【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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仮面ライダーハルガ。前回の三つの出来事!

一つ!普通の人間ではない種族オルタグアのひとりである少女は、ほかの子どもたちにいじめられているところをひとりの少年に助けられる。
二つ!少女はその少年が、かつて自分が誤って大怪我を負わせてしまった相手だと悟る。復讐に怯えて逃げ出した少女はまたもや危険に瀕するが、ふたたび例の少年に助けられる。
そして三つ!少女は少年と和解し、親しくなる。そんなある日、少年は家族とともに種族の祖先にお参りに行くが、その道中に大事故に巻き込まれるのだった!




EPISODE 22 叶わぬ願い

 

 

 フロントガラスが砕けた。それに続いて、少年の乗っている車は押しつぶされた。覚えているのはこれだけ。

 

 燃え上がる炎の中に少年はひとり立っていた。少年の周囲の地面には炭よりも真っ黒に焦げた車の残骸が散らばっていて、そこから赤い火の手が上がっていた。少年の父と母は車の残骸の下敷きになっているはずだったが、よく見えなかった。少年は身を炎に焼かれながら必死に両親の名を叫ぶが、答える声はない。ゴウゴウという炎の雄叫びが大気を通じて少年の全身を震わせていた。

 

 突然、炎の音が止んだ。少年は驚いて周囲を見回すが、そこは変わらず赤と黃の光のゆらめきに包まれていた。全身は焦げるように熱かった。物が焦げたときの特有の匂いも感じた。聴覚だけが奪われてしまったかのようであった。

 

 ―少年よ

 

 突然、頭の中に何者かの声が響いてきた。少年はもう一度あたりを見回すが、彼の目には燃え盛る火炎以外に何も映らなかった。再び何者かが少年に語りかける。

 

 ―おまえにはこれから背負わなければならない運命がある

 

 少年は恐怖に怯え、なにも言うことができなかった。言いたいことを頭の中で考えることすらできなかった。少年の呼吸は荒くなっていた。

 

 ―おまえに不死の力を与えよう。おまえが払う代償はたったひとつ。それは、愛する者の命を奪われることだ。

 

 うずまく炎の中で、少年は運命のこえを聞いた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「今日からみんなといっしょにここで暮らすことになった、ひのさきろうくんです。みんな、仲良くしてくださいね」

 

 少年の新しい”家”の職員である女の人がはきはきとゆっくりとした口調で言った。少年はその女性職員の隣に立っていた。少年の前には三角座りをして集まっている十数人の子どもたちがいた。四歳くらいの子もいれば、少年と同じくらいの年の男の子もいた。

 

 少年の隣に立つ職員は彼の方に目を向けた。その女性は少年に自分の口で挨拶するよううながしているらしいが、彼は口を開かなかった。木目のタイルが隙間なく敷き詰められた床をじっと睨みつけていた。

 

「なんさい?」

 

 少年の目の前から声がした。彼が顔を上げると、そこには丸い顔の女の子が座っていた。

 

「、、、じゅういち」

 

 少年は小声で答えた。

 

「あっ! じゃあるいと同じだね!」

 

 丸顔の少女は目を輝かせて大声で言った。

 

「わたしはふたつしたのきゅうさいだよ。あ、わたしはたつがみりりいっていうの!”ねーうしとらうーたつ”のたつと、”じょうげ”のじょうで辰上。それから”まつり”のりと、”りりしい”のりで莉凛。」

 

 止めることを知らないかのように立て続けに喋る少女に、少年は相槌も打たずに唖然としていた。

 

「あ、それでね、この人がさっき言ったるい。あすかうえるい。あなたと同じじゅういっさいだよ!」

 

 そう言いながら少女は自分の隣に座る飛鶏上瑠威を指さした。

 

「それでね、あすかうえは、”とりがとぶ”のとぶのかんじと、にわとりのかんじと、、、」

 

「落ち着いて、りりぃ」

 

 瑠威が少女の言葉をさえぎった。彼の話す言葉は、龍がこれまで出会ってきた同い年の子どものお喋りに比べてずいぶん大人びていた。

 

「それに、まつりって名前の植物があるなんてことは知らないと思うよ」

「えー、だってるいがおしえてくれたんだよ」

「おれは植物が好きだから知ってるんだ。植物に興味がない人は聞いたこともないと思うよ。りりぃもおれが教えるまで知らなかったでしょ?」

「だってわたしまだきゅうさいだもーん」

 

 そう言って少女は元から丸っこいほっぺたを膨らませてもっと丸くした。ふくれた顔の少女を見て、周りにいる子どもたちはみんなして笑いだした。

 

「はいはい、みんなしずかに。」

 

 最初に龍を紹介した大人の女性が子どもたちをなだめるように言った。

 

「ろうくんは、みんながここへ来たときと同じように、今あまり元気がないの。だから、みんながろうくんに元気を分けてあげてね」

 

 はーい、と高い声を出して応える子どもたち。中でも莉凛はとりわけ大きな声で返事をした。

 

 

 龍のための「集会」が終わって子どもたちが解散したあと、龍は自分が住むことになる部屋の前に案内された。部屋の扉は濃い茶色で、龍の肩と同じくらいの高さのところには 氷野咲 龍 と書かれた木製の板が白い紐で吊るされていた。

 

 少年は扉を開けた。部屋の中には白い布団がかけられた木のベッドと、小さな木の机と、木の椅子がひとつ置かれていた。床には円形のカーペットが敷かれていた。ベッドは部屋の入口からむかって右側の壁に沿って置かれており、その壁には四角い縁の窓があった。龍が以前住んでいた部屋よりもややせまいが、とりたてて際立ったところもないありふれた一室であるように感じた。

 

 龍はふぅっとため息をついて変な色のカーペットに腰を下ろした。持ってきた荷物は一着の下着と、彼が十歳の誕生日に父と母からもらった、彼が着るには少し大きすぎる青色の革ジャケットだけだったので、それらの持ち物を入れて運ぶのに彼が背負っている小さなリュックサックでは十分すぎるほどであった。

 

 少年は両親の事故死を完全に受け入れたわけではなかった。あの日あの声を耳にした彼は、父と母は”偶発的に死んでしまった”のではなく、何かによって”故意に殺された”と思えて止まなかった。今の彼の心の内を支配している感情は悲しみや怒りではなく、何故自分がこんな目に遭わなければならないのか、というものだった。それは、十一歳の彼がこれまでに抱いたことのある感情の中で最も複雑で、簡単に言葉で言い表せないようなものであった。

 

「あの」

 

 人の声がした。少年が後ろを振り返ると、部屋の扉は開いていた。自分が部屋に入ったあとに扉を閉めていなかったらしい。部屋の入口には、龍と同じくらいの背丈の少年が立っている。

 

「おれ、瑠威って言うんだ。さっきの子が言ってたの、覚えてる?」

 

 入口に立つ少年は龍に話しかけてきた。龍は黙って頷いた。

 

「あの子はすごく元気な子で、たまにみんなを困らせちゃうこともあるけど、良い子なんだ」

「、、、仲良いの? 」

 

 龍は初めて口を開いた。

 

「うん、りりぃはここでおれの一番の友達だから」

 

 そう答える瑠威の顔つきは、さっきとはかなり印象の違う、子どもらしい無垢なものだった。瑠威の言葉を聞いた龍は、あの少女のことを思った。結局、少年は彼女との約束を守れなかった。それどころか、名前さえ知らないあの子ともう二度と顔を合わすことができなくなってしまったのだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 両親が亡くなった事故から一週間も立たぬうちに、少年は再び不運に見舞われた。

 

 新月の夜だった。慣れない寝室でなんとか眠りについた少年は、異様な蒸し暑さと息苦しさを感じて目を覚ました。

 

 目の前は赤い光で包まれている。あの日と同じだった。少年は急いで窓を開けて、外へ飛び出した。両手で地面に着地したあと、建物の入口の方へ走る。そこにはすでに人だかりができていた。

 

「ろう! 」

 

 少年の名を呼んだのは、その人だかりの中にいる莉凛だった。少年は急いで彼女のいるところへ走った。

 

「何なんだよこれ!? 」

 

 思わず問い詰めるような口調で少年は尋ねる。

 

「わかんない。けどきっとだいじょうぶ。」

 

 少年の目には、少女がやけに落ち着いた様子に映って見えた。

 

「なんだよ、なんでそんな落ち着いてられるんだよ」

 

 莉凛は少年の質問には答えずに、じっと建物の方を見つめる。龍も彼女の真似をして上を見上げた。至る所から白い煙と炎の手があがり、灰色の外壁は崩れ始めていた。少年は気づかなかったが、彼女の唇は静かに震えていた。

 

 そのとき、龍と莉凛の周りにいる子どもたちが大きな声をあげて騒いだ。少年は何があったのかと思って辺りを見回す。すると、施設の入口の開け放たれた扉から、小さな子どもを両脇にかかえた少年が飛び出したのに気づいた。瑠威だった。

 

「るい! 」

 

 莉凛は声を上げて瑠威のもとへと走る。龍も彼女に続いた。

 

「無事だったの! 」

 

 莉凛は半ば涙ぐみながらそう言った。連れてきた小さな子どもを降ろした瑠威は、優しく微笑んだ。

 

「莉凛、心配してくれてありがとな。でもおれなら大丈夫だって知ってるでしょ」

「うん、でもやっぱりふあんだったの」

 

 そう言って泣き崩れる少女。瑠威はそんな彼女の背中を優しくさすった。

 

 一方で龍は、目の前に広がる果てしない赤色のゆらめきを見つめていた。見つめれば見つめるほど、あの日の光景が思い浮かんで、身体の震えは大きくなる。けれど少年は燃え盛る炎から目をそらすことができなかった。

 

「けんとは? けんとはいる? 」

 

 施設の子どもたちが全員揃っているかどうかを確認していた職員が、突然大きな声を上げる。龍が初めて施設に来たときに彼を紹介した職員だ。彼女の周りにいる子どもたちはみな首を横にふった。剣斗―もうすぐ5才になる男の子だった―がこの場にいないことを知って、職員の表情は一気に深刻なものになった。

 

 そのとき、龍のすぐ近くにいる莉凛が甲高い声で「瑠威! 」と叫んだ。彼女の前に彼の姿はなかった。まだ建物の中に子どもが残っていることを知った瑠威が、再び中へ入ったらしい。

 

 龍も彼の後を追って入りたかった。だが身体が動かなかった。あの日の炎がどうしても彼の頭から離れなかった。少年は悔しかった。自分は正義の味方でもなんでもなかった。

 

 皆が固唾を飲んで見守る中、建物からあがる炎は徐々に大きくなっていった。しまいには、建物全体が巨大な火炎に覆われているかのようになった。

 

 突然、爆発の音が轟くとともに二階の窓のひとつから煙の筋が外に投げ出された。子どもたちの何人かは悲鳴をあげた。目にしているものが壮絶すぎるあまりに声を出すことさえできていない子もいた。龍はそのひとりだった。

 

 白い煙の筋がまだ残っているうちに、暗い影が爆発の起こった部屋の窓から飛び出していた。その人影は建物の外へ飛び出したあと、五メートルほど下にある地面に着地した。

 

 そこには剣斗を抱きかかえた瑠威が立っていた。それをみたほかの子どもたちや職員たちはほっと胸を撫で下ろす。しかし喜びもつかの間、みんなの集まっている方へ歩き出そうとした瑠威の頭上に、崩れた外壁が落ちてきた。

 

 それを見た龍のからだは反射的に動いていた。そのときの彼の目には恐怖の炎などは映っていなかった。少年はロケット弾のような凄まじい速度でふたりの元へ駆けつけ、そのまま瑠威たちを突き飛ばした。

 

 次の瞬間、轟音が響き渡るとともに辺りは煙に包まれた。誰もが視界を失っている中で、ただ一人、瑠威だけは目の前で何が起こったのかに気がついていた。彼は突き飛ばされてたどり着いた茂みの中で身を起こす。

 

「龍! 」

 

 彼は少年の名を叫ぶ。返事はなかった。

 

 しだいに人々の視界がはっきりとし始めた。瑠威と剣斗は建物から十数メートル離れたところにいた。そして彼らと建物との間には、瓦礫が重なって山ができていた。龍の姿はなかった。

 

「龍! 」

 

 再び少年の名を叫んで瓦礫の山へと駆け寄る瑠威。彼の行動を目にした大人たちは、何が起こったのかということを瞬時に悟った。それは起こりうる惨事の中で最悪の状況だった。

 

 しかし人々の予想は裏切られた。瑠威が瓦礫の山にたどり着くやいなや、重なっている外壁の残骸に亀裂が走った。次の瞬間、瓦礫は小さな欠片に分裂した。そうしてそのまま、周りに拡散するようにして地面にふり積もった。中からは龍の姿が現れた。彼の身体は小刻みに震えていた。

 

 それを見た周囲の者たちは息を飲む。まず、少年が生きて立っていることに驚き、次にその少年がほんの小さなかすり傷のほかに目立つ怪我を負っていなさそうであることに目を見張った。

 

「もしかして、ろうもるいとおなじなの? 」

 

 莉凛は大きな声でそう尋ねた。龍は震える顔をゆっくりと彼女の方に振り向かせたが、なんのことか分からなかった。

 

 瑠威が龍の方へ近づいてきた。彼はコンクリートの残骸の中に佇んでいる少年の目の前で足を止めると、このような言葉を放った。

 

「助けてくれてありがとう。龍も自醒してたんだね。実はおれもそうなんだよ。」

 

 瑠威の言葉を聞いて、龍は驚いた。目の前の少年が自分と同じ境遇であることに驚いたというより、彼が自分の正体を人々の前で高々と公言したことに戸惑った。少年は、まるで自分が今まで見てきた世界とは違うところにいる気分だった。

 

「すごぉーーい! じゃあこれからは、ふたりでだぶるひーろーだね! 」

 

 莉凛は興奮した様子で叫んだ。少女の一声を聞いて瑠威と龍は顔を見合わせる。そのとき、少年は施設へやってきて初めて笑みをこぼした。

 

 ここにいる人はありのままの自分を受け入れてくれる。人間という種族に属する者の中にも、自分と分かち合える者がいるのだ。そのことに気づいて少年はただ嬉しかった。そしてもうひとつ彼の心を満たしたのは、自分のこの力が人の幸せを守ったということであった。彼が目指している正義の味方に、また一歩近づけた気がした。

 

 それでも彼は物足りなかった。笑みを向けている相手が、金髪のあの子じゃなかったから。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 ―あの少年はどこへ行ってしまったのだろう。

 

 彼と会う約束をしたはずの少女は、都会から離れた町をゆっくりと歩いていた。人の気配はなく、ときどき小鳥のさえずりとかすずむしの鳴き声とかが聞こえるくらいだった。

 

 ―せめて名前さえ聞いておけば、、、

 

 少女の胸の盃は、どうしようもない後悔の気持ちでいっぱいになっていた。またあの少年に会えると安易に信じていた数日前の自分に、思いきり怒ってやりたかった。

 

 金色の髪をなびかせて、少女―華烏きるあ―は稲穂の広がる平地を前にひとり佇んでいた。

 

 

 少女きるあが12歳の誕生日を迎えた年、長野県諏訪湖で心中した男女が発見された。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「おい、キルア! しっかりしろ! 」

 

 男の声でキルアははっと目が覚める。目の前には心配そうな表情の青い瞳が、彼女の顔を覗きこんでいる。

 

「ロウ、、、! 」

 

 彼女は飛び上がる勢いで寝ている体を起こした。

 

「私は、何を、、、」

「俺と話してる途中でいきなり気を失ったようだ」

「そう、、、」

「大丈夫なのか」

「ええ、なんともないわ」

 

 彼女はそう答えると周りを見た。そこは黒い壁に囲まれた部屋だった。ふいに彼女は自分と目の前の男の置かれている状況を思い出して、顔を強ばらせた。

 

「それでなんなんだ、頼み事って」

「えっ」

「俺に頼みがあるって言ってたろ。もしかして気を失ってる間に忘れたのか」

 

 彼女は少しの沈黙の中で、自分が気を失う直前に何を考えていたのかを思い出そうとした。だが一向に思い出せない。そのことに気づくと同時に、彼女の脳裏に浮かんでくるものがあった。その瞬間、彼女は自分が何をしたのかをすべて悟った。しかしそれは目の前の彼に教えられることではなかった。今はまだ。

 

「ええと、もういいの。用事は済んだみたいだわ」

 

 彼女は彼の目の前で嘘をつきたくはなかったので、はぐらかした。ロウは彼女に対してあからさまに怪しむ視線を向けたが、それ以上は何も聞いてこなかった。

 

「キキスのやつが呼んでたぞ。”カイラの開発室”で待ってるそうだ」

 

 そう言って男は立ち上がる。彼女と一緒に行くつもりのようだ。キルアも立ち上がり、部屋の出口の方へ向かった。

 

 無限に続いているかのように見える廊下を歩きながら、キルアは青年がどこまで着いてくるつもりなのかと気が気でなかった。自分が意を決してオルタグアを裏切ったのにその決意が無駄になってしまうことは避けたいし、その決意の理由についてロウに気づかれたくない。彼には知らないでいて欲しい。そして何より、自分のために彼の仲間を捨てて欲しくない。彼には幸せであって欲しいのだ。

 

 廊下の壁が直角に曲がっているところで、彼女は足を止めた。すぐ先にはガラスのドアがあり、部屋の奥では赤い髪の男がいくつかのモニターが取り付けられた壁の方を向いて椅子に座っていた。

 

 キルアは横目で後ろにいる青年の方を見やった。するとロウは彼女にこう言った。

 

「ここで待ってる。何かあったらすぐにでも飛び込んでいくから」

 

 彼は彼女の考えていることや組織の動向を探るのは諦めたらしい。ロウの現在の目的は、彼女の身をいかなる危険からも守り抜くという、ただそれだけの単純にして明白なものであった。キルアにとってそのことは純粋に嬉しくもあり、同時に胸を締め付けられるものでもあった。また、ロウがそこまで自分に尽くす理由に、これまで彼女は気づいていなかった。

 

 彼女が部屋に入ると、ドアの開く音を聞いたキキスがこちらを振り向いた。

 

「目が覚めたっすか」

「ああ、すまない」

 

 彼女は組織の一員として声を発する。

 

「”逆襲”の準備が整いそうなんで、一応伝えておこうと思って」

「あれからもうすぐ三ヶ月、、、そろそろだぞ。やはりもう少し待った方が良いのではないか。お前もあいつと一緒の方が都合が良いだろう」

「いいや、今回は俺一人でやるっす。手助け無用ってことで」

 

 赤い髪の男は迷う顔ひとつ見せずにそう言い切った。

 

「ここまで来て他人の心配するなんて、アイゼさんらしいっすね。それとも、なにか不満なんすか? 」

 

 男にそう言われたが、別に不満がある訳ではなかった。アイゼとしては。

 

「最近ずっと満足してないって感じの顔してますね」

 

 そんな言葉をアイゼに投げつけると、彼は椅子をくるりと回転させて彼女に背を向けた。キキスの目の前におかれたモニターの中には、左半分にたくさんの文字列が並んでおり、右半分にはなにかの立体モデルと読み込みメーターのようなものが表示されていた。メーターの枠のすぐ上には”QUASHER-III”という文字が出ていた。

 

「これは、、、」

「今さくらさんが使ってるドライバーの試作データがそのまんま残ってたんすよ。そいつを利用して、改良したっす」

「改良、、、」

 

 ”QUASHER-III”という文字よりもっと上には小さな文字で”Copied file:QUASHER-II-augmented_test-model”とあった。

 

「前にカイラさんからもらって使ってたスーツ、あれに残ってたカルマエナジーと、戦闘中のサンプルデータを取っといたんすよ。いつかこんなときが来ると思って」

 

 キルアは自分の耳を疑った。この男はあれほどカイラを慕っているように見えたのに。だが考えてみれば無理もないことなのかもしれない、と彼女は思った。それまでのカイラは人間を滅ぼすことを目的としていたのだから―少なくとも表面上は。それが変わった今、彼に従う理由がなくなったということなのかもしれない。これまでのキキスの脳天気な言動は、すべて彼自身による芝居であったかもしれぬのだ。そうすることで我々を油断させ、秘密裏に自分の計画を進めていたのであろうか。

 

「あと、着用者に負担をかけないために出力を下げる自動制御装置みたいなものがついてたんすけどね、それを外したっす。なんでも、ここに残ってるデータを見る限り完成品では外されてるんすけどね」

 

 キキスは不可解な顔をしてそう言ったが、アイゼにはその理由が分かりすぎるほどに分かっていた。

 

 アイゼ、そしてカイラ。この二人には多くの隠し事があった。そしてこのことは彼女自身が一番よく分かっていた。特にこの男―キキスには説明していないことが山ほどある。それはそうした方が彼女にとって都合が良いからだ。人間誰しもそのような理由で隠し事をする。だがなぜ、彼は自分の計画を隠そうともせずに私に話すのだろう。私が裏切らないという確証もないはずなのに。アイゼがそう思っていると、彼が口を開いた。

 

「そろそろはっきりさせておきたいんですよ。あなたがほんとはどっち側なのか」

 

 キキスの口調は言葉を飛び出させるにつれてだんだんと丁寧に、冷たくなっていった。

 

「ねえ、キルアさん」

 

 彼女はそれを聞いて思わず身震いした。ここ―ベロアグアの拠点において彼女は別人格アイゼとして生きていたし、周りの者たちも自分を本当の名で呼ぶことなど一度もなかったのである―そしてそれは彼女にとって当たり前のことだった。

 

 キキスのこの一言は紛れもなく警告を意味していた。そして次にキキスが発した言葉を聞いた彼女は、もはや自分にこのままこの場所に居続ける猶予は残されていないことを悟るのだった。

 

「本当は望んでたんじゃないんですか、カイラさんが裏切ることを」

 

 






<次回予告>


「奴が最初に我々に接触してきたのは、まだベロアグアがオルタグアと戦い始めて間もない頃だった。」
「人間を滅ぼすという究極の約束を交わさせた上で私たちに力を分け与えた。」

「俺たちは人間と共存してきた。お前だって知ってるだろ! 」
「所詮、可能性に過ぎないのだから、、、私たちの未来も、私たちの存在も」
「キルア、お前、、、」

「俺を仲間に入れるとき、人間を滅ぼすために協力してほしいって俺に言ったっすよね。」
「よせ、キキス!」
「ぐぅぅうあああぁぁぁああああああ」

次回、EPISODE 23 に御期待下さい。



<あとがき>

 今回もお読みいただきありがとうございます!ハーメルンでの感想と評価、Xでの読了報告など、よろしくお願いします!


 さて、仮面ライダーハルガ EPISODE 22 はいかがだったでしょうか。前回はずっと名前を伏せていた少女と少年。彼らの正体は、ほかならぬ幼少期のキルアとロウでした。それに加えて今回は少年時代のルイ、そして(EPISODE 14 にてちらっと登場した)リリィなる人物も描かれました。リリィは、ロウがルイと出会うよりも前からルイと知り合っていたのですね。そして何より、キルアとロウが出会ったのは子供の頃であるということが明らかになりました。

 ところで今回はオルタグアのメインキャラクターたちの本名が公開されましたね。ここに整理しておきます。

ルイ :飛鶏上 瑠威 あすかうえ るい
ロウ :氷野咲 龍  ひのさき ろう
キルア:華烏 きるあ はながらす きるあ
リリィ:辰上 莉凛  たつがみ りりい

 この本名は最初から決まっていた部分もあり、決まっていなかった部分もあります。第1話で突然フルネームを出しても読者の皆さんに名前を覚えてもらえないだろうと思い、下の名前だけ、それも漢字を使わずにカタカナ表記をしていました(ちなみに第1話では、できる限り主語にキャラクター名「ルイ」「さくら」を入れて、早く皆様に名前を覚えてもらおうと工夫していました)。名前が明らかになりましたが、今後も普段は同じ表記でいく予定です。

 この2エピソードの中にはこれからのストーリーの中でかなり重要になる要素がいくつか含まれています。もちろん、この2エピソードだけでなく過去のエピソードにも、覚えていると後々「あ!」となるような要素が散りばめられています。それと、次回からは元の舞台に戻り、再び他のキャラクターたちが動き出します。ぜひこれを機にハルガのお話をもう一度初めから読み返してみてください。物語により深く入り込むことができると思います。

 それでは、次回 EPISODE 23 に御期待下さい。


◆作者X(旧Twitter):https://twitter.com/kamenrider_jy
◆裏話の呟きまとめ:https://min.togetter.com/YPAgxvj

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