1つ!ルイとさくらは、カイラたち組織から、戦いの拠点となるアジトを与えられた。
2つ!謎の巨大な怪物が街に現れ、ルイとさくら、さらにはオルタグアとも対立した。
そして3つ!巨大怪物と戦うふたりの前に、蒼い戦士が現れ、怪物を倒したのだった!
蒼い戦士はルイとさくらの方に、ゆっくりと近づいてきた。戦士は、ふたりの目の前で足を止めた。
「なぜこんなやつと一緒にいる」
蒼い仮面は、突然言い放った。
「は」
「なんなのよ、あなた」
相手は答えなかった。
「俺たちのこと、知ってるんですか?」
と、ルイは正体の分からぬ相手に尋ねた。蒼い仮面は、質問への返答をしなかった。じっとして、ルイの紅い仮面をまじまじと見つめていた。
「気でも狂ったのか」
蒼い仮面はそう言った。
蒼穹の風が戦士の全身を取り巻いた。さくらとルイは少し身構えた。だが、すぐに風の渦はおさまった。
そこには、ルイと同じくらいの歳の青年が立っていた。仮面を被っていた時と変わらぬ青い眼が、ルイにまっすぐに向けられていた。
「俺を覚えてないのか」
青年はルイに問いかけた。
ルイは青年の言葉に驚き、戸惑った。記憶の中に、目の前の青年の姿を蘇らせようとした。が、どうしても思い出せなかった。ルイが唖然とした様子を見せていると、青年は目を逸らして、深くため息をついた。
「あなた、誰なの」
さくらは青年を警戒している様子で、そう尋ねた。
青年は、視線を彼女の方に移した。眉間に皺を寄せて、口を開いた。
「お前こそ誰なんだ、ベロアグアの新参か」
青年はさくらに向かって言い放った。
「は?べろあ、、、なによそれ」
さくらは青年を疑心の眼差しで睨みつけた。
そのとき、青年の背後の空に、黒い影が現れた。1体のオルタグアが、翼をはためかせてルイたちの方に接近した。鳥型の怪物は、青年の斜め後ろの地面に、大きな鉤爪で降り立った。
「危ない!」
ルイはとっさにオルタグアに飛びかかった。だが、鳥の怪物は軽やかに身をひるがえして、彼の突撃を避けた。
地面に着地した鳥型の怪物は、青い眼でルイを睨んでいた。
ルイには、怪物が何か言いたげな顔をしているように見えた。
(なんだ、、、?)
「噂は本当だったわけか」
青年は吐き捨てるように言った。ルイとさくらは、何が何だか分からず、呆然としていた。
青年はルイたちに背を向け、鳥型のオルタグアに歩み寄った。
「行くぞ」
青年は鳥の怪物に話しかけた。オルタグアは翼を折りたたんで、青年に近づいた。青年が腕を横に広げた。すると、彼の周りに蒼い風の渦が発生した。
「待て!」
ルイは叫んだ。だが、青年の姿はオルタグアとともに、風の中に消えていた。
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「風のハルガ。」
カイラはそう言った。いつもの調子で、わずかに笑みを浮かべたような顔をしていた。
ルイとさくらは、アジトの地下室で、カイラに謎の戦士について問いかけたところだった。3人は部屋の片隅に置かれたソファに座っていた。カイラが新しく持ってきたらしい。
「風の、ハルガ、、、?」
ルイが聞き返すと、カイラはそうだ、というように頷いた。
「変身しているのは、ロウという名の男だ。」
「ロウ、、、?」
ルイは、青年の名を聞いてもなお、彼のことを思い出せなかった。
「やつは我々の計画を邪魔する、オルタグアの仲間といったところだ。」
「でも、ハルガって、人間をオルタグアから守る戦士じゃなかったんですか」
ルイは、以前カイラが話していたことを思い出して、そう尋ねた。
「ああ。ハルガが皆、君のような者ではないのだよ。残念ながら。」
”君のような者”というのはどういう意味で言ったのか、ルイには分からなかった。
「皆って、あの蒼いやつ以外にもいるってこと?」
さくらが尋ねた。
「いや、私が知っているのは炎と風の2人だけだ。ただ、他に存在しないという確証がないだけさ。」
「炎と風か、、、」
さくらはつぶやくように言った。
「あいつ、私たちのことを知ってるみたいだったけど、なんでなの?」
「おそらく、君たちがオルタグアと戦っているところを、離れて見ていたんだろう。風の流れにでも乗ってね。」
カイラは笑っているのか、苛立っているのか分からないような、曖昧な表情をしていた。ルイは次の質問をしようと、口を開いた。
「あの、そのロウっていう男が、言ってたんですけど。ベロアグアって、何なんですか?」
「そうよ!あいつ、私のことをベロアグアの新参だとかって言ってたけど、どういう意味?」
さくらもルイと同じことが気になっているようだった。だが、ふたりの質問に対する反応はなかった。その代わりに、カイラの瞳孔が少し動いた。男は、まるで遠くの景色を見ているような顔をしていた。
「、、、どうかしたんですか?」
ルイは、目の前の男が妙にじっとしているのを見て、尋ねた。カイラは返事をしなかった。男は、目線を正面に向けたまま、腰かけていたソファから立ち上がった。それから、見ている人がはっきりと分かるような瞬きをして、ルイとさくらに視線を落とした。
「すまない、戻らなくては」
カイラはそう言った。ルイとさくらが何か話しかける前に、そそくさと地下室を出ていった。
カイラが退出したあと、ルイは前を向いてじっとしていた。
「どうしたの?」
さくらは彼に尋ねた。
「いや、あの蒼い戦士が言ってたことが気になって」
「ベロアグア、、、一体なんのことかしら。オルタグアと何か関係があるのかな、、、」
さくらは問いかけるような口調で言った。だが、それに答えられるものはそこにいなかった。
「そういえば、噂がどうとか言ってたわね、あの人。」
さくらはふいにそう言った。
「うん、さっきもそのことを考えてたんだ」
「え?」
「もしかしたらあの人、前から俺の事を知ってたのかもしれない。」
さくらはルイの顔を見た。
「どういう意味?」
「いや、もしそうなら、確かめたいなって」
「そう。」
さくらは、ルイの意図がよく分からなかったので、あまり深くは聞かなかった。
「でも、知り合いだったってだけで、悪いやつかもよ。オルタグアに肩入れしてるし。」
「うん、わかってる」
ルイはそう答えた。それから顔を少し上げて言った。
「でも、俺の過去を知ってるなら、確かめたい。」
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黒い部屋の中央の、黒い丸テーブルに、赤い目の2人の男が向かい合っていた。ひとりは灰色のスーツを着ていた。もうひとりは軍服をまとった、中年の男だった。
スーツを着たカイラは、足を組み、優雅な様子で腰かけていた。対して軍服の男は、身体をやや前に倒し、手を組んで両肘をテーブルに乗せ、三角形を作っていた。その男は、正面に座る男に厳しい視線を送っていたが、相手は特別気にしていない様子だった。
「あの巨大なロボットを作ったのはお前か、カイラ」
年老いた方の男は、カイラに向かって口を開いた。厳格な顔つきをし、相手に鋭い眼差しを向けていた。
「ああ。以前、ハルガがさくらくんのバイクに乗ったあと、車体に残存していたエネルギーを抽出できてね。我々の進化のために使わせてもらおうかと。」
カイラはにっと笑って見せた。が、軍服の男は顔色を変えなかった。
「だが、その進化とやらのためにハルガと戦闘をしたのはどういうわけだ」
「ちょっとテストをさせてもらっただけさ。それくらいなら問題ないだろう」
軍服の男は、一度視線を逸らし、再びカイラの方を向いた。
「我々の目的を忘れたわけじゃあないよな」
軍服の男はしばらくカイラの顔をじっと見つめていた。だが、カイラは無言のまま冷淡な笑みを浮かべていた。5秒ほど睨み合った後、軍服の男は、諦めたようにふっとため息をもらした。
「あのお方の命令に背くことはするなよ」
そう言って、男は座席から立ち上がった。黒い壁に向かって歩き、暗くてほとんど見えない扉の中へ姿を消した。
男が部屋を去ってから1分も経たないうちに、別の男が部屋に入ってきた。赤い髪の、若い顔をした男だった。若い男は入室するやいなや、テーブルに座るカイラに向かって喋りだした。
「お疲れさまっす、カイラさん」
「ああ」
カイラが軽く返事をすると、若い男はカイラの右隣の座席に座った。隣とは言っても、座席と座席の間は円の4分の1周分離れている。
「ウッドさんとなにかあったんすか?」
赤い髪の男がそう尋ねた。カイラは、顔の向きを変えずに、笑みを浮かべた。
「なんでもないさ。心配することはない。」
そう言うなり、カイラは立ち上がった。
「あれ、もう帰るんすか?」
「実験体のアップグレードをする。」
「ふーん」
赤い髪の男は少しだけ残念そうな顔をした。
カイラはドアに近づいた。部屋を出る前に、足を止めた。後ろにいる赤い髪の男に背を向けたまま、こう言い残した。
「新しい開発品が完成すれば、
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ルイとさくらが、風の戦士と出会ってから5日後。
ふたりは、海辺に向かってバイクを走らせていた。カイラから、オルタグアが現れたとの連絡を受けたばかりだった。通信機で連絡を受けたとき、ルイはまだ答えてもらっていないことについて聞こうとした。だが、カイラはオルタグアの出現のこと以外は頑なに話さなかった。
ルイは、砂浜に4体のオルタグアの姿を捉えた。彼らは、サメのような身体に4本の手足が生えた姿をしていた。海の白い波が、彼らの足元を濡らしていた。
ルイの腰に炎のベルトが現れた。紅蓮の炎が彼の全身を取り囲んだ。
炎のハルガはバイクに乗ったまま立ち上がり、右足を座席にのせた。それから座席を強く蹴って、上へ跳び上がった。
ルイは1体のオルタグアの背後に勢いよく着地した。その直後に、左拳を怪物の脇腹に入れた。
その怪物は、炎の打撃を受けてよろめいた。ルイはもう1発の打撃を入れようとした。だが、オルタグアはルイの拳を避けて、海の中へ飛び込んだ。
その直後、ルイの背後から3体のオルタグアが飛びかかった。彼が振り向くと、怪物の頭はすぐ近くまで迫っていた。
そのとき、小さな銃声が響いた。複数の銃弾が、怪物たちに降り注いだ。銃撃を受けたオルタグアは、後ろへ飛び退いた。
さくらはルイの後ろ20mほどの位置に、黒い銃器を両手で据えて立っていた。
怪物たちは、5、6歩後退した。ルイは拳に炎をまとってオルタグアに殴りかかった。
炎のハルガの拳は、1体の怪物を押し倒した。それから左右の怪物に紅い拳骨を交互に食らわせた。ルイの炎が海水とぶつかり、ぷしゅうと音を立てた。
さくらは黒い銃器を腰のベルトにしまい、両手を前で構えた。彼女の両腕に鎌形の武器が装着された。
彼女は、波のそばでルイと戦う怪物に向かって走った。そのうちの1体に切りかかった。彼女の鎌が、怪物の肉体を斬り裂こうとした。だがそのとき、海の中から、ひとつの影が飛び出た。
1体の怪物が、水しぶきをあげて砂浜に飛び込んできた。怪物は、さくらにとびかかった。彼女は怪物と共に砂の上を転がった。
その直後に、さらに2体の怪物が海から現れた。2体のサメの怪物は、はじめから居た3体と対峙するルイの背中に飛びついた。
「うぐっ」
2体のオルタグアは、ルイを羽交い締めにして、海の中に引きずり込もうとしていた。彼の身体は海の中に入りかけていた。ルイは、紅い炎をまとって必死に抵抗した。
ルイが動く度に、海に半分浸かった足がばしゃばしゃと水をかき回した。水しぶきが飛び、彼の装甲を濡らした。紅い装甲に付着した水滴は、すぐに蒸発して消えた。
ルイの攻撃に倒れていたオルタグアの1体が、立ち上がった。そしてルイの身体に正面からぶつかった。ルイの身体は3体のオルタグアとともに、海の中に飛び込んだ。その瞬間、ルイの身体に寒気が走った。
「ルイ!」
と、さくらは彼の名を叫んだ。彼女は目の前に立ち塞がる一体のオルタグアと対峙していた。
ルイの身体は怪物によって海の深淵へと引きずり込まれた。彼は抗おうとしたが、身体に上手く力が入らなかった。
いつの間にか、彼の身体を拘束していた怪物たちは、姿を消していた。ルイは海中でもがき、上へ行こうとした。海水の中で、紅い装甲は必死に炎を取り戻そうとしていた。
その時さくらは、陸に残った3体のオルタグアたちと戦っていた。彼女は、自分を取り囲む怪物たちに向かって銃弾を放った。怪物たちは銃撃に一瞬よろめいた。その隙に、さくらは怪物たちの間を駆け抜けた。
彼女は砂浜を走り、海に向かって跳んだ。宙に舞う彼女の背中と脚にブースターが装着された。さくらの身体は斜め向きに海面に突入した。
彼女は海中を斜め下向きに潜っていった。100mほど潜ったさくらは、前方に紅い戦士が浮かんでいるのを見つけた。彼女は、急いで進行方向を変え、戦士に近づいた。
ハルガの装甲は、少し色がくすんで見えた。さくらは、ルイの両腕を自分の肩にまわし、彼の両手を掴んだ。それから、太陽の光が差す方を向いた。背中と脚に装着されたブースターの出力を最大限まで引き上げた。
彼女は、一刻も早くルイを海の中から出し、彼に炎の力を取り戻させようということだけを考えていた。そういうわけで、ふたりの背後に迫る、巨大な影に気を配る余裕はなかった。
突然、ふたりの身体は上に突き上げられた。ルイとさくらは海中から宙に放り出された。
さくらはとっさにブースターを制御し、宙に留まろうとした。だが、想定値を超えた出力で使用していたため、バッテリーが消耗し切っていた。さくらは砂浜に投げ出された。彼女は小さく悲鳴をあげた。
さくらの声で、海面近くを漂っていたルイは目を覚ました。彼の視界には、巨大なサメの形の影が映った。
ルイは水面から顔を出した。大きく息を吸うと、少しだけ力がみなぎる感じがした。彼は砂浜に近づこうとした。
だが、巨大なサメが彼の行く先を遮った。大海のハンターと化した怪物は、ルイの行く手を阻み、彼を海中に留まらせた。ただでさえ炎が弱まっている上、相手の動きは素早かった。波間に漂うルイには、為す術がなかった。
そのとき、彼の周りに白く細い、にもかかわらず目がくらむほどに光る稲妻が走った。
ルイに迫ろうとしていた怪物は突然、まるで舵のとれなくなった船のように暴れた。そして一度潜ったかと思うと、海から飛び出した。
巨大な怪物は砂浜で暴れた。まだ電撃の影響が残っているらしい。
ルイは陸の方に向かった。なんとか砂浜にたどり着き、海の中から這い上がった。陸へあがった彼の元に、さくらが駆けつけた。
「大丈夫!?」
彼女の右手には、白いラインの入った黒い銃器が握られていた。
「ああ、なんとか」
紅い装甲は鮮やかさを取り戻していた。ルイは立ち上がった。
「見た目通り、サメと同じみたいね。やつらは電気に敏感よ。」
ふたりは、巨大なサメが打ち上げられた方を見た。巨大な怪物は、元のサメの怪物6体に分離していた。オルタグアらは身体をプルプルと震わせながらも2本の脚で立ち上がり、ルイとさくらを睨みつけた。
「いくわよ!ルイ」
ルイはちらっと左を向いて、さくらの顔を見た。彼女の目は凛々としていた。
「ああ!」
さくらが先に走り出した。砂を蹴って飛び上がった。彼女は、人間離れした軽やかな動きで、身体を回転させた。それから、黒い銃口を怪物らに向けた。
さくらは宙を舞いながら、引き金を握り続けた。白い稲妻が銃口から流れ出て、怪物たちを取り巻いた。砂の上に白く光る電気の縄が、6体の怪物を拘束した。怪物は白い稲妻に捕らえられ、直立したまま動けなくなった。
ルイはさくらが怪物たちから十分に離れたのを確認すると、両脚で地面をぐっと蹴った。
紅い身体は空を舞った。地上30mほどに達すると、宙で3回転した。身体を回転させながら、怪物たちとの距離を掴んだ。
左肩を引くとともに、右脚を前に押し出した。ルイは6体の怪物に向かって突き進んだ。
紅蓮の炎が、6体の怪物を貫いた。
砂が飛ぶように舞い上がった。オルタグアの身体は、消えてなくなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ルイとさくらは、怪物の散った跡を眺めた。
「やったね」
そのとき、ルイは後ろに気配を感じた。振り返ると、3体のサメ怪物がいた。
「なっ!?」
ルイは言葉にならない息を漏らした。彼の様子を見たさくらも、ルイが見据える方角を向いた。
「まだいたの!」
さくらは即座に黒い銃を握り、電撃を与えようとした。
だがそのとき、海側の空に、蒼く光るものが見えた。それから2秒も経たないうちに、蒼い光は一筋の矢となって、こちらに飛んできた。ルイとさくらは身構えた。
ルイとさくらの前に砂埃が立った。そこには、蒼き戦士の姿があった。戦士は、ふたりを見据えて立っていた。
「あなた!」
蒼い戦士は無言で近づいてきた。そして、ものも言わずにルイに左拳を突きつけてきた。ルイの身体は飛ばされた。
吹き飛ばされたルイは、地面すれすれのところで後ろ向きに回転した。両手と両足で、狩りを始める前の獣のように地面を掴んだ。不思議なことに、彼の身体には殴られた感触が残っていなかった。
蒼穹の戦士は風の流れに乗っているような動きでルイに飛びかかった。
さくらは思わず追いかけようとした。が、サメの怪物が近づいてくるのに気づき、銃をそちらに構えた。
風の戦士は、再び拳をルイに突き出してきた。蒼い拳は紅い装甲の10cmほど手前で止まった。だが、ルイの身体は退けられた。
蒼い装甲の戦士は次から次へとルイに拳を叩きこんだ。戦士の拳は一度もルイの身体に触れなかった。にもかかわらず、彼の身体は強い力で押された。紅い戦士は、続けざまに襲いかかる目に見えぬ攻撃を、両方の腕で防いでいた。
「手を抜くな!」
風の戦士は攻撃の手を緩めることなく、炎の戦士に向かって叫んだ。
ルイの防御の手が、見えぬ力で崩された。ルイの身体はまたも飛ばされた。彼はうつ伏せの状態で、地面に滑るように着地した。息がだんだんと荒くなっていた。
「ちょっと待ってくれ!」
ルイがそう叫ぶと、風の戦士は一瞬動きを止めた。
「諦めが早いな。その程度じゃ、俺は倒せない!」
ルイは立ち上がった。自分に向かってくる蒼穹の戦士に身構えることなく、口を開いた。
「俺の事、何か知ってるんだろ、教えてくれ!」
「教えることなど、何も無い!」
風の戦士はルイに向かって、左拳を突きつけた。ルイは即座に両腕に炎をまとい、風の力に刃向かった。2人の戦士は、静止画のようにピタリと止まった。
ルイは風の戦士に抗いながら、口を開いた。
「記憶を失くす前の俺を、知ってるだろ!」
そのとき、ふたりから離れてオルタグアと戦っていたさくらが、こちらを振り向いた。彼女と戦っていたサメの怪物までもが動きを止め、こちらを見つめていた。
風の戦士は、ルイに突きつけていた腕を下ろした。
「記憶を、失くしただと、、、」
風の戦士はルイを睨んだ。それから、離れた場所からこちらを見つめているさくらの方を向いた。
蒼穹の戦士は無言でさくらの方を見ていたが、ふいにルイの方に向き直った。炎の戦士と風の戦士は、互いに青い眼で睨み合った。
しばらくして、風の戦士は視線をやや下に降ろした。それから、低い声で話した。
「だったらはじめからそう言え、、、」
風の戦士は、ゆっくりとした足取りでルイに近づいた。蒼い装甲の戦士は、ルイの目の前に立った。突然、風の戦士は顔を上げた。
「なら尚更言うことは無い!」
風の戦士はそう叫ぶとともに、左足を蹴り上げた。
ルイは攻撃を受けると思って、両腕に炎を宿して身構えた。だが、蒼穹の風はルイには当たらなかった。小さな竜巻のようなものが風の戦士を取り囲み、砂を巻き上げた。
渦巻き風は、さくらと対峙するオルタグアの方に移動した。またたく間に、蒼穹の風は怪物たちと共に消えていた。
さくらは突然の出来事に驚き、周りを見渡した。が、相手の姿はどこにもなかった。砂浜で立ち尽くすルイの影が、波立つ海面に落ちていた。
さくらは彼の方に近寄った。彼女に蹴られた砂は、潮の轟きに混じってざっざっと音を立てた。ルイは彼女の足音に気づいてゆっくりと振り向いた。さくらは彼の眼を見つめた。
「記憶をなくした、って、ほんとなの?」
彼は答えなかった。ただ青年が消えた方角を、波立つ海の水平線を、眺めていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夜。
ブロンドの女が窓ぎわにひとり、佇んでいた。黒い部屋に集いし4人のひとり、アイゼと呼ばれる者だ。
窓の外には夜空が広がっており、いくつかの星たちが輝いていた。女の金色の髪は、風に吹かれて優しくなびいていた。
突然、強い風が吹き始めた。激しい風が彼女の顔に当たり、ブロンドヘアは揺れ動いた。女は風に当たられても動ぜず、青い目で夜空を眺めていた。
ごうごうと叫ぶ風の音の中で、女は口を開いて一言、つぶやいた。
「ロウ、、」
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