【完結】仮面ライダーハルガ   作:じゅんけん

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 仮面ライダーハルガ!前回の3つの出来事!

 1つ!ルイとさくらは、オルタグアがすでに国の人口の1%の人々を襲ったことを知る!

 2つ!球技場に猛獣のオルタグアが現れ、ルイ、さくら、そしてその場に居合わせたキキスが協力して、怪物を倒す!

 そして3つ!突如現れた風のハルガが、ルイに奇襲。彼の身体を消し去ってしまった!




EPISODE 8 楽園シャングリラ

 

 

「ぇ、、、」

 

 ルイの消滅に、さくらの心の内には荒波がたっていた。あまりにも予想外の現実に、思考が追いついていなかった。

 

 さて、風のハルガは、ルイの身体が消えた場所から数m過ぎ去ったところで、さくらに顔を向けて立っていた。だが突然、くるりと背を向けた。蒼い戦士は、炎のハルガが残していったベルトに、ゆっくりとした足取りで近づいた。

 

 蒼穹の戦士が、足元に転がっている炎のベルトに手を伸ばしたそのとき、ベルトの周りに紅蓮の炎が広がった。宿主を失ったベルトは、紅く閃光を放ち、宙へ舞い上がった。どうどうと炎を噴き出しながら、その場を中心に紅い渦を巻いた。それからしばらくして、炎のベルトは、その場から飛び去った。

 

 ところが、炎の行く手は、何者かによって遮られた。紅い炎を燃やし続けるベルトは、軍服に身を纏った男の手に捕らえられていた。

 

「ウッド!」

 

 さくらは軍服の男を見て叫んだ。これまで、組織の拠点以外の場所で、男の姿を見たことはなかったのだ。

 

 オルタグア殲滅を目標とする組織の中枢ウッドは、炎のベルトをがっしりと掴むと、グラウンドの中央に着地した。さくらの方に目をやると、彼女が驚いているのが見て取れた。それから、少し離れて立ちつくす、蒼穹の戦士の方を向いた。

 

「久しいな、ロウ」

 

 男はそう言った。まるで、遥か昔の時代から、風のハルガである青年といくらかの関係を持っているかのような、口ぶりであった。しかし、風の戦士の方は無言だった。

 

「ちょっと、どういうこと!?」

 

 さくらは問いただすが、軍服の男は構わずに話を続けた。

 

「相変わらず、何を考えているか分からん奴め」

 

 男は厳格な顔つきをしていたが、それは怒りの感情からではなく、元々そういう表情の持ち主であった。

 

 ウッドは、左手に持った炎のベルトを掲げた。男の腕には、黒いグローブが着けられていた。紅い炎が男の手の中で吹き出し暴れていた。

 

「こいつは利用させてもらう」

 

 そう言うやいなや、男の身体は虚像と化した。ウッドは、球技場内を滑るように移動し、一瞬のうちに消えていった。

 

 風のハルガは、ウッドが去ったのを見ると、全身に風を巻いた。蒼穹の渦の中からは、普通の青年と変わらぬ男の姿が現れた。

 

 さくらは青年に向かってつかつかと歩いていった。

 

「ルイをどこにやったのよ!?」

 

 彼女は青年に向かって叫んだ。風のハルガことロウは、澄ました表情で彼女の方を向いた。

 

「ひとつ、確かめておくことがある」

 

「なによ、、、何だって言うのよ!」

 

「お前はあいつらベロアグアの仲間なのか?」

 

 さくらがロウという名の青年から、"ベロアグア"という言葉を聞かされたのは、これで二度目であった。彼女は目の前の青年を睨みつけた。

 

「知らない!ベロアグアってなんなの!?」

 

 彼女の心は怒気と焦燥で混乱していた。青年は、さくらの鋭く赤い眼を見て、彼女の言葉が虚偽ではないことを認めた。

 

「それを知らないのなら、、、」

 

 と言いながら視線を外へ逸らし、再びさくらの方を向いた。

 

「俺もお前も、気にすることはないな」

 

 さくらはなにか言葉を返そうとした。だが、そこには既に青年の姿はなかった。グラウンドの芝が、青年が残していった風に吹かれて、激しく揺れていた。

 

「待っ」

 

 彼女の心は錯乱していた。あの風の戦士は一体何者?ウッドは何を企んでるの?ルイの身体はどこに行ったの?

 

 彼女はふぅっとため息をつき、まず自分を落ち着かせようと思った。そしてふと、周りを見渡し、ひとり呟いた。

 

「キキスはどこ行ったのよ」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「キキス、どうした」

 

 太い声に呼び止められた赤い髪の男は、廊下を進んでいた足を止めた。黒い壁と床と天井に囲まれた彼は、黒い鎧に身を包み、首から上だけ素肌を見せていたので、身体がない人間のように映っていた。

 

「ウッドさん、」

 

 とキキスは返した。軍服の男とはうってかわって、明るく陽気な声であった。

 

「カイラさん知らないっすか」

 

「今はいないらしいな」

 

 ウッドは、キキスが装着している鎧に視線を下ろした。

 

「また開発室に閉じこもってるんじゃないのか」

 

「装備の調子が悪いんで、直してもらおうと思ってたっす」

 

 そう言って、彼は少しだけ鎧からエネルギーを放出し、その場で浮いてみせた。ウッドは、動じぬ厳格な顔つきで、宙と遊ぶキキスに向かって口を開いた。

 

「お前、いつまでそんなもので遊んでいるつもりだ」

 

 軍服の男に咎められ、キキスは宙に浮くのをやめて床に立った。

 

「そんなものを使わないほうが、戦いやすいだろう」

 

「でも、カイラさんが俺にって、作ってくれたっす」

 

 キキスは負けじと言い返した。軍服の男は、少しだけその厳格な顔を緩め、憐れむような目を若者に向けた。

 

「実験台にされてるだけなんじゃないか、完成品のための」

 

「うげっ」

 

 キキスは、醜いものでも見ているような顔を、目の前の男に向けた。

 

「まあ、いいっす。完成したらあかい男にくれるって言ってたっすから」

 

「あかい男って、お前なのか」

 

「だって、他にいないっすよ。俺たち4人の中で、赤っぽい奴」

 

 キキスが自分のことを指差して言ったので、ウッドは鼻で笑った。

 

「それより、お前に仕事がある。キキス。」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

目の前には、灰色の空が広がっていた。フェリーみたいな形の雲が、空の海をゆらゆらと漂っていた。

 

 大空を渡るフェリーをじっと見ていると、やがてその舳先が伸び、船体がちぢれて細くなった。そこから四つの楕円がぬくぬくと現れ、体と同じくらいの大きさになった。四つの楕円は体の中央に端を寄せ合い、ふたつずつに分かれ、まるで頭の取れたトンボのようなかたちに

 

「おい!君!大丈夫か!」

 

 灰色の空を漂うトンボは、何かを叫ぶ者の影に隠された。目の前のものに焦点が合わず、しばらく何も言えずにじっとしていた。

 

「君は、、、君は、ルイくんじゃないか!」

 

 男は彼に向かってそう言った。だんだんと感覚が戻り、ぼんやりとしていた視界が鮮明になり、色を帯びていった。白い髭を生やした顔が目にはっきりと映ったとき、彼は感嘆の声をあげた。

 

「緑山先生!」

 

 ルイの前には、かつて意識を失っていたときに大変世話になった医者の顔があった。記憶を忘れてからの彼が、家族―とはいえ、血縁関係こそないが―以外で唯一尊敬する人物であった。

 

「ここは、、、?」

 

 ルイは起き上がった。まだ少し、頭の奥の方がぼんやりとしていた。上を向くと、灰色ではなくて真っ青な空が広がっていたが、トンボの形をした雲はどこかへ消えてなくなっていた。

 

「ここは、我々人類のための、楽園だよ。」

 

 先生はそう言った。

 

「楽園、、、?」

 

「ああ」

 

 ルイは訳が分からず、聞き返したが、先生はそれ以上話さなかった。

 

「しかし、こんなところで君と再会するとは。」

 

 男がそう言うので、ルイは周りを見渡した。そこには普通の住宅街が続いており、ルイが寝ていたのはアスファルトの道の上だった。とりわけ、変わった様子はなかった。

 

「私も、半年前にこの場所に来たんだよ。」

 

 緑山の言葉に、ルイは顔を上げた。

 

「半年前、、、?じゃあ先生、先生はあの病院を辞めてから、ずっとここにいたんですか?てっきり何かに襲われてしまったのかと、、、」

 

 緑山は、ははは、と声を立てて笑った。

 

「まさか。むしろ自分で言うのも何だが、歳のくせしてピンピンしてるよ」

 

 先生は屈託のない笑顔を見せた。その様子に、ルイの心も少しばかりほぐれた。

 

「正確には、この場所に送られてきたので、向こうの世界で医者を辞めざるを得なくなったんだがな。」

 

 ルイは、男の言っていることがまるで分からなかった。緑山の表情を見たが、いたって平常の顔をしていた。

 

「向こうの、世界、、、?」 

 

「ああ。ここは、シャングリラと呼ばれる世界。さっきまで君が生きていた世界とは、全く異なる次元。いわば、異世界というやつだ」

 

 異世界。たとえ恩師であり、尊敬する者の言葉であっても、それはとてつもなく信じがたいものだった。

 

「まさか、、、そんなことが。」

 

 先生はただ黙って頷いた。

 

 緑山は、事実を淡々と述べるだけで、信じられないだろうが、だとか、じきにわかるさ、などと、ルイに対して何かしらの計らいをしようというのが全くなかった。それがかえって、男の言葉を真実であるように感じさせた。

 

「もしかして先生も、あの、蒼い戦士に会ったんですか?」

 

 ルイは目を覚ます前、風のハルガに襲われたことを覚えていた。

 

「彼のことか。ああ、向こうの世界でも、こちらの世界でも会った。」

 

「えっ」

 

 緑山が冗談など絶対に出てこないような真面目くさった顔で言うので、ルイはますます頭が混乱した。

 

「何者なんですか、、、彼は」

 

「ああ、そうだな。こんなところで話をするのもなんだ、いい場所がある。」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 夜の地下室。

 

 さくらは自分のバイクに付けられた通信機で、カイラたち組織との連絡を試みていた。何度やっても反応がないので、隣に置かれた紅いバイクでもやってみたが、同じ結果に終わった。

 

「ウッドのやつ、、、何を企んでるの?」

 

 あの男が何かを企てているとすれば、当然、組織の他の者、つまり、キキスやカイラたちも知っているはずだ。だがもし、組織が自分を裏切ったのなら、いずれ自分を始末しに来るに違いない。この場所もカイラによって把握されているはずだ。

 

 ピィィーーー

 

 突然、甲高い鳴き声がした。さくらは声が聞こえてきた方を振り向いたが、その顔はすぐに驚きに満ちた。

 

「フェルル!」

 

 彼女は、宙を羽ばたく鳥のメカの名を呼んだ。メカは甲高い機械音を発しながら、アジトの中を飛んでいた。さくらはなつかしい声を聞いてすっかり安心しきっていた。そういうわけで、甲高い鳴き声が警告を表すものだということに、気づくのがおそかった。

 

 突然、背後で何かが崩壊する音が轟いた。振り向くと、白と紅の2台のバイクを乗せていた円形の床がいくつかの大きな破片に割れ、乗せていたバイクごと宙へ飛び散った。床にできた大きな穴に、真っ黒な3本の突起が姿を現した。それはすぐに、巨大なロボットの腕であることがわかった。

 

 さくらは、自分の血の気が引いていくのを感じた。その巨大な機械アームは、地下ガレージで立ち尽くす彼女の方に迫った。

 

「ほんとに裏切るつもりなのね!」

 

 彼女の言葉は怒りとともに悲しみに満ちていた。が、そんな思いに浸っている暇はなかった。

 

 さくらは、床に倒れている紅い車体に駆け寄った。近かったからというだけではない。ただなんとなく、ルイが助けてくれるように思った。というよりも、自然と彼の手を求めていたのかもしれない。

 

 鳥のメカは地下ガレージを出た。それを追って、バイクに乗ったさくらも地上へ出た。

 

 が、このときのさくらは相手の移動能力を見くびっていた。突然、彼女の行く先に巨大ロボットの全身が出現した。それは、以前彼女とルイが街で出くわしたものと同じボディを持っていた。

 

 さくらは電撃銃D156を取り出した。かつての戦闘で実弾が通用しないことは分かっていた。電撃を与えることでロボットの内部システムに損傷を加えることしか思いつかなかったのだ。

 

 彼女は銃口を敵に向け、引き金を引いた。ロボットの重厚なボディに白い稲妻が走ったが、効き目はなかった。

 

 巨大なロボットがこちらに迫ってきた。さくらは即座に背中と脚にブースターを展開して、身構えた。だが、彼女に残された選択は、この場から逃亡するか、良くても巨大ロボットの攻撃をひたすら避け続けるしかなかった。

 

 さくらはこちらに迫りくる巨大な怪物を、焦りの混じった眼で睨んでいた。だがそのとき、巨大な怪物は突然、何か見えない力に押されたかのように、後ろへ退いた。

 

 さくらが後ろを振り向くと、そこには風のハルガが宙に浮いていた。

 

「あなた、、、」

 

 彼女は驚いた口調で言ったが、その驚きはしだいに怒りに変わった。

 

「何しに来たの!?ルイを殺したから、私だけでも助けてやろうって?」

 

 、、、無言。

 

「罪滅ぼしのつもり?」

 

 彼女がそう言うと、風の戦士はさくらを見下ろし、仮面に潜む青い眼を向けた。

 

「ひとつ言っておくが、この世に滅ぼせる罪なんて存在しない。」

 

「、、、なによそれ」

 

 巨大なロボットが体勢を立て直し、こちらに迫ってきた。風の戦士は敵の方を向いた。宙に浮いたまま、両腕を大きく左右に広げた。

 

 蒼い装甲の戦士を中心にして、巨大な渦が回り始めた。蒼穹の風は、しだいに荒れ狂う嵐と化した。

 

 そのとき、ロボットの腕がこちらに向けられた。黒い腕から、白い光が飛び出た。次から次へと光の矢が襲いかかったが、それらはすべて風のハルガが起こした嵐に巻き込まれ、全然別の方角の空へ飛んでいった。

 

 巨大な怪物は射撃をやめ、大きな脚を振り上げた。地響きを起こしながら、風のハルガに向かって突進した。

 

 ロボットとハルガの距離が10mを切った。とたんに、風のハルガは左右に広げていた両腕を一気に前に押し出した。それとともに、蒼穹の嵐が凄まじい速度でロボットに突き当たった。

 

 蒼穹の嵐は、機械のボディを一瞬のうちに粉々にしてしまった。やがて嵐が静まると、その場にはロボットの身体を構成していた金属のガラクタの山が積もっていた。

 

 巨大ロボットを倒した後、風のハルガとさくらは無言で、その場に佇んでいた。

 

 鳥のメカが鳴き声を放ちながら帰ってきた。小さな黒い機械は、地面に呆然と立つさくらの肩の上に降り立った。

 

 さくらは自分の肩を見た。メカの翼の中央には、白い文字で” MK - II ”と記されていた。

 

「マーク、2、、、」

 

 さくらがそう呟くと、メカは彼女の肩から飛び降り、地面に着地した。それからくるりと回転し、こちらを向いた。

 

 さくらは鳥のメカと視線を合わせるために、その場にしゃがみこんだ。すると、小さな機械は目を白く光らせた。その光の先には、長方形の映像が映し出された。

 

 そこには、彼女もかつて居たことのある、黒い部屋が映っていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「炎のハルガが消滅したらしい」

 

 と、軍服に身を包んだ男が言った。ウッドは左手に持った炎のベルトを、目の前の男に差し出した。ベルトを渡された男はそれを受け取ると、冷ややかな笑みを見せた。

 

「ご苦労。」

 

 カイラの冷淡さに、厳格な顔の男も思わずため息をついた。

 

「どうも風のハルガがやったらしいが、ますます奴らの思惑が分からんな。一体何に従って動いているのか。だが少なくとも、人間をただ殺しているわけではないらしい。でないと、辻褄が合わん。」

 

 カイラは、少し上を向いて、ウッドと視線を合わせた。

 

「なんであろうと、我々の目的は変わらない。計画通りに動くのみだ。」

 

 カイラがそう言うと、ウッドは頷いた。それから数歩前へ歩き出して、カイラと肩を並べた。わずかに横に首を傾け、口を開いた。

 

「トラロックの発動地点に装置を設置し終えた。決行は明日の正午でいいな?」

 

「ああ、すべてのオルタグアを抹殺するときだ。」

 

 返事を聞くと、男は再び歩き出し、その場を去った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「カイラのやつ、、、あのベルトを何に使う気?それに、計画って、、、人間を守ることだけが目的じゃないの?」

 

 さくらは誰も答えられるはずのない疑問を口にしたあと、ふぅっとため息をついた。

 

「でも、トラロック、、、よくわからないけど、それでオルタグアを止めれるのね」

 

 彼女は地面に立つ小さな鳥の機械を見つめていた。鳥のメカは彼女の言葉に首を傾けた。

 

「そんな作戦があるのなら、なんで今までやらなかったの。教えてくれても良かったのに。」

 

 鳥のメカに一方的に喋り終えたあと、彼女はふと後ろを向いた。すぐ後ろに、ハルガの装甲を解いた青年が立っていた。ロウは両拳を固く握りしめていた。

 

「ねえ、」

 

 さくらは青年に話しかけた。少しばかり感情がおさまったので、冷静に会話ができそうだ。青年は何も言わずに、彼女に視線を移した。

 

「あんたも、オルタグア、なの?」

 

 さくらは赤く鋭い目で、青年を見つめた。だがロウはさくらの質問を無視して、口を開いた。

 

「お前、ほんとにベロアグアじゃないんだな」

 

「だから知らないってば」

 

 さくらは素性の知れぬ青年に、呆れたように返事をした。

 

「なら、俺たちの邪魔をするなよ」

 

「ふざけないでよ、これからも人間を襲おうっていうんなら、私一人でも止めるわ。」

 

 私一人。そう言ったとたん、孤独が身に沁みた。ルイがいないというただそれだけの寂しさが、彼女の心を惑わせた。

 

 さくらは寂寥から逃れるように立ち上がった。D156を取り出し、目の前に立つ青年に銃口を突きつけた。

 

 そのとき、鳥のメカが宙へ飛び上がった。さくらはメカの方に視線を合わせた。

 

 その隙に、青年は数歩後ろへ下がった。それから、斜め上へ飛んだ。さくらがその姿を追うよりも前に、風と共に夜空の中に消えていった。

 

 彼女は無言で青年が去った方角を見つめていたが、鳥のメカが再び長方形の光を映し出しているのに気づいた。そこには、マップのようなものが表示されていた。長方形の中央が、黄色く光っていた。

 

「ここが、、、さっきのトラロック、ってやつが行われる場所?」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「太陽が、赤い、、、」

 

 ルイは公園の隅に置かれた屋根付きの木のベンチに腰かけ、空を見上げていた。青い大空に、赤い球体が浮きたっていた。彼の疑問に、隣に座る男が答えた。

 

「ああ、あれは太陽と言うよりも、ずっと炎を燃やし続けている物体らしい。それに地球と太陽の距離よりも、近いところに位置する。まあ、この世界にとっては太陽のようなものだがな。」

 

 緑山はルイの真似をして空を見上げていた。

 

 公園の周りは、のどかな自然で覆われていた。鮮やかな緑色の木々が立ち並んでいた。その林とも言えぬ自然の中に、町が広がっていた。

 

「この場所は、なんだか、とても落ち着きますね。」

 

 ルイの言葉に、緑山は頷いた。

 

「さっきも言ったように、ここは人間のための楽園だからね。人間が快適に自由な暮らしを送れるようになっているんだ。」

 

「世界がもう一つあるなんて、、、でもなんだか、僕の魂がこの世界そのものと調和してる、そんな気分です。この大きな空間の深淵に、引き寄せられるような」

 

「はっはっは、君もなかなか詩人めいたことを言うね」

 

 緑山は声を立てて笑った後、軽く咳払いをした。

 

「蒼い戦士、と言ったか、、、彼は我々人類をこの世界に移送する計画を行っている。」

 

 先生は突然驚くようなことを言ってのけた。

 

「じゃあ、僕も先生も、奴の手でこの世界に送られたってことですか」

 

 ルイが聞き返すと、緑山は無言で頷いた。

 

「一体なんのために?」

 

「我々人類を、怪物による脅威から救済するためだと言っていた。」

 

「脅威って、、、まさか、オルタグアのことですか?でも、あいつはオルタグアの仲間だって、、、」

 

 ルイがそう言うと、緑山は急に彼の方を振り返った。

 

「待ちたまえ。すると君は、オルタグアという存在について知っていたのかね?」

 

 緑山先生は、ひどく驚いた表情をしていた。

 

「はい、というか、先生こそ、、、」

 

「それでいて君は、オルタグアが人類の脅威となる怪物だと言うのかね」

 

「え、はい。」

 

 緑山は眉をひそめた。ルイは先生のただならぬ表情を見て、話し始めた。

 

「だ、だって、、、僕は見たんです。たくさんの人たちが、あいつらに殺されるのを。それだけじゃない、僕が気づいてないところでも、たくさんの人が襲われてるんです。

 やつらの襲撃は凄まじいです。オルタグアが通った跡は、まるで地獄です。いや、もっと恐ろしい。なんにもないんです。やつらは血ひとつ残さず、人間をこの世から葬るんです。」

 

 ルイは話し終えると、先生の顔を伺った。緑山先生は、先程よりも少し表情を緩めていた。

 

「だが、君はなにゆえに彼らが人間を殺していると思ったのかね。」

 

「なぜって、あいつらに襲われた人はみんな、身体が突然消え失せて、、、」

 

 ルイは、一番最初に怪物を見た時、つまり、彼の家族が襲われたときのことを思い返していた。

 

「それを見て君はどこかおかしいと思わなかったのかね」

 

「おかしい、って、、、どういうことです、先生は何を知ってるんですか?」

 

 ルイが問い詰めるように尋ねると、緑山は一度口を閉じて、出かかっていた言葉を飲み込んだ。しばらく黙りこくった後、やっと口を開いた。

 

「君の言う、オルタグアに襲われた人間こそが、この世界、シャングリラの住人だよ。」

 

 






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