフラーが握られていた。
「それは」
「うん、2本あるの。これは、あいつの分」
そうか、さくらは信じているんだ。あいつがいつか、俺たちのもとに戻ってくると。たった数ヶ月の付き合いなのに、仲間の心を。ルイは彼女に微笑みを向けた。
「先生は、”ライガー”じゃなくてライダーって言ってたけどな」
さくらは一瞬目を丸くしたあと、ぷくっと頬をふくれさせた。その様子があまりにも面白かったので、ルイは思わず声をたてて笑った。しかし笑うにつれて身体の傷がズキズキと痛み始めたので、なんとか堪えて笑い止んだ。
さくらは自分の左手の赤い布を握りしめながら、深くため息をついた。
「ロウのやつ、ベルトには呪いがかかってるって言ってたけど、、、まさかそんなことがあったなんて」
「そうだな」と彼は応じた。「まあ、あれだけの力を持っていれば、その代償があることも不思議ではないのかも」
それからルイは自分の腹部に目をやり、右手を押し当てた。
「俺のベルトにも呪いがかかってたりして」
「まさか」
さくらは彼の言葉に、彼以上に青ざめながら答えた。
「でも、あなたの家族は無事だったでしょ? もしルイのベルトにも呪いがかけられてるなら、誰か大切な人を失ってるはず」
ルイは納得したように頷いた。だが次の瞬間、別の疑問が生まれた。
「じゃあ、ロウはすでに、キルア以外の大切な人を失くしてるのか? 」
「それは、、、」さくらは声をくぐもらせた。「わからないけど」
「第一、呪いっていうのがよく分からないな。ベルトから発せられるエネルギーの作用なのか」
ルイの言葉に、さくらは首を傾げた。
「ロウもあまり詳しくは知らなさそうだったわね。ひとまず、呪いは『呪い』として考えましょ。問題はその呪いをどうするか、よ」
「そうだな」
ふたりの会話がこのように続いていたところ、甲高い機械音が鳴り響いた。窓の向こうに黒く小さな鳥の影が映っていた。さくらは座っていた椅子から颯爽と立ち上がった。
「行くのか」
「当然でしょ。私は”ライダー”じゃないけど、あなたの覚悟を一緒に背負ってる」
「俺も行くよ」
ルイはそう言ってベッドから起き上がろうとした。険しい顔をしながら動こうとする彼を、さくらは押し戻すようにしてとどめた。
「無理しちゃだめよ、まともに動けないんだから」
さくらは優しい声色で言った。ルイは不安げな表情を彼女に向けていた。
「大丈夫、私を信じて」
ルイは渋々頷いた。さくらが部屋を出ていこうとすると、彼は再び呼び止めた。
「そうだ、これ」
そう言って差し出す彼の右手には、パルマナカルマが握られていた。
「使えるかどうか、分からないけど。役に立つかもしれない」
「ありがと」
彼女は黒い小さな装置を受け取ると、巨大ロボットが暴動を起こしている街に向かった。
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行く先が冥暗に包まれた真っ黒の廊下。何も動くもののない薄がりを茫然と見つめながら、青年は立ちすくんでいた。ふいに青年の背後から、何者かが近づいてくる足音がし始めると同時に、冷たい口調の言葉がかけられた。
「どうする、ロウ」
名を呼ばれた青年は我に返った。それから顔を動かさずに視線だけを視界の端まで動かし、そこにいる者の正体を悟った。
「馴れ馴れしく呼ぶな」
青年は今にも相手に飛びかかってしまいそうな心持をなんとか取り抑え、低く唸るような声色で応える。それを聞いた灰色のスーツの男は青年の数m背後で足を止め、再び冷淡な口調で話し出す。
「このまま大切な仲間を二人も裏切ることにするか、」
灰色のスーツを着た男は、赤い瞳の視線を相手に移した。
「或いは姿さえ見たことのないベロアグアの首領を打ちのめすか」
「黙れ、、、! 貴様があいつをたぶらかしたんだろ! 」
ロウは相手に背を向けたまま―そうでもしなければ青年は本当に相手に掴みかかるようなことになってしまい、それは今の彼に取ってあまり賢明な行動とは言えない―震える怒号をとばす。対するカイラは大した反応も見せず、ただ冷ややかな笑みを浮かべた。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「、、、何が言いたい」
青年は戦慄にぞくぞくと揺れる両拳を握りしめ、怒りにわななく歯を噛み締めながらそう応えた。数秒ほどの間が空いて、ロウが後ろを振り向いてやりたい思いにかられているところ、相手の言葉が返ってきた。
「君が何を信じるかは、君の自由だ。そして、、、」
青年の視界に灰色のスーツが映った。男はロウの瞳を、彼の胸のうちを暴こうと中に入り込むかのように強い眼差しで覗き、次の言葉を口にした。
「私が何をどうするかは、私の自由だ」
ロウは感情をこらえきれなくなり、右拳を振りかざした。そうして真下に叩きつけるかのごとく振り下ろしたが、そのときには男の影は暗闇の中に消えていた。
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白いバイクは街の間をすり抜けるように、凄まじい速度で目的地に向かっていた。ヘルメットの下からのぞく茶色い髪は、時速300kmの勢いが生み出す風圧を受けて激しくなびいていた。
突然、彼女の視界に異様なものが映り込んだ。さくらがハンドルのブレーキを強く握りしめると、白いマシンは道路の中央で急停止した。
彼女の目の前には、巨大な穴があった。直径50mはあると思われる、大きな空洞が地面の奥底まで続いているようだった。
「なによ、これ」
さくらはバイクの座席から跳ねるようにして地面に降り立った。ヘルメットを外した彼女は、恐る恐る崖の縁に近づいた。
穴の中には、果てしない暗闇が広がっていた。底の形も見えず、思わず吸い込まれるような奈落であった。
一体何のために、誰がこんなものを作ったのだろうか。
彼女が思考を巡らせていると、上空から小さな鳥のメカが降りてきた。フェルルはさくらのバイクのハンドル付近に着地すると、ナビゲーション画面をくちばしでつついた。
その様子に気づいたさくらは、バイクに駆け寄った。フェルルが指し示す画面の上に指を滑らせて、今いる位置を確認した。そこに表示された地形に、彼女は見覚えがあった。
「前に巨大兵器が襲った場所だわ、どうして、、、」
そのとき視界の端に、上空を流れるように移動する蒼色の光が映った。我に返った彼女は急いで座席にまたがるとエンジンをかけ、蒼色を追ってハンドルを切った。
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太陽に照らされてくすんだ輝きを放つ、赤いレンガの倉庫。外壁には二階へと続く金属質の階段が備え付けられており、また一階と二階の壁には、上端が丸く下辺が直線状のガラス窓が、規則正しく並んでいる。
赤茶色の建物の前でバイクをとめた女はコンクリートの地面に降り立ち、白いヘルメットを解除する。その視線の先には、赤いレンガの上に佇む蒼色の戦士の姿があった。
「ロウ、、、」
さくらは呪いを背負いし青年の名前を呟いた。彼女の声は十分に相手に届く大きさで、そうでなかったとしても言葉が風にのって青年の耳に流れ着くはずだが、ロウはなんの反応も示さない。
まるでなにかを待っているかのように佇む彼を見て不審に思ったさくらは、その仮面に隠れた眼が何を捉えているのか探ろうと、その視線の先を素早く辿った。
そこには金髪で黒いバトルスーツの女が立っていた。
「お前の身体の不具合、私がみてやろう」
アイゼ、もといキルアはさくらの身体のちょっとした不調を何故か知っているようだったが、言葉とは裏腹に鋭い眼差しと手刀の構えを向けていた。
「アイゼ、、、」
この哀れな女は道を踏み外したのだろうか。はたまた一度誓った組織への忠誠を破らぬために、己の意志をすっかり捨てて使命を実行しているのであろうか。
さくらはなにか言おうと、口を開いた。だが相手はひとときの談論も許さないらしく、すぐさま斜め前方に跳び上がり、左拳を大きく振りかざした。
さくらは自分に攻撃を避ける余裕が与えられないことを悟り、咄嗟の判断で両腕に鎌を装着。相手の拳が自分の方に振り出されると同時に、左右から鋭い刃を差し向けた。
痛々しい刃が相手の腕部に向かっていく。その瞬間、さくらはハッとした。相手は生身なのだ。このまま斬りぬけば、相手の左腕は真っ二つ。
背筋が凍てつくような感覚。しかし、もう彼女の力では己が振り出した刃を引き戻すことはおろか、速度を緩めることさえ、自由に操ることが出来なかった。
銀色の刃が相手の黒い腕に触れた。さくらは目を瞑る。
そして。
彼女の刃は何か柔らかいものに入り込んだ。
頭の中が白くなっていく。いくら敵とはいえ、今まで人間の姿をした者と殺し合いの喧嘩をしたことなど一度もない。
しかし、その次の瞬間不思議なことが起こった。柔らかいものにぶつかった鎌は、それに押し返されたのである。
さくらの刃を引き戻させたその力は強大で、彼女の身体も数歩ほど後ろへ下げられた。驚いて目を開いたさくらは、その視界に”柔らかいもの”の正体を見た。
目の前には小さな竜巻が、周りの大気を吸い込むようにぐるぐると渦を巻く。その3歩ほど後ろに、風の戦士の立ち塞がる姿があった。
さくらはキルアの身体が斬り刻まれていないことを知って、ほっと安堵の息をついた。そうして思わず、相手ふたりが己の敵であることを忘れてしまっていた。
幸い、彼らは立ちすくんでいる少女に対してすぐさま攻撃の手を加えることはしなかった。斬撃を回避したキルアは、蒼い戦士の登場に驚き、戦いを続けることなど頭の隅に追いやられていたのである。
「ロウ、、、」
と女は蒼い戦士に呼びかけた。騎士のごとき仮面の彼は、その声に振り返らない。ふぅっとため息をついたブロンドの女は、次に戦士の背中に向かってこう言った。
「お前がいると戦いの邪魔だ。帰ってくれ」
それを聞いたロウは、胸を突かれたようなくぐもる声を出しながら後ろを振り向く。そんな彼をよそに、ブロンドヘアの女は前へ歩み出て、さくらを見下ろす。
「その様子だと、戦う気力も十分にないようだな」
キルアの言葉に、さくらは顔をあげた。彼女の瞳は鋭く光っていたが、構わず挑発的な声色で語りかける。
「やはり、頼もしい戦士が近くにいないと何もできないか」
オルタグアの裏切り者の言葉に、さっきまでの心持ちを忘れてだんだんと憤りを憶えはじめたさくらは、ゆっくりと体勢を構える。
「ルイは今怪我を負ってるんだよ、あんたたちの仲間のせいで」
「ふん、、、? イヴナか」
相手は動じる様子もなく、淡々と答える。
「そうよ」
さくらの言葉は、静かな怒りに包み込まれていた。
「だから、私が代わりにあんたたちを倒す」
次の瞬間、さくらは背中に隠していた黒いガジェットを見せる。六角形の装置の側面を指で押し込んだ。
装置が赤い閃光を解き放つ。それから紅い炎をまとい、みるみるうちに大きく、紅く、荒くなる。
紅蓮の炎はさくらの肉体を覆った。彼女の全身が赤く燃え上がる。
彼女は右腕を後ろに、左腕を前に回して刃を構える。すると全身を覆っていた炎が燃え移るようにして鎌に流れ、鋭い刃を紅く輝かせる。
そのとき、黒いスーツの女は前へ踏み込んだ。2、3度地面を足で蹴った後、大きく飛躍する。左腕を掲げ、宙を斬り抜けるように相手に接近した。
その拳はさくらの方へ向かう。燃え上がる少女は相手が十分な距離範囲に入ると、構えていた両腕の刃を一気に左へ振った。
しかしキルアの本当の軌道は、さくらが予測したものとは違っていた。拳を掲げる女は炎の鎌を避け、そのままさくらの頭上を通り越して背後に着地する。さくらが自分の誤りに気づいた時にはすでに、相手の攻撃が自分に向けて繰り出されていた。
これまでの彼女なら、確実に攻撃を受けていたであろう。ところが違った。
炎に包まれた女は手首をひねらせて、先程左に振った鎌を今度は右向きに、つまり身体を軸にして時計回りに動かした。
その動きの瞬発力は見事で、彼女自身も己の凄まじい反応力に驚いたほどだ。いずれにせよ、咄嗟の反撃は相手の攻撃を食い止めた。しかしそればかりではない。
彼女の鎌の炎は盛んに膨れ上がった。キルアは自分に向かってくる刃を感知した時点で身体を後ろへ翻し、刃との接触を避けていたのだが、それは十分な退却ではなかったようだ。大きく燃え盛る炎の手はすぐさまキルアの身体に追いつき、猛烈な力の勢いで彼女を吹き飛ばした。
宙を舞うキルアの元にすぐさま駆けつけたロウは、彼女の身体を両腕で抱えるようにして受け止めた。「やめろ! 」と青年は叫んだ。それから右腕を前に掲げ、さくらに向けて蒼い渦の弾を放つが、さくらは俊敏な動きでそれを避ける。
ロウは想い人である女を地面に残して立ち上がった。相手の敵意についに激昂した彼は、両腕を広げて宙へ飛び上がる。高度を増して相手から十分な距離をとると、全身を素早くひねらせて周囲の大気を意のままにする。
凄まじい風圧がさくらに襲いかかる。彼女は地面に火の粉を散らしながら、宙へ飛び上がって攻撃を避けようとした。だが、風のハルガが操っている大気の規模は途方もない。あまりにも広い範囲を流れる風流は、さくらが咄嗟の判断で避けられるものではなかった。
紅蓮の炎をまとい、それを風上の方角に向けて放出しようとするも、蒼穹の圧力には敵わない。彼女はすぐに風の流れに飲み込まれた。
渦に飲まれたさくらは、腰に常備しているベルトに右手を伸ばした。プレートを握った彼女は背中と脚部にブースターを展開させた。
彼女の全身を覆っていた炎が、一斉にブースターエンジンの中へ流れゆく。ブースターは眩い白光を放ちながら、その威力を増した。
さくらは自分がどの方角を向いているのかも分からぬまま、ブースターの出力を最大まで引き上げた。彼女の身体は風に抗い、肉体を切り刻むような圧力がのしかかった。
さくらは宙を突き抜けた。
彼女は倉庫の窓を突き破った。そのまま屋内に飛び入り、やがて天井に張られた大きな梁にぶつかった。
さくらの肉体は、衝突によって崩れ剥がれた梁の破片とともに、倉庫の床に向かって落下した。彼女は衝撃に耐えながら、瓦礫を押しのけて立ち上がる。
そのとき、背後からカツカツと足音が聞こえ始めた。ふりかえると、倉庫のコンクリート床の上を歩いていたのは蒼い戦士ではなく、ブロンドヘアの女だった。
相手はさくらの10m手前で立ち止まった。さくらは黒い影をキリリと鋭い眼差しで睨みつけた。しかし相手の女はさくらの威嚇を無視するかのように、再び1歩前へ踏み出した。
―のだが、途端に姿が見えなくなった。さくらの眼はわずかな秒数の間、見失った相手の影を探し回った。
次の瞬間、女の影はさくらの目の前にあった。
その瞬間、彼女の運動機能は停止した。まるで動けないのだ。肺の呼吸運動さえも止まってしまっているかのように思われたが、息苦しくはない。
そのとき、頭の奥底からファーンという音が聞こえた。今まで、船の鳴き声は聞いたことがないのだが、汽笛というのはこういう音なのだろうか、と考えたりした。
残っているのは視覚と聴覚だけだ。それでも、今目の前にいる女から視線を逸らすことはできない。
ひたすらに手足を動かそうとしたり、眼を動かそうとするが、一向に動かぬ。身体が己の意志に従属することをやめていた。
抗いようのない脱力感を味わっているさくらに向かって、キルアの言葉が放たれた。
「あなたの本来の役目を果たしなさい」
視界の端が黒ずんだ。暗闇は彼女の意志に反してそのまま広がっていく。懸命に目を開こうとするが、何も変わらない。
やがて彼女の視界は無に帰った。
お読みいただきありがとうございます!ハーメルンでの感想やTwitterでの読了報告などお待ちしています!
今回の投稿は前回から2週間空きました。作者が勉学に集中したいため、今後も不定期更新になると思います。ご了承ください。
さて、本編をちょこっと振り返らせてください。炎のハルガが登場しなかったのは、ルイがシャングリラに送られたとき以来でしょうか。そういえば、楽園に住む人々は何をしているのでしょう。
それはさておき、今回のサブタイトルは『紅蓮の炎』。ルイのことではなく、炎の力を使って戦うさくらのことでした。アッツアッツの炎に全身を包み込まれ、ロウの激風に抗いました。暑くなかったのでしょうか。
ラストシーンでは、キルアが突然さくらの目の前に迫り、頭を掴みます。このシーン、どこかで見覚えが、、、
そうです。EPISODE16(本編の前回のお話)で、カイラが戦闘中にさくらの頭をガッシリと掴むシーンが描かれていました。あのときは特に何もなく終わりましたが、一体何が起こっていたのでしょうか。
キルアに頭を掴まれ、身体の自由を奪われてしまったさくら。次回、どうなる、、、?
今後とも『仮面ライダーハルガ』をよろしくお願いします。
次回 EPISODE 19 に、御期待下さい。
作者X(旧Twitter):https://twitter.com/kamenrider_jy
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