仮面ライダーハルガ、前回の出来事。
ウッドは自分を犠牲にして、最期のときまでイヴナを守る。
残されたイヴナとカイラの二人は、協力して雷のハルガことサンクを倒す。
変身が解かれたサンクはすぐさま戦場から撤退する。
一方、シャングリラでは人々を元の世界に帰らせる計画が行われていた。
さくらはルイよりも先に元の世界に戻るが、他の人々の姿がなかった。
サンクが操作する試作型フェルルに連れられて、さくらはサンクの元におびき出される。
相手の正体を知らないさくらは、不意打ちの一撃を食らう。
シャングリラに残っているルイは、フェルルMK2の伝達により、さくらが危機に直面していることを知る。
しかし、元の世界にもどろうとしたその時、死んだと思っていた妹の声が聞こえる。
ルイはシャングリラのどこかに残っている妹を救出しようと決断した。
「ミク! 返事をしてくれ!」
「おにぃ……」
妹の声はだんだん小さくなっていた。妹のいる場所から遠ざかっているのか、それとも妹の体力が失われているのか。ただでさえ嵐がどうどうと荒ぶっている状況で、声だけを頼りに相手の居場所を探し当てるのは、この上なく困難であった。ハルガの聴覚がなければ、難しいどころか不可能であっただろう。
ルイはその発達した聴覚を駆使して、なんとかミクのいる方角を定め、その方向に急いだ。
視線の先には、大きな直方体があった。灰色の、コンクリートか何かでできているような箱。その側面には小さな円形の枠が掘られており、そこにガラス窓のようなものがはめられていた。そこから、見覚えのある小さな顔が覗いていた。
ミクたちは、その小さな部屋の中に閉じ込められていた。周りがこれだけ崩壊しているというのに、その部屋だけがそのままの形を保っていた。まるで岩盤でできているかのように。
ルイはその部屋に向かって突進する。
向かっている途中、ルイは自分の身体がふわっと軽くなるのを感じた。
突然、周りの景色が闇に包まれる。ルイは身体が引き裂かれるような痛みを感じた。それとともに、視界の中に白い光が注ぐ。しかしそれはまっすぐな光線ではなく、どういうわけか渦を巻いていた。そしてその渦はどんどんと押しつぶされるように小さくなっていった。
次の瞬間、ルイは元の世界に戻っていた。
目の前には雷のハルガが立っていた。
「たしかにあの空間はお前のエネルギーを元にしていると言ったが」と雷のハルガが語る。「あくまでも資源として利用しているだけだ。とはいえ、お前がここに戻ってくることは私も望んでいなかった。空間崩壊とともに消え失せるものだと思っていたが……ところで、家族は救えたのかな」
ルイは未だ状況が掴めず、パニック状態に陥っていたので、何も答えなかった。
「なるほど。つまり、一兎をも助けられなかった、というわけだ」
雷のハルガはわざとらしい口調でそう言った。
「お前か……ミクたちをあんなところに閉じ込めたのは……」
ルイがそう口にすると、雷のハルガは彼を嘲笑うように言った──
「戦争の基本手順だろう。最初に人質を確保する。そして、人質がその役目を果たしている間に、敵陣を崩壊させる」
そのとき、ルイの目に映ったのは、雷のハルガの後方に倒れている女の姿であった。彼女は茶色い髪をしていた。彼女の周りには、白金に輝く装具の破片が散らばっていた。そして、彼女の胸には大きな穴が開けられていた。
遅かったのか。
色々な負の感情に襲われたルイは、その全てを、目の前の敵にぶつけた。
地面が赤色に染まり始めた。それは大地が変化したからではない。大地を照らす光が赤くなっていたからだ。雲の上から、人間の頭くらいの大きさの火の玉が無数に降り注ぐ。
この天変地異級の現象は、炎のハルガの力によるものであった。無数の炎の塊は、紫の戦士を狙っていた。
雷のハルガは凝縮させた電撃を頭上に放ち、一時的な防御壁を築いた。そのバリアが炎の攻撃を受けている間に、雷のハルガは地面を蹴り、その場から離れた。そしてそのまま勢いを緩めず、炎のハルガに迫った。
しかし雷のハルガの背後から、炎の玉が迫り来ていた。燃える弾丸が目標としていたのは、雷のハルガが立っていた地点ではなく、雷のハルガの身体そのものだった。
雷のハルガはその火の玉から逃れようとした。しかしその時すでに、彼の目の前には炎のハルガの影があった。炎のハルガは火の玉と同じくらいの速度で相手に突進し、拳を突きつけた。
二つの攻撃に挟み撃ちにされた紫の戦士は、爆発に見舞われた。それから紫がかった爆炎とともに宙に浮かび上がった。
体勢を崩した雷のハルガに、さらなる炎が迫る。数え切れぬほどの炎の玉が、雷のハルガの身体を追いかけて曲線軌道を描く。それらは標的の身体の中心に衝突する。滝のごとき炎に襲われた雷のハルガは、その勢いに押されて地面に叩きつけられる。
一体なぜこれほどの力を発揮できるのか。雷のハルガは、相手の技の驚異的な威力を肌で感じながら、それについて思考を巡らせていた。相手は初期形態──紅い装甲の状態であり、特別自分より能力値が高いわけでもない。むしろ、自分が上手をとっていてもおかしくないはずなのだ。だが、そのときの炎のハルガの力は絶大であった。
「る……い……」
女の声が聞こえる。絶命したと思われていたさくらは、うっすらと目を開けていた。炎のハルガも、そのことに気づいた。
「さくら!」
炎のハルガは倒れている女の方へ飛んでいった。それと同時に、天空から降り注いでいた炎の霰は消え失せ、辺り一面を覆っていた赤色の光と燃焼の轟きも無くなった。
「しっかりしろ!」
炎のハルガ──ルイは、さくらの身体を抱きかかえる。彼はさくらの背中に手をまわす。彼はゾッとした。ねちゃりという感触とともに、自分の手が彼女の背中の内側に食い込んだからだ。さくらの顔を見ていたルイは、恐る恐る視線を下ろす。彼女の胸に開いた穴の中に、紅い手が見えた。穴が背中側まで貫通しているのだ。ルイは、自分の血の気が引いていくのをうっすらと感じた。
そのとき、雷のハルガはすでに身を起こして態勢を立て直していた。これが好機とばかりに、炎のハルガと女のいる場所をめがけて無数の稲妻を放った。
ルイは目の前の女のことで頭がいっぱいで、背後に迫り来るものに構っている余裕はなかった。
電気光線が炎のハルガもろともさくらを貫かんとしていた、その瞬間。
嵐が来た。
それは、ルイがシャングリラで見た嵐と似て非なるものだった。その竜巻のごとき風の渦は、二人の戦士に襲いかかっていた電撃を誘い込んだ。そうして竜巻の流れに取り込まれ、螺旋状にぐるぐると回りながら、天空の遥か彼方へと消えていった。
旋風は外側と内側とを隔てており、どんな鉱物にも勝る防御壁を築いていた。ルイたちは、そのような竜巻の中にいたのだ。そしてそこにはもう一人の影があった。その影は蒼く光っていた。
旋風を生み出していたのは、他でもない、風のハルガであった。ルイは仲間の到来に驚いた。しかしそれよりももっと驚くようなことが起こった。
「無事だったのね」
そう声をあげたのが、さくらだったのだ。彼女は炎のハルガの腕の中で身を起こし、さっきよりも目をはっきりと開いていた。
「さくら、じっとしてろ」
彼女が大怪我を負っている状態で身体を動かしていることに焦ったルイは、そう言った。しかし、想定していたよりも事態が大事ではなさそうであるということに、内心ほっとしていた。
「約束を果たすまでは、俺も死ねない」
蒼い装甲の戦士はそう言った。それから目の前にいる紫色の怨敵に近づく。
「何をしている、ロウ。キルアを見殺しにするつもりか」
「貴様があいつの名を呼ぶな。また下らない策を企てているのかもしれないが、俺は二度と貴様のことを信用しないし、二度と仲間を裏切るようなことはしない。決してな。」
さくらを守っても、あいつは蘇らない。だが、これがあいつの願いならば……! 亡き恋人と交わした約束を胸に、ロウはまっすぐな視線で相手を見据える。
そんな彼の隣に、漆黒の装甲の戦士が並び立つ。炎のハルガはベルトにパルマナカルマを装着していた。
「行くぞ、ルイ」
「ああ」
炎のハルガは片手を高く掲げる。すると、先程のように、雲の上から炎の霰が降り注ぐ。
対する雷のハルガは、全身に電気の鎧を纏って攻撃を防御しながら、炎の間を掻い潜る。そして炎を降らせている紅き戦士に急接近を試みた。
だが風のハルガがそれを許さなかった。彼は相手の位置を中心とした半径約30mの円周上に、小さな風の渦を生み出した。それらは一斉に雷のハルガに接近し、その身体を呑み込むとともにひとつの大きな竜巻となった。
竜巻はどんどんと大きくなっていた。その流れに身を任せるほかなかった雷のハルガは、凄まじい速度で回転しながら上空へと誘われる。
雷のハルガを狙う炎の玉は、風のハルガが作りし竜巻の中に突入した。無数の赤い光が竜巻とともに螺旋状に渦を巻く。
炎の嵐。それは雷のハルガの装甲もろとも肉体を切り刻んだ。
どんな生物であっても、この二人の合体必殺技を耐え抜くことはできまい。ハルガの力を有していなければ。
雷のハルガの影が遠くの地面に落下した。風のハルガは、相手を確実に仕留められたかどうかを確かめるべく、相手が飛んで行った方向に向かおうとした。そのときだった。
二人の戦士の背後で、どさりという音が響いた。卓越した聴覚を持つ彼らはその物音にすぐに気づいた。
ルイが後ろを振り向くと、さくらが再び倒れて地面に伏していた。彼は急いで彼女の元に駆けつけ、仰向けにさせる。
そのとき、ルイは恐ろしいことに気づいた。彼女の身体を掴んでいる感触が、まるでないのだ。空気を握りしめようとしているときのようだった。
「おい、どうしたんだよ!」
「ごめんね……私にも分からない」
ルイは必死に彼女を抱きしめようとするが、彼女の身体に触れているというかんじも、彼女の温もりも、全く感じられなかった。さくらはうっすらと開けていた瞼を、ゆっくりと閉ざしていく。
「いくな!」
「……ごめんね」
彼女はそれしか言わなかった。そして次の瞬間、さくらの肉体は完全に消えていた。文字通り、跡形もなく消滅してしまっていた。それはキルアの身に起こったのと同じだった。
さくらの傍らにいたルイは、彼女がさっきまで居たはずの地面を見つめる。両手で地面に触れ、さするように滑らせる。彼女の温もりを必死に掴み取ろうとしていたが、そこにはもう何も残っていなかった。
「当然の結末だな」
と声をあげたのは、いつの間にか彼らの近くに戻っていた雷のハルガだった。
「どういうことだ」とロウ。
「まだ分からないのか? 未来人が過去に干渉すれば、万物の流れは異なる方向へ進み、未来の形は変わる。それまで高い可能性を持っていた世界線でも、実現確率が限りなくゼロに等しくなる。そこにいるはずの生けるものはすべて消え去り、当然、彼らによって生み出されたもの、また彼らの干渉によって生じた物事もすべて存在しなかったことになる。どれだけ抗おうとも、運命は万物を正しい結末に導く」
「だからさくらも……あいつも消えたっていうのか」
「そうさ。そのうち、お前たちは彼女たちが存在していたということすら忘れてしまうがな。全ては消え去り、お前たちの未来は虚構となるのだから」
「だったら、なぜ俺たちは消えない」
ロウが問いかける。この間、ルイは一言も喋らなかった。彼はただ女が消えた地面に視線を注いでいた。
「お前が一番よく分かっているだろう」と雷のハルガが答える。「呪いだ。愛する者の命を代償に、如何なる天変地異が生じても生き延びなければならない、不死の呪い。その呪いの力によって、お前たちだけは死を免れるのさ。仲間を助けることもできず、私を倒すこともできず、無限の苦しみを味わいながら時空の狭間を彷徨う未来が待っているぞ」
それを聞いたロウは歯ぎしりし、殺意に満ちた視線で相手を睨みつける。だが彼のそれはこの場において大したことではなかった。ロウの心の闇をも超える、真の闇が生まれていたからだ。
「うがあああぁぁぁぁぁ」
獣のような雄叫び。それは、炎のハルガから発せられたものだった。炎のハルガの全身を、禍々しい黒い炎が覆っていた。そのベルトに装填されているパルマナカルマは真っ赤に光る。
爆発的な威力で、炎のハルガを包み込む闇の炎は巨大化した。それは風のハルガをも、雷のハルガをも呑みこみ、大地の全てを取り込んでいく。この瞬間、パルマナカルマに蓄積されていたカルマエナジーが、一斉に放出されていた。
辺り一面は闇の色一色に染まり、形あるものはその姿を失っていた。
その闇の中心には、宇宙をも吸い込むような黒色と、太陽をも燃やし尽くす禍々しい紅色の装甲の戦士の姿があった。
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刀を携えた女が、荒野を駆け抜けていた。イヴナは、とある目的を果たすべく、目的地に向かっていた。
全速力で走る彼女の目の前に、真っ黒い影が飛び込んできた。その影は漆黒のオーラに包まれていて、まるで巨人のために作られたマントを被っているかのようだった。そのマントのごとき闇はすぐさま辺り一面を覆い尽くした。
闇の中には、悪魔がいた。禍々しい紅色と、全てを飲み込まんとする漆黒の身体。その悪魔が通る場所は地獄と化していた。
悪魔の周りを覆う闇が、形を変えて前方に細長く伸びる。闇の先端が、人間の手のような形に変化した。その巨大な手が、刀を携えた女の身に迫る。
女は反射的に飛び退こうとした。だが、それは実現されなかった。女の両脚が、何かに捕らえられていた。それは真っ黒に染まった地面から浮き出る、もうひとつの巨大な手であった。
女の身体は、ふたつの大きな手に挟まれ、闇の中に取り込まれた。それからやがて闇の中心に向かって吸い寄せられ、悪魔の身体の中に消えていった。まるで星を呑み込むブラックホールのようであった。
天から大地までの全てを殺すこの悪魔は、こう呼ばれることとなった。
──デーモン・スカー。
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轟音が大地を震わせる。砲台を備えた鋼鉄の塊が大通りに立ち並ぶ。高空では、まっすぐな翼を持つ影が、三機ごとに隊列を組んでいる。
《こちらC小隊。JAXAセンター付近にスカー出現。闇の展開なし。》
無線越しの声が、その受信機を備えたそれぞれの場所に響く。
《こちら本部。作戦区域への誘導を開始せよ。》
デーモン・スカーと呼ばれるその怪物は、人の影一つないアスファルトの道をゆっくりと直進する。その周囲から立ち去った民間人のうち、半分は避難指示に従って別の場所に移動しており、もう半分は既に怪物の犠牲となっていた。
漆黒と真紅の怪物から約五百メートルほど離れた一帯に、象二頭分くらいの大きさの戦車が、一斉に砲口を構える。凄まじい振動とともに、大砲が発射される。
次々と発射される砲弾は、デーモン・スカーに直撃する。道路に小さな窪みができ、アスファルトの破片が浮き上がる。しかし、その攻撃はデーモン・スカーの意に介さなかった。自らの身体が攻撃を受けていることに気づいてすらいないかのように、それは直進を止めなかった。
すると突然、デーモン・スカーの足元から炎の柱が立った。予め設置されていた地雷が発動したのだ。それが引き金となって、周囲の地雷が連鎖的に爆炎を生じる。
さらに追い討ちをかけるように、上空から矢玉が降り注ぐ。高空を飛ぶ戦闘機と、地上の発射機から放たれたミサイルだった。
デーモン・スカーはそれでもダメージを負っていなかった。
その身体の周りに闇のオーラのようなものが現れる。闇はみるみる拡大していき、周囲の建築物や兵器を呑みこんでいく。
《こちらC小隊。闇の展開を確認。スカー北西に向かって進行……たった今停止しました。闇の拡大が著し──》
静寂が戦場を包み込んだ。
爆発の風圧も、炎の音も、光も、何もかもが飲み込まれてしまった。
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古風な黒板と本棚のある部屋に、二人の男がいた。彼らは栗色の机を挟み、互いに向き合って座っていた。部屋の戸に近い方に座っている男の左頬には、色のくすんだ傷跡があった。男は皺のよったシャツと、チノ・クロスのズボンという出で立ちで、痛々しい傷跡を除けばとりたてて特徴のない三十路の男であった。
「少し、話があります」と傷をもつ男が口を開く。「最近関東地方で出没する、デーモン・スカーというものについてです」
「これは驚いた」と相手が反応した。壁側の椅子に腰かけたその男は、向かいに座る男よりも髪の色が薄かった。だが、その瞳はぎらつく光を宿しており、少年心を忘れられないまま年を取ってしまったようにも見える。
「君があれに関心を持つとは。この世で起こっている全ての出来事に対して、一切の興味が無いものだと思っていたよ」
「まあ、それはそうですが」と傷のある男が応じる。「私が興味を持ったのは、デーモン・スカーではなく、それによって引き起こされている現状についてです。この国は治安の良さに甘えていたばかりに、あのたった一人の戦士に、まるで歯が立っていない様子です」
「実のところ、すでにアメリカ軍が協力してはいる」と、傷がない方の男が口を挟む。「意味を為しているようには思えないがね」
「まあ、それについてはよく知りませんが。とにかく、私が言いたいのは、これは我々にとって絶好の機会であるに違いないということですよ。我々の研究の意義を、世界の人間たちに理解してもらうための」
「ふうむ」
髪の色の薄い男が唸り、腕を組む。
「君の言いたいことは分かる。実のところ、私もあれの存在を知ったとき、今の君と同じような考えが頭をよぎった。しかしね、我々のやっていることは、必ずしも世界に理解される必要はないと思うのだよ」
「理解する者だけが理解すれば良い、そう考えているのでしょう、あなたは」と傷のある男が言った。「私もそう思いますよ。ですが、一部の者たちに深く理解されることと同じくらい、多くの者たちに指先程度の理解をされることも、重要だと考えています。それによって、研究費用が底を尽きることも無くなるかもしれません」
「君の言うことも一理ある。しかし、広く浅く知れ渡ってしまえば、我々の研究内容が世間的価値観に染まってしまう。我々自身の意志を保ち続けることが、難しくなるのではなかろうか」
「そうなる前に、完成させてしまえば良いだけのことです」
「なるほど」
壁側に座っている男は、腕を組んで座ったまま椅子をくるりと回した。男はゆっくりと一回転し、再び相手の方に向き直ると、こう言った。
「君がなまじ半端な覚悟で話しているわけではないと、今よく分かった。具体的な話をしようじゃないか」
男がそう言うと、傷がある方の男は椅子から立ち上がり、机の倍くらいの大きさの黒板の前に立った。
「デーモン・スカーの唯一にして驚異的な能力は、闇の展開による周囲の物体の急速な吸引。ですが、これまでの記録を観察したところ、その吸引力が徐々に低下していることが分かりました。エネルギーの供給がなく、ただ消費し続けているだけということでしょう。あれが生物なのか機械なのかは定かでないですが、どちらにせよエネルギー供給なしに動き続けられるものはないですから」
相手は頷いた。彼はただ黙って傷のある男の身振り手振りに注意を払っていた。
「それで、一番最近──私の認識が正しければ、それは一昨日なのですが──の映像記録から、おおよその吸引力を計算しました。すると、人間の大きさで百キログラム程度の物体の場合、大体十二メートル毎時毎時の加速度で吸い寄せられることが分かります。すなわち、これを超える加速度を生み出すことができさえすれば、デーモン・スカーの闇から脱出することが可能なわけです……ここから先はあなたの方がよく理解してらっしゃるでしょう」
「ああ、そうだな」
眼光が輝く男は、返事をしながらにやりと笑った。
「その加速度を超える新しいモデルが、ちょうど完成したところだ。すでに被験者に合わせてチューニング済み、あとはオペレーションを行うのみだ。君にはまだ見せていなかったかな? ついてきてくれ」
そう言うと、男は椅子から立ち上がって戸口に向かった。相手が自分について来ようとしていることを確認すると、ガタリと音を立てて戸を開け、部屋を出た。
二人の男は長い通路を歩く。そこは地下河川のようなトンネルになっていた。必要最低限の照明だけが配置されていて、男たちの影を弱々しく生み出す。
二人は実験体モデルの保管施設となっている部屋に入った。部屋の中央には、緑と灰色の全身鎧とマネキンが一体化したようなもの──実際には特殊スーツであり、中身は空っぽであった──が、男たちの頭よりも高い位置に置かれていた。
「これだ。HAXAS 8号体、マスカードラゴン」
最後までお読みいただきありがとうございます。感想などお待ちしております。
次回『劇場版ハルガ エターナル・ウォー シーン1』に御期待下さい。