仮面ライダーハルガ!前回の3つの出来事!
1つ!組織の中枢を担うウッドは、ルイが残した炎のベルトを手に入れ、それをカイラに渡す。
2つ!ひとりになったさくらに、巨大なロボットが襲いかかるが、風のハルガに助けられる!
そして3つ!ルイは、オルタグアに襲われた人間は皆、楽園シャングリラに移送されていたという真実を知った!
―正午まで2時間―
いつもよりも大分遅く目覚め、朝食を済ませたさくらは、地下室へ続く階段を降りていた。昨日起こったはずの出来事が、夢でないかを確かめたいと思った。もしも地下ガレージの床に大きな穴が空いたままだったら、これからどうしよう。
そんなことを考えながら、彼女はアジトの地下室に着いた。恐る恐る顔を上げ、目の前に広がっているであろう惨事をこの目で見定めようとした。
ところが、地下ガレージは床に大きな穴が空いていたり、壁に亀裂が走っていたりしなかった。まるで何ともないのだ。さくらは慌てて中央の円盤に近づいたが、しっかり元通りに戻っていた。
「ほんとに夢だったのかな、、、」
彼女は思わず呟いた。だがその独り言を否定するかのように、小さな機械が朝のさえずりを鳴らした。
「おはよう、フェルル」
黒い鳥のメカは、続けて鳴いた。先程とは違う、甲高い音だ。
「オルタグア、、、」
昨晩、フェルルが見せた映像の中で、カイラたちが話していたことを思い出した。彼らは、オルタグアはただ単に人を襲っているのではないと言っていた。ならば、一体何の理屈があるのか。
さくらは、地下室の入口に停めておいた白いバイクに跨った。エンジンを噴かして、地上へと走り出た。
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―正午まで1時間―
ビルが立ち並ぶ交差点には、たくさんの影が蠢いていた。人の影ではない、ヌーの姿をしたオルタグアが、群れていた。
さくらは右手に電撃銃を構えた。目の前にいる数体のオルタグアに電撃を見舞った。
白い稲妻に怪物たちは怯んだ。が、電撃を浴びていないものたちが、仲間を押しのけてさくらに突進してきた。
さくらはD156を収め、かわりに連撃銃D506を取り出した。黒い銃器を脇に据えるように構え、その銃口を次々とオルタグアたちに向けた。重い銃声とともに、凄まじい弾丸が、怪物の身体に食いこみ、そして消え去った。
突然、オルタグアがさくらに刃向かうのをやめた。それから、一斉に同じ方向に駆け出した。さくらは唖然としていたが、たちまち、その場には彼女ひとりだけが残された。
「何なの、、、?」
そのとき、上空を旋回していた鳥のメカが鳴き声をあげた。さくらが上を向くと、ちょうど太陽が南中しそうであった。
「もうすぐ正午、、、まさか、トラロックを止める気?」
彼女がそう言うと、鳥のメカ、フェルルは上空を2、3度旋回したのち、オルタグアが消えていった方角に向かった。
さくらもバイクに駆け戻り、フェルルのあとを、オルタグアの逃げた方角を追った。
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「オルタグアに襲われた人間が、この世界の、住人、、、?」
緑山先生はルイの言葉に頷いた。ふたりは、屋根付きのベンチに座っていた。
「君には、人間を殺しているように見えたのかもしれないが、実際にはこの世界に人間を移送していたのだよ。」
緑山は少しも揺るがない調子でそう言った。ルイは目の前の男の言うことが信じられなかった。信じたくなかった、というのが本音であるが。
「でも、だとしたら、やつらは一体何のために、、、怪物って一体、、、」
「ベロアグア。彼は怪物の名をそう呼んでいた。」
「えっ」
ルイが驚いた声を漏らすと、緑山はもっと驚いた顔をした。
「まさか、それも知っているのか」
「いや、聞いただけですけど、でも、本当なんですか?あの男の言うことを、信用できるんですか?」
ルイが疑うような眼差しを向けて問い詰めると、緑山は確信のこもった表情で口を開いた。
「ああ。少なくとも、私は信用している。彼は一度、私たちを災害から救ってくれたことがあるんだ。」
ルイは、先生の言葉がだんだん、柔らかな確かさを帯びていくのを感じずにはいられなかった。そして、さっきからずっと頭の中を駆け巡っていたものが、最悪な形ではっきりと開かれてしまった。つまり、自分がこれまで犯してきたのかもしれない大きな過ちが、ゆるがない、確かなものとなった。
「ルイ君、どうかしたのか」
緑山がそう言ったとき、ルイの顔は、自分の背中にのしかかったものへの恐怖に満ちて、蒼くこわばっていた。
「先生、俺、、、」
ルイは下を向いたまま、その苦悩を口から吐き出した。
「俺、ずっと戦ってたんです。オルタグアと。人間を襲う怪物だと思い込んで、、、」
「ああ。」と、少し遅れて返ってきた。
「、、、まさか、知ってたんですか?」
「いや、だが君の様子を見て、そんなところだろうと」
ルイはうつむいた。そんな彼の背中を、緑山は手のひらで軽く叩いた。
「だがまあ、気にするな。今真実を知れたからいいじゃないか。」
先生の優しい声は、果てしない苦悶の渦からルイを引き出すほどの力はなかった。
「でも、俺は、今まで間違ってオルタグアを殺してきた、、、」
彼の中のぐるぐるは、口から言葉を吐き出すにつれて、どんどん強くなっていった。
「オルタグアは、人間を襲う怪物だと思ってたけど、、、怪物は俺の方じゃないか、、、」
ルイは頭を抱えこんで、自分を責めた。記憶もないくせに、無責任に戦いに身を投じた自分のひん曲がった精神を、ぐしゃぐしゃにしてやりたかった。
「大丈夫だ。」
緑山が突然言い放った。
「なにが、、、なにが大丈夫なんですか」
「私もよくは知らないが、彼がこの話をしたときに言っていたよ。オルタグアがやられてしまうのは、そんなに重大なことではない、と」
「重大じゃない、、、?」
ルイは思わず顔を上げた。
「オルタグアだって、人間と同じように生きてるんですよね、命があるんですよね、」
人間の命を預かることを業とする医者である男の胸に、目の前の青年の言葉をのせた凶器が突き刺さった。緑山は、唸るようなため息を吐いて、それを受け止めた。
「君には戦う力があるんだろう。だったら、これからは本当に闘うべきもののために、その力を使えばいい。」
ルイの心はまだ下を向いていた。
「仮面ライダー。この町の住人は、彼をそう呼ぶ。」
「、、、」
「君も、人を守る、仮面ライダーなんじゃないか」
"仮面ライダー"が、ルイの心にほんの少しだけ光を差した。
「、、、そもそも、元の世界に戻れるんですか?」
ルイは緑山に尋ねた。
「私は、分からない。だが君は戻れるそうだ。」
「どういうことですか、、、」
緑山はそれには答えなかった。
「君が元の世界に帰るとともに、失われていた君の記憶は戻る。風の戦士に、君にそう伝えるように言われていた。」
「彼が僕に、、、なぜ」
「それは、記憶を取り戻せば、分かるんじゃないか?」
そう言って緑山は、ルイに穏やかな笑顔を差し向けた。嘘のない男の笑顔を彼が目にするのは、しばらくぶりであった。
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さくらは白いオートバイに乗って、街の車道を走っていた。目指す先は、オルタグアが向かっているであろう、トラロック発動地点。
向かっている最中、どなり、わめきながら逃げ惑うたくさんの人とすれ違った。オルタグアは人を襲っていないようだ。それよりも優先すべきこと、つまりトラロックを止めようというのだろうか。
彼女は目的地にたどり着いた。フェルルの鳴き声を聞いて顔を上げたさくらの瞳には、300mほどの大きなタワーが映った。そびえ立つ大きな建造物の頂点に、軍服を纏った男が立っているのが見えた。
尖塔のふもとには、ヌーの姿をした怪物と、獣の怪物が集まっていた。
彼女はバイクから飛び降りた。尖塔の外壁を、太陽に煌めく鱗のオルタグアらが登っていた。
上空では、多数の翼の影がはためいていた。鳥のオルタグアたちは、タワーの頂点に立つウッドをめがけて、宙を切る勢いで飛翔していた。
さくらは電撃銃を構え、鱗の怪物たちに白い稲妻を見舞った。地上に残ったヌーのオルタグアたちは、彼女を止めようと突進してきた。
そのとき、彼女の目の前に、翼の生えた身体が凄まじい速度で飛びこみ、地面に大きな亀裂を走らせた。後に分かったことだが、鳥のオルタグアは、タワー上部から真っ逆さまに墜落したのだ。哀れな鳥の怪物は、地面にくい込んだあと、まもなく消滅した。
さくらは上を見上げた。タワーの頂点にいるウッドは、彼の方に突撃してくる鳥のオルタグアたちを、目に見えぬ念力で追い返していた。
彼女は、たくさんの怪物たちを圧倒するウッドの姿を見て、驚いた。だが、ならば今までオルタグアとの戦闘に参加せず、自分とルイに任せていたのはどういう訳か。
「なんで今まで戦わなかったのよ」
さくらは不平を言った。彼女は地上にいたので、高さ300mに立つウッドには聞こえるはずがなかったが、男は彼女に気づいたようだ。こちらを見下ろし、しばらく見つめた後、丸いなにかをこちらに向かって投げた。その球体は全身が黒に覆われ、白いラインが走っていた。地上から3mほどのところで落下を止め、宙に浮いた。
今や、さくらの周囲に群がるオルタグアたちも動きを止めて、男の行動に注目していた。
《これより、全個体殲滅計画トラロックを作動する》
太い声が、都心の道路に響き渡った。ウッドが投げた球体は、拡張器の機能をしていた。
さくらはただ立ち尽くしていた。固唾を飲んで、ウッドのやることを見ていた。オルタグアを殲滅させるというトラロックが、ついに発動されるのだろうか。
そのとき、蒼穹の風がタワーの頂点を劈いた。風のハルガは、ウッドを阻止しようと飛び込んだ。だが彼もまた、見えぬ念力で宙へ押し戻された。
再びウッドに刃向かおうとした蒼い戦士は、何者かにおしとどめられた。赤い髪の男が、彼の前に立ち塞がっていた。キキスは、黒い鎧を着ずに、尖塔上部に立っていた。
「そこをどけ!」
怒号を轟かせながら風と共に突撃する蒼い戦士だったが、キキスの見事な連続蹴りを受け、宙に退いた。
さくらは上空での戦いをじっと眺めていた。そのとき、地上300mで、ウッドが何かを押したのが見えた。
その瞬間、タワーの上部が白い光に包まれた。光はしだいに大きくなり、やがて辺り一面を覆い尽くした。
あまりの眩ゆさに、さくらは両手で顔を覆い、目を瞑った。が、光はそれでも眼に入ってきた。外で何が起こっているのか、全く分からなかった。
大地を鎮める煌めきはしばらく続いたが、ふと気がつくと元通りになっていた。彼女の隣には、溢れんばかりの白い稲妻に覆われた鳥のオルタグアが、地面に伏せていた。周りを見渡すと、同じようにしてほかの種の怪物も地面でじっとしていた。
《オルタグアの身体は特定の電圧に対しては非常に軟弱だ。その電圧を受けたものは、やがて消滅する。》
ウッドの言葉が轟くとともに、さくらの周りに倒れていた怪物たちは、跡形もなく消えた。その場に残ったのは、さくら、ウッド、キキス、それから風のハルガの4人だった。
さて、灰色の身体を持つオルタグアたちが消え失せても、蒼穹の戦士は依然として宙に浮いていた。変わったことといえば、蒼い拳がこれまでにないほどに震えていることぐらいだった。
「やはりお前は他と違うみたいだな、ロウ」
軍服の男は風のハルガに向かってそう言った。ロウは答えなかった。
「邪魔者はいなくなった。」
そう呟いたあと、男は地上に凄まじき言葉を轟かせた。
《これより、第2フェーズを開始する。》
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「先生、ひとつ聞いてもいいですか」
全身にのしかかる苦悩が半分和らいだルイが、緑山に尋ねた。
「なんだね」
「僕の家族は、無事ですか」
緑山はルイの横顔をじっと見つめた。彼の瞳の奥に、不安がうずめいているようだ。
「ああ、悠刻家のことか」
緑山は大きく息を吸った。
「大丈夫だ。彼らの身の安全は、私に任せてくれ。」
ルイは先生の方を向いた。緑山先生は、彼を安心させるような笑顔を見せていた。
「よかった、、、」
ルイはふぅっと安堵のため息をついた。そんな彼に対して、緑山は口を開いた。
「ルイ君、君が記憶を取り戻して、本当の家族を思い出すかもしれない。それでも、彼らのことを家族として想い続けるのか。」
先生はそう尋ねたが、答えを求めているというわけではなさそうだった。
「それは、、、分かりません。けど、少なくとも僕にとって、三人はかけがえのない大切な人たちです。それだけは、きっと変わりません。」
緑山はそうか、というように、何度か頷いた。
「君のような、曇りのない正直な心を持つものこそ、人を守るヒーローにふさわしい。私はそう思うよ。」
ルイは澄んだ青い瞳で先生を見た。緑山は彼と目を合わせて少し微笑んだあと、きまり悪そうに目線を逸らした。
「そういえば、ここへ来てから一度だけ、向こうの世界の様子を見たことがあってね。君と一緒にいる、若い女性を見たよ。」
「あ、ああ、、、」
たぶん、さくらのことだろう、とルイは思った。一体どこまで見たのだろうか。
「とやかくは言わんが、大事にするんだぞ。そばにいてやれ」
「はあ、、、」
ルイは先生の言いたいことが分からず、ぽかんと口を開けていた。だんだんと無性に恥ずかしくなってきたので、顔をそむけた。
ルイは、自分の顔が赤く染まるのを感じた。この心持のせいかと思ったが、すぐに全身にも同じ感覚が走った。ルイの身体は、紅い光を放っていた。
「別れが来たみたいだな」
緑山はそう言った。
「先生、、、」
ルイはどこか不安げな顔で緑山を見た。緑山は、最後にちょっとだけ男っぽい顔つきをして、強く頷いた。
「君の仲間が、君を必要としている。」
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「第2フェーズ!?」
さくらは思わず叫んだ。
「なんなのよ、第2フェーズって。もうオルタグアは全員倒したんじゃないの?」
「我々の真の目的は、オルタグア殲滅などではない、、、」
「え、、、」
軍服の男は、見たことがないほどに険しい顔をしていた。男の内からは、ただならぬ張り詰めた空気が漏れ出ていた。
「人間の抹殺。」
男の荘厳な声が、さくらの背中を震わせた。
そのとき、風のハルガは目の前に立ち塞がるキキスを押しのけて、軍服の男に迫った。ウッドは不意を突かれて、宙へ飛ばされた。風のハルガはすぐにそれに追いつき、今度は真下に向かって脚を振り下ろした。
風のハルガは、さくらの立っている場所から数m離れたところに降り立った。着地すると同時に、落下したウッドに荒れ狂う風で襲いかかった。
「装置を壊すんだ!」
風の青年は、さくらに向かって叫んだ。彼女は思いもよらぬことばかりで混乱していた。
「無駄だ。たとえ出来たとしても、もう発動した後だろうな。」
その言葉と同時に、ウッドは蒼穹の渦から抜け出していた。風のハルガは、こちらに向かってきたウッドに身構えた。
「およそ10分後に、トラロックは自動で作動する。私を倒したところでどうにもならん」
ウッドと風のハルガのやり取りを見ていたさくらは、声を張り上げた。
「何なのよ、抹殺って!」
彼女の叫びに、蒼穹の戦士が振り向いた。
「こいつらの目的は、人間を全滅させることだ!お前は俺たちオルタグアと戦うために利用されていただけだ!」
「な、、、何言ってんのよ!オルタグアだって人間を襲ってたじゃない!」
さくらが言い返した。
「いいから、あの装置を壊せ!」
風のハルガは嘆願にも似た声で叫んだ。さくらはウッドを見た。
「本当なの、、、?」
軍服の男は返事をせずに、ふっと鼻で笑ったような顔をした。
さくらはその場に立ち尽くしたまま下を向いた。悲しみの洪水に震えながら、それでも挫けまいと大きく息を吸った。彼女は顔を上げて、タワーの頂点を見据えた。
そのとき、装置に向かって飛び上がろうとしていたさくらの前に、赤い髪の男が舞い出た。キキスは、身体を斜め向きに一回転させ、両方の脚でさくらに蹴りを入れた。彼女は宙へ飛んだ後、後ろ向きに回転して両足を地面に着けた。
「さくらさん、すまないっす。」
男の顔には、迷いはなかった。
「キキス、、、あなたなら信用できると思ってたのに!」
キキスは俊敏な動きで彼女に迫った。さくらは、ブースターを噴出させて攻撃を交わした。
標的を逃したキキスだったが、彼の脚は惰性で宙に蹴り上げられた。そこへ、さくらは白い稲妻を喰らわせた。
「おっと、、、」
キキスはぎりぎりのところで電撃を避けた。だが既にその先にも、銃口は向けられていた。
「ぐっ」
赤い髪の男は、白い稲妻で地面に縛り付けられた。
一方で風のハルガは、軍服の男を相手に、小さな嵐を引き起こし続けていた。ウッドは残像を残しながら高速で移動し、風の届かない嵐の中心に居続けた。
風のハルガは嵐をふたつに分断し、それを微々たる時間差で重ね合わせた。ウッドは蒼穹の風に直撃したが、すぐに渦から逃れた。それからそのまま、蒼い装甲めがけて腕を振り上げた。
風のハルガは10mほど後ろへとんだ。キキスの動きを止めたさくらの横に着地した。
ウッドは姿を見せるのを許さないほどの凄まじい速度で、ふたりの周りをぐるぐると回り始めた。残像しか見えぬ風のハルガには、相手が100体くらい分身しているように見えていた。
さくらは特殊レンズ付きマスクD306を被っていた。彼女の目には、それでも10体ほどの影が映っていた。が、彼女が被っているマスクは、ウッドの動きを確実に捉えていた。
さくらはD506と刻まれたプレートを取り出した。それから、マスクの内部画面が示す照準に従って、銃口を向けた。
突然、隣で風の渦が起こった。振り向くと、風のハルガは真上に向かって蒼穹の風を起こしていた。その先には、電撃の束縛から抜け出し、ふたりに襲いかかろうとするキキスの姿があった。
キキスは風を受けて、上空へ飛ばされた。攻撃こそできなかったが、相手ふたりに隙を与えるには十分すぎた。
高速移動を続けていたウッドは、その隙を見逃さなかった。男は方向を転換し、さくらと風のハルガに突撃した。
凄まじい速度の衝撃を受けたふたりは、吹き飛ばされた。だがその直後に、蒼穹の戦士が背中側に向かい風を引き起こした。ふたりの身体は徐々に減速し、ウッドから100mほど離れたところで止まった。
だが衝撃で食らったダメージは大きなものだった。さくらは両手を地面について荒い息を吐いた。
言うまでもなく、組織の方が優勢だった。実のところ、仮に風のハルガとさくらが優勢であったとしても、トラロックの発動を止められる余裕はなかった。
軍服の男がこちらに近づいてきた。その隣に、赤い髪の男が舞出るように並んだ。
「あと1分だ。」
ウッドは勝ち誇ったような顔をした。風のハルガは悔しさがこぼれ出るような唸り声をあげた。
そのときだった。彼ら4人の視界を、眩い閃光がつつみこんだ。さくらは顔を伏せた。
ついに発動してしまった。この星の人類を、守ることができなかったのだ。こんな事態を前にして非力すぎる自分、組織の人間をやすやすと信じてしまった自分、数え切れないほどの悔恨の矢が、さくらの身に降り注いだ。
ああ、こんなとき、ルイはどうするだろう。記憶を失って、新しくできた家族さえも失って、それでも人を守るために戦う、あの人なら、、、
そのとき、彼女の目の前で銃声が轟いた。さくらの持っていたD506に似ていた。これが走馬灯というものなのだろうか。過去の自分を見ているのかもしれない。
光が引いて、視界が元に戻った。さくらは顔を上げて、自分が然るべき場所にたどり着いたのかどうか見定めようとした。
彼女の期待は外された。
さくらの前には、彼女が一番求めていた青年の背中があった。彼はさくらの装備を構えていた。
「これ、思ってたより難しいな」
青年は彼女の方へ振り返りながら言った。
「ルイ、、、?」
さくらは、自分の精神に記憶の中の彼が語りかけているのか、そうでなければ、願望が生み出した偶像かと思えた。ところが目の前の青年は、彼自身でないと見せることのできないような、遠慮がちで、それでいて情愛のこもった笑みをこぼした。
軍服の男と、赤い髪の男は5mほど離れた地面に伏していた。軍服の男は大きく息を吐いて顔を上げた。そして、炎の戦士こと青年の姿を捉えた眼は、大きく開いた。
「なん、だと、、、」
ルイはウッドの方に向き直った。そのとき、青い大空に、紅く輝く光が姿を現した。
紅蓮の炎は、ルイに向かって真っ直ぐに飛んできた。そして、ルイの目の前で止まった後、すぐに彼の身体の周りを回り始めた。
ルイは、身体の奥底が熱くなるのを感じた。それは人間を苦しめる者への怒りの炎でなく、人を守るという一筋の道を進む、戦士の炎であった。
「ウッド、、、お前たちが、人を苦しめようって言うのなら、俺は、人を守るために闘う。だって、、、」
彼は自分の手の平を見つめた。ルイの身体の周りは、炎で燃え盛っていた。紅い炎の中で、ルイは拳を強く握りしめ、前を向いた。
「だって、、、俺は仮面ライダーだから。」
彼の言葉に、蒼い身体の仮面ライダーは振り向いた。
紅い炎がルイの身体を完全につつみこんだ。烈々と燃えたぎる炎の中で、彼の身体は炎と一体となった。
「、、、変身!」
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