【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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仮面ライダーハルガ、前回の3つの出来事!

一つ! 一命を取りとめたルイは戦いに行こうとするさくらに、己の強化兵器であるパルマナカルマを渡す。

二つ! さくらは、共にオルタグアでありながらベロアグアの組織に寝返ったキルア、そしてロウと交戦。

三つ! さくらはパルマナカルマの炎で戦うが、激昂したロウの力に押される。そしてキルアに頭を掴まれた彼女は身体の自由を失い、やがて意識が無くなったのだった。




EPISODE 19 銀白の腕

 

 さくらのバイクが発信する位置情報をたよりに駆けつけ、見慣れぬ土地に足を踏み入れたルイは、太陽に照らされて白く輝くバイクマシンを発見した。車体が停められている地点から横に30mほどの地面のアスファルトに、深さ数cmほどの傷の穴がいくつか散在していた。

 

 その先に視線を移すと、赤茶色のレンガが積み重なって壁が造られている二階屋の建物があった。すぐに彼は、上側に並んだ窓枠の列のうちひとつが、レンガの壁ごと崩れているのを見つけた。耳を澄ませてみるが、建物の中から物音は聞こえてこなかった。

 

 レンガ造りの倉庫の前に佇んだルイは後ろを振り返った。誰もいない。再び壊れたレンガ壁を見つめる。そのとき建物の中から、誰かの息を飲む気配がした。気のせいだとは思わなかった。彼の身体にはまだ先日受けた傷の痛みが残っていたが、十分動くことのできるほどには回復していた。ルイはすぐに外壁に設けられている金属の階段に手を伸ばし、横から這い上がるようにして壁の穴を覗いた。

 

 まず最初に目に付いたのは、壁の穴の10mほど斜め下で立ち尽くす蒼い戦士の姿だった。そこには戦意は感じられず、何かを見て唖然としているようだ。蒼い仮面の視線の先をたどった。

 

 ふたつの影が、至近距離で向き合っていた。

 

 ルイの方から顔の伺える者は、もう一方に左手で頭を掴まれていた。相手の片手から吊り下げられているかのごとく両肩をだらりと下げ、頭だけをもたげているように見える彼女を目にすると、ルイは驚きの声を上げた。

 

「さくら! 」

 

 さくらの前に立つ金髪の女は彼の方を振り向いた。

 

 彼は崩れた窓枠によじ登り、穴を通り抜けて倉庫の床に降りた。その間にキルアはさくらの元から離れ、突っ立っている蒼き戦士の方へ走った。

 

「帰るぞ」

 

 ロウの元へたどり着くと同時に、ブロンドヘアの女はそう囁いた。青年は状況を理解できない様子でしばらくあっけらかんとしていたが、やがて彼女の意志に従って蒼穹の風となり、その場を去った。

 

 倉庫の中には力の抜けたように肩と頭を落として立っているさくらと、ルイだけが取り残された。彼は只事ではなさそうな少女の方へ駆け寄る。

 

「おい! 」

 

 と言葉をかけ、彼女の両肩を掴んだ。そのときだった。それまで何も話すことなくじっとしていたさくらが突然、顔を上げた。あっけに取られているルイの腹に、彼女の拳骨が食らわせられた。

 

「なっ」

 

 驚きの声と共に、彼は突き飛ばされた。さくらの目はいつもと同じ赤色だったが、心がすっかり抜け落ちたかのような顔をしている。彼を吹き飛ばした拳には紅い炎が宿っていた。

 

「どうしたんだよ! 」

 

 彼の心は動揺していた。まさか彼女を守るつもりで手渡した武器が、自分の前に立ちはだかることになろうとは思ってもみなかったのだ。だがそのあと青年に向けられたさくらの言葉は、彼の胸をさらにかき乱すことになった。

 

「気安く呼ぶな、、、」

 

「え、、、」

 

 動揺を隠せないルイ。だがそれに構うこと無く、彼の前に立ちはだかる女は徐々に全身の炎を沸き立たせていた。

 

 炎を纏った女は両腕に鎌を装着した。紅く燃え盛る刃を構える。

 

 炎の女はとびあがった。刃を体の右側に抱え込み、まっすぐに伸ばした背筋を軸として回転する。燃え盛る刃を、生身で立ちすくむ彼をめがけて振り抜いた。

 

 対する青年は、よほどの衝撃を受けたために、判断力を失っていたらしい。相手の攻撃を避けようともせず、それが自分の目の前に迫っていることだけに気づき、2本の刃を素手で受け止めた。

 

 刃身を握る彼の両手に深く斬り入る。ルイは顔をしかめるが、赤い血は流れない。業火の熱で、彼の手の平にできた傷口が焼き塞がれたのだ。

 

 相手の武器をおさえたまま彼が何も出来ずにいると、さくらは片足を上げてルイの腹に蹴り込んだ。彼は思わず刃から手を離し、4、5歩ほど後ずさる。前を向くと、相手の女は鎌を大きく振りかぶってルイの方を見据えていた。

 

「何があったんだよ」

 

 すっかり困惑しきった顔の青年は、震える声で訴えかける。彼の言葉も虚しく、闘志満々なさくらは青年に飛びかかる。しかし彼は構う様子もなく、彼女の心に思いを届けようと必死に叫んだ。

 

「何かあったのなら教えてくれ、さくら! 」

 

 突然、相手は動きを止めた。

 

「何だその不格好な名前は」

 

「は? 」

 

「私の名前は、、、くぁっ」

 

 そのとき彼女の言葉が顔の動きとともにぴたりと止んだ。女の身体を取り巻いていた紅い炎は消えた。口を開けたままの彼女は両手に鎌を握ったまま突っ立っている。

 

 ルイがなにか呼びかけようとしたそのとき。

 

「何をしたの! 」

 

 彼女は突然叫びあがったかと思うと、後ろを向いて両手を構える。

 

「さくら? 」

 

 奇妙な言動をしはじめた彼女に、ルイは恐る恐る尋ねた。茶色い髪はこちらを振り返る。彼女の瞳はルイの姿をしっかりと捉えたようだったが、その瞬間目を見張った。

 

「ルイ、、、あれ? 」

 

 ぽかんとした表情であたりを周りを見回すが、周囲の景色を見るごとに彼女の顔にはますます困惑が広がっていくような次第であった。

 

「どこ、、、? 何が起こったの? 」

 

 彼女は問いかける。さくらが自分のよく知る彼女に戻ったらしいことを見て取ったルイは安堵した。しかし彼女同様、突然の出来事を何一つ理解していないルイは何も言うことができなかった。

 

 謎に答える声があった。

 

「私がさくらくんを元に戻したのさ」

 

 さくらの身体の到るところから青白く光る粒子が流れ出る。その光の粒は倉庫の床に山積して人の形に変わりゆく。それは、さくらとルイ、2人ともがよく見知っている人物にして、今や共通の宿敵である男であった。

 

「カイラ! 」

 

 ルイは忽然として姿をあらわにした男に向かって声を上げた。男は応えなかった。

 

 それから後の出来事はほんの一瞬のうちに起こった。つまり、ルイが何かを考え付く前にもすでにカイラの体は再び青白い光を放ち始めていたのだが、男の隣に立つさくらの身にも同様のことが起こっていることに気づいた時には既に、彼女の肉体の半分以上がその場から失われていた。瞬く間に2人の影は光に飲み込まれるようにして消えた。

 

「さくら! 」

 

 ルイの叫びが倉庫の中にこだました。だがそれに答える者はいなかった。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 正二十四形の壁に囲まれた天井から床の全てがコンクリートの見た目をしている部屋。その中央に突然青白い光の点が現れ、広がるとともに二つの人の影を形成していった。そのうち片方―もう一方よりも背が数10cm低く焦げ茶色の髪をした女―が、その場所に到着するや否や目を丸くして驚きの声を上げた。

 

「なんなの、ここ」

 

「訓練用のアリーナだ、私が用意した」

 

 灰色のスーツの男がそう説明した。

 

「さくらくん、君にはさらなる進化を遂げてもらう」

 

「は? 」

 

「今日はそのために呼び出した」

 

 男は相手の訝しげな顔に向かって意味ありげな視線を送った。無言で見つめられたさくらはなんだか嫌な感じがして、思わず後ずさった。

 

 カイラは、口元の端を僅かに緩めて音を出さずに笑った。そうして、銀色に輝く左腕を胸の前に掲げ、相手に向かってまっすぐ一直線に据えた。さくらが身構える暇もなく、不審な光が彼女の体の中心に向かって放たれた。

 

 光がぶつかった瞬間、彼女は全身が焼き焦げるほどの熱い感覚を覚えた。しかし、その感覚は一瞬で消え失せ、徐々に身体の隅々が癒されるような感じがした。みるみるうちに全身の神経が研ぎ澄まされて、体の至る箇所からそれまで潜んでいた力がみなぎってきた。

 

 己の体の不思議な変化にあっけに取られていたさくらに向かって、男の言葉が放たれた。

 

「私と戦え」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 瓦礫に囲まれた中に一人取り残されたルイ。彼の心の内には 途方もない 焦燥が駆け巡っていた。あの男の目的は何なのか。さくらは今どこにいるのか。 無知が生み出す不安が 彼の全身に襲いかかる。

 

 孤独。何よりも一番の恐怖心の源はそういうものだった。その感情の、さくらの安否を心配する心持よりも大きくなっていくところが彼にはまた憎らしく、悔しかった。

 

 ルイは彼女から託された赤いマフラーをぎゅっと握った。 絹のようにつやつやとした赤い布はわずかに温かさを持っていた。

 

 そのとき、機械めかしい鳴き声が倉庫の中に響いた。ルイが顔を上げると、鳥型のメカが彼の頭上で宙を浮遊していた。

 

「居場所がわかったのか! 」

 

 彼がそう叫ぶと、黒い機械のフェルルは首を小さく左右に動かした。まるで、そうじゃない、と応えたかのようだった。

 

「ベロアグアか、、、」

 

 求めていなかったものを突きつけられたルイは少なからず落胆した。しかしその哀れな姿を、彼の中の別の瞳が鋭く睨んだ。

 

 己は仲間の危険のために立ち上がれなくなるほど軟な人間だったのか。何があっても人々を守るために闘う。それが彼女との約束だったはずだ。

 

 何より、さくらは強い。装甲に身体を守られてもいないのに、その屈強な身体と精神は、或いは自分をも凌駕するほどだ。彼女のことを信じられずに、一体誰を信じられるのだ。

 

 彼は身震いした。それから大きく息を吸い込み、身体の中に溜まっていた不安と迷いを一緒くたにして吐き出した。

 

 

 しかしまだ身体の中に重りが入っているような気がして、もう一度深呼吸をした後、再び感情に惑わされることがないうちに、急いで外へ出た。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 女の視界には、自分の立っている地点から数メートルの距離に足を揃えて姿勢を保ち、両腕を無造作に構える男の姿があった。いつもと同じ灰色のスーツに身を包む彼は、相手を試すような眼差しで見つめていた。

 

「来い」

 

 挑発の合図とともに、彼は片腕を横に広げた。ここに隙があるではないかと、なかなか動き出さぬ相手を煽っているかのようだ。

 

 さくらは訳も分からぬままに、相手に向かって駆け出した。すぐに相手の身体に到達し、右腕を振り回す。

 

 男の影は瞬発的に移動してさくらの攻撃を交わした。

 

 男とすれ違ったあと、彼女は少し止まってから振り返った。

 

「あなたたち、一体何がしたいの」すました顔を向ける男に問う。「半年前に記憶のない私を、都合のいいままに駒に使って。それで、罪のないオルタグアたちを襲って」

 

 するとカイラは、顎を少し上に向けるような仕草をして、質問に応じた。

 

「あのときはまだ、私もオルタグアの計画の意図を分かっていなかった」

 

「人間を殲滅させようとしてたのは変わらないでしょ! 」

 

「それは我々の意志ではなかった」

 

 カイラの言葉に驚いたさくらはそのとき、走り出そうとしていた足を踏み止めた。

 

「私達は指導者の観念に半ば洗脳されていた、そしてそれに気づいてすらいなかった」

 

「今更そんな言い訳、、、」

 

 さくらは動揺の色を浮かべた。しかし直後に顔を上げ、キリッとした目つきで相手を睨み、それから両腕の鎌を振りかぶって相手に斬りかかった。

 

「トラロックが止められた後も、巨大兵器で街をいくつも壊して! あのロボット、あなたが作ったんでしょ」

 

「君たちに許しを請う気はない。ただ、知ってほしいだけだ。我々も、平和を望んでいたことを」

 

 さくらの溢れ出る感情に、カイラは言葉を投げ返す。だがそれは彼女を沈めることはない。

 

「平和を望んでいたなら、平和な世界をつくろうとすれば良かったじゃない! それぐらいの力はあるでしょ! 」

 

「本当に、もっともだ」

 

 男のあまりにも素直な返答を聞いて、さくらは丁々発止とやり合う手を止めた。

 

「しかし我々にはそうすることが出来なかった。あまりにも弱かったのだよ」

 

 そう言い終えた彼の唇は僅かに震えていた。己の無力さへの忿怒か、或いは冷酷に迫り来る天命への憂慄からくるものかは言い定められぬがしかし、これまでにこの女に対して男がこのように心の内を吐き出すことはなかった。

 

 非情とは大きくかけ離れた心の持ち主であるさくらはすでに、相手に同情の心を寄せかけているところだった。そうした様子を見計らったからか、男はふいに元の冷淡な色に戻って相手を窺った。

 

「まだ君の本気を見せてもらっていないな」

 

 カイラはそう言って数歩後ろへ下がると、戦い始めと同じ構えを取った。

 

 呆然とするさくらは、男の誘いを受けても斬りかかろうともしない。彼女の迷いを感じ取った男は、頬の辺りに表れつつあった人情の欠片をこめかみの方にすっかり押しやり、冷淡な笑みを取り繕った。

 

 相手の意図を読み取れないさくらだったが、一向に表情を崩さない男を見て、その固い意思を覚えずにはいられなかった。ゆっくりと足を前へ踏み出し、地面を後ろへ蹴ると左腕を相手の方へ回す。カイラは鋼鉄のごとき左腕でそれを受け止めた。

 

「そんなものか! 」

 

 彼ははっきりとした声で怒鳴り立てた。その勢いに答えんばかりに、さくらは後ろで構えていた右腕を一気に相手へ差し向けた。

 

 覚悟を決めた彼女の一撃で、男の身体はアリーナの中心位置から外側へ飛ばされる。冷たく固い床から起き上がった彼は、身をかがめるようにして左腕を覗き込む。87。

 

「足りないな! 」

 

 カイラはわざとらしいほどの大声で叫んだ。

 

「何よ! 」

 

「我々ベロアグアへの怒りはその程度だったか」

 

 男はそう言うと立ち上がり、相手の方へ向かって一直線に走った。驀進するカイラの身体に、さくらは銃口を差し向けた。

 

 白い稲妻。電撃を受けた彼は小さく呻いて立ち止まる。そこへ立て続けに凄まじい速度で飛びこんでくる大口径の弾丸。だがカイラの視界にはそれがはっきり映っており、素早く左腕を動かして身をかばった。63。

 

 カイラは挑戦的な眼差しでさくらを見つめ直し、悪戯な笑みを浮かべた。

 

 さくらは再びD206鎌状武器に持ち替える。それから相手へ向かって一目散に駆け、宙へ飛ぶ。相手の身体へ接近しながら背筋を軸に回転する。

 

 その加速を利用してまず右の刃で斬りかかった。男は臆することなく鋼鉄で防ぐ。しかしそこに二発目の斬撃。そこから再び回転し、三度目の太刀を浴びせた。

 

 その最後の攻撃でカイラの防御は崩された。彼は身体を後ろ斜めへ逸らし、後ずさる。すかさずさくらは飛びかかった。右腕の鎌を大きく振り上げ、宙に曲線軌道を描きながら相手に迫る。鋭く光る刃が、男の視界に振り下ろされた。

 

 さくらの右腕は、カイラの顔の僅か1cmほど前で止まっていた。男は間違いなくいくらばかりか身体を刻まれたはずだが、痛みはやってこない。不思議に思った彼が目の前に静止する拳に焦点を合わせると、そこには刃が装着されていなかった。

 

 床には、放り出された鎌が転がっていた。カイラはそれからゆっくりと視線を下げ、左腕の数値を読んだ。98。

 

 ふっと息を漏らして、相手を煽るような眼をつくったカイラは歩み出そうとする。しかし、彼の目の前には黒い銃口がまっすぐに向けられていた。マシンガンを片手で構える彼女の指は、引き金にかかっていなかった。

 

「、、、もう、いいでしょ」

 

 彼女はさっきよりも落ち着いた様子だった。本人でさえそれに少し驚いていた。

 

 カイラは取り繕っていた表情を緩めた。

 

「私の負けだ」

 

 そう言うと彼は、相手の前に右手を差し出した。そこには白金に輝く新たな力の根源が握られていた。

 

「私の知能と力のかけらを与えよう。今まで君たちを利用し続けた詫びだ」

 

「、、、全然足りないわよ」

 

 銃を下ろした彼女は呟いた。

 

「私は人間が嫌いだ、だが信じることにした。君たちが信じる未来のために」

 

 さくらはそのとき、いつの日か仲間の戦士が言い放った言葉を反芻した。彼女は腑に落ちたような顔つきをして見せると、口を開く。

 

「組織の裏切り者って、あなただったのね」

 

 ごほん、と、彼女の言葉を聞いたカイラは喉を鳴らした。

 

「その呼び方はやめてほしいな、さくらくん。古き傷が痛む」

 

 裏切り者の存在は、彼にとって目新しいものではなかった。ちょうど、過去に裏切られる者の痛みを味わっていた彼は、自分が去ったあとの組織に残る同胞のことを思うとどうしても心咎めがするのだった。

 

「さっき私をここへ連れてくる前、一体何が起こってたの? 」

 

 さくらの声が、記憶の深淵へ遡ろうとしていた彼の意識を引き戻した。

 

「それを君に言う前に、ルイのところへ行かねばな」

 

「ねえ、なんで私のことだけずっとくん付けなの?ルイのことはルイって呼ぶのに」

 

「すまない、癖で。ついね、つい、、、」

 

 さくらの怪訝そうな顔を見てとった彼は、再び咳払いをした後に、口を開いた。

 

「我らのヒーローを助けに行こう」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 刻を同じくして、遠く離れた市街地。

 

 アスファルトの路上を、白く輝くバイクマシンが疾走していた。後部エンジンから噴き出す薄灰色の煙。バイクを操縦するのは紅い装甲に包まれた炎のハルガだった。頭の後ろに、赤色のマフラーがなびく。

 

 白いバイクを選んだのは故意だった。己のために作られた、赤色のマシンの方が炎のエネルギーとのシンクロ率が高く、戦いにおいても優位に立てることは分かっていた。強力な黒いハルガの力を失った今、己に適合するマシンを使わないことは自分を更に苦境に陥れるだろうということもだいたい予想がついていた。だが仲間を見失った彼は、エネルギーの出力に頼るよりも心の支えを必要としていた。

 

 しばらくして、高層ビル郡の一角にたどり着いた炎のハルガはバイクのエンジンを止めた。戦士が見上げる視線の先には、黒い装甲の巨大兵器と、その肩部の装甲の上に立つ赤い髪の男が立ちはだかっていた。

 

 男の瞳はいつもと異なる様子だった。というのは、それまで敵味方構わず誰にでも向けていた子供のように興奮で輝く表情の面影は消え去り、そこには目下の戦士をただ打ち破らんとする敵愾心に満ちた顔があった。

 

「頼りの切り札は持ってないか」

 

 男は戦士の色鮮やかな装甲を見て捉えると、からかうように言った。ルイは悔しさを握りしめた。

 

「今度は何をするつもりだ」

 

 ルイは、一度は共に戦った者の瞳を見つめた。あのとき彼は記憶を失っていた上に、戦った敵は本当に闘うべき相手ではなかった。それでも、確かに彼はある種の心の同調を感じ取っていた。だがその感じも今の相手にはまるでない。

 

「人類の殲滅の他に何があるんだ」

 

 キキスは単調な声色で返した。ルイはぞっとした。

 

「この場所は、、、なぜ誰もいないんだ」

 

 彼は殺伐とした風景を見渡しながら言った。しばらくたっても返事がないので相手に再び視線を合わせると、男は口元を歪ませていた。

 

「まさか、、、お前が! 」

 

 ルイが叫ぶと、男の顔はさらに引きつった。甲高い笑い声を立てながら彼が右腕を掲げると、それまでほとんど動いていなかった巨大兵器の右腕が持ち上がり、キキスの真似をするように姿勢を変えた。そして次の瞬間、兵器の黒い装甲は凄まじい勢いで紅いハルガの頭上に迫る。

 

 炎の戦士はぎりぎりのところで座席から飛び上がり、相手の強硬な殴打をかわした。地面を転がったルイは身体を起き上がらせると、視線を横へ向けた。白い板の破片が、鋼鉄の装甲の下に重なって平たくへしゃげていた。

 

 彼がいくらばかりかの動揺に心を惑わされるのも束の間、彼の身には巨大兵器の左腕が向かっていた。炎の戦士は装甲との距離が20mくらいのところで迫りくる剛腕を察知し、衝突は免れられないと悟った。そこで彼は腰を落として右拳を後ろへ構え、全神経を集中させて腕部だけに炎を注いだ。視界が黒色で覆い尽くされる瞬間、彼は身体の底から力を振り絞って相手のど真ん中を撃ち抜いた。

 

 炎を纏った一撃と激突した巨大ロボットの腕は僅かに速度を緩めたが、それまでの加速度があまりにも大きく、ルイの抵抗は塵に同然だった。破れた戦士は地面とぶつかり、それから弾かれるようにして宙を進んでビルの壁に衝突した。轟音の響くと同時に、パネルの壁に亀裂が走った。

 

「カイラさんの道具がなきゃ、その程度ってことか」キキスは戦士の無力さを嘲笑うように言った。「仲間の助けも間に合わないっすよ、俺の圧勝っすね」

 

 このような言葉を捨て吐いて、キキスは右腕を大きく掲げた。黒い鉄槌がルイの目の前に振りかざされた。

 






 お読みいただきありがとうございます。ハーメルンでの感想やX(Twitter)での読了報告などお待ちしています。

 銀白の腕とは、カイラを表す字です。彼の左腕が機械である理由は外伝に描かれている通りですが、ハルガのストーリー内でも屈指のチート能力を持ちます。物体及び人物の高速テレポート、攻撃にも防衛にも有利な硬度、そして人物の身体の中に潜む(?)などなど。次回はもっとびっくりすることが起こりますよ。

 今後とも『仮面ライダーハルガ』をよろしくお願いします。次回 EPISODE 20 に、御期待下さい。


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