【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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仮面ライダーハルガ、前回の3つの出来事!

1つ! 正気を失ったさくらは彼に向かって刃を差し向ける! だがそこへベロアグアのひとりであるカイラが現れ、彼女を連れ去ってしまう。

2つ! さくらを別空間に連れ込んだカイラは、”進化を遂げてもらう”ための戦いを始める。思いをぶつけ合った二人の戦闘は激しさを増し、さくらは相手を窮地へ追い込むが、最後の一手というところで踏みとどまり、戦いを終える。

そして3つ! 仲間を失ったルイは恐怖心にかられながらも、人間を守るという強い意志のもと、街に現れた巨大兵器との戦いに身を投じる。黒い兵器を操っているのは、ベロアグアのひとり、キキスであった!




EPISODE 20 白金の鎧

 

 

 ビルの壁に向かって振り下ろされる黒き鉄槌。真下にいる紅い装甲の戦士は、巨大兵器の装甲が壁を打ち抜くのと僅か0.06秒の差で横へ飛び退いた。

 

 地面に叩きつけられた巨大兵器の装甲は路地の表面をえぐりとった後、ゆっくりと頭部を炎の戦士の方へ向ける。巨大ロボットの、人でいう肩に値する装甲部に、赤い髪の男が颯爽と立っていた。男の眼差しはいつにも増して闘争心に燃え盛る。

 

「もう分かっただろ」と、地面に立つ戦士に視線を注ぎながら男は声を張り上げる。「あの装置がなきゃ、俺に勝てないんすよ」

 

 そう言ってキキスは可笑しそうに笑う。紅色の装甲に身を纏った戦士は何も答えず、目の前に立ちそびえる巨大兵器をただじっと見上げる。

 

 赤い髪の男がこれほどまでに戦意をむき出しにするのは、前の夜に組織の拠点にて彼が抱いた、どこにも追いやることの出来ない屈辱感が今もなお彼の胸の中で燃え上がっているからであった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 赤い髪の男は黒い部屋に足を踏み入れた。テーブルには馴染み深い灰色の背中があって、彼が足音を立てながら近づくとこちらを振り返った。彼がこの場所へ来るように誘ったのはカイラであったが、彼は相手の顔に視線を送るだけで何も話出そうとはしなかった。

 

「カイラさん」

 

 と、辛抱強いわけではないキキスが、自分に割り当てられた座席に腰掛けながら口を開いた。

 

「本気で人間を滅ぼす意志が、まだあるんすか」

 

「どういう意味だ」

 

 カイラは相手と目を合わせて聞き返す。

 

「そのまんまっす」

 

 すると、カイラは僅かに口元を緩め、話し始めた。

 

「あるかもしれないし、ないかもしれない。だがいずれにせよ、君がすべきことは変わらない。」

 

 男はそう言った。曖昧な返答を受けた赤い髪の男はいつになく殺風景な表情をして、暗がりの一点を見つめた。

 

「ロウという男について、君はどう思う、キキス」カイラは相手に向かって尋ねる。「オルタグアでありながら、私情に打ち負けて我々ベロアグアの味方という立ち位置に着いている」

 

「そうですね」

 

 若い男のそっけない返事を聞いたカイラは、内心ぎょっとした。それと同時に「ですね」という彼の言葉遣いが、彼と出会って間もない頃の記憶を思い返させる。

 

「でも、それならアイゼさんも一緒っすよ」

 

「、、、驚かなかったのか」

 

「驚かなかったかって? 」

 

 キキスは聞き返す。彼の声色や口調は以前の彼とは違っていた。

 

「そりゃあ、心の中では叫んでましたよ。なんで僕には黙ってたんだ、って」

 

 彼が自分のことを僕と呼ぶのは数年ぶりであった。続けて彼は、相手を非難するような眼差しで見上げる。

 

「カイラさんは、知ってたんでしょう」

 

 そう言われた男は、若干顔を歪ませながら口を開いた。

 

「秘密にする意図は無かったのだが。仲間のひとりがオルタグアであることを知ってしまえば、団結力に傷がつくと思ったのだよ」

 

「そこまで分かってて黙ってたんすね」

 

「何が言いたい」

 

「、、、別に」

 

 そこでキキスは重いため息をついた。そして再び口を開くと、このような言葉を言った。

 

「ただ、僕たちの目指す先は、このチームが集まった時から少しずれていたのかもしれないなって、そう思っただけっす」

 

 若い男から予期していなかった答えを受け取ったカイラは焦りを感じる。彼と出会い、行動を共にするようになってから、キキスは一度たりとも自分との信頼関係を忘れたことはなかったし、自分もまたそのような関係が長く続くものだと思っていた。

 

 だが、当然のことだ。相手は人間と同じ心を持ち、他人のために己の意志を封じこむことの出来ない強い本能を持っているのだから。

 

「キキス、」と沈黙を破る。いよいよ彼は、相手に己の真意を打ち明ける心構えであった。

 

「私たちは人間を憎み、恨んでいた。それは我々の時代を生きる人間が、私達と共存する道を選択しなかったからだ。だが別の未来、オルタグアの未来では違うらしい。彼らは人間との共生を果たしている。私達がすべきことは、この時代の人間を滅ぼすことではなく、いずれ我々との共生を果たす道へと導くことだと思わないか」

 

 そのときキキスが、ひとつ大きなため息をついて「もう、やめにしましょう」と口を挟んだ。「こんな話をしたところで、どうにもならない」

 

 キキスはこれまで備えていた陽気さを一切捨ててしまったような表情をしていた。誇張のない率直な感情表現は、しかし、むしろ彼を以前よりも人間らしくしていた。

 

「変わったな、キキス」

 

 灰色のスーツの男はそう呟いた。

 

「カイラさんこそ、最近妙に人間臭くなったっすよ」

 

「人間臭い、か、、、」

 

「まさか、自分が人間じゃないことを忘れたりしてないっすよね」

 

 相手の咎めるような眼差しを受けて、カイラは苦い笑みを頬に浮かべた。

 

「忘れたことは一度もないさ」

 

「そう、ならいいです」

 

 冷たい返事を向けられたカイラは、まるで自分の無情さが彼に移ってしまったかのように思った。赤い髪の男はそれから、掛けていたテーブルから立ち上がって右へ回ると、部屋の出口の方へと消えていった。

 

 部屋を立ち去るキキスを見ていた男は、彼の背中がすっかり暗闇に溶けこんで見えなくなると、誰に言い聞かせるわけでもなく呟いた。

 

「願ったことはいくらでもある」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 巨大兵器の視界の下端に立つ紅い戦士は、斜め上へ跳び上がった。下半身に盛りの炎をたぎらせながら宙を直進。巨大兵器の、赤い髪の男とは逆側の肩に乗る。そこから左拳を燃え立たせると、自分の身体と同じくらいの大きさの、巨大兵器の頭部をめがけて撃ち放つ。

 

 ルイの作戦は僅かに効き目があったようで、殴打を投げたあと彼の足元―すなわち巨大兵器の装甲は揺れ動いた。

 

 彼は再び左腕を振り上げ、二度目の攻撃を喰らわせようとした。だがそのとき、向こう側の装甲に乗っていたキキスがルイの側へ飛びかかってきた。ルイは左腕の軌道をすぐさまずらし、相手の身体に向けた。だが炎の拳は男の左手で流されるように払い除けられ、直後に男の右手に握られた薙刀が紅い装甲に襲いかかった。

 

 肩から背中にかけてを打ち付けられたルイはよろめき、足を踏み外した。紅い装甲の戦士は巨大兵器のボディの上を転がるようにして、地面へ落ちていった。

 

 赤い髪の男は戦士の肉体がアスファルトに衝突するところまで見届けると、今度は巨大兵器の頭部装甲に飛び乗った。それから間もなく、ロボットの右腕が大きく掲げられた。

 

 地面にできた窪地に横たわるルイ。その首には紅いマフラーが結ばれていた。ルイは身を奮い立たせるようにして全身の力をふりしぼり、身を起き上がらせた。薄暗い色の地面に足をつけ、立ち上がった彼の頭上にはしかし、玄翁のごとき装甲が迫っていた。

 

 その瞬間、青白い光の矢が彼の視界を左から右へと貫いた。目の前まで迫っていた黒い巨大な鎧は本体から引き剥がされ、斜め向きに飛ばされて地面に衝突した。凄まじい衝撃音が辺り一面を伝った。

 

 ルイは目を見張った。舞い上がる砂礫の中に立っていたのは、全身をすっかり装甲で覆われた、白金に輝く鎧の戦士であった。

 

 鎧の戦士はこちらを振り返った。ルイはそうして気がついたのだが、戦士の左腕は、他の部位の装具とは幾らか色合いが異なる銀白色であって、まさしく彼の元からさくらを奪っていったカイラのものであった。

 

 ところが奇妙なことに他の装具はすべて、かつて赤い髪の男が着用した後、ルイたちが破壊したはずの黒い鎧と瓜二つなのだ。これらの事柄をふまえて、今己の目の前に立ちそびえる鎧の内側にいるのはカイラであろうと彼は思い込んでいたので、次の言葉を彼が聞いた時には、驚きのあまりに震え上がる次第であった。

 

「ただいま」

 

 ルイに向けられたその言葉は、間違いなく彼の心の最も気にかかっていたところにある女だった。彼はあっけにとられ、しばらく押し黙っていたが、徐々に安堵の息とともに脱力感が全身に覆いかぶさった。

 

「さくら、、、」

 

 彼が囁くように言うと、鎧の戦士はルイの前に手を差し伸べた。彼はそれが戦士の右手であったことに感謝しながら―というのも、彼はずっと左腕の正体が気にかかって仕方がなかったからであるが―白金の鎧に引き上げられるようにして立ち上がった。

 

 ルイは、白金色の仮面の奥に潜んでいるであろう赤い瞳と視線を交わした。無機質な装甲の内側から、心の温かさが滲み出ていた。そのようにして一旦心の有り様を落ち着かせた後、彼は視線を斜め下に落とした。

 

 ルイが銀白色の機械質な腕に注目を注いでいると、その腕は突然、まるで吊り下げられた糸によって操られているかのように動き、ルイの方に手のひらを向けた。

 

「やあ、ルイ」

 

「その声、、、やっぱりお前か」

 

 やや唸るような声をあげ、彼は相手の正体を確かめた。

 

「そんなに失望しないでくれたまえ。さくらくんとは色々あったが、ひとまずここは協力することに決めた」

 

「ホントなのか」

 

 ルイは疑うような視線を銀白色の腕に注いだ後、白金の仮面の方を振り向いた。

 

「まあ、そういうかんじ」と彼女は答えた。「私もまだ納得してないけど。でもとりあえず今は、あいつをどうにかしなきゃ」

 

 そう言う彼女の視線は黒い巨大兵器を見上げていた。キキスは既に、もう一体のロボットの配備を完了していたが、先程のロボットが地面に残した大きな瓦礫のおかげで、ルイたちの居場所はまだ彼に見つかっていなかった。

 

「あのロボット、」

 

 と銀白色の腕から声が響いた。

 

「キルジンカルマと言うんだが、キキスが完全に行動を制御しているらしい。どうやってシステムに介入したのか知らないが、私の想定からはおよそ程遠いところにあると言えるね」

 

「ねえ、ずっとこれでいくの? 左腕で喋られたら振動がこっちに伝わってきて、そわそわするんだけど」

 

 さくらが意外な不満をたれると、カイラはくぐもった声で咳払いをした。

 

「これは失敬。しばらく黙っておこう」

「とその前に。さくらくん、ルイにパルマナカルマを返したまえ。君がそれを使う必要はない」

 

「あれ、」と彼女は甲高い声をあげる。「なんで私が持ってるの」

 

「えっ」ルイはちょっと顔をゆがませるが、彼も紅色の仮面を被っているので相手には見えない。しかしカイラは彼の疑心を汲み取ったようで、次のように答えた。

 

「それについても、後で話そう。ところでキルジンカルマの弱点は左脚に埋め込まれた回路合流制御システムだ。そこを壊せば一切の行動が停止する。私とさくらくんであの男の邪魔を止める。その隙にルイはキルジンカルマを狙え」

 

 カイラはそこまで一息に話し切ると、口を閉じた。もっとも口は見えないし、口から音を発しているのかも定かでは無いが。

 

 ルイとさくらがだいたいの納得を果たしたとき、突然地の避けるような轟音とともに、粉々の黒い破片が飛び散った。頭上には黒い装甲を備えた巨大ロボットが、ふたりの戦士が身を潜めていた瓦礫を破壊して立ちそびえていた。

 

 すぐに真っ黒な拳が飛びこんでくる。ふたりの戦士は息ぴったりでそれぞれ外側に飛び退いた。

 

 紅い戦士は巨大な装甲から十分に離れた後、相手の巨躯をその目に焼き付けていたが、しばらくしてしゃがんだ状態から下半身に炎を巻き上げ、そのまま飛び上がってロボットのボディへ向かった。空中を貫くように突き進みながら、彼の装甲はいつの間にか漆黒に変化していた。

 

「ルイ! 」

 

 白金の戦士は彼を止めようと叫ぶが、炎の戦士は速度をゆるめなかった。脚部には目もくれずに突き進み、すぐにロボットの胸のあたりに到達した彼は黒い装甲の隙間に手を差し込むようにしてしがみついた。

 

「カイラ、お前が壊せ! 」ルイはロボットの装甲に張り付きながら地上に向けて叫んだ。「本当に組織から抜け出して、俺たちに協力するんなら、自分の手でロボットを破壊してみせろ! 」

 

 それだけ伝えると、炎のハルガは巨大な装甲の一部を両脚で蹴って、さらに上を目指した。

 

「、、、わかった」

 

 男は返事をした。その直後、銀白色の装具はさくらの左腕から浮き上がるようにして分離した。たちまち、白金の装甲が彼女の腕を覆う。分離した腕の装具からは、青白い光の粒が流れるようにして溢れ出て、地面に降り積もっていった。

 

 姿を露わにした灰色のスーツの男は、白金の戦士の方を振り返ると、口を開いた。

 

「キルジンのシステム破壊は私がやる。君たちはキキスを止めてくれ」

 

 そう告げると、カイラは上空を見上げた。ちょうど黒い装甲の戦士がキルジンカルマの最上部にたどり着き、赤い髪の男に飛びかかっているところだった。

 

 すぐ隣で、ブースターの吹き上がる音がした。白金の戦士は両脚をまっすぐに揃え、炎の戦士を目指して飛び上がっていった。その姿を見届けると、カイラは目の前の巨体に視線を移した。

 

「自らが生み出したものを自らの手で破壊するとは、滑稽だな」

 

 男は自嘲的な言葉を口にしてのけると、己に冷淡な笑みを向けた。それからすぐに厳格な顔つきに染まった彼は目標を鋭く見据える。それから脚を曲げてしゃがみ込んだかと思うと、素早く地面を蹴ってほとんど一直線に標的とするところに向かった。

 

 程なくして男はロボットの左脚部に到達した。彼が装甲の内部に侵入しようとしたそのとき、凄まじい速度で回転しながら迫り来る薙刀。

 

 カイラは近づいてくる薙刀に向けて左手のひらを掲げた。彼の肉体が切り裂かれる寸前、男の全身は細かな青白い粒子の集合に変わった。光を放つ粒はたちまち機械の腕に吸い込まれていった。

 

 しかし、薙刀が描く軌道は押しつぶされた楕円のようであった。すなわちカイラがその刺客とも呼ぶべき攻撃をかいくぐった後、すぐにそれは方向を曲げて銀白の腕に向かっていった。

 

 人間の肉体を捨てたことで飛躍的に身軽になったカイラは、宙を平行に移動して長刀との衝突をかわす。そしてさらに迫り来る黒い影に、あと0.1秒でも早く気がついていれば、彼はそれから間もなくしてロボットの停止に成功していたに違いない。

 

 だが事はそう上手く運ぶとも限らなかった。キキスの操作下におかれた巨大ロボットは、その大きな腕をぐるりと前にまわし、小さな銀白色の腕を捕らえに行った。黒い五本の指が、カイラの腕を完全に挟み込む。

 

 ロボットの巨大な指に強い圧力を加えられて、火花を散らす。機械の装具から悲鳴が漏れ出ることはなかったが、ぷすぷすと噴出する煙の筋が、男が急所を押さえられてただ事ではないことを暗示していた。

 

 小さい腕はしばらく大きい方のなすがままに動きを止めていたが、ふいに銀色の指は掌を相手の手中に向かわせるようにして開かれた。青白い光が現れ、稲妻が走り出す。途端に銀色の腕は電撃で包まれるが、同時に雷電は黒い装甲を伝わり、上へ上へと駆け抜ける。

 

 鉄壁のごとく巨大兵器の装甲は、電撃を浴びてもなんら損害を受けていない様子だった。しかし、その巨大兵器の上部を舞台として拳を交わす3人の戦士たちの足元にまで、白い稲妻は迫り来ていた。

 

 そのときちょうど、炎の戦士が赤い髪の男の背後から熱い拳を見舞わんとしていたのだが、突然彼は全身を釘で打ち付けられたかのように動くことが出来なくなった。相手の男もルイ同様、後ろを振り返ろうとした姿勢のまま、襲いかかる電撃に顔をしかめていた。

 

 唯一動くことを許されたのが、白金の戦士である。

 

 彼女は鎧を稲妻に覆われてもそれまでの行動を遮られることなく、自然のままに五体を動かすことに成功していた。さくら自身もその状況に驚いたが、すぐに気を持ち直してキキスに迫り、十分に近づくと右足を蹴り上げた。

 

 白金のキックを受けた男はその凄まじい勢いによって電撃の呪縛からも引き離され、宙に浮いたあと落下していった。

 

 キキスの肉体は地面にまっすぐに向かっていった。そしてなんたることか、絶妙な瞬間と角度の具合によって、男の身体は悪戦苦闘している銀色の腕と激突した。

 

 途端に、ロボット兵器の指は弾かれるようにして位置をずらされた。組織の反逆者の腕は黒い檻の中から解き放たれ、同時に彼を取り巻いていた白い稲妻も姿を消した。順々に、黒い巨大兵器を覆っていた電撃は収まっていった。

 

 さて、自由な身動きが可能になったカイラは迅速に体勢を整え、狙うべき巨大装甲の急所に向かった。キルジンカルマの視野角の外側に入り込むと動きを止め、宙を浮遊した。直後に青白い光が姿を現す。

 

 人間の姿に戻った彼は右腕を大きく振りかぶった。まぶたをゆっくりと閉じる。わずかな時間の間に全神経を集中させ、全身の力を最大限まで引き出す。再び両眼を開くと、黒い金属装甲めがけて拳を力一杯に叩きつけた。

 

 雷鳴のような破滅の音が轟いた。素手の拳は装甲を貫き、内部システムもろとも残すところなく打ち壊していた―人間に真似できるような業でなかったのは、言うまでもない。

 

 ちょうど男が全身の筋肉を緩めて右腕を引き戻したとき、轟音を聞いたふたりの戦士が巨大兵器の上部から滑るように降りてきた。カイラは大きな窪みの残った黒い装甲を蹴って、地面に舞下りた。

 

 3人の戦士は顔を―或いは、仮面を―見合わせ、互いに視線を交わした。

 

「どうも妙だ」としばらくして灰色スーツ姿の男が口を開いた。「まさかとは思っていたが、私がロック停止させていたキルジンカルマの一部機能が、解除されている」

 

「組織の誰かがやったの? 」と白金の仮面を被った女が尋ねた。

 

「恐らくな」

 

「機能ロックって、どういうことだ。何のためにそんなことをしてた」

 

 ルイがそう問いかけると、カイラは一度口を閉ざし、喉仏をごくりと縦に揺らした後で話した。

 

「私は仲間に悟られることなく、被害を最小限に抑えたかった。あれを開発した時に、いわば不発システムのようなものを埋め込ませていたのだよ。表向きは行動モデルの一部で、現実には全く動作しないものだった。だから、それを有効化するためのコードも作らなかったのだが、誰かが作り上げたらしい」

 

「なんでわざわざそんなことを」

 

「組織の裏切りは最初から、私の計画の一部だったからね」

 

「最初って言っても、ホントの最初じゃないだろ」

 

 ルイが尋ねると、男は彼の方を振り返った。カイラが口を開きかけていたそのとき、背後で瓦礫の割れる音がした。

 

 一同は音の聞こえた方を振り向く。すると、ちょうど大きなコンクリートの塊が真っ二つに割られ、音を立てて崩れた。砂埃の中には、赤い髪の男が立っていた。こちらに向けて、憎しみの混じった笑みを浮かべていた。

 

「キキス、待て」カイラは戦意に燃えているらしい男に向かって言った。「これ以上争っても何も変わらない。君と私のどちらかが―」

 

 相手を説得しようという試みは、直後のキキスの行動によってへし折られた。赤い髪の男はこちらに向かって駆け出したかと思うと瞬時に宙へ飛び上がった。黒と白の戦士は相手の描く軌道を視線で追って身構えたが、すぐに男の狙う先が自分たちでないことに気づく。キキスは雄叫びを上げながら、灰色のスーツ姿の男に飛びかかっていった。

 

 赤い髪の男は右手を振り回し、平手をカイラの左腕に、かっさらっていかんばかりの凄まじい速度で叩きつけた。それから隙を許さずして、身体をひねり、左脚を相手に向けて勢いよく振り上げた。

 

「ぬぐぁっ」

 

 唸るような悲鳴をあげて、カイラは斜め上へと蹴り飛ばされた。

 

 赤い髪の男は右拳を握りしめ、荒い息を吐きながらも颯爽と佇む。そうして次の獲物と交戦しようと、後ろを振り向いたとき。

 

 空にはふたつの丸い影。それらは別々の色に輝いており、どちらとも空中で凄まじい速度で回転しているらしかった。黒い方には燃え上がる炎が、白い方には閃光とともに青白い稲妻が全体を覆っていた。ふたつの影は地面に立ち尽くすキキスとの距離が僅か3mのところで体勢を変え、片脚を大きく前へ繰り出した。

 

 二人の戦士は相手の肉体に激突。それでも勢いは緩まることなく、重力を無視するように宙に留まり、相手に圧力を加え続けた。

 

「がぁぁああああ」

 

 キキスは雄叫びをあげながら、胸の前で交差させた両腕を、力の限り前へ押し返そうと踏みとどまる。

 

 双方の力が長く拮抗した後、突然、二人の戦士は不自然なほどの勢いで跳ね返された。というのは、今にも打ち負けそうな様子であった相手の方角から、ふいに目に見えぬ力が湧き出たかのような感覚を覚えたのだ。だがもっと驚くべきことに、戦士を押し返した後、キキスの姿はその場から跡形もなく消え去っていた。

 

 

 

 呆然と立ち尽くすふたりの元へ、灰色のスーツ姿の男が近寄った。彼らは視線を交わし、互いの無事を確認すると、緊張しきっていた全身から力を抜いてふっと息をついた。

 

 そのとき、キィイという高い音波が彼らの耳に届く。上空には太陽に照り輝く黒いボディの鳥型メカが浮遊していた。地上に立つ灰色のスーツの男は、フェルルの羽ばたく翼に目を合わせると、若干眉間を歪ませた。男の視線の先には「056」と印字されていた。

 

 カイラは何やら物思いにふけっていたが、ふいに隣で湧き上がった煙によって我に返る。炎の戦士は青年の姿に戻っていた。そして青年の視線は、彼の目の前に立つ白金の戦士に注がれていた。

 

 明るく照り輝く装甲を纏った戦士は、腹部に装着されている突起の多い銀色の小型機械に手を回した。中心に埋められた、黄色く光る球体に指を滑らせる。すると、小型マシンは僅かに金属同士の擦れる音を放ち始め、突起は回転し、球体の内部に吸い込まれていった。それと同時に、戦士の肉体を覆っていた鎧もまた、ベルト状機械の中心へと吸収されてなくなった。その場に残っていたのは、赤くはっきりとした眼差しでルイの方を見つめる、茶髪の女だった。

 

「無事で良かった」

 

 彼女の姿を目にした青年は、安堵のため息とともに微笑む。さくらもいたいけな笑みを向けた。

 

 ルイは、自分の後ろに佇んでいる男の方を振り返った。

 

「カイラ、どういうわけか説明してくれ。一体何が起こったんだ」

 

 スーツの男は神妙な顔つきをし、それから口の中に溜まっていたものをごくりと飲み込むと、口を開いて語り始めた。

 

「さくらくんの記憶はアイゼ、、、キルアの手によって一時的に消去された。君と拳を交えていたのも、それが原因だ」

 

 そのとき、男の話を初めて耳にしたさくらは、えっ、と声をたてて青年の方を振り返った。ルイは、なにも問題がないことを示すために彼女に笑いかけた。それからふいに、炎の鎌に刻みこまれた両手の傷のことを思い出し、慌てて腕を背中に回した。

 

「しかし私は」とカイラが再び話し出した。「先日君たちと交戦した際に、さくらくんの記憶を全て複製し、保存していたのさ。気づかなかったかもしれないが。そしてそれを先程元に戻したのさ。今ではほとんど元通りのはずだ。ただ、数日前の時点での記憶を戻しただけなので、私が記憶を複製してからさくらくんが正気に戻るまでの間に起こった出来事は、すべて脳内から消去されている」

 

「でも私、覚えてることもあるわ」とさくらが口をはさんだ。「あの後、ルイが誰かに襲われて、それから、その赤いマフラーをあげたことも」

 

「ほう」とカイラは返答し、それから唸った。「完全に消された訳でもないということか」

 

 カイラは何かを考え込むような仕草をし始めた。ほかの二人はそれを黙って見ていたが、やがて青年が沈黙を破った。

 

「今まで散々俺たちと敵対してきたのに、なぜ今になって協力するんだ」

 

 灰色スーツの男は顔を上げ、答える。

 

「悪いのは人間ではない、人間を変えてしまう何か大きなものがあるはずだ。そう気づいた。だから、この時代の人間を消す必要はない。そんなことをしても無意味だ」

 

「、、、信じて良いのか」

 

 ルイはそう尋ねた。彼の、頑固なほどに他人を信ずることを道義とする心は、常人からは大いにかけ離れたものであり、その精神こそが彼を忍耐強くし、戦士たらしめていた。仲間との絆をすでにひとつ失っていた彼は、だからこそ相手に疑心を向けるのではなく、敵であるはずの男を信じたいという思いに駆られていた。

 

「君が信じて良いと判断したなら、信じてくれ」

 

「私もまだ納得してないことが山ほどあるわ」とさくらが言った。「でも、ルイが信じるって言うなら、私も信じてみる」

 

「、、、分かった」

 

 ルイは覚悟を決めた。彼は男の方に向き直り、こう言った。

 

「お前が俺たちを助けてくれたのは確かだ。だから今は信用する。もし何かしたら今度は二度と信じない」

 

「いいだろう」

 

 男は頷いた。

 

「今、一つだけ教えて。どうしてベロアグアは人間を憎んでたの」

 

 さくらがそう問いかけると、カイラは大きく息を吸い込んだ後、未来で人間とベロアグアとの間に起こっていた出来事の数々を話し始めた。彼自身や、彼の仲間の身を襲った惨苦の中から、誤解を与えず、それでいて事実をはっきりと伝えられるようなものを選び抜いて話した。深刻な空気にならないように、できる限り軽い調子で語ったつもりだったが、それを聞いたふたりはかなりの衝撃を受け、驚愕しきった様子であった。

 

「まさか、そんなことが、、、」

 

 とさくらは口を開いた。彼女の隣に立つ青年もまた、彼女と同じ心持ちであった。

 

「だが、この時代の人間はまるで違う。だから君たちがこの話を聞いて気を変えたりする必要はないし、そんなことがあってはならない」

 

 カイラは固い意志のこもった言葉を告げることで、自分の語りが間違った方向へと影響を及ぼさないことを確かにした上で、話を終わりにさせた。男は、目の前のふたりの眼に浮かんでいるのは自分と仲間に対する哀憫と、それに関して無知であった己の心に対する警醒であって、決して彼らの信念が揺らぐようなことはないだろうと、確信を持った。

 

「ところで、これはあくまで私の推測にすぎないのだが、おそらくオルタグアとベロアグアは元々、改造された遺伝子を受け継ぐ人間という、等しいところから分岐した相反する未来の可能性の形なのかもしれない」男は語った。「そして本当にやるべきことは、相反する者同士が手を組み、本当の悪を倒す」

 

「本当の悪? 」ルイが聞き返す。

 

「我々ベロアグアとオルタグアの争う陰で、別の何かが動いている。それの目的と行動ははっきりと言えないが、とてつもなく大きな何かであるのは確かだ」

 

「陰で動いてる、何かって、、、」

 

「ベロアグアの統率者、ダイラだ」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 大きな物音を立てて、なだれ込むように部屋に押し入った赤い髪の男。黒い空間には2人の人影が集っていた。

 

「どうした」

 

 丸テーブルに腰掛けていた金髪が振り向いて、ただならぬ様子の男に疑問を呈した。

 

「カイラにやられた」

 

 しばらくしてキルアは応えた。

 

「あいつが裏切るとは、、、世の成り行きも分からぬものだ」

 

「我々も一枚岩じゃあないっすから」キキスは目の前に立つふたりを意味ありげな視線でじっくり見つめる。「いつかこうなるって、思ってたっすけどね。さくらさんを養成してた頃から、何か企んでるようだったし」

 

「、、、」相手は男の言葉に押し黙った。

 

「まあ、こっちも一筋縄ではいかないっすよ」

 

 そう言うと彼は右手をズボンのポケットに突っ込んで、もぞもぞと動かした後に銀色に輝く物体を取り出した。それはカイラの左腕の人差し指の先端部分であった。それを見た女が驚くのは無理もなかった。

 

「何をする気だ」

 

 キキスはゆっくりと顔を上げた。そこは憎悪の色に支配されつつあった。

 

「逆襲ですよ」

 

 

 

 

―CHAPTER 3 につづく

 

 






 お読みいただきありがとうございます。ハーメルンでの感想やTwitterでの読了報告などお待ちしています。


 さて、今回はさくらの進化がメインの回でした。ですが、その他にもCHAPTER 3 に繋がるような要素が詰め込まれています。

 CHAPTER 1 の頃から山積している部分も合わせて、まだまだ謎が深いと感じていることでしょう。その謎の多くは、CHAPTER 3 で一気にドヴァっと降りかかってきます。どれくらいかというと、かの有名な”〇〇〇〇ゥ!”と同じくらいです。覚悟しておいてください笑。

 謎の”多く”と言いました。そうです。全てではないのです。というか、まだ読者のみなさんも見過ごしているであろう謎がたくさんあります。このオリジナルストーリーの話の全貌が明らかになるのは、まだまだ先です。(その分、より長くお楽しみいただけるということです!)気長にお待ち下さい。


 今後とも『仮面ライダーハルガ』をよろしくお願いします。次回 EPISODE 20 に、御期待下さい。


◆作者X(旧Twitter):https://twitter.com/kamenrider_jy
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