【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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仮面ライダーハルガ、これまでの戦い

 人類と共存する未来からやってきたオルタグア。人類と争う未来からやってきたベロアグア。両者は人類の存亡をかけた戦いに、決着をつけようとしていた。

 だが、それぞれの指導者が同一人物であったことが判明する。サンクと名乗るその者は、両者が互いに滅ぼし合うことを目的としていた。

 オルタグア側勢力として人々を守るべく戦ってきたルイとさくら。彼らは、ベロアグアの襲撃から人間を守るために避難所としていた異空間シャングリラが、危機に瀕していることを知る。地下深くでの戦いのさなか、彼らは異空間への扉を見つけたのだった。




CHAPTER 4 暗澹なる永戦編
EPISODE 32 帰還する魂


 

 

 二人の戦士を眩い光が包み込む。

 

 その光はあまりにも強く、たとえ戦士たちが視覚を失っていたとしても、はっきりと感じ取れるであろう。

 

 白い光の放たれるところは、岩盤に対して垂直な向きに立っている平板の形になっていた。この光を放つ板こそ、楽園と呼ばれた(そして人々もそうであると信じきっていた)、シャングリラという名の異世界へ通ずる扉なのだ。

 

 炎のハルガと呼ばれし赤い装甲の戦士、そしてハルガの鎮圧者として生み出された白金の装具の女戦士。二人はただ本能の赴くままに、光り輝く扉へと近づいた。彼らが負うものは、人々の存命であった。

 

 二人の戦士の姿は光の扉へ吸い込まれるようにして散った。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 爆発音が施設内にこだまする。煙が充満し、視界を覆い尽くす中、一人の男が破壊の限りを尽くしていた。周囲には無数の巨大装置が設置されているが、男はそれらを次々と叩き壊している。鋼鉄のパイプはひしゃげ、ロボットアームは基部から折れ、床には無数の金属片が散らばっていた。

 

 ここは、キルジンカルマ、そしてキルジンヴァジュラの生成場だ。この老いた姿の男は、怒りと憎しみを浮かべながら、周囲の機械を粉砕していた。破壊衝動にかられたように。

 

 事実、そうであった。指導者と信じていた者に裏切られたことへの腹いせであった。だがそれだけではない。もしそれだけのために無機物を破壊し尽くす不毛な芸当をしているのだとしたら、彼が蘇ったのも全くの無意味であったことになる。そんなことは無かった。

 

 彼は争いの根源を潰そうとしていたのだ。科学という名前のついた、悪の根源を。

 

 彼は敵勢力との戦いから身を引いていた間、この時代に存在する組織について調査していた。未来において自分たちの親となるであろう組織を。その調査の中、彼は、自分たちの技術──未来の力が現代人に搾取されている可能性に気づいたのだ。

 

 今ある悪の根源を潰すという行為は、カイラが唱えた予備作戦の実現を果たす上で必要不可欠であると、彼は考えたのだ。

 

 かつてカイラが立てた、同胞を救うための二つの計画。その一方は、同胞を苦しめる元である人類を滅亡させること。そしてもう一方──予備作戦、と彼らは呼んでいた──は、そもそも同胞が存在しない未来をつくることであった。

 

 かつては自分も反対し、関わることは一切ないと思っていた計画。だが、サンクの存在が明らかになった今、残された道は数少ない。

 

「何をしている」

 

 厳格なる声が響く。噂をすれば影、という言葉は、声を発さずに心の内で唱えるときにも通用するらしい。男の背後には、煙の中、紫の装甲に包まれた戦士が仁王立ちしていた。ウッドは相手の方に向き直ると、鋭い視線を送りながらこう切り出した──

 

「話は聞いた。あなたが我々を救ったのも、すべてあなたの企みのためだった──それは真実なのか」

「ああ。君たちは敵勢力に対して分が悪すぎたからね」

「我々がベルトの力を有していなかった、という意味か」

「本来なら、そんなことになるはずはなかった。私は両方の勢力に均等に力を分け与えたつもりだったからね──炎のベルトと風のベルトを。私は炎の力を君たちベロアグアに、風の力をオルタグア勢力に与えた。炎のベルトはイヴナという小娘を選んだ」

「なんだと!?」

「しかしどういう訳か、あの小娘はベルトの力を拒み、ベルトは彼女の元を離れた。こんなことは起こり得ないはずだがな。ベルトとその宿主は引かれ合う運命にある。彼女はその絶対的力に逆らったのだ。これこそ、人間の持つ恐ろしい力というもの。打ち壊さなくてはならない恐怖の力ぞ」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 その頃、異世界シャングリラでは、二人の男女の戦士が空高くから落下していた。太陽のごとき光と熱を発する炎の球が、彼らのすぐ真上にあった。シャングリラと現世を繋ぐ道は、この太陽のような球体のすぐそばにあったのだ、と炎の戦士ことルイは気づいた。

 

 二人は異世界の広がる大地に、勢いよく、しかしすんなりと着地した。これは並の戦士に真似できる芸当ではないだろう。地に足をつけた彼らは、顔を上げると、周囲に広がる光景を目の当たりにした。

 

 街中に炎が燃え広がっていた。空は真紅の色に染まっていた。自分の目が赤色の波長しか捉えなくなってしまったのだろうか、とさくらは一瞬思ったほどだ。

 

 一方でルイは、深く考え込んでいた。これがすべて、自分のベルトのせいで起こったことなのだろうか、ということについて考えていたのだ。

 

「急ごう! ここが完全に崩壊する前に、みんなを助けなくちゃ」

 

 さくらの一声で、ルイは我に返る。彼らは炎の大地に飲み込まれようとしている住民たちを救うべく、駆け出した。

 

 住民たちは、広がり続ける火の手から逃れるべく、海辺に避難していた。この炎の世界にも、水は残っていたのだ。もっとも、その大部分は蒸発してしまったのか、元は海底だったであろう砂地が露出していた。

 

 炎の世界にいたのは住民だけではなかった。オルタグアの生き残りたちも、そこにいたのだ。

 

「元の世界への扉は、あの太陽のすぐそばにあるはずだ」とルイは彼らに伝えた。

 

 しかしそれは簡単なことではなかった。燃え盛る「太陽」のそばを通ろうものなら、どんな生物でも焼け焦げてしまうからだ。先程ルイとさくらが無事に通って来られた理由については、超高速で通り過ぎたということと、空間の歪みが関係しているのだろう、というのがルイの考えるところだった。

 

 ルイは、自分の持っているパルマナカルマで炎の凄まじいエネルギーを吸収すれば、無事に太陽のそばを通過して元の世界にたどり着けるかもしれない、と提案した。しかしあの「太陽」からエネルギーを奪うということは、シャングリラの崩壊を促進させることになる。

 

「みんなをできるだけ近くに待機させて、俺がエネルギーを吸収し始めるとともに一斉に脱出する。これならどうだ」

「一か八かだけど……それ以外に考えられる方法はないよね」

 

 最後の移動には鳥型オルタグアの飛翔力が不可欠である。ルイは彼らに、最後の出番が来るまで体力を温存しておくように、と伝えた。

 

 オルタグアたちによる人々の大移動が始まった。爬虫類オルタグアは建造物の間を縫うように走り、サメ型オルタグアは大きな川を渡り、ブラックバック型オルタグアは草地を走り抜ける。

 

 この大移動を手伝っている間、ルイはもうひとつ、別のことで葛藤していた。

 

 自分にも呪いがかけられている──ロウは彼にそう言った。すなわちそれは、彼の愛する者の命が奪われる運命にあることを示唆していた。

 

 さくらを失ってしまうかもしれない。

 

 そのことが、彼には不安でならなかった。いくら彼女が勇猛な戦士であろうと、不死身ではない。ルイはできることならば、今すぐにでもこの境地から逃げ出したかった。

 

 ちょうど彼が思い悩んでいたときであった。彼は視線の先に、倒れている男を発見した。そこは椀状の窪地の縁であった。その椀の中にはおそらく、水が張っていたのだろう。ルイは、倒れている男が見覚えのある顔つきをしていることに気づいた。

 

「緑山先生!」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 雷のハルガは、睨み合う相手に語りかける。

 

「ウッド、君も大体気づいていると思うが、私はどちらかというと君たちの方に肩入れしている。目的が同じだからな。人類の抹殺。違うところといえば、その中に君たち自身が含まれるかどうか、というぐらいだ」

「貴様……!」

「が、もし私に協力するなら、殺すのは待ってやる。その方が私にとっても得だ。ともに人類を滅ぼす。そして全てが終わったその時、我々で決着をつけよう。どうだね」

「つまりあなたは、最終的にこの星に生命がひとも残らないことを望んでいると、そういうのか」

 

 相手は返事をしない。ウッドはその反応を、自分の問いかけに対する肯定だと捉えた。

 

「そんなことになんの意味がある。この星は競争に打ち勝った種族が繁栄することで生命が繋がれてきたんだ。そのすべてを断ち切るというなら、私はあなたに加勢できない」

「なるほど。君は今、競争という言葉を使った。それだ。まさにそれだ。この星の種族は争いを好んでいる! だから滅びなければならない」

「私はそうは思わないな」

 

 互いの視線が火花を散らすようにぶつかり合う。その数秒後、紫の戦士が片足を一歩前へと踏み出した。ウッドはそれを宣戦布告と読んだ。

 

 ウッドは信じられないほどの速さで間合いを詰め、相手に肉薄する。その足音が反響するよりも先に、ウッドの拳がハルガの顔面に振り下ろされる。しかし雷のハルガは相手の動きを予測していた。ハルガは即座に後方へ跳び退き、相手から距離をとる。同時に片方の手を掲げ、雷撃を前方一帯に放つ。広範囲にわたる攻撃だ。電撃は工場の床を焦がし、近くに転がっている機械の残骸にまで火花を散らした。焦げた鉄の匂いが立ち込める。

 

 ウッドはその雷撃を正面から受けることなく、隙間を縫うように避けていく。そして雷撃の射程を抜けると、再びその高速移動能力で相手に迫った。ハルガの懐へと入り込むと、その腰に巻かれたベルトを両手で掴む。その手からは凍てつく冷気が発せられ、ベルトを急速に凍らせていく。

 

 マスクの下でサンクは焦りを顕にしていた。電気の力の源であるベルトが凍結され、エネルギーの供給と循環が阻害されているのだ。彼は反撃のために電撃を発しようと試みるが、力がうまく発揮できない。状況を打開するため、ハルガは両腕を大きく振り上げ、全力の打撃をウッドの背部に叩き込んだ。続けて片膝を振り上げて腹部にしたたかな蹴りを入れ、相手を自分の身から引き剥がした。

 

 衝撃を受けたウッドは数メートル吹き飛ばされ、地面に転がった。その間にハルガは深く息を吸い込み、凍結されたベルトを溶かそうと体内に残存するエネルギーを集中させる。ベルトを覆う氷がじわじわと溶け始め、冷え切った表面から水滴が滴り落ちた。

 

 再び立ち上がったウッドは一切の躊躇を見せず、今度はさらに低い姿勢で地面を蹴り、ハルガに向かって突進する。その速度は驚異的で、コンクリートの床に足跡が残るほどだった。ウッドが体当たりする形でハルガに飛びかかると、その衝撃でハルガはわずかにバランスを崩した。

 

 だが紫の戦士は、相手の捨て身の攻撃に生じた隙を見逃さなかった。彼は体勢を立て直す前に全身に電気を集中させ、至近距離で電撃を放った。ウッドの体がその衝撃で弾かれ、天井のパイプに向かって直進した後、地面に叩きつけられた。

 

 地面に倒れたウッドがゆっくりと身を起こし、息を整える。一方で、ハルガもまた呼吸を乱している。戦いは一瞬も気を抜けない消耗戦となっていた。だが、どちらが劣勢に立たされているかは、両者とも悟っていた。老いた姿の男は自信の持つ能力を酷使した影響で、肉体の腐敗が進行していた。

 

 だが、そこへ折り良く援護が駆けつけた。カイラ、そしてイヴナの二人が、戦場に姿を現したのだ。カイラは、かつての指導者と古き友が対峙する様子を一目見ると、何が起こったのかのおおよその検討がついた。

 

「ウッド、まさか」とカイラは声をこぼした。

「予備作戦だ。結局お前の言いなりになってしまうのは癪だが、今はこれ以外に方法がない」

「その方法も限界に近づいているようだが」

 

 雷のハルガはそう言った。実際に、彼の肉体に生じている異変は、外見から確認できるくらいのものになっていた。それを見てとったカイラはこう言った──

 

「それ以上の無茶はよせ。君の身体がもたない。ここは私が何とかする。君は露夜を守るんだ」

「私が死ぬか、お前が死ぬか、どちらかしかない。それに、ベルトの力を封じられるのは私しかいない。その子のことは頼んだ」

「待て、待つんだウッド」

 

 ウッドはその言葉を無視した。そして雄叫びをあげたかと思うと、目の前の敵に向かって駆け出した。

 

「やめて父さん」

 

 女の叫びが空気を裂いた。その声の主は、それまで言葉一つ発さずに、ウッドの変わり果てた姿を見つめていたイヴナだった。

 

 ウッドは一瞬彼女の方を振り向いた。久しく耳にすることのなかった、彼女のはっきりとした声。そのうえ「父さん」と呼ぶ言葉が、彼の心を大きく揺さぶった。だが、その衝撃は彼を止めるには至らなかった。

 

 ウッドが後に引こうとしないのを見て取ったイヴナは、覚悟を決め、彼に加勢しようと思い立った。先の戦いでの出来事が原因で滅多に使わなくなった、迫撃砲を構える。彼女はトリガースイッチに手をかけた。指先には微かな震えがあったが、彼女の目には確固たる決意が宿っていた。

 

 ところが、予想外の事態が彼女を襲った。彼女の隣に立っていたカイラが、鋭い動きでイヴナの迫撃砲を奪い取ったのだ。そして彼女が驚きの表情を見せる間も与えずして、彼は身を低く構え、斜め下から彼女の身体に向けて発射した。イヴナの身体は工場の壁を突き破って吹き飛ばされた。

 

 凄まじい轟音とともに工場の壁が崩れ落ち、粉塵が舞い上がった。その音の余韻が空間に響く中、ウッドは思わず動きを止めた。振り向いた先には、崩れた壁と漂う煙があるだけで、イヴナの姿は見えない。

 

「何をした!?」

 ウッドの低い声が、かすかな震えを帯びていた。彼は状況を把握しようと目を凝らすが、目の前の混乱が全てをかき乱していた。

 

 その隙を、彼の相手は見逃さなかった。鋭い眼光を宿した紫の戦士は、ウッドに向けて静かに間合いを詰め、至近距離で電撃を浴びせようと片腕を前に突き出していた。

 

 そのとき、凄まじい轟音が再び響き渡った。カイラは迫撃砲の砲口の向きを変えていた。そしてその射線の先にあったのは、雷のハルガの影である。

 

 雷のハルガは、まるで時が止まったかのように、一切の動きを封じられていた。なぜか? 彼の身体を、大きな青色の光で形成されたアームハンドが、左右からがっしりと掴んでいたのだ。雷のハルガは辛うじて自分の意志に応える片手を、その青色の光の上に叩き下ろした。しかし、その拳と青色の光は反発し合い、何の効果もなさなかった。

 

「なるほど。これを使って、彼女を生かしたままこの場所から遠ざけたのか。この類の小細工はお前の得意分野だったな、カイラ」

 

 それを聞いて、ウッドは自分の仲間の男が起こした行動の意味を悟った。だとすれば、この男に迷いはもうなかった。

 

「ウッド!」

 

 カイラが叫ぶ。その合図で、ウッドは身動きのできない相手に連続打撃を叩き込む。

 

「無駄なことを。どこへ行こうと、いずれこの星とともに滅ぶ運命にあるというのに」

 

 サンクの言葉を体現するかのように、紫の装甲を挟んでいた青い光は徐々に輝きを失っていった。それとともに、そこに働いている力も薄れていた。雷のハルガは唸り声をあげるとともに、その呪縛を断ち切った。

 

 この間に、カイラは雷のハルガの後方へ回り込んでいた。光の呪縛が解けた途端、紫の戦士が攻撃を始めるより先に、カイラは相手に飛びかかった。そして羽交い締めにした。

 

 ウッドは改めて拳を振り上げ、サンクの雷のベルトに集中攻撃を見舞う。それはただの連続打撃ではなかった。その執拗な一撃一撃が命中するたび、雷のベルトはさらなる冷気に包まれ、表面の霜、いや氷の層が深くなっていく。その侵食は次第に、ベルトの深部に近づいていた。だが──

 

「呪いの力をなんだと思っている」

 

 雷のハルガは、自身の前後に巨大な光線を放った。それは花火のように炸裂し、凄まじい爆発力を伴った。雷のハルガの力を封印しようと奮闘していた二人は、回避することも防御することもままならず、攻撃をもろに受けて弾き飛ばされた。

 

 二人は苦い土の味のする床に、一方は仰向けに、一方はうつ伏せになって倒れていた。うつ伏せになっていた方は呻き声をあげつつも、片腕で自分の重みを支えながら若干上半身を浮かせた。なぜ片腕だけしか使わなかったのか──それは、彼のもう片方の腕は見当たらなかったからだ。

 

 男は全身を引きずるようにして腹ばいのまま動き、もう一人の男に近づいた。

 

「ウッド、まだ生きているか」

「俺にも分からん。死んでいるのかもな」

「はっは、私もだ」

「カイラ、あの子にいらんことを喋ったな」

「終わってしまう前に、どうしても本当のことを伝えたかった」

「何が本当のことだ。私が彼女の父親であることがか?」

「あの子は、君のことをそう思ってるさ。だから、ここへ来たんだ」

「まったく、お前が何をしたいのか、つくづく分からんよ」

「私にも、分からないさ」

「母親のことも言ったのか」

「いや。だが、じきに思い出すだろうな。君とのことも」

「ところで、この戦い、勝算はあるんだろうな」

「勝利の鍵は、掴んである。我々に残された役目は、死ぬまで、斗うことだけさ」

「死ぬまで、か。もう死んでいると言ったんだがな」

「だが、まだ死ねるだろう」

 

 ウッドはにやりと笑みをこぼした。だがその表情はすぐになくなった。金属の砕け散るような甲高い音が鳴り響いたからだ。

 

 音のする方からは、巨大な影が現れていた。キルジンヴァジュラだ。その巨大なロボットは鉄鋼の壁を突き破って、彼ら二人のいる場所に来たらしい。

 

「まだ残っていたのか」とウッドが歯ぎしりする。

「いや、ちょうど良い」とカイラは言った。「奴はきっとエネルギー転換部位を改造しただけで、システムコアを書き換えてはいないはず。あれを作り上げたのは、この私だ」

「どうするつもりだ」

「あれをうまく制御すれば、殺戮マシンからエネルギー吸収装置に切り替えることができる」

「スイッチはどこにある」

「私の左腕に、コントロールプログラムが組み込まれている」──そう話す彼の左肩には、腕が繋がっていなかった。「どうやら、ここへ飛ばされたときに失ったらしい」

「お前の左腕を、探さなねばならんのか」

「ああ。ブレイン・チップとペアリングしているから、大まかな距離感は分かる。すぐ近くにあるはずなんだが──」

「探し物はこれか」

 

 二人は声のした方を見た。そこには紫色の装甲の戦士──雷のハルガが立っていた。その掲げられた右手には金属質のガラクタが掴まれていた。それは、無惨な姿になった、カイラの左腕であった。ぺしゃんこになっているそれは、金だらいとほとんど見分けがつかなかった。

 

「あれでは使い物にならんな。カイラ、お前のチップにプログラムデータは残ってないのか」

「あいにく、通信部位に重要なデータは残してないんだ」

「ならばどうする」

 

 二人はいかにしてこの状況を打破したものかと、必死に考えをめぐらせていた。だが彼らに時間的猶予は残されていなかった。一つ、彼らは死の瀬戸際で辛うじて息を続けている状態にあり、いつ生命が止まってしまうか分からない。二つ、主たる敵にして最大の脅威である雷のハルガが、彼らの目の前にいる。三つ、彼らの後方には、雷のハルガとおよそ同等の力を持つ巨大兵器が立ちはだかっている。そして今、彼らにとってのさらなる脅威が追加された。背後に他のキルジンヴァジュラが現れたのだ。それも十体や二十体などの数ではなかった。

 

「少し手が込みすぎていると自分でも思う」と雷のハルガ──サンクが話す。「だが、君たちを甘く見てはいけないと知ったからね。億が一にも失敗するようなことがあってはならない」

 

 キルジンヴァジュラは列を組むようにして並んでいた。両方の腕部装甲を持ち上げ、人間でいうところの指の先を、二人の方へ向けていた。甲高い高周波のような振動を発するとともに、キルジンヴァジュラたちのそれぞれの指の先端部中心が紫色に光り始める。巨大ロボット軍団による一斉放電が始まろうとしていた。

 

 青白い光の波が戦場を走った。

 

 キルジンヴァジュラから、紫の稲妻が一斉に放たれた。二人は死を覚悟した。

 

 ところが、電撃はウッドとカイラのいる方へ向かっていなかった。その進路は大きく逸れていた。電撃線が集合するところには、あの迫撃砲があった。電撃線は、迫撃砲の砲口に吸い寄せられていた。それは避雷針と化していた。そしてその避雷針を構えているのは──イヴナであった。

 

 彼女は戻ってきたのだ。自らの意思で。

 

 迫撃砲は電気エネルギーを吸収するとともに、光を放ち始めていた。吸収量に限界があることは誰の目にも明らかだった。そして今、その兆候が表れ始めていた。迫撃砲を構えるイヴナの身体に、紫の電撃が走っていた。吸収が間に合っていないのだ。吸い取られなかった電撃が、迫撃砲の側面を伝って彼女の身体に流れ込んでいる。

 

 それは束の間の出来事だった。迫撃砲は、その許容量に限界を迎えた。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「ルイ君!」

 

 倒れていた男──緑山は、おもむろに身体を起こしながら応えた。

 

「良かった、先生も無事だったんですね。早く行きましょう」

「待ってくれ」と緑山は彼を引き止めた。「私には、どうしても君に伝えなければならないことがあるんだ」

「何ですか」

 

 緑山はため息と喘ぎの混じったような呼吸をしながら、このように言った──

 

「街中を悪魔の炎が包み込んだ、あの地獄の日、ほとんどの住民は青い戦士によって救われた。だが、三人だけが犠牲となった。君の、家族が」

 

 






 お読みいただきありがとうございます。感想などお持ちしております!

 作者的な今回の見せ場の一つは、ウッドvsサンクの戦いです。ウッドは凍結能力を存分に活かし、ハルガの底のない力を封じようと奮闘しました。しかし当然、その力の代償も大きかったようです。すでに幾度と凍結能力を発揮していた彼は身体に大きなダメージを負っています。
 それからもう一つ。この戦いは、番組のライダー風に例えると「中ボス」と「ラスボス」の対戦でもあります。あっ、ラスボスというのは、ラスボス"級"という意味で、サンクが最後の敵であると決まったわけではありませんよ~?

 さて、今回のエピソードタイトル『帰還する魂』ですが、ここには主に二つの意味が込められています。一つは、シャングリラのエネルギーの元であるルイがシャングリラに戻ったこと。そしてもう一つは、イヴナが彼女自身の魂を取り戻した、というところです。前回のあとがきで語ったように、イヴナは長い間、自分を取り巻く全てのことから逃避をしていました。今回、彼女は初めて自らの意志で、自分のなすべきこと、なすべきだと考えることを行動に起こしたのです。彼女は逃避をやめたのです。

 ところで、イヴナの発言についてですが、ここでは語りません。これから本編内で様々な真実が明かされていくことでしょう。お楽しみに。

 一方で、シャングリラの方でも大変なことが起こりました。ルイが現代でともに過ごした"家族"の死。CHAPTER 1 の最終話にて、彼らの身に何かが起こったことはすでに語りましたが、とうとうルイがそれを知ってしまいました。ここからどうなるのでしょうか?

 それでは、次回『EPISODE 33 決断』に、御期待下さい。

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