仮面ライダーハルガ、前回の三つの出来事。
一つ。ロウの恋人であったキルアの亡骸が、たちどころに消滅。それとほぼ同時刻、カイラはかつての同胞にして同志であったキキスの亡骸の暴走を完全に止めた。
二つ。組織本拠地に忍び込むカイラ。だがその前に、およそ三ヶ月間の凍結を経て肉体を再生したウッドが立ちはだかる。
そして、三つ。キルジンカルマの生成装置を破壊するべくバイクを走らせるルイとさくらの前に、イヴナが現れる。戦いの中、イヴナはさくらの正体が生体兵器 Quasher of Hulga であることを暴露したのだった。
「お前はそこの炎とあの面倒な嵐を潰すために、カイラの手で生み出された存在。お前が過去のことを覚えていないのは、記憶を失ったためではない。お前の過去なんてものは、端から存在しないのさ」
薄紫の髪の女の口から飛び出してくる言葉を、さくらは信じられなかった。信じたくなかった。
「そんなの嘘! 私は人間よ!」
「ならどうしてお前は生きていると思う」
「は......」
「キキスが使おうとしたドライバー、あれはお前が使ってたのと同じだ。奴がなぜ死んだか分かるか」
「知らないわよそんなの......」
「普通の生命体が使える用に作られてないからだよ。あれは完全なる機械にしか操ることが出来ないのさ。だがそのアーマーをお前はいとも容易く使いこなしていた。その理由は単純にして明白。お前自身が機械だからだよ」
少女の心が混乱するとともに、頭の中がくすんでいった。
「嘘......嘘よ! 」
さくらが狼狽えるとイヴナは低い声で笑った。
「そこまでして自分を騙し続けたいのか! 無理だな。だいたい、人間にしては身体能力が異常なことくらい気づいてただろう」
「もうやめろ! 」
そう叫んだのは地上に溢れていた巨大ロボットを討伐し終えた炎のハルガだった。戦意を失った少女を嘲笑うかのように背中を震わせている女をめがけて、漆黒の戦士は地を駆ける。一瞬の隙も見せないこの女戦士は地面に突き刺していた刀を軽く握り直すと、自分に猪突猛進している影の方角に勢いよく振り上げそのまま手を放した。刃身はその重心を軸として回転しながら、獣を狩猟する棍棒のごとく相手へ飛びかかり、矢のごとく目標を的確に撃ち抜いた。
胸部を抉られた黒い装甲の戦士は地を転がる。その光景は少女の視界にはっきりと映っていた。いつもならすぐにでも助けに行くが、今は思うように身体が動かない。言葉も出ない。
薄紫の髪の女は銅像のように動かなくなったさくらを見やると、鼻息をふっと吐いて、それからせせら笑うような声をあげた。
突然、地面が大きく振動し始めた。イヴナはふいに顔をしかめる。
何が起こっているのかを彼らが知る余裕もなく、振動はますます大きくなっていった。三人が立っているそれぞれの地点がすべて入るような巨大なくぼみが地面にできたかと思うと、その中心から放射線状に亀裂が走った。
不可思議な現象に包まれた中、ルイは咄嗟の判断で危険を察知した。彼は鋭利な刃を装甲に残したまま、勢いよく地面を蹴って少女の方へ走った。戦士の身体がさくらにぶつかって地面のくぼみの中から彼女を突き飛ばしたのは、そのくぼみが完全に空洞になる直前だった。
奈落の底へ落ちていく最中、ルイはさくらに向かって何かを叫んだ。彼女の繊細な肉眼は戦士の仮面に隠れた口の動きを捉えていたが、その声はさくらの耳に届かなかった。
呆然と立ち尽くすさくらの目の前で、円形の竪穴は震えるたびにさらなる亀裂を生み、みるみる大きくなっていく。崖の縁が少女の足元まで迫ったそのとき、どこからともなく吹いてきた蒼穹の風が彼女の身体を押し上げた。さくらは上昇気流とともに奈落への入口から逃れた。
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地面にその裾を引きずりながら、まるでレールを走る玩具の電車のようにまっすぐ移動する白い布。それは何かを内側に秘めており、その緑色の輝きが布をぼんやりと火照らせている。
絹のような布を羽織ったその何かが向かう先にあるのは、闇が広がる大きなトンネル――ベロアグア本拠地への入口であった。そのトンネルの中、はるか先には激しくぶつかり合う二人の拳があった。
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「キィィィィィ」
機械めかしい鳴き声をあげて、自律飛行メカ、フェルルMARK2は夜空を舞う。その黒い鉤爪には、銀色の尖った刃がいくつか取り付けられたようなものが握られていた。
小鳥のメカはひときわ大きな鳴き声をあげると、頭を少し下げて下の方へ降り始めた。そのカメラの視線の先には緑色のコンテナに腰掛ける茶髪の少女の姿があった。
さくらは自分に近づいてくるメカの存在に気づいた。それが何を持ってきているのかを彼女はその並外れた視力をもって認識していたし、仮に見えていなくともそれが何なのかおおよそ分かっていた。
「ドライバー、直ったのね」
そう呟いて、彼女は二代目のフェルルから彼女のドライバーを受け取る。
(何やってんだろ私......はやくルイを助けに行かなきゃ)
そう思うが、彼女の身体は動き出すことが出来なかった。さくらは銀色のドライバーを見つめる。これは自分が持っていて良いものだろうか。さくらは自分と自分の周りにあるもの全てに疑問を抱き始めていた。機械である自分が、人類の希望の戦士を葬るために作られた自分がこんな強大な力を手にして良いのだろうか。
「良いわけない」
感情が口に出ていた。良いわけがないのだ。こんな自分が、正義心に満ち溢れた青年と肩を並べるなんて、おこがましいにも程がある。
ドライバーを握っていた彼女の左手はいつの間にか下ろされて、ドライバーはかちゃりと音を立てて彼女の脇に転がった。
彼女はドライバーの金属質の突起をぼんやりと眺める。そこには青色が映っていた。さくらは自分の後ろに誰がいるのか分かっていたが、振り向かなかった。
「さっきは突然逃げ出して悪かった」
と、青年の声が語りかけた。装甲を解いたらしい。声色がはっきりとしている。
「......うん」
さくらは枯れたような声で返事をした。今の自分を隠すことはできなかった。背中に強い眼差しを当てられているのを感じる。
「私、機械でできた生体兵器なんだって。人間じゃないんだって」
そう言うと、背中に当てられた視線が少し緩くなったように感じた。なんでだろう。後ろを振り向いて確かめられたらいいのだけれど、今の彼女にそれは無理だった。
「ルイとロウを、倒すために作られたのが私なんだって」
彼女はそう言ってしまってから、背中にぶつけられている眼光がどうなるのかということを思って急に恐ろしくなった。けれど何も変わらなかった。
「そうか」と、しばらくして返事が聞こえた。
「......それだけ? 」
「なんだ」
「何も思わないの? 私、あんたたちをずっと騙してたんだよ」
「お前も自分のことを知らなかったんだろ」
そう。知らなかった。自分も騙されてた。いや、自分で自分を騙していたのかもしれない。何も分からない。自分がずっと探していた答えが明らかになったはずなのに、自分の内と外にある全部のことをどうして良いのか分からない。
「俺だって自分のことを人間だとは思ってないさ」と青年が口を開いて言った。「そうやって生きてきた」
彼は自分が”ちゃんと”生きているということに気づいていないのだろうか。機械と違って、命を抱えて生の道を歩んでいるということを分かっていないのであろうか。
「人間じゃないって言っても大して変わらないでしょ! 人間と同じように生まれて、人間と同じように生きてるじゃない! 」
今すごく嫌なことを口走ってしまった気がする。駄目だ。自分が機械であることを意識すればするほど、生半端な人間臭さにしがみつこうとしてしまっている。有るはずのない感情に身を任せている。目の前の青年はそれに気づいているのかいないのか、彼女の叫換に全く動揺の色を見せない。
「お前は違うのか」
青年は静かにそう問いかけてきた。
「私は、人工的に作られた存在......私の中には生きている命なんてないわ」
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炎を宿した青年は宙に浮いているような感覚を味わっていた。足は地につかず空に放り出され、自然の摂理に身を委ねるよりほかにできることがなかった。周囲は彼同様に宙をさまよう巨大ロボットたちの影で覆われていた。
背中側から視界の前方へと流れていた大気が突然激しく振動した。直後に背中側から凄まじい衝撃を感じて、全身が痺れたように動かなくなった。ハルガの装甲がなければ内臓が飛び出していただろう。それから立て続けに、黒く巨大な装甲たちが彼と同じように何かに叩きつけられているのが分かった。
ここは何処なのだろうか。視界のほぼ全てが濁った色の煙で覆われており、視覚で周囲を捉えることは禁じられていた。
数十秒の嵐のざわめきの後、視界は少しずつ透きとおり始めた。すると、そこには円状の景色が広がっていることが分かった。つまり、円の縁にはキルジンカルマの装甲の影があり、その内側は焦げ茶色のなにかで埋め尽くされていて、さらにその内側には真っ黒な円があった。黒い円の奥に焦点を合わせようとすると、煌めく点がいくつか見えた。星だ。とすれば、黒い円は夜空である。
青年は自分の身体がいま真上を向いている――すなわち先程叩きつけられた先は重力の終着点であり、自分は仰向けに寝ているのだということに気づいた。
戦士は立ち上がる。周囲には機動力を失っているらしい巨躯が無惨に散らばっていた。そのさらに外側は、なるほど、焦げ茶色の正体は土であるようだ、というのはそこは土の壁で覆い尽くされていた。彼はもう一度上を見上げる。やはり夜空は狭かった。それはすなわち彼と哀れな機械兵士たちは、地下深くまで続く竪穴の最も深いところまで落下してきたということを意味していた。
そこでルイの脳裏に疑問が生じた。カイラは彼に、キルジンカルマの生成地は地下二十メートルのところにあると話していたのだ。だがたったそれだけの距離では視界に映る空がこれほど小さくなるはずがない。
頭を悩ませながら小さな夜空と睨めっこをしていると、空よりも手前側に黒色の箱のような形のものがぽつんと浮いているのに気づいた。色が夜空と変わらないのですぐには気が付かなかったのだ。そのおよそ完璧な直方体の形状には見覚えがあった。彼の脳裏に思い浮かんだのは、トラロック作戦を阻止する時に見たものだった。あの直方体の物体こそがロボット生成装置であるに違いない。とすれば、装置が地下二十メートルのところに位置するというカイラの話と辻褄が合う。
残念なことに彼は体力を消耗し切っていた。地の底にたどり着いてしまった彼がはるか上空に手を伸ばそうとしても、今残っている体力では届かない。カイラが言っていたこと、パルマナカルマのエネルギーを放出する、あれをやればもしかすると――。だがその覚悟ができていても、どうやって発動させるのかが分からなければ仕方がなかった。
戦士は一刻も早く消耗した体力を回復させるべく、装甲を解いた。戦場にいない時にはその方が無駄な疲労を負わずに済むということを彼は知っていた。
炎から脱して一息ついた青年は、自分がいる場所が一体何なのか探ろうと思いたった。光焔が消えたことで辺りは闇に包まれたが、視界を取り戻すのにそう時間はかからなかった。心拍数を平静に戻すため、出来るだけ落ち着いた足取りで歩き出す。すぐ目の前に横たわっている巨体に沿って、その裏側へ回った。その先にいたもう一体の裏へ回ると、視界が開けていた。
この場所は想像していた面積の倍以上に広かった。さっき地上に出現した窪地の大きさを思い出すと、亀裂が走ったことで穴の入口がさらに広がったのか、あるいはこの空間が下底と上底で直径の異なる円錐台の形をしているのかのどちらかだ。分かったことはもうひとつあった。この広間を中心として、四方八方にトンネルのような通路が続いているのである。
ルイが通路の入口のひとつに近づこうと足を上げたそのとき、背後でかちゃりと音が立った。その響きは明らかに自分が足元で立てた音ではなかった。
後ろを振り返るとそこには薄紫の髪の女がキルジンカルマの装甲に片手をついて立っていた。彼女もルイとともに穴の底へ墜落したのだ。黒い装甲に寄りかかっている方と反対の腕は血の色に染まっていた。
にっと薄ら笑いを浮かべるイヴナ。彼女はその血まみれの手で一本の刀を握っていた。彼女はそれを前へ突き出してルイの方へ向けた。血の色に染まっているだけで傷口は見えなかった。どうも彼女の血ではないらしい。そう思った途端、ルイはまるで胸に稲魂が落ちたように感じた。そうだ、ついさっきその刃に胸を抉られたのだと、彼は気付いた。全く新しい場所に対する憂虞と探究心とが、彼の痛覚を鈍らせていたのだ。
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「お前が何者だろうと、俺はあいつとの誓いを果たすためにお前を守る」
少女の左隣に腰を下ろした青年が、強い口調できっぱりと言った。
「キルアがいなくなっちゃったのは、私のせいだよ......私を守るなんておかしいよ。私なんて、存在しちゃいけなかったんだ」
「それはお前の本心か? 」
ロウは少女とは視線を合わせずに語りかける。
「お前は、ルイにとって大切な存在だ。俺にとってのキルアがそうだったようにな。俺はお前を責める気はない。俺はただ......ルイに同じ苦しみを味わってほしくない」
青年の口が動くたび、その言葉の裏に隠れた哀しみと強く純粋な想いがひしひしと伝わってくる。
「それに死んだら、お前はもう二度とルイに会えなくなるぞ。人間を守るという夢を果たすことも出来なくなる。それでも存在したくないか。死にたいと思うか」
ちがう。そんなわけない。だって......
「私は......私は生きていたい。ルイやロウと一緒に」
「だったら生きればいい」
青年はまるで、飴を買いたいとせがむ子供にほいと小銭を差し出すような調子でそう答えた。
「でも、生きたいと思ってるのも、本物の感情じゃないんだよ......機械の、ツクリモノなんだよ」
「ツクリモノならいけないのか」
"いけないのか"と彼は言った。何を思っているんだろう。
「人間だって言ってみれば親のツクリモノだ。親はさらにその親の......そしてこの星も宇宙から生まれた存在だ。ツクリモノだから本物じゃないってなら、この世界に本物は存在しない。それに......」
青年は言葉を止めて、少女の瞳を覗き込む。
「大事なのは、"感じているかどうか"だ。お前は感じているんだろう、ゆらめきを、胸が熱くなるのを。だったらそれが、お前の感情だ。本物のな」
言っていることは正しいと思う。彼女が抱えている苦しみも、悩む必要のないことなのかもしれない。でも、彼女がもう一度立ち上がるには決定的な何かが足りなかった。
「どうしてそんなに強くいられるの」
気がつくとそんな言葉が口から飛び出ていた。言った直後に自分で驚く。今の自分はこれほど弱くなってしまったのだろうか。
「俺は強くなんかないさ」
弱気な返事が返ってきた。そりゃあそうだ。亡き恋人を想い続ける彼の心は自分と同じ、いやそれ以上に不安定なはずだ。でも彼の中には、自分にはない何か確固たるものがあるように少女は感じられた。
「誰かを守るためには強くなければならない。だが、自分の力が強くなればなるほど、その力は敵を倒すためのものになり、本当に守りたいものを守れなくなる。頑丈さと硬さが別物のように、大切なものを守れるかどうかは、強さとは違う。俺にはないんだ、大切なものを守る力が」
そう言って青年は哀しい笑みをそっと浮かべた。
「そんなことないよ」とさくらは口にした。
「だって、一番大切な人を亡くした時に、仲間に寄り添ってくれる人なんてそうなにいないと思うわ」
彼女の言葉を聞くと、青年はそうかもな、と呟く。そうして口を開くと、彼はこんなことを言った。
「お前はもう持ってるはずさ、大切なものを守る力を」
「えっ」
「だからお前は負けないのかもな。これまでも、これからもきっと」
大切なもの――今の彼女には思い当たるものがいくつかあった。その中でもとりわけ二つの事柄が、彼女の頭の中を行ったり来たりしていた。
「どっちを選べばいいのかな」
さくらがなんの前触れもなく問いかけると、青年はふっと口元を歪ませた。
「何度も言わせるな。お前には大切なものを守れるだけの力がある」
「大切なものが、ひとつじゃなくっても? 」
「ああ」
青年はまるで少女の心を見透かしているかのように容易く返事をした。
「それがお前にとって大切なものならな」
さくらにとってそれらは同じくらい大切なものだった。同じくらい大切にすべきものだった。人々を守り世界の幸せを守るという夢。そして、その夢を共に見、同じ未来を背負ってくれたルイ。その両方を守る力が......
少女の瞳に銀色の輝きが映った。その瞬間に、彼女ははっと気づいた。そう、もう貰っていたのだ。大切なものを守るために必要な力を、私をツクった人から。彼女はドライバーに腕を伸ばした。
「大切なものを守る力、か」
そう呟くと、彼女の胸の奥に熱いものがほとばしる。
「そうよ、最初からそうだったじゃない」
さくらはドライバーを強く握りしめた。その様子を見ながらロウは、自分の愛する人が最後にあんな約束を交わした理由が何となくわかったような気がした。大切なものを守る力。青年自身が言った言葉だが、さくらの方がそれをはるかに理解し、体得しているように思えた。彼女はまだ気づいていないのだろう。自分の奥深くにあるものがどれだけ強く、固く、揺るぎないものであるかを。
「ルイは、なんていうかな」
「なにがだ」
「私が人間じゃないって分かって、ルイはどう思ってるのかな」
「機械なら簡単に死なないと分かって、喜ぶんじゃないか」
青年はそう言ってからしまったと思った。立ち直った彼女を見てついいつものように毒舌を吐いてしまった。
「すまん、今のは冗談にしても悪ノリが過ぎた」
ロウはそう詫びた上で恐る恐る少女の顔色を窺うと、その口はぽかん開いていた。かと思うと、彼女は目を細めてくすくすと笑い出した。
「なんだ」
「前より素直になったなと思って」
そう言って微笑むさくらの横顔を眺めながら、ロウはにわかにも彼女が機械であるということが信じられなかった。こんなにも表情豊かな少女が本当に人工物なのだろうかと、青年は疑問に思って仕方がなかった。
「ルイはどこにいる」
「わかんない、イヴナと一緒にいると思う」
彼女はあまりにショックを受けたせいで数分前の出来事を覚えていなかった。だがその事実自体が、彼女の感情が本物であることの証であるだろう。
「さっきの穴の中か」と青年は呟く。「戦ってるんじゃないのか」
青年がそう尋ねると、さくらは首を横に振った。
「カイラが言ってた。ベロアグアの人たちを救いたいって。だから......」
「そうか」
ロウは納得の顔で頷く。月は天高く上がっていた。
「さくら、後でルイにも伝えようと思うんだが、お前にだけでも先に言っておく」
「何? 」
「一度お前たちを裏切った俺がこんなことを言うのはおこがましいかもしれないが、俺の目的のために、協力して欲しいことがある」
「目的って? 」
「キルアが消えた理由を突き止める」
青年の言葉を聞くと少女は表情を曇らせる。
「さくら、お前がキルアのことで負い目を感じるのは分かる。だが、お前も見ただろう、キルアの身体が消えたのを。あれに関してはお前と関係がない。俺たちの知らない何かがあるんだよ、きっと。俺たちオルタグアを率いてきたテイラ、奴が何か知っているはずだ」
「分かったわ。協力する」
少女は覚悟を持った声――少なくともロウはそう感じた――でそう答えた。
「だがまずは、ベロアグア――ダイラを止めるのが先だ。これ以上罪を重ねるわけにはいかない」
青年の言葉にさくらが頷く。その直後、鳥型メカの甲高い鳴き声が響き渡る。それは敵の接近を察知したフェルルによる警告の音色であった。
二人は同時に顔を上げる。彼らの前方には眩しいほどに白く輝く何かがこちらに近づいてきている。瞳孔が明るさに慣れていくにつれ、光り輝くものがキルジンカルマに似る姿をしているのが見てとれた。
「何、あれ。見たことないわ」
「ここは俺に任せろ」と彼は言った。「人間を滅ぼそうとする勢力に組みしていた罪を、俺は自分の手で贖う」
「いいえ、私も戦うわ。私自身のために、これからの未来を生きていくために」
そう言って少女は、月の光に照らされて銀色に輝くドライバーを腰に装着した。
「有難いが、これは俺なりのけじめなんだ。それにお前はルイのところへ急いだ方が......」
「得体の知れない敵を前にあんたをひとり残してきたなんて言ったら、ルイに怒られるわ」とさくらは答える。「それに、犯した罪は共に背負う。それが仲間でしょ」
ロウは口元を緩めた。やはり、少女にはあるのだと、彼は今一度確信した。大切な何かを守る力が。
「フェルル、私は大丈夫だからルイのところへ行ってきて」
さくらの指示に短い返事をすると、鳥型メカは上空に嘴を向けて羽ばたいた。
ロウは全身の力を集中させ、腰に風のベルトを出現させた。それに続いて、青年の周囲の大気が蒼く染まってゆき、青年の身体を軸として気流が巻き上がる。
さくらはドライバーの前に右手をかざした。
「変身! 」
お読みいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
さて、前回の投稿から丸一ヶ月以上経ってからの更新となってしまいました。読者の皆様、お待たせ致しました。私事ですが、今回のお話は私の大学生活が始まってから初の小説投稿であります。
今回は自分が人の手で作られた兵器であることを知ったさくらが、いかにしてその苦悩を乗り越えるのか、というところを描きました。いつもと違って一人称視点で描く場面が多かったと思います。実はこのエピソード、具体的な内容を決めるよりも先にサブタイトルを決めていました。『それでも彼女は生きていたい』。「生きる」でも「生きろ」でもなく「生きていたい」。走るメロスでも走れメロスでもなく、走っていたいメロス。願望、もっと言えば欲望です。欲望こそが生きるエネ......
そして、終盤で立ち直ったさくらの前にどうやら新たな敵が現れたようです。こんな新兵器を差し向けたのは、一体どこのどいつだ?
それでは、次回『EPISODE 26 瓦解と霧消』にご期待下さい。