【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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仮面ライダーハルガ EPISODE 26 の三つの出来事。

一つ。ロウとさくらは謎の新兵器に苦戦するが、オルタグアの助っ人もあり、撃破することに成功。
二つ。ロウは、オルタグアの仲間の中に、肉体が不完全な状態で現代に転送されてしまった者がいることを知る。
三つ。別々の場所にいるルイ、イヴナ、ロウ、さくら、カイラ、ウッドは、同時刻に、キルアに関する記憶を失ってしまった。




EPISODE 28 復讐の鬼

 

 

 大地の底奥深く──少なく見積もって二百メートルは超えよう──にて、ルイとイヴナは途轍もない違和感、さらには不快感を抱えていた。それは彼らの頭蓋に響くだけでなく、その精神状態をも侵し始めていた。この状況に耐えられなくなったイヴナは相手との決闘を打ち捨てて逃走するという行動に出た。

 ルイは彼女の後を追う気になれなかった。もっとも、彼にその気があったとしても彼に残された体力ではそれを為しえることも叶わなかったであろう。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 ルイとイヴナの二人が地下数百メートルで目に見えぬ怪奇的な侵攻を受けていた一方で、地下ほんの数メートルのところに位置するベロアグアの拠点内にてウッドとカイラもまた、同じように身体中を痺れさせるような不愉快さ、ことにウッドにおいては胸糞悪さを感じていた。彼ら二人はルイとイヴナがそうであったように、しばらくの間相手に鋭い視線を送ることもなく、ましてや互いを攻撃することもなく、ただただ自らの身に突然降りかかった試練にひたすらに耐え続けていた。

 

 そういうわけで、彼らの目の前に不可思議な緑色の光が現れた時にも、彼ら二人はすぐに気づくことができなかった。二人のうち症状がやや軽かったカイラの方が先に、目の前に顕現した謎の物体を目の当たりにした。カイラが何か言葉を発するよりも先に、その謎の物体は素早くウッドの懐へ潜り込んだ。

 

「なっ」

 

 ここで初めて老いた男は謎の物体の存在に気づいたが、その時にはすでに謎の物体はウッドの元から離れていた。謎の物体が発する緑色の光がみるみる小さくなり、やがて消え失せた。そこには白色の布が、まるで逆さまに立てた雨傘のような形をして宙に浮いていた。ウッドとカイラの二人はその姿形に見覚えがあったが、彼らが知っているのとは色が違っていた。

 

「貴様、何者だ!」

 

 正気を取り戻しかけたウッドが振り立てた。

 

「確かに返してもらったぞ」

 

 その声が響くと同時に、白い布の一部が突起のように浮き出た。そしてその先には先程までウッドの手に握られていたはずの小型装置があった。ウッドはほとんど声を出さずに唸った。

 

「……オルタグアの統率者か」

 

 カイラはほとんど確信を持っているような声色で問いかけた。相手は その通り とだけ答えると、すぐさま先程の光を放ち始め、その場を去ろうとした。

 

「逃げようとしても無駄だ」とウッドが低い声で言った。「この場所は完全にダイラ様の支配下にある。あのお方は貴様を逃がしはしない」

 

「……我を何と心得る」

 

 その声は二人の脳内に、力ある音として響いた。唖然としている彼らを残し、謎の物体はその場を後にした。

 

 

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 夜。ロウとさくらの二人は戦場から帰還し、カイラが残した彼らの拠点に戻った。先に戻っていたフェルルMARK2は二人を出迎えた。

 

 このとき、二人の間には一音の言葉も交わされてはいなかった。お互いに話をするのが嫌になったわけではない。話すことが出来なくなってしまったのである。それまで考えていたことが全て吹き飛ばされ、心の中に突然生まれた喪失感。しかし失ったものが何であるかさえも思い出すことが出来ず、途方に暮れていた。互いに何を思っているかが分からなかっただけでなく、自分が何を考えているのかさえも見当が付かなくなり始めていた。彼らはただ無心に自らの帰る場所にたどり着いたのである。今もなお戦っているかもしれない仲間の戦士のことは忘却の彼方へ追いやられてしまっていた。

 

「くそっ!」

 

 突然上がった怒鳴り声に、さくらは少なからず身震いした。それまで青年は一言も話していなかったので尚更である。

 

「なんで思い出せないんだよ……!」

 

 さくらには返す言葉がなかった。

 

「ていうか、何でこの機械がまだあるんだ。俺が壊したはずだ」

 

 そう言ってロウはフェルルMARK2を指差す。

 

「何でって、新しいのでしょ。"MARK2"って書いてあるじゃない」

「カイラの奴がまた作ったっていうのか?」

「……分からないわ」

 

 当然彼女にも本当の記憶は残されていなかった。さくらが押し黙ると、ロウは深いため息をついた。再び訪れた静黙は長くは続かなかった。

 

 静寂を打ち破ったのは、耳を劈くほどの轟音だった。続いて何かが爆発するような音が鳴り響き、それとほぼ同時に彼らの頭上から大小さまざまの砕片が落下してきた。二人はほとんど本能的に互いに駆け寄り、崩れ落ちる天井から身を守った。

 

 無数の微小な破片が砂のように舞う中、二人は眼を凝らして襲撃者の正体を見極めようとした。彼らは微小な破片がまだ視界の大部分を覆っているうちにその正体に気がついた。それは、つい先刻に戦った白い装甲の巨大兵器であった。先程まで彼らの心を支配していた正体不明の喪失感が影響したのか、彼らが戦う判断をするまでに僅かな時間がかかった。それが原因となって、敵の一撃が振り降ろされる前に防御の姿勢をとることができなかった。

 

 二人は紫色に光る電撃を食らった。その驚異的な力は凄まじい勢いで二人を床に叩きつけた。敵の攻撃が生み出す音色は止むことなく、連撃によって彼らは追い打ちをかけられていた。そればかりではない。連続攻撃が与える負荷の一部、いや大部分が二人の身ではなく床に発散させられていたのだ。先程打ち破られた天井と同じようにして床もまた崩れ落ちようとしていた。

 

 ロウは敵の追撃から逃れ、立ち上がって構えをとり、全身の筋肉を震わせて風を引き起こし、戦士の姿へと変身した。この一連の動作が完了するまでの間、同じく巨大兵器から繰り出される鉄槌を躱したさくらによって、ロウに向かって飛ぶ連撃は防がれていた。風のハルガとなった青年は両腕を上から下へと大きな円弧を描くように振り動かすと、左右の掌の付け根を合わせて前へ押し出した。蒼穹の嵐が巻き起こり、それによって巨大兵器の連撃は止んだ。だが嵐が引き起こしたものはそれだけではなかった。無数の亀裂が走り裂ける直前の状態であった床が、嵐の力を受けてついに崩壊したのだ。

 

 ロウとさくらの二人は地面の奥深くへと吸い込まれるように真っ逆さまに落下していった。まるで深淵が初めから二人を待ち構えていたかのように。大穴の底はかなり深いところにあった。二人が落下を始めてから五秒ほど経ってもまだ彼らは加速を続けていた。風のハルガは落下による負傷を防ぐために、自分を中心とする大きな上昇気流を生み出した。それでも安全に着地できたとは言い難かったが、少なくとも、既に巨大兵器から受けた攻撃の傷を悪化させることにはならなかった。

 

 ロウとさくらの二人が落下をやめたとき、周囲には十分な光が差し込んでいた。地面の奥深くであるのに、だ。彼らがこのことに違和感を抱くのとほぼ同時に、聞き覚えのある声が彼らの名を呼んだ。

 

「さくら! ロウ!」

 

 声の聞こえた方を向くと、そこには赤い装甲の戦士──ルイがいた。地下通路は、カイラが残したアジトの地下深くにも存在していたのだ。

 

 再会を果たした彼らであったが、すぐに邪魔が入った。巨大人型兵器ことキルジンヴァジュラが、二人の後を追って落下してきたのだ。それはちょうど、そこにいる三人の中央──仮に三人の立っている位置を頂点とする三角形を彼らの立っている地に描くとすれば、ちょうどその重心あるいは内心──の位置に降り立った。三人の戦士は身構えた。ところがどういうわけか、キルジンヴァジュラはその地点に降り立った後、身動き一つ起こさなかった。またもや疑問を抱く彼らだったが、その答えとなりうるものが彼らの前に現れた。

 

「如何かな、キルジンヴァジュラの味は」

 

 その場にいた三人はほとんど音を出さずに、その声のした方へ振り返った。そこには人間と同じくらいの大きさの、紫色の布のようなものがてるてる坊主のごとき姿をして宙に浮いていた。

 

「これは裏切り者のカイラが生み出したキルジンカルマの素体をベースに、カルマエナジーの代わりにヴァジュラエナジーを付与したものだ」

 

 裏入り者のカイラ、とそれは言った。すなわち、それはベロアグアの組織の主となっていた者、ダイラであることを意味しているということに、その場にいる三人はほぼ同時に気づいた。

 

「さて、ヴァジュラエナジーとは何か、分かるかな」

「電撃、でしょ」押し黙っていた三人の中でさくらが最初に口を開いた。「電気の力よ」

「流石は機械ベースの生体兵器だ。他とは頭の切れが違う」

「そうね」と彼女は答えた。「だから?」

 

 もはや彼女にとってこの手の心理的攻撃は意味を為さなかった!

 

「ふむ、私に結論を求めるか」と相手はいかにも落ち着き払った口調で答えた。

「俺たちの記憶がおかしくなったのはお前の仕業か、ダイラ!」

 

 今度はロウが質問を投げかける。すると、ダイラと思わしき者は次のように返答した。

 

「私ではないね。だが、私ならお前たちにヒントを与えられる」

「どういう意味だ」とルイ。

「未来人はあくまでも可能性としての存在。よって一つの出来事の結果によってその存在の有無自体が左右される。こんな風に」

 

 ちょうどその言葉を言い終えるとともに、先ほどまで紫一色だった布の色が白色へ変化した。かと思えば、瞬く間に再び紫色へと変化した。その一瞬のうちに垣間見た白色の謎の物体に、ロウは見覚えがあった。

 

「今の姿……貴様まさか……テイラ、なのか」

 

 不気味な笑い声が轟く。三人はぞっとした。

 

「それじゃあ、オルタグアとベロアグアって……」とさくら。

「そう、どちらも指導者は私だ」

「どういうことだ」

「今話した通りだ」

「こっちが分かるように説明しろ!」

 

 ロウはもはや感情を抑えきれなかった。ダイラでありテイラである者は ふん と息をついた上で次のように言った。

 

「私も、君たちと同じように未来から来たのだよ。」

 

 この発言に、三人は驚きを隠さなかった。

 

「無論、オルタグアともベロアグアとも別の未来だがな。だが、お前たちがこの時代で何かをするたびに、すべての未来の形は変わっていった。そのたびに、私の気分も表から裏へ、裏から表へ変わっていった。表の私は裏の私を騙し、裏の私は表の私を欺き続けた。」

 

「それで、今のあんたは、どっちなのよ」

「ふむ、どっちだろうね。何度も表と裏を行き来しているうちに、自分がどちら側なのかがはっきりしなくなってきてね。だが今となってはどちらでも良い気がしてくる。むしろ、表と裏が融合した現在の有様こそが最強の形態であろう。」

「何を言ってやがる……」

 

 ロウの怒りは爆発寸前だ。

 

「シャングリラ計画も俺たちを欺くためにやってたのか!」

「いやいや、そんなことはない」と布の塊は、存在するのかどうかも定かでない首を振るかのごとく左右交互にねじれた。

「人間を守りたいと強く願うお前たちの思いを感じ取って、協力してあげようと思ったのさ、最初は。」

「最初は、って……」

「じきにあの空間は崩壊する。」

「なんだと」とルイ。シャングリラには、彼の恩人である緑山先生、そして、彼の第二の家族が住んでいるはずだった。

 

「あの世界はルイ、お前が持つ炎のベルトのエネルギーを受けて誕生した空間だ。ベルトがお前の元へ戻った後、あの空間のエネルギーは減少を繰り返していた。そしていよいよその絶対量は世界を維持するための最低量を下回り、シャングリラは崩壊する。」

「崩壊したら、そこにいる人たちは」

「空間とともに消滅するか、どこかも分からぬ宇宙空間へ放り出されるかのどちらかだ。いずれにせよ、助かる道はない。」

 

 三人は息を呑んだ。

 

「まあ、お前たちが彼らの最期を見ることはないだろう」

「何……」

「私の目的を果たす上で、オルタグアとベロアグアは邪魔だった。そこで両者の相討ちを計画したが、どうもうまく行かないようだ。よって、私自らが手を下すこととする。」

 

「どういう意味だ、お前の目的はなんだ!」とルイは怒号をあげる。

「私は人類への復讐を約束し、滅亡へと導く者。我が真の名は、サンク」

 

 布の塊は紫色の眩い光の矢に囲まれた。次の瞬間、そこに現れたのは紫色の戦士──

 

「そして、”雷のハルガ”」

 

 その言葉とともに、三人の戦士たちに無慈悲な鉄槌が下された。それは、既に体力を限界以上に消耗していた彼らを死の瀬戸際まで吹き飛ばすのに十分な力だった。虫の息になっている三つの影を見下ろしながら、紫色の戦士はこう告げた。

 

「残りの者共を片付けた後、墓に埋めてやる。それまで這い蹲っていろ。私が戻ってくるまではキルジンヴァジュラがお前たちの相手をする」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「なん、だと……」

 

 ウッドは狼狽える。同じ場にいるカイラもまた、彼と同様の反応をみせていた。彼ら二人は、雷のハルガことサンクのヴィジョンを通信装置によって見せられていたのだ。従って、サンクの正体とかねてからの目的についても知ってしまっていた。

 

 彼ら二人が自らの置かれた状況を完全に把握するよりも先に、紫色に染まった影が彼らのうち片方の眼前に現れた。

 

「裏切り者のカイラ。君の前にある運命の道はただ一つのみだ」

 

 その言葉を耳にした直後、カイラは一撃を食らった。男は抵抗する術も力もなく、その肉体は飛ばされる。カイラは黒い壁に叩きつけられ、そのままずりずりと床に落ちた。死んだように固まった彼の姿を確認すると、紫の戦士はもう一人の男に語りかけた。

 

「ウッド、お前には選択肢を与えよう。もし今後とも私の命令を受け入れるのなら、延命してやる」

 

 ウッドは今しがた目の当たりにした強大すぎる重圧に震えていた。

 

「私以外の仲間は、どうするのだ」

 

 彼はかつての仲間、カイラを横目に見ながら、戦慄した声で尋ねた。返事は想定通り残忍であった。

 

「抹殺。こやつが私に忠実に従うという可能性は残されていない」

 

 ウッドはそれを聞くと、顔を真っ青に染めた。それから暫しの間目の前の戦士の蛇のような眼を睨みつけ、逃げ出した。紫色の戦士はその後を追うことはしなかった。今追わなくとも、必要とあらば何時でも消すことができるという矜持があるからだ。この陰惨な戦士に、敵というものは存在しなかった!!!

 

「さて、カイラ……」

 

 サンクは自らが一撃を食らわせた男の方へ向き直ろうとしたが、姿が見つからない。

 

「おやおや、逃げ足は速いようだ」

 

 紫の戦士はため息を吐いた。

 

「私も地球人についてもっと学ぶ必要があるか」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 一方その頃、カイラが残した拠点の地下深くに位置する地下道の一角では、戦士たちの息遣いが荒く、冷たい石壁に音が反響していた。三人の戦士はまさに、死の淵に立たされていた。彼らのうち一人──茶髪の女──は、戦士の姿に変身するための装置を半壊させられ、生身の姿であった。他の二人は辛うじて装甲を纏い続けていたが、膝をついて身を起こしているのがやっとであった。彼らは明らかに力を失いつつあった。

 

 そんな彼らが戦闘態勢に入る暇もなく、白く輝く巨大な物体が ギギギ と軋むような音を立てて動き出した。サンクが残していった巨大人型兵器、キルジンヴァジュラだ。それは両腕の装甲──言わずもがな巨大である──を地下通路の地面に叩き下ろした。地面は砕かれ、恐ろしい振動が引き起こされた。その力によって三人の戦士たちの身は地面から離れ、宙を舞った。そこに向かって白い兵器はすかさず、電撃を浴びせた。

 

 キルジンヴァジュラの標的は三人であったが、それが放った稲妻は至近距離で止められた。蒼穹の装甲の戦士が、ほかの二人の身代わりとなって電撃をすべて浴びていたのだ。だが風の戦士は怯むことなく、目の前の巨大な敵に向けて広範囲の鎌風を放った。それがキルジンヴァジュラの巨躯に直撃するのと同時に、風の戦士の装甲は闇の中へ消えていった。

 

 白い巨大兵器と青年はほとんど同時に倒れた。

 

「ロウ!」

 

 炎の戦士は残る力を振り絞り、地面に伏している青年の元へとんでいった。

 

「キルア……」

 

 ロウはその三文字を、安心したような顔つきで呟いた。ルイにはその言葉が分からなかったが、何故か聞き覚えがあった。さくらもロウの元へ駆けつけ、青年の横にしゃがみ込むと、青年は語り始めた。

 

「思い出したんだ、あいつのことを。俺がどうしてか忘れてしまっていた、大切な人のことを……。ルイ、もしかしてお前も忘れているのか……?」

 

「誰なんだ、それは?」とルイは眉をひそめる。

 

「俺たちオルタグアがどうしてこの時代にやってこれたのか、それを思い返せばきっと思い出せるさ……」

 

 それからロウはさくらの方へ視線を移す。

 

「彼女は、この戦いでずっとお前のことを守っていた……。最後までお前を守り続けて、そして俺たちの前から消えた。死んだ後も、絶対にさくらを守るように、俺に約束させて……」

 

 ルイとさくらの脳内を、何か異様なものが駆け巡った。微かに残っていた記憶の片鱗の存在に気づくとともに、それが次第に形を持つ。それらは疑問へと姿を変え、やがて確信に変わった。彼らは、どういうわけか忘れてしまっていた一人の女性に関する記憶を取り戻し始めていた。

 

「なぜ、あいつがそうまでしてお前を守らなければならなかったのかは分からない。なぜ今になって思い出したのかも、答えが見つからない。ただ、どうして忘れてしまっていたのかは納得できた」

「なんなの、一体」

「テイラ……いや、サンクが言ってただろ。俺たちがこの時代で何かを起こすたびに、未来の形は変わっていったと。たぶん、それがキルアの存在を消すことに繋がったんだろう」

「そんな……そんなことって」

「俺たちは元々、この時代からすればただの可能性だからな、あり得るんだろう……」

 ロウの声はどんどん弱くなっていた。彼の仲間は、彼の手を強く握りしめる。

「ルイ、お前に、どうしても言っておかなければならないことがある……」

「なんだ」

「お前にも、俺と同じ呪いがかかってる」

 

 忌むべき呪いにかかっていたのは一人だけではなかった。この事実は、ルイにとって、想定内のことであるとともに、できれば信じたくないことでもあった。

 

「だから……」

「分かってる」

 

 ルイは強い口調で答えた。

 

「何があっても、さくらを守り続ける。絶対に死なせやしない」

「……お前で良かった」

 

 ルイは横たわる青年の瞳の中の、生きようとする気力が消えかかっているように感じた。それはさくらも同じようだった。彼女はポケットから何かを取り出すと、それを横たわっている青年の手の中におさめた。

 

「これは」

 

 それはルイが身に着けているのと同じ、赤いマフラーであった。彼女は、いつか風のハルガが自分たちの元へ帰ってくる日を信じ、ずっと持っていたのだ。風の青年は、自分に託されたものを感じ取った。

 

 そのとき、彼らの耳に不幸の鐘が轟いた。それは地下通路の壁や柱の崩れた残骸が、ぶつかって散らばる音だった。キルジンヴァジュラの核は生きていた!

 

 悪魔の兵器は力なき彼らに向かって進んできた。

 

 ロウは力をふり絞り、生身であるにも関わらず、強大な風を巻き起こし、二人の仲間を吹き飛ばした。彼らの叫び声は、彼の元には届かなかった。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 そこには風の声も、巨大兵器が轟かせる音もなかった。そこは完全なる静寂に包まれていた。ルイとさくらは朦朧とした意識の中、痛む体をゆっくりと起き上がらせた。そこで、彼らはとあるものを見た。

 

 風の戦士は、ただ二人の身を守るためだけに彼らを飛ばしたわけではなかった。そのことに、彼らは気づいたのだ。

 

 彼らの目の前には、微かに光を放つ扉があった。

 

 






お読みいただきありがとうございます。評価・感想などよろしくお願いします。

次回は再び外伝シリーズです。

『EPISODE VELOURGWA (29) イヴナの歌声』

御期待下さい。
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