少しだけ大人になったカービィとリボンちゃん 作:Hetzer愛好家
「それにしても急でしたね。これまでリップルスターにやってくるなんてなかったのに、いきなりどうしたんですか?」
死に体だった羞恥心が息を吹き返したことで、顔を赤くして離れたリボンはこんなことをカービィに尋ねた。
彼女の言葉通り、これまでカービィはリボンの故郷に足を運んだことがなかったのだ。それが突然、こうして会いにきたことを疑問に感じたのである。
「いやあ、実はふとした時に因縁ができた暗黒物質を追うことになったんだけどね。たまたまリップルスターの近くを通ることになったから、折角だと思って立ち寄ってみたんだ」
「そ、そうなんですか。私に会いにきた訳ではないんですね……」
有り得ないとは思っていても、少しだけ期待していたリボンは分かりやすく凹んだ。
しかし天然たらしのカービィ。ここで平然と純情乙女の心を爆散する言葉を投げる。
「長いこと行けてなかったのもあるけど、何よりリボンちゃんと久しぶりにお話したかったんだ。急ぐ旅でもないし、息抜きに丁度良いかなってね」
「本当ですか!? ……あ、ごめんなさい」
これにもリボンは分かりやすく反応した。
すぐに自身の失態を悟り、また顔を赤くして思わず謝ったのだが、カービィは笑みを浮かべるのみ。
リボンに会いたかったこと。そして話したかったことは紛れもない事実である。ちなみに、リップルスターに立ち寄る際真っ先に頭に浮かんだのがリボンだったりする。罪作りなピンク球だ。
「そ、そうだカービィさん、お腹は空いてませんか? もし良かったら私が何か作りますよ!」
「え、ホントに? 何か作ってくれるの?」
「はい! 私、いっぱい練習して色んなリップルスターの名物料理を作れるようになったんです! えっと、確かレシピはこっちに……」
そう言ってレシピ本を取り出したリボン。
料理の練習をしていたのは、もちろんカービィのためだ。いつの日か、カービィに美味しい手料理を振る舞ってやりたい。そんな願いの元、彼女は二十年近くも練習を続けていたのである。
そんな願いを持ったは良いものの、訪れることはないのだろうと諦めていたリボンであったが、それでも諦めず努力を怠らなかった自身を密かに自分で褒め称えた。
「うーん。それなら、このカニィカマサラダとギョッパーのムニエルをお願いしようかな」
「分かりました! 少し待っててくださいね」
元気良く調理に取りかかるリボンを見て、カービィは密かに思った。
「何だか雰囲気が大人っぽくなってるな」と。
身長も髪の毛も年月相応に伸びていて。そんな姿で、慣れた手付きでサクサクっと調理を行う。その姿が、どこかカービィには大人っぽく見えていた。
調理を始めてから数分もすれば、もう室内には料理の良い匂いが漂う。
「おお、凄い。とってもお腹空いてくる匂いだ。リボンちゃん、料理が上手なんだね」
「ふふ、いっぱい練習したので! それに、カービィさんに食べてもらうともなればいつもよりも愛情が……」
「え、何て?」
「いえ何も! それよりも茶をどうぞ。リップルスター産の茶葉を使ってるので、他とは少し違う味わいがありますよ!」
そう言ってカービィに差し出されたカップには、いつ淹れたのか分からなかったお茶が入っていた。
本当に手際が良い。カービィが驚くぐらいに。
そして、茶の味も質も良かった。舌が肥えているカービィでも目を見開くぐらいには。
「わあ、このお茶美味しいね。結構苦味はあるけど、それが気にならないぐらい爽やかな後味がする。それに良い香りがするし、胸の奥がポカポカするよ」
「“ティンクル”って言うブランドなんですけど、リップルスターでも特に人気のお茶です。なんでも、苦味が嫌いな人妖精でもティータイムを楽しむために作られたみたいですよ」
「へえ〜、胸の奥がポカポカする理由ってそう言う事なんだ」
感心しながら茶を啜るカービィを、リボンはほんのり顔を赤らめながら見つめる。
彼女が淹れた茶は、確かに“ティンクル”と言う名の物。しかし、彼女は少しだけズルをしていたし、少しだけ嘘を吐いていた。
僅かに募る罪悪感と、その後に待ち受けるかもしれない歓喜への期待。
様々な感情でごちゃ混ぜになりつつ、リボンは平静を装って料理の仕上げを行う。
「はい、完成です!」
「……じゅるり」
「うふ、さあ召し上がれ!」
「いただきまーす!」
相変わらずの健啖具合。完成した料理は、次々とカービィの胃袋へ収まっていく。
感想は言わなくても分かる。この食べっぷりを見れば、きっと誰でも。
リボンも例外ではない。カービィの様子を見て、ただ幸せそうな笑みを浮かべた。
カービィに合わせて、それなりに量のあった料理であったが、僅か数分で皿のみを残す形になった。満足そうにカービィは息を漏らす。
「はふう……美味しかったぁ」
「それは良かったです。腕に自信はありますけど、特に舌が肥えていそうなカービィさんに美味しいて言ってもらえると、すっごい嬉しいですね」
「正直ビックリしてるよ。こんなに上手だったんだね」
カービィさん。貴方のためだからです。何て口にはせず。リボンは少し頬を赤らめて笑うに留めた。
「なんか、大人っぽくなったね。リボンちゃん」
不意にカービィがそんな事を言い出す。
「え、そうですか?」
「なんだろう。記憶が結構前で止まってたからなのかな? 髪型が少し違うからなのか、身長が伸びたからなのか、それとも料理が上手と分かったからなのか。とにかく、何だか大人っぽくなったなと思ってさ」
「あはは、そうですか? そんなカービィさんは変わりませんね。初めて会ったあの日から、ずっと」
「ええ~、それって成長してないって事じゃん。少しは大人に近づいたと思うけどなぁ」
決して悪口や皮肉を言ってるのではない事を分かっているからか、一瞬だけ不満顔になりながらもカービィは優し気なオーラを崩さない。
大人になったね。若々しいままだね。どっちも嬉しい言葉。お互いがそう分かっているから。優しい雰囲気と時間は途切れなかった。
この空気を壊す邪魔者は存在しない。二人きりの優しい時間は、緩やかに流れていく。
「そうだカービィさん。カービィさんは、これからどうするんですか?」
「うーん、特に考えてなかった。急ぐ旅ではないし、少しの間はリップルスターに滞在しようかな。あ、でもどこで泊ろう……」
「なら、このまま私の家に泊ってください。結構広いですし、貯蓄も溢れるぐらいあるので、数日なら大丈夫ですよ」
サラッと滞在を提案したリボンだが、内心はバクバクだ。
この家には、リボン以外は誰も住んでいない。つまり、簡単に二人きりで過ごす時間を確保できるのである。
最初はカービィとのリップルスター観光を考えていたリボンだが、二人きりを壊されないチャンスには目ざとく食いついた。心臓はバクバクだが。
「ホントに? それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
――密かにガッツポーズしたのは言うまでもなかろう。