【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

23 / 48


仮面ライダーハルガ。前回の三つの出来事!

一つ。事故で両親を失った少年――龍は、孤児院で暮らすことになる。そこで少年は瑠威と莉凛に出会う。
二つ。少年の住む施設で火災が起きてしまう。瑠威は逃げ遅れた子どもたちを助けに行くが、瓦礫の落下に巻き込まれそうになる。
そして三つ。龍は瑠威を救い、子どもたちを全員救出することに成功。龍は瑠威が自分と同じ力を持つことを知るとともに、自分の居場所を手に入れた。しかし、少女との約束を守ることはできなかった。




EPISODE 23 約束

 

 

 一台の自動車が、天井の低いトンネルの中を走る。車体の表面は鉄球のように滑らかで、青白い光の筋は自動車全体を包み込み、トンネルの壁と天井を照らしていた。

 

 自動車の中にはハンドルがない。あるのはおよそ四人分の座席と、そこに腰掛ける三つの人影。その三人は向かい合った座席に一人と二人に分かれて座っていた。一人で座っているのは丁寧に整えられた茶色い髪の、灰色のスーツを羽織った男だ。

 

 二人の若者のうち一人は、黒い髪と青い瞳の青年。彼が着ている深緑色の薄手のジャケットはボタンが開いていて、中から白いシャツがのぞいている。もう一人の方は、赤く鋭い瞳と茶色いショートヘアの少女。黒いストッキングを履いた両膝の上には銀と黒の小さな機械が置かれ、白いブラウスから伸びるつややかな両腕がそれを大事そうに抱えていた。

 

「髪、似合ってるよ」と、黒い髪の青年が言った。彼は隣に座る少女の新しい髪形を見ていた。

 

「ありがとう」と少女は答えた。

「でも、おしゃれのために切ったんじゃないの。前の髪型だと装具を被るときに不便だから」

 

 彼女はそう言うと目の前に座る男の顔を見上げる。男はいつの間にか左腕を胸の前に掲げていて、その上には白い光で七桁くらいの数字が投影されていた。

 

「もうすぐ到着だ」とスーツの男が言った。

 

 

 事の発端は約二時間前に遡る。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ダイラという人物が最初に我々に接触してきたのは、ベロアグアがオルタグアと戦い始めてしばらくたった頃だ。ロウとルイ、オルタグアの二人がベルトを手に入れたことでオルタグアの勢力は大幅に拡大。反対に我々ベロアグアは劣勢になり、何人かの仲間を失った。勢力が減衰しつつあった我々の前に、現れた者。それが、姿を覆い隠したダイラだった。奴が男か女か、若者か老人か、そもそも地球の生物なのかどうかさえ、私たちには知る由がなかった。それでもベロアグアがダイラに従うことを決めたのは、他ならない『人類滅亡』という目的のため。奴は人間を滅ぼすという究極の約束を交わさせた上で我々に力を分け与えた」

 

 灰色のスーツを纏った男は、ここで一度話すのをやめた。彼が今腰掛けているソファの前には、神妙な顔つきで話を聞く青年と少女が並んで座っていた。その奥には、地下アジトの中央に置かれた2台のバイクが、機械アームによって給油されている様子が見えた。

 

「それっきり、奴は我々の前にほとんど姿を見せなかった。しかし奴から授かった力――正確には強化された生命力だが、その力を得て我々は強くなった。ベルト二本を所持するオルタグアに対して善戦を繰り広げた。その結果か、ベルトの所持者のひとりであったルイは失踪、さらには炎のベルトとも乖離した。そうして戦力を失ったオルタグアは戦いから身を引き、戦いは一度幕を引いた」

 

 カイラはふっと軽いため息をつくと、目の前に腰かける青年の顔を伺った。

 

「私が分からないのは、いかにしてルイ――君が、我々だけでなく仲間たちの前からも姿をくらませたのか、そしてなぜ記憶を失ったのか、ということについてだ」

「実は、俺もそのことはよく知らないんだ」とルイは答えた。この返答にカイラはいささか驚いていた。

「記憶が戻っても、なぜ記憶を失うことになったのかはよく覚えてない。でも、俺が記憶を失っている間に仲間たちに何があったのかはロウから聞いた」

 

 そうしてルイは語り始めた。彼がロウの口から直接耳にした話――新たな指導者テイラについて、そして人類を救済するためのシャングリラ計画についてを、そっくりそのまま聞かせた。ルイが話を終えて一息ついた後、カイラが口を開いた。

 

「つまるところ、テイラはダイラとは真逆の、人間を救うという約束を君たちと交わした、そういうことか」

 

 ルイは黙って頷いた。

 

「それで」とさくらが口を挟んだ。「オルタグアが始めたシャングリラの計画にベロアグアが気づいて、計画を止めるためにまた戦いをしかけたってこと? 」

「いや、私たちはオルタグアが何をしているのか全く知らなかった」とカイラは答えた。「かつての戦いを終えた私たちは、ダイラに与えられた二つの命令を遂行すべく動いていた。命令の一つは下級オルタグアの抹殺。下級オルタグアというのは、ルイのように強力な戦士とそれに比べて力の劣っている灰色のオルタグアたちを区別するために我々がつけたあだ名だ。そしてもう一つの命令は炎のベルトを入手すること。ただし、どちらも我々が直接手を下してはいけないという条件付きで、だ。そこで私は新たな戦力としてさくらくんを引き入れた。人間を守るという名目の上で我々に協力してもらい、炎のベルトを回収しようとした。結局うまくいかなかったがね」

 

「あの頃は、あなたも本当に人間を滅ぼすつもりだったの? 」

 

 さくらが尋ねた。灰色のスーツの男は自分に質問をした少女の方を見、それから青い瞳の青年の方を見やり、最後に視線を何もない壁に向けてふうっと息を吐いた。

 

「そうであったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。私自身、悩んでいたのだ。おかしなことに、それまでなんの躊躇いもなく人類滅亡を掲げていたにもかかわらず、ダイラの命令に従う形でそれを遂行することになると、忽然とそれが正しいのかどうか分からなくなった。私は同じ組織の一員であるアイゼにこのことを話した。彼女がベロアグアでないことは前々から知っていたからね。彼女は私の悩みにたいそう驚き、賛同してくれたと私は思った。だから私が組織を裏切れば、彼女が足抜けするきっかけにもなると思ったのだが」

「でも、アイゼはまだ組織にいる......わよね」

「ああ。彼女について、私もすべてを知っているわけじゃない。ただ、今の状況で彼女がベロアグアの陣営に残っている理由があるとすれば、ダイラの存在しか思い当たらない。奴は得体のしれない力を持っているらしいからね。簡単に組織を抜け出せるわけでもない」

「じゃあカイラはどうやって抜け出したんだ」とルイが問いかけた。「ダイラに邪魔されたりしなかったのか」

「常に監視されているわけではないからね」とカイラは淡々と答えた。「”拠点から出ることができない”という意味ではなくて、”組織から逃れることができない”という意味さ。私はこうして組織を抜け出してきたが、いつダイラが我々の目の前に現れるかすら分からない」

 

 それを聞いていた二人は背筋がぞっとした。

 

「だけど」とさくら。「彼女が仲間を裏切ってまで組織にいる理由としては変じゃない? もっと別の理由があるんじゃ」

「ロウのことでもないはずだ」とルイが彼女に続くように言った。「ロウはキルアが組織にいるから俺たちを裏切っただけ、キルアもこのことは知ってるはずだから」

「じゃあ一体......」

 

「私たちの知らない何か、が存在しているのかもしれない」

 

 またしてもカイラは真相のつかめないようなことを口にした。だが今度ばかりはその責任はこの男にはなさそうだ、とルイは思った。

 

 給油完了を知らせるアラームが聞こえた。音のしたほうへ視線をやると、地下アジトの中央の床が開きはじめた。給油を行っていた二本のロボットアームが折りたたまれ、床の下の機械めかしい空間へと吸い込まれていくように収納される。さくらはその様子を見て、ふと思い出したことがあった。

 

「そういえば、ちょっと気になってたことがあるんだけど」

 

 彼女の言葉に青年と男は耳を傾ける。

 

「あれはたしか、トラロックの件の前だった」

 

 そう言って彼女は、自分が地下アジトに篭っていると巨大ロボットが突然床の下から現れ、自分に襲いかかったこと。そして翌朝見てみると、地下室は全て元通りになっていたことを話して聞かせた。

 

「あのとき、私を襲ったロボットはなんだったの? なんでこのアジトが一度壊されたのに、もとに戻ったの? 」

「ほう、そんなことが」

 

 そう言うとカイラは考え込むような姿勢をつくった。しばらく黙り込んでいたあと、再び口を開いた。

 

「恐らくだが、この場所は一度も襲撃を受けていない」

「え? 」

 

 驚きの顔を見せるさくらの前で、灰色スーツの男は語り出した。

 

「もし本当に君の見た通りこの場所が破壊されていたら、一晩で直せるはずがないからね。この部屋はアルファメタル――フェルルくんやキルジンカルマのボディに使っている素材と同じものを使っている。さらに柱となる部分はアルファメタルよりも純度の高い素材を用いているんだ。仮にそれを壊したとなれば、元の状態を再現するのは決して容易いことではない」

「それじゃあ、私が見たものは一体なんだったの」

「私の推測はこうだ。あの頃、ウッドの奴がさくらくんの記憶を消去しようとしていた――これは推測ではなく事実だ。我々は君をオルタグアとベロアグアの戦いに利用する気だったからね。だが、彼の行動を他の誰かが阻止した」

「誰かって? 」

「十中八九、というか、ほぼ間違いなくアイゼ――キルアだろうな。ウッドの行動に気づいた彼女は、まだ試作段階であった巨大ロボットを操作して、彼を止めさせた。そうすると君が見たロボットの記憶は正しいことになる。その後、さくらくんとウッドの記憶を少しだけ上書きした。そうすれば自分がウッドを邪魔したことを誰にも知られずに済むからね」

「それがもし本当だとしたら、アイゼはやっぱり」

「ああ」とカイラは答えた。「彼女は人間を滅ぼすつもりなど毛頭ない。それどころか、君たち同様人類を救おうとしているはずだ。私はそう信じている」

 

 三人の身体の中に、二つの相反する感情が流れ込む。キルアの本心は自分たちが信じるものと同じであるということへの安堵と、そんな彼女が組織に縛り付けられていることへの不安。しばらくの間、誰も口を開かなかった。最初に沈黙を破ったのはルイだった。

 

「前から思ってたんだけどさ。記憶を操作するなんて、そんなことが本当にできるのか? 」

 

 青年は疑問の視線を目の前の男に向けた。いくらベロアグアの未来で技術が進化していようとも、人間の脳内に直接干渉し、術者の思うがままに制御するなど、想像もつかなかった。

 

「それに、さっき『新たな仲間としてさくらを引き入れた』って言ってたけど、一体どこから? さくらが記憶を失っていることと、何か関係があるんじゃないのか? 」

 

 カイラはなんと答えるべきか分からない様子で、しばらく押し黙っていたが、ふいに口を開くとこう言った。

 

「一つ目の質問はイエス、二つ目にもイエスだ」

 

「今はゆっくり話している暇がない。このことはいずれ話す」

「いずれ......? 」とさくら本人が聞き返す。

「これは私自身の問題でもあるんだ。もう少し猶予をくれ。そうだな、ダイラとの戦いが終わったら、私が知っていることを話そう。それでどうだ? 」

 

 男の言葉を聞いたさくらはやや不満げに、仕方なしにうなずく。隣にいるルイはまだ言いたいことがあったが、さくらがそれで良いならと渋々引き下がった。二人の同意を得たカイラは話し続けた。

 

「しかし問題なのは、どうやってダイラと戦うか、だ。我々は奴の居場所をいまだかつて特定できたことがない。だから今はとにかくキルアとロウ、この二人を救うことが先決だ。これ以上彼らが苦しんでいるのは見ていられない」

 

 男の瞳は疑いなくルイたちの味方であるように感じられた。何か隠し事をしているようなのは相変わらずだが、これまでの彼とは打って変わって、心からオルタグアの仲間二人を助け出そうとしている。ルイはそう思った。

 

「それと、君たちがどう思うかは分からないが......他のベロアグアの仲間たちも、救ってやりたい。私が君たちに救われたように」

「ああ、そうだな」

 

 ルイが答えた。カイラは思っていたよりも早く返事が返ってきたので驚いた。

 

「俺も出来ればそうしたい。一応は、さくらの仲間だった人達だしな」

「私も、あいつらの本心を聞きたい」

「ベロアグアの拠点に乗り込めば――カイラなら、行き方を知ってるんじゃないか」

 

 そう言ってルイはカイラのほうを振り向く。すると男はこくっと頷いた。

 

「ああ。だが、拠点へ繋がる道がふさがれるのも時間の問題だろう、すぐに行かなければ。君たちのバイクは緊急時の脱出用として持っていこう。拠点までの移動は、私のリオンくんで」

「こないだの瞬間移動は使えないの? 」

「ああ、私は今やあの拠点に通ずる転送網から完全にブロックされている。なに、リオン君に任せれば数分の誤差だ」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 ルイ、さくら、カイラの三人はベロアグアの本拠地に到着し、完全自立型自動車から降りて狭い道を進む。

 

 ふいに、壁と壁との距離が伸びた。彼らは通路の途中に位置する広間にいた。

 

 先頭を歩いていたカイラが足を止めた。赤い瞳から視線を前方に向けている。男の視線の先には黒いバトルスーツを着た金髪の女が立っていた。

 

「キルア! 」

 

 ルイは呼びかけた。

 

「お前はロウを守るために裏切ったんだろ。でも今は呪いのことをロウは知ってる。もうお前が俺たちの敵である理由はない! 」

「ロウを守るため......それも事実よ。でも、それだけじゃない」

「一体なんなんだ」

「あなたたちは知らない。ベロアグアが人間から受けた傷を、人間という種族の恐ろしさを」

「何言ってるんだ」とルイは歯向かう。「俺たちは人間と共存してきた。お前だって知ってるだろ! 」

「それはたまたま事がうまく運んだだけ。それに私たちの未来でも、少なからずベロアグアの未来で起こってることと同じことも起きてた」

 

 それからキルアははぁっと大きなため息をついた。

 

「所詮、可能性に過ぎないのだから。私たちの未来も、私たちの存在も」

「でも君は、まだ人間を愛しているのではないのか」

 

 そう言ったのはカイラだった。

 

「私も君と同じように、人間たちから幾度となくひどい仕打ちを受けてきた。だがそれでも、この時代の人間が悪いようには思えない。君も、オルタグアやベロアグアも人間と同じだと思っているのではないのか」

「変わったな、カイラ」

「君の仲間が変えてくれたんだ」

 

 ふん、と鼻を鳴らすキルア。それからゆっくりとこちらに近づく。ルイとさくらは戸惑いながらも徐々に戦闘態勢に入る。そのとき、カイラが口を開いて言った。

 

「二代目のフェルルくんを作り上げたのは君だろう」

 

 キルアは立ち止まった。彼女は驚いているようだったが、それよりも衝撃を受けたのはさくらだった。

 

「君は、愛する人類を守って欲しかったから、トラロックの発動時刻を遅らせ、さらに計画についての情報をさくらくんに伝えて止めさせようとした。計画が阻止された後も、キルジンカルマが現れた街を見つけ、フェルルくんを通じてそのことをルイたちに伝えた。先日の戦いでさくらくんに接触したのも、不調をきたした身体を治すため。それからさらに前、戦いで傷を負ったさくらくんの身体を治すために、病室を手配して的確な処置を施した。そうだろう? 」

 

 女はうろたえているようだった。その様子を見ると、カイラが言ったことはすべて当たっているらしかった。

 

「キルア、お前......」

 

 ルイはそのあとに何と言えばよいか分からなかった。

 

「君は人類を滅ぼすつもりなど最初からなかったはずだ。教えてくれ、君が仲間を裏切った本当の理由を。今もなおベロアグアの一員として残り続けているわけを」

「そんなこと聞いてどうするんすか」

 

 口をはさんだのはベロアグアのひとり、キキスだった。キルアははっと後ろを振り向く。

 

「どうせろくな理由じゃないですよ。さしずめ、大切な誰かを救うためとかそんなところでしょう」

「それじゃだめなの? 」

 

 声を上げたのはさくらだ。

 

さくら  「大切な誰かを救いたいって気持ちが、人間も、オルタグアもベロアグアも救うことに繋がる、私はそう思ってる! 」

ルイ   「さくら......」

さくら  「私も、ずっとオルタグアやベロアグアは倒さなきゃならないって思ってた。でも、ルイと出会って、ロウと出会って......それに、カイラが味方になって、気づいた。あんたたちも人間と同じだって! 」

 

 キルアの眉がピクリと動いた。

 

さくら  「キキス、あなたも本当はそれを望んでるんじゃないの? 」

キキス  「そりゃあ、僕にも大切な誰かがいましたよ......みぃんな、人間どもに殺されたあ! 」

 

 キキスが叫ぶと同時に、彼の背後からたくさんの機械音がひしめいた。音の正体は大量の――百数体のキルジンカルマだった。突然現れた軍団に、さくらは言葉を失う。

 

「まさか、拡張機能を解放したのは」

 

 カイラの問いかけに、赤い髪の男は薄ら笑いを浮かべる。ひらひらと揺らす彼の左手には、銀色の小さなものがあった。それはカイラの義手のものだった。

 

「付け替えたんすよ、ガラクタと」

 

 カイラははっとして自分の左手を見た。以前とほとんど変わらないが、人差し指の内側の形状が少し違っていた。恐らく元の指を通信チップごと抜き取られたのだ。キキスがそれを奪ったのは、彼がカイラと集合部屋で最後に言葉を交わした時だった。

 

「あんたのことはよく知ってる。科学者であるあんたは、一度作ると決めたものを中途半端に終わらせられない。だから、わざわざ拡張機能なんてものをつくった」

 

 そう言い終えると、キキスは高く掲げた右手で指をパチンと鳴らした。それを引き金として、大量のロボットたちが一斉にカイラたちの方へ向かっていった。

 

「ルイ!さくらくん! 」

 

 カイラの声が叫ぶとともに、二人の後方から2台のマシンがひとりでに現れた。カイラは腕だけの姿に変化している。

 

「こっちだ! 」

 

 そう言って銀色の腕は後ろへ逃げるかと思いきや、ロボット軍団の方へ飛んで行く。

 

 困惑しながらも二人はカイラの指示通り、ロボットたちの中へ突っ込んでいった。

 

ルイ   「変身! 」

さくら  「変身! 」

 

 巨大なロボットたちの足をかいくぐって走り続けた後、たどり着いたのはさっきいた場所に似ている広い空間だった。天井は半球の形をしていた。

 

 三人が到着してから数秒と経たずして、キルジンカルマたちの影が通路の壁に映った。

 

さくら  「もう追いつかれたわ! 」

カイラ  「拡張機能の力だ。さくらくん、相手の数を把握できるか」

さくら  「えっと、今視野角に映ってるのが百三十一体」

ルイ   「その数で、あの行動速度か。どうやって戦う」

カイラ  「巨大ロボとパルマナカルマは炎のベルトから抽出したエネルギー、カルマエナジーを用いている。一代目のフェルルくんに届けてもらったものだ」

さくら  「だからあのときいなくなってたのね」

カイラ  「ああ。そしてエネルギーは背中側中央部に蓄積されている。奴らはそれを消費して攻撃を繰り出す」

ルイ   「ってことは、エネルギーがなくなれば奴らは戦えなくなるってことか」

カイラ  「そういうことだ」

さくら  「でも、自然に消費し切るのを待ってたら埒が明かないわよ、どうするの」

カイラ  「ああ、そこで私はキルジンカルマを物理的に停止させるための道具をつくった。それがルイの持っているパルマナカルマだ」

ルイ   「これが......」

カイラ  「パルマナカルマは、カルマエナジーを吸収する能力を持つ。それを直接キルジンカルマにぶつければ、一気にエネルギーを奪い取ることができる寸法だ」

ルイ   「これを、武器として使えってことか」

 

 ルイはベルトの左側に装着されていた黒色の小箱を取り外した。そしてロボット軍団の方へ立ち向かおうとした彼を、カイラが足止めした。

 

カイラ  「待て、まだ話は終わっていない」

ルイ   「なんだ」

カイラ  「吸収したカルマエナジーはすべて、パルマナカルマの中に蓄積される。が、それにも限度がある」

ルイ   「むやみにこれに頼ってられないってことか」

 

 ルイは冷静な判断をしたが、話を聞いていたさくらは少し心配だった。それ以上は何も言わないルイの代わりに、彼女は恐る恐る尋ねた。

 

さくら  「限度を超えたら、どうなるの」

カイラ  「貯蓄限度を超えてカルマエナジーを取り込もうとすると、超過分のエネルギーとともに、それまでパルマナカルマの内部に収まっていたエネルギーがすべて、着用者の体内に流れ出る」

さくら  「まさか......そんなことになったら、ルイは無事じゃ済まないじゃない! 」

カイラ  「私は賭けてみたのさ。ハルガの可能性に、ルイの強さに」

ルイ   「どういうことだ」

カイラ  「さくらくんの言う通り、カルマエナジーが体内に逆流すれば、あるいは無事では済まないかもしれない。だが、そのエネルギーを我がものにすることが出来れば、ハルガは更なる進化を遂げる。炎のエネルギーはルイ自身に宿っているベルトから発せられる特有のものだ、適応するのは難しくないはず」

ルイ   「やってみるよ」

 

 ルイは危険を恐れてすらいない様子だった。そして二人に向かって強く頷いた戦士は、ロボット軍団の待ち構えるほうへ飛び込んだ。彼の胸の中に迷いはないのだ。

 

さくら  「ねえ、さっきの話だけど、逆流するカルマエナジーに適応するなんて、ほんとにできるの」

カイラ  「ああ。ルイが持っているベルトには、大いなる力が宿っていると、私はにらんでいる。何しろ一度離れた肉体と引き寄せ合うほどの力を持っているのだからな」

さくら  「それは、そうだけど」

カイラ  「それに彼のことだ。心配することはない。君が一番よく知っているんじゃないか」

さくら  「......そうね」

カイラ  「さあ、我々も加勢しよう。ルイが的確に相手の急所を狙えるように奴らを誘導するんだ」

さくら  「分かったわ」

 

 そうして二人が仲間の戦士の後を追おうとしたそのときだった。

 

「行かせませんよ」

 

 二人の背後から声がした。振り返ると、赤い髪の男が立っていた。いつの間にか彼らはロボットたちとキキスに挟まれていたのだ。

 

カイラ  「待て、キキス。私たちは君のことも救いたいんだ」

キキス  「へえ、それは意外っすね」

 

 キキスは目をちょっと大きく開いた。

 

キキス  「でももう十分だと思いますよ。俺はこの組織に誘われた時、あんたに救われたと思ってましたよ」

カイラ  「もしそうだとしても、私はもう一度、今度は本当に正しい方向へ君を導きたい。さくらくんもそう思っている」

 

 さくらは頷いた。

 

キキス  「カイラさん、俺を仲間に入れるとき、人間を滅ぼすために協力してほしいって俺に言ったっすよね。邪悪な人類は世界の平和のために抹殺しなければならないって」

カイラ  「あのとき私は人間の心というものを何も知らなかった。だが今の私は違う。君も、人間の心に触れられれば理解出来るはずだ」

 

 カイラは同胞を必死に説得しようとするが、相手は聞く耳を持たなかった。

 

キキス  「さくらさんのためにつくったっていうドライバー、俺には作ってくれなかったんすね。俺を実験台にしておいて」

カイラ  「違う、あれを君に使わせたのはただの実験ではない。私は確かめ――」

キキス  「まあいいっすよ、自分でやったっすから」

 

 そう言うとキキスは赤黒い機械を取り出した。それはさくらが装着しているベルトとほとんど同じ形状をしている。それを目にしたカイラは、一瞬のうちにして男が何をしたのかを悟った。

 

カイラ  「よせ、キキス! それは人間が使えるものじゃない! 」

キキス  「何言ってんすか、俺たちはベロアグア。人間なんかと一緒にしてほしくないっす」

さくら  「そんな...」

 

 キキスは赤黒いベルトを腰に装着した。

 

「やめろ! 」

 

 カイラは駆け寄り、止めさせようとする。銀色の腕が赤黒いベルトに届く寸前、ベルトの中央から発光を伴う凄まじい衝撃波が放たれた。カイラの身体は跳ねのけられ、彼はついに赤黒いベルトに触れることができなかった。

 

「キキス! 」

 

 カイラはありったけの声量で彼の名を叫んだ。返ってきた返事は惨い悲鳴だった。

 

「ぐぅぅうあああぁぁぁああああああ」

 

 目を焼くような光を発しながら、キキスは地面をのたずりまわる。いつの間にか彼の全身は真っ赤な装具で覆われていた。

 

 ふいにベルトを装着した男の動きが止まった。ところが沈黙は一瞬のうちに終わり、再び真っ赤な装具は動き出した。しかし今度はさっきのような苦しむ人間の動作とは違い、ゆっくりとした無駄のない動きだった。その様子を見たカイラの表情は絶望の谷底へと墜落していった。

 

カイラ  「馬鹿野郎......」

さくら  「どうなったの? 」

カイラ  「あいつは死んだっ」

 

 男の声は震えていた。

 

さくら  「死んだって、動いてるじゃない! 」

カイラ  「アーマーが動いているだけだ......キキスはもうどこにもいない」

さくら  「え......」

 

 さくらはもう一度真っ赤な装具を見た。それはゆっくりと立ち上がり、頭をこちらに向けていた。

 

さくら  「そんな、そんな......」

カイラ  「私はまた、見殺しにすることしか出来ないのかっ」

 

 カイラは蹲って拳を地面に叩きつけた。ところがふと何かを思いついたように、涙に濡れる顔を上げた。そしてこう叫んだ。

 

「ダイラ! ダイラ、頼む! 出てきてくれ! 」

 

 男の声は巨大な部屋の中にこだました。すると案外すぐにそれに答える声があった。ただし声の主の姿はその場にいる誰にも見えなかった。

 

――今更何用だ、裏切り者のカイラ

「ダイラ! あなたは生命を司る力を持っているはず、キキスを蘇生してくれ! 」

――それは無理だ

「なぜだ!? 彼が生き返ればあなたにとっても利益があるはずだ! 彼はまだあなたに従っている! 」

――だがお前が彼を惑わせるつもりなのだろう、カイラ

「くっ......」

――それに、もし仮に彼が生涯をかけて私の命令だけに従うとしても、彼を救うことがお前の頼みとなると話は別だ。お前は私に背き組織を抜けた。これはその罰だ。仲間の死をもって、己の罪を贖うが良い。

「くそっ......」

――私は今忙しいのだ。さらばだ、カイラ

「待て! 待ってくれ頼む! 」

 

 もう男の声に答える者はいなかった。男は苦痛の雄叫びをあげ、地面に伏した。ちょうどそのとき、キキスの肉体を覆いつくした赤いアーマーが行動を開始した。

 

 まずその装具は至近距離にいるカイラを狙った。精神的苦痛を負った男には攻撃を避ける気力もなく、相手の打撃を諸に食らった。カイラの身体は高い天井に叩きつけられた。

 

 赤いアーマーはカイラの真下の位置に入り込んだ。そうして右の腕部を横に振り出すと、大型のドリルのような形状に変貌した。高速回転するドリルは、真っ逆さまに落ちてくるカイラの身体を狙った。

 

 白金の鎧が、真っ赤な装具に突撃した。赤い装具は衝撃を受けて数メートル飛ばされる。白金の鎧はカイラの下に潜り込み、彼の身体を抱えるようにして支えた。

 

「しっかりして、カイラ! 」

 

 男は顔をしかめる。だがそれは身体の外側に受けた傷からではなく、内側に受けた傷のせいだった。

 

 さくらは自分が突き飛ばした赤いアーマーを見据える。それは既に体勢を立て直しており、今度は右腕部を元の形状に戻し、どこからか長い棒状武器を取り出していた。

 

 次々と打ち付けられる打撃。さくら――白金の戦士はその一つ一つをなんとか受け流すが、彼女自身の調子に合わせることはなく、完全に相手の速度に引っ張られていた。無理はない。相手は装具のスペックで言えばほぼ上位互換にあたるのだ。

 

 白金の戦士の防衛がついに打ち破られた。瞬時に赤いアーマーは右腕をドリル状に変形させ、相手の腹部に押し当てる。砕かれる白金の戦士のベルト。それから立て続けに二発の殴打を食らったさくらはその場に倒れこんだ。

 

 キルジンカルマと奮闘するルイは、そのときようやく事態に気づいた。しかし彼は既にロボットたちのひしめき合う中に入ってしまっていた。周囲に群がるロボットたちを倒さずに抜け出すことは不可能だ。

 

 力を失って戦闘不能状態にある少女の真上に、白く発光するドリルが迫っていた。濃縮されたカルマエナジーをため込んだ錐は、さくらに突きつけられた。

 

「さくらぁああああああ」

 

 ルイが彼女の名を叫んだ。そのとき、何者かの影がほんの一瞬、さくらの視界を覆った。だがそれは本当に一瞬で、次の瞬間にはいなくなっていた。

 

 さくらはゆっくりと上を見上げた。目の前の赤いアーマーには、右腕がなかった。

 

 周りを見渡すと、斜め左のあたりに先ほどの何者かがいるのが見えた。それを目にしたさくらは言葉を失った。

 

 影の正体はキルアだった。そして彼女が両腕で抱えているのは、発光するドリル。回転する錐は彼女の腹を貫いていた。

 

 さくらは赤い装具を押しのけて、女の名を叫んだ。女は答えなかった。ドリルを抱えたまま、その場に崩れ落ちるように倒れた。

 

 その様子を目にしたのはさくら、ルイ、カイラの三人と、もう一人いた。高速移動でこの場にやってきた彼女の後を追って、蒼穹の戦士がその場に居合わせていた。それもちょうど、キルアが自身の身体を貫くドリルを抱えて倒れこむ直前だった。

 

 彼は想い人の元へ駆けつけた。彼女の腹に空いた穴はあまりにも大きく、もうほとんど肉体を二つに分断していた。

 

 青年が女の名前を呼ぶと、女はかすかに瞼を開いた。

 

「きるあ、おれは、おれは」

 

 青年は声を震わせる。

 

「おれはあのとき、お前との約束を守れなかった、お前のそばに居てやれなかった、だから今度こそ、お前を守りたかった......」

「かえってきてくれたんだね」

 

 女は弱々しい声でそう言った。青年は涙に濡れる目を見開いた。

 

「きるあ、まさか気づいて」

 

 女の口元はわずかに緩んでいた。

 

「ろう、新しい約束、聞いてくれる? 」

 

 青年は震える頭を辛うじて縦に振った。

 

「あの子を、守って、絶対に死なせないで......」

 

 彼女の瞳はさくらの方を見ていた。

 

「うん、うん。守るよ......今度こそ、絶対に」

「約束、ね」

 

 それっきり、キルアの頭はふいに重くなり、ロウの腕の中におさまった。

 

 青年は女の胸の中に顔をうずめた。

 

 






 お読みいただきありがとうございます!感想・評価よろしくお願いします!

<次回予告>

「私と奴以外を全員連れて逃げろ。私が決着をつける」

「やはり生きていたか......ウッド! 」
「なぜ我々を裏切った! 」
「この時代の人間を殺しても、私たちの幸福には繋がらない! 」
「お前は忘れてしまったのか......人間に与えられた屈辱を」
「覚えているさ。だが、もっと大切なことがあるはずだ! 」

「あんたの肩に刻まれた数字。その意味を教えてやる。お前の正体は......! 」

 次回、EPISODE 24 鎮圧者のBIRTHDAY に、御期待ください。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。