【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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今回は、いつもより長く1万字程度となっています。TVシリーズでいうオープニングがカットされ、CMがなくなったみたいな感じでご理解ください(_ _*)。




 仮面ライダーハルガ!前回の3つの出来事!

 1つ!ルイは、自分が過去の記憶を失くし、仮の家族とともに暮らしていたことを打ち明ける。

 2つ!さくらは、装備品の仕組みをルイに教え、また、組織のメンバーの存在を打ち明けた!

 そして3つ!ウッドが率いる組織のメンバーの1人、キキスが鎧の戦士となり、ルイとさくらのオルタグア討伐に協力した!




EPISODE 7 憤激

 

 

 昼下がりのアジトの地下室。

 

 灰色のスーツを着た男が、入口から入ってきた。カイラが直接この場を訪れるのは、ルイとさくらが初めて風のハルガと遭遇したとき以来だった。

 

「この間は突然立ち去るような真似をしてすまなかった。いきなり連絡が来たもので。」

 

 カイラの言い訳に、ルイは疑わしげな顔をした。それを見たカイラは、自分の頭を指でとんとんと軽く叩いた。

 

「私の脳内に埋め込まれたチップで、組織と通信できるんだ。もちろん、君たちのマシンともね。」

 

 男の身体は、左腕だけでなく、頭の中もその一部が機械で構成されているらしい。

 

「あれから何度も通信してるんだから、言ってくれればよかったのに」

 

 と、ルイの横でさくらが不平を漏らした。すると、カイラは久々に冷淡な笑みを浮かべてみせた。

 

「大事な話は直接したいのさ。通信だと、誰に聞かれているか、分かったものじゃないからね。」

 

 正当な理由を言われて、さくらはそれ以上追及しなかった。

 

 カイラは、地下室に置かれたソファに腰かけた。続いて、ルイとさくらも向かいのソファに腰を下ろした。

 

「それで、」とカイラが口を開いた。

 

「ベロアグアという存在について、だったか。」

 

 前に話をした時、ルイとさくらはベロアグアという謎の存在について質問をしていたが、答えを聞く前にカイラが立ち去ってしまったのだった。ふたりは、男の口から謎の存在について明かされるのを待った。

 

「その正体は分からぬ、が、意外に近いところにいるかもしれない。」

 

 期待していた答えを聞けず、ルイはがっかりした。しかし彼は、風のハルガがさくらのことを"ベロアグアの新参"と呼んだのを覚えていた。

 

「一体、何者なんですか?何か分かっていることはないんですか?」

 

 ルイは強く問い詰めた。だが、カイラはまたも冷たい笑みを浮かべた。

 

「恐らく、オルタグアと何か関係がある。今私から言えるのはそれだけだ。」

 

 ルイは口をつぐんだ。横に座るさくらを見た。彼女は珍しく何も喋らずに、おとなしくふたりのやり取りを聞いていた。知らない自分の秘密が明かされるのを恐れているのだろうか。

 

「ところで、今日ここに来たのは、別の話をするためだ。」

 

 カイラはいつになく真面目な表情をしていた。組んでいた脚を下ろし、両肘を膝の上に乗せた。

 

「我々組織は、オルタグアの行動区域と、人間の行方不明件数から、オルタグアの推定被害者数、というものを算出しているんだ。」

 

「それで、、、?」

 

「その推定被害者数が、この国の人口の1%、約120万人を超えた。

 

「え、、、」

 

 カイラの言葉に、ルイとさくらは驚愕した。突然の恐るべき事実に、表情が固まった。

 

「まさか、そんなわけ」

 

「オルタグアの数は尋常じゃない。我々の推定では、約5万体ほど存在する。私たちが気づく前に、或いは、見えないところで、人々を襲っているということだ。」

 

 事態がここまで深刻だったとは。ルイは、怪物オルタグアの存在を軽く見ていたことを反省した。とともに、今まで堪えていた、怪物に対する小さな憎悪がにじみ出て、彼の心にしみをつけた。

 

 いや違う、目の前の男が間違っているかもしれない。このカイラという名の組織の男が自分を騙しているに違いない。ルイの心は相手に対して懐疑的になり、その偽りを確かなものにしてやろうというところに至った。

 

「でも、ネットやメディアでは、全然広まってないですよ」

 

 ルイは以前、オルタグアについての情報を知るため、インターネットで調べようと試みたことがあった。だが、検索結果には野菜やサラダを盛り付けるための食器しか表示されなかった。

 

 しかし、カイラは顔色一つかえずに口を開いた。 

 

「組織の者が情報統制をしているからね。」

 

 さくらが頷いた。

 

「前に話した、アイゼって人よ。民間人だけじゃなく、政府関係者などのエリートでさえも情報統制の傘下にあるわ」

 

 情報統制、という言葉は、以前もさくらから聞いていた。それは、ネット上での情報を制限するものだったらしい。

 

「どうして、そんなことを」

 

 ルイが疑問を呈した。こんな重大な現状を、民間人はともかく、国の指導者にも隠し通すなんて、理解し難かった。

 

「オルタグアに対抗するには、人間はあまりに非力すぎる。何も出来ないのに、事実だけを知ってしまえば、世間は騒動を起こすどころじゃなくなるだろう。」

 

「でも、さくらだって人間じゃないですか。あなたが開発した装備があれば、人間だって戦えるんじゃないんですか。」

 

「すると君は、さくらくんが並大抵の人間と同じ程度の能力しか備えていないと言うのか。」

 

「な、そういうことじゃ」

 

「ちょっと、やめてよ」

 

 と、さくらがふたりの間に割って入った。割って入るとはいえ、明らかにルイを庇うような素振りを見せ、カイラの目を睨んでいた。

 

 カイラは、ふぅっとため息をついた。それから、いつもの冷淡な笑みを浮かべてみせた。

 

「さくらくんが使っている装備は、常人に使える代物ではない。それが言いたかったのさ。」

 

「私も、すぐ使えたわけじゃないの。上手く扱えるようになるまで訓練をしたのよ。」

 

「戦える力を持つものは、少ない方がいい。多いと、ろくな事が、ない、」

 

 カイラは一語一語に重みを乗せるように言葉を吐くと、立ち上がった。

 

「我々も、できる限り早く、オルタグアを発見できるよう全力を尽くす。」

 

 カイラはその場を後にした。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「さっきは、すまなかった。」

 

 ルイは、先程のカイラとの軽い言い争いについて、さくらに申し訳ないという感情を抱いていた。

 

「え?」

 

 さくらは、自分が何を言われているのか分からないという風に、ぽかんと口を開いた。ルイは、決まりが悪くなった。

 

「君のこと、悪く言って、、、」

 

 ルイがそう言うと、さくらはやっと彼の言いたいことが分かったように、表情を緩めた。

 

「気にしてないから、大丈夫よ。というか、あなたは何も悪いことしてないわ。」

 

 彼女の言葉は、彼を擁護するというよりも、カイラたち組織の人間を責めているように聞こえた。ルイは、以前から彼女がカイラたち組織の者を忌み嫌っていることを知っていた。

 

「でも、あの人も、悪い人じゃないと思うよ」

 

「そうかもね」

 

 彼女の返事は抜けていた。さくらは、部屋の端のテーブルにおかれたコンピュータの画面を眺めていた。

 

「何見てるんだ」

 

「オルタグアについて調べてる」

 

 画面には、ルイが見たことのない検索エンジンが開かれていた。

 

「でも、情報統制してるから、出てこないんじゃ」

 

 ルイがそう言うと、さくらは一瞬動きを止めて、彼の方をちらっと見た。それから、画面の中に視線を戻した。

 

「うん、そうなんだけどね。どこかに転がってる情報があるかもしれないから。組織の人たちって、現代の技術にあんまり詳しくないみたいだし」

 

 ルイは彼女の発言に疑問を抱いた。カイラのような最先端技術を持つものがいるのに、現代技術に詳しくないとはどういうことなのか。だが、さくらは画面を見つめて情報を手に入れることに集中していたので、質問をするのはやめた。

 

「これ、、、」

 

 さくらが突然、驚いたような声で呟いた。ルイは、パソコンの画面を覗きこんだ。

 

"CHYZEAN"

 

 画面の上部には、白い文字でそう記されていた。

 

「カイジーン、、、怪人、これがオルタグアってことか?」

 

「分からないわ、、、」

 

 数々の記事が、ブログ形式で投稿されていた。一番上の投稿には、半年前の日付が記されていた。

 

「最後の更新が、半年前で、、、」

 

 さくらはページを下にスクロールした。数々の投稿を遡り、一番下の投稿にたどり着いた。

 

「最初の投稿が、1年前くらい、、、」

 

 彼女は、その最初の投稿をクリックした。

 

"KYJIN AROWALL"

 

 投稿のタイトルはそう題されていた。ルイはそれを読み上げた。

 

「カイジン、アロ、、、現るかな?」

 

「ローマ字みたいな表記ね。これで情報統制を免れてたのかな」

 

 タイトルの下に続く文章も、全て奇妙なローマ字めいたアルファベットで書かれていた。

 

「読みにくいわね、、、」

 

 さくらは奇妙な文章を解読するのを一旦諦めたのか、ページを下にスクロールした。すると、1枚の画像が現れた。

 

「画質が荒いわ」

 

 さくらは呟いた。画面には灰色に濁った背景に、青白い何かがぼやけて写っていた。

 

「すごく遠い所から撮影したとか?」

 

 ルイの推測に、さくらはそうかも、と首をかしげた。

 

 さくらは画像を開き、縮小してみせた。それから、しばらくの間、写真の一部と思わしき画像を、じっと睨んでいた。

 

「これ、、、オルタグアじゃない!?」

 

「まさか、」

 

 ルイは画面に顔を近づけた。そこには、彼のよく知る奇怪な生物があった。何度瞬きをしても、あの怪物にしか見えようがなかった。

 

「こんな、、、1年前から、人間を襲ってたってのか!?」

 

 ルイには、いよいよ人口の1%が犠牲になったというのは真実かもしてないという実感が湧いてきた。もっとも、湧いてきたのは、それだけではなかった。だが、彼の心はそれに気づかぬふりをして、平常を保った。

 

「それに、なんだか奇妙なのは」

 

 とさくらは言いかけて、前のページに戻り、一番上にスクロールした

 

「ちょうど、私がオルタグアと戦い始めたのと同じくらいに、投稿が終わってるのよね、、、」

 

「オルタグア、、、一体なんなんだ、奴らは」

 

 ルイの言葉は、哀しみではなく、静かな怒りに震えていた。

 

 そのとき、ふたりになじみのある警告音とともに、ルイのバイクの通信機が赤く光った。彼はバイクに駆け寄った。

 

《オルタグアだ。》

 

 カイラの声がそう言い終えないうちに、ルイは自分のバイクに跨った。

 

「向かいます!」 

 

 ルイはひと言、言い放った。さくらは、彼の方を向いた。

 

「あいつにバレたらまずいかも。通信機にカメラとか付いてないよね?」

 

「うん、たぶん」

 

 返事をしながら、ルイは現場までのルートを確認していた。

 

 さくらは、コンピュータの画面に向き直った。そこには、紅と白の何かが戦っている写真があった。白いものは先程と同じオルタグアの一種であるとして、紅い方は、もしかすると、いや、間違いなくそれは彼女の知っているものであった。さくらは、画像におさめられている炎の戦士に目を見張った。

 

 だがそんな彼女をよそに、ルイはオルタグアと戦いに行くためにエンジンをかけた。

 

「先に行ってるぞ!」

 

「あっ、ちょっとまって!」

 

 彼を呼ぶ声は、けたたましいエンジンにかき消された。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 太陽が下り始めた頃。

 

 ルイは、郊外の球技場に向かって紅いバイクを走らせていた。目的地に近づくにつれて、悲鳴をあげながら逃げ惑う人々が増えた。彼らは、迫りくる恐怖から逃れるのに必死で、バイクで走るルイとすれ違っても気づかないようだった。ルイはスピードを上げ、現場に急行した。

 

 突然、悲鳴が止んだ。というよりも、ふいにかき消された。ルイが不思議に思って後ろを振り向くと、白い身体の獣が数体、彼が通り過ぎた道路に散らばっていた。先程すれ違った人々の姿は消えていた。

 

 彼はバイクを止め、獣のオルタグアを睨みつけた。ルイはバイクをターンさせ、オルタグアたちに向かって走り出した。

 

 なんで、人間を襲うんだ。皆の明日を、幸せを、なぜそう簡単に奪えるんだ。

 

「なんで、なんでだ!」

 

 紅い車体から、いつになく凄まじい紅蓮の炎が巻き上がった。一瞬のうちに彼の全身を包み込み、ルイを炎の戦士へと変貌させた。

 

 炎のマシンが、怪物と激突した。炎のハルガが乗るバイクは勢いを緩めることなく、白い怪物たちを襲った。

 

 獣の怪物たちの肉体が消えた。ルイはバイクを止めた。

 

 だが、それもつかの間。ルイの背後から怪物が現れ、彼に飛びかかった。

 

 獣の怪物はルイをバイクから引きずり下ろそうとした。ルイは荒々しく肘打ちを喰らわせ、抵抗した。

 

 しかし、彼の前方からもう一体の怪物が現れた。白い大きな鉤爪が、ルイに襲いかかった。

 

 ルイは後ろにいる怪物に肘で打撃を与えた。その直後に、マシンから跳び上がった。怪物の鉤爪は空を斬った。

 

 地面に着地したルイは、2体のオルタグアの方を向いた。そのとき、彼は背後から異様な殺気を感じた。

 

 後ろを振り向くと、3体の獣が身をかがめてこちらを見つめていた。いや、違う。4体、5体、、、。怪物は次から次へと現れ、ルイの周りを取り囲んだ。獣の群れは、全部で10体くらいに増えた。

 

 前にいる1体が、こちらに向かってきた。ルイは即座に炎をまとい、紅い拳を振り回した。打撃を受けた怪物は、数m後ろへ飛んだ。その個体は彼の一撃を受けて消滅した。が、それと入れ違うように、別の数体がルイに飛びかかってきた。

 

 ルイは感情に任せて、荒々しい炎を沸き立たせた。彼の周囲に、ぶわっと炎が巻き上がった。炎が広がり、そこに居たオルタグア全体が火炎を受けた。彼に襲いかかろうとしていた怪物たちは、炎とぶつかって退いた。

 

 ところが怪物たちも負けていなかった。やつらは猛獣のごとく、彼に向かって突き進んだ。ハルガの炎はまだ地に燃えていたが、獣の怪物は覚悟を決めたかのように、ルイをめがけて飛び込んだ。

 

 ルイは、四方から一斉に斬撃を喰らった。怪物の鉤爪は、ハルガの装甲に傷を残した。

 

 ルイは刺すような痛みに、思わずよろめいた。紅い戦士と成り果てた自分の身体に、手を当てた。彼は痛みに耐えながら、赤い装甲が、自分の肉体そのものであることを悟った。

 

「くそっ、、、!」

 

 彼の心の内をよそに、怪物たちはルイに飛びかかった。彼は咄嗟に腕を構えたが、間に合うはずもなかった。

 

 ―と思っていたが、彼は攻撃を受けなかった。目の前で、怪物の姿が消失した。その一瞬の間に、何かがルイの前を通った。

 

 背中と脚にブースターを装着し、両腕に鎌を据える茶髪の女が、身をかがめてこちらに背を向けていた。鎌の刃先には、D156の電撃に似た、白い電気が走っていた。

 

 さくらは、ブースターを噴出してオルタグアの間を高速で移動し、相手の攻撃を巧みに避けつつ、電気をまとった鎌で斬りかかった。

 

 ルイは、彼女の華麗な戦闘を見て、カイラが、さくらは普通の人間とは違うと言っていた意味を理解した。同時に、人間離れした力を持っているはずの自分が、少なくとも人間の姿を保っているさくらに助けられていることに、無力さを覚えた。

 

 ルイがそんなことを思っているうちに、さくらはその場にいたオルタグアをすべて打ち破った。彼女にやられた怪物たちは、あっけなく消えていった。

 

 戦い終わったさくらは、彼の方を振り向いた。

 

「先に行かないでよ!」

 

 ルイは、そんなことを言われるとは思っていなかったので、驚いた。

 

「、、、悪い。俺、、、」

 

 ルイは拳を握った。

 

「俺、はやくオルタグアを倒さなきゃって、、、」

 

 彼の装甲には、熱い炎が燃えていた。正体の知れぬ目的の元に人間を襲う怪物に対する、どうすることもできない憤りが、胸に残された傷から漏れ出ていた。

 

「私も、初めの頃はそうだった。」

 

 さくらが口を開いた。

 

「けど、焦って無茶しても、どうにもならないのよね。、、、じっと堪えて、できる限りのことをする。それ以上でも、それ以下でもない。それが一番。」

 

 そう語る彼女の背中は、自分のものよりもずっと、たくましく見えた。

 

「それに、今はひとりじゃないんだから。焦んなくていいんじゃない?」

 

 さくらはルイに語りかけるとともに、彼女自身に言い聞かせているようだった。

 

「実はね、私、ひとりで戦ってた時よりも、こうしてあなたが近くにいる時の方が、強く戦えるの。」

 

 ルイは、こちらに視線を送る赤い瞳を見返した。彼女の言葉は、彼を慰めるためのものなのか、あるいは、、、

 

「あなたの炎のおかげかもね」

 

 そう言って彼女は笑った。

 

 炎、、、そういえば、この間現れた黒い鎧の戦士も、俺の炎に似てたな、、、

 

 ルイは思考を巡らせていたが、ふと我を思い出した。つまり、本来の目的を果たしていないことに気がついた。

 

「あっちの球技場に、オルタグアがいるはずだ!」

 

 そう言ってルイは、競技場の方角を指差した。紅い装甲につけられた傷は、もうほとんど塞がっていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 ルイとさくらは、目的地にたどり着いた。そこには、30体ほどのオルタグアが集っていたが、その中に紛れて黒い影が行き来していた。鎧の戦士が、たった一人で多数の怪物と奮闘していた。

 

「キキス!」とさくらが呼んだ。

 

 鎧の戦士は彼女の呼びかけに一瞬振り向いた。ヘルメットを被っていたので表情は読めぬが、ふたりの到着が遅いことを咎めているように見えた。

 

 鎧に身を包んだキキスは、俊敏な動きで、オルタグアに打撃を加え続けた。炎を纏ったルイと、ブースターを噴射するさくらは、鎧の戦士のもとへ飛んで行った。黒い鎧と紅い炎、それに輝く鎌が、オルタグアに襲いかかった。

 

 3人の戦者たちは、15体の怪物をなきものにした。人類の直接的防衛のために闘う三者が、圧倒的に優勢だった。

 

 しかし、ことはそううまく運ばなかった。残った15体の獣のオルタグアは、5体ごとに集まり、3つの集団を作った。激しい閃光の後に、その3つはいずれも巨大な猛獣へと変貌した。

 

 キキスは、ルイとさくらの方へ近づいた。それから両手で黒いヘルメットを脱いだ。

 

「ちょっと、なにしてるの!?まだ終わってないわよ」

 

 さくらは彼の行動に驚いて、そう言った。キキスは、ちょっとだけ肩をすくめて見せた。

 

「こうしないと、喋れないんすよ、」

 

 そのとき、巨大野獣の1体が3人の方へ突進してきた。キキスは、黒い鎧の驚異的な機動力で、他のふたりを連れてオルタグアの攻撃から逃れた。そのまま、球技場の観戦席の裏に回った。ルイとさくらは床の上に降ろされたが、黒い鎧は、壁とぶつかった。

 

「いててっ、やっぱり被ってないと、これ扱うのはむずいっすね」

 

 キキスは軽く頭をさすった。だが衝突した割には意外にも平気なようだった。彼は、ルイの方を向いた。

 

「俺のエネルギーの源はあんたといっしょ、炎っす。」

 

「俺と、一緒、、、」

 

「ふたりで一斉に攻めれば、威力が増すはずっす」

 

 キキスはそう言って、にっと笑った。ルイは、以前から鎧の戦士が自分と似た力を持っていたことに納得がいった。だがそれと同時に、なぜ自分と同じ力を有しているのか、という疑問が湧いてきた。しかし怪物の咆哮が彼の思考を妨げた。

 

 キキスは咆哮の轟く方に一瞬顔を向けたが、すぐにさくらの方に向き直った。

 

「さくらさんは、電撃でできるだけオルタグアの動きをとめてほしいっす」

 

 キキスはそう言って立ち上がると同時に、左手を背中に回した。再び前に戻ってきた彼の手には、黒いヘルメットがあった。

 

「わかった」と、さくらは返事をした。

 

「組織の人たちは信用できないけど、あなたのことは信じるわ」

 

 キキスは言葉を返さずに、ヘルメットを被った。

 

 さくらはルイの方を見た。

 

「わかった。俺たち3人で切り抜けよう。」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 3体の巨大なオルタグアは、見失った獲物を探して、競技場の中をうろつき回っていた。怪物がその大きな足を観客席に踏み入れる度に、座席が崩れ落ちた。

 

 突然、白い稲妻が観客席の間から走り出た。それは1体の怪物の巨体にぶつかった。巨大な怪物は、四肢を震わせたかと思うと、その場に倒れ込んだ。

 

 と、そこへふたつの影が飛び出した。一方は黒い鎧で、もう一方は紅い装甲が全身を覆っていた。ふたりの拳が、オルタグアに直撃した。炎の殴打は、巨体に大打撃を喰らわせた。オルタグアは大きく唸るように吠えた。

 

 競技場のグラウンドには、今倒れたオルタグアの他に、同じく巨大な怪物が2体いたが、突然舞い戻ったふたりの戦士に気づかないはずがなかった。

 

 片方の怪物が、ルイとキキスをはさむように、もう片方のオルタグアと反対側に回った。仲間を傷つけられた怪物たちは、それぞれ反対方向から、ルイとキキスに向かって凄まじき速度で突進してきた。

 

 と、そこへ再び白い稲妻が走った。キキスの視線の前を駆けていた獣は、電撃を受けて地面に倒れた。

 

 一方でルイの前には猛獣が迫っていた。今にも衝突寸前のところへ、ブースターを装着したさくらが飛び出た。その両腕には、電気を帯びて白い稲妻が走る鎌が据えられていた。彼女は宙を舞う怪物の腹に向かって、鎌を振り切った。

 

 斬撃と電撃を同時に喰らった怪物は、飛ぶように退いた。そして、先に電撃を受けて倒れていた怪物に衝突した。

 

「よし、今だ!」

 

 ルイは、目の前の2体の巨大な怪物に向かって飛びかかろうとした。だが、彼の身体は突然凄まじい力で投げ飛ばされた。

 

 ルイに体当たりを喰らわせたのは、獣の怪物だった。先程の怪物同士の衝突の衝撃で、初めに倒れた1体が体の自由を取り戻していたのだ。

 

「ルイ!」

 

 さくらは彼の名を叫んだ。だが、彼女には彼の身を案ずる暇はなかった。目の前の巨大な猛獣は、その鋭く青い眼で、その場に残ったさくらとキキスを見下ろした。

 

 鋭い鉤爪―一度喰らえば終わってしまいそうなほどに鋭い―のついた大きな脚が、ふたりの頭上にさしかかった。さくらとキキスは、それぞれ反対方向に飛び、攻撃を免れた。

 

 さくらは横へ飛んですぐに、電撃銃D156を構えて巨体に向かって放った。電撃を受けたオルタグアは、一瞬怯むような素振りを見せたが、倒れなかった。咆哮をあげ、こちらに突進してきた。

 

「もう効かないわ!」

 

 さくらはそう言ったが、特別驚いた様子も見せなかった。連射型銃D506を取り出し、巨大な野獣めがけて連射した。怪物は明らかにダメージを負っていたが、消える気配はなさそうだ。

 

「一撃で決めるしかなさそうね!」

 

 そのとき、地面にのびていたほかの2体も目を覚ました。近くにいたキキスは、高速移動でその攻撃を回避した。

 

「3匹とも同時にやれないか?」

 

 ルイは、荒れる怪物が立てる音に負けじと、大きな声で叫んだ。彼の声が聞こえたのか、キキスはこちらを向いた。

 

「あおごだぐぃをゔぃなうい!」

 

 キキスはヘルメットの下から必死に喋った。言葉は聞き取れなかったが、たぶん自分の言ったことに対して、それは無理だと言ったのだろう。

 

「やってみなきゃ分かんないだろ!」

 

 ルイは離れた場所にいる鎧の戦士に向かって叫んだ。それから、さくらの方を見た。彼女はこくっと頷いた。

 

「前と同じので行くわよ」

 

「ああ」

 

 彼の返事を聞くと、さくらは怪物たちの方に向きなおった。3体の巨大オルタグアはこちらを睨みつけ、今にも飛びかかってきそうであった。

 

 さくらは再び電撃銃D156を取り出し、一体の怪物の方に向けた。黒い銃口から白い稲妻が発射されると同時に、オルタグアは彼女をめがけて走り出した。

 

 さくらは、ちょうど2体のオルタグアと1体のオルタグアの間に向かって、ブースターで瞬時に移動した。両腕を胸の前に掲げ、相手との戦闘を待ち構えているような仕草をした。彼女の挑発にのった怪物たちは、勢いを緩めることなく双方から彼女に向かって進んだ。

 

 3体の怪物とさくらとの距離は、おおよそ同じペースで狭まっていた。その距離が3mほどになったとき、彼女は斜め上へ飛び上がった。さくらは、まるでコンピュータで再現されたグラフのように、美しい曲線を描いて宙を舞った。と、ルイは思った。彼の全身を、炎が取り巻いていた。

 

 さくらは空中から、巨大な怪物3体に電撃を与えた。オルタグアは縄で縛られるかのように、一箇所に引き寄せられた。憐れな怪物たちは電気の束縛から抜け出そうとしたが、一向に逃れられる様子はなかった。

 

 このとき―さくらの華麗な戦術を少し離れてみていたキキスは、その正確性と滑らかさにただ驚嘆していたわけだが―キキスは視界の上方に何かが映ったのに気づいた。

 

(あれは、、、まずいっすね。)

 

(しかも、さっきからこの装備の出力が落ちてる気がする。カイラさんに直してもらわないとっすね。)

 

 黒い鎧の戦士は、ヘルメットの中でぶつぶつと独り言を喋った後、誰の目にも止まることなく、その場を去った。

 

 ルイは、さくらがオルタグアを固定したあと、その場から十分に離れるのを確かめるとすぐ、空へ飛んだ。装甲からの溢れんばかりの紅蓮の炎が、逆流し始めた。紅い炎は、ハルガの右足に吸い込まれた。

 

 炎のハルガは、空中で3回転し、その後左半身を後ろに、右足を前に押し出した。凄まじき速さで、3体のオルタグアに突っ込んだ。

 

 オルタグアを中心に、爆発が起こった。放出されたエネルギーが、爆炎となって轟いた。

 

 しだいに、炎は煙と化し、煙は塵と化した。紅い戦士は、空を見上げて佇んでいた。

 

 そのとき、大きな風圧が急激に、嵐の津波のように押し寄せた。荒れ狂う風は、グラウンドに立つルイとさくらを襲った。

 

 激風に吹き飛ばされたさくらはブースターを展開し、速度を緩められたものの、観戦座席の下の壁と衝突した。

 

「さくら!」

 

 ルイは、激風に耐えながら、前にも似た光景があったことを思い出した。あのときは、巨大な鳥の怪物が彼女を襲ったのだった。

 

 だが今はその時とは違い、嵐は彼女の意識を奪うまで至らなかった。さくらはゆっくりと立ち上がり、顔を上げた。ルイと目を合わせた瞬間、はっと強ばった顔になり、

 

「うしろ!」

 

 彼が振り向くと、蒼穹の戦士が迫っていた。風のハルガは、右手の平を炎のハルガの胸の装甲に向かって押し出した。

 

 それは一瞬の出来事だった。

 

 炎のハルガは防御もできず、まともに攻撃を受けた。そして、グラウンドに仰向けに倒れた。

 

 炎のハルガの全身を、紅い炎が覆った。しだいに炎が消えていき―

 

 そこには、ルイの身体はなかった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 






今回、初めての挿絵を入れてみました。我ながら頑張った笑


UA数 700 突破しました! ありがとうございます。

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