見栄っ張りの王者(REX)と成り上がりの龍魚   作:アズマヒラタクワガタ

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夕暮れ時のイセザキロードにて、春日たち一行に東京近江連合の残党が襲い掛かる。久方ぶりにパーティを組む春日一番とナンバ、そして他所の世界から来たレックスの三人衆の戦いぶりは如何に…。


第8話 戦闘!

居酒屋やファミレスに仕事帰りの会社員や外食にきた家族連れが集まり、学校帰りの女子高生やカップル等がゲーセンやカフェで賑わい、部活終わりの体育会系中高生がラーメン屋や牛丼屋などで繁盛する夕方から夜にかけてのイセザキロード。

そこに3人の男性たちに襲い掛かる一人のナイフを持った男が平穏を打ち破る。

 

「見つけたで春日一番…東京近江連合の恨みを思い知れやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

と、すごい勢いで春日一番に迫るヨレヨレの姿をした中年男性。

突然の事態に対して身動きできなかった春日にナイフが届かんとしたその時、

「危ない春日さん!」

 

そういってレックスは木刀でナイフを持った男を制したのだ。凶刃が届くよりも先に木刀が暴漢のナイフを弾いた。刃物は宙を舞い、地面に落ちる。

 

「大丈夫?!春日さん!」

「す、すまねぇなレックス。」

「一番。アイツまさか、近江連合の…?」

2年前からは異人町に近江連合の残党や外部のヤクザが入り込まないように異人三が睨みを利かせていた。それでも入ってこられるとは予想外だった。

「考えんのはあとだ、アイツ倒すぞ!」

「ああ、やるよ!」

自称勇者の掛け声と共に皆が臨戦態勢をとる。

 

「くっ…おうお前ら、出てこいや!!謎のガキ諸共、ここで恨み晴らしたるで!」

暴漢の掛け声と共に近くのヤクザ崩れと思わしい風貌の男性たちがまたぞろと出てくる。

どうやら奇襲が失敗した時に備えて4人ほど待機していたようだ。

奇襲した暴漢と合わせて五人の男たちがレックス、春日、ナンバの前に立ちふさがる。

 

 東京近江連合残党

 

「へっ、ナンバと一緒に戦うのなんか何か月ぶりだ!?忘れてねぇよな、俺との戦い方?」

「忘れたくても忘れられねえよ。いつものようにドラクエっぽく戦ってるんだろ?」

「そうよ。それが勇者の戦い方よ!」

「別に勇者だからって攻撃と防御の順番があるわけじゃないと思うんだけどなぁ…」

と、実際にドラクエの勇者を見てきているレックスはぼやく。

「あぁ?何度も言ってるだろ。あのな、一方的に敵ぶん殴るなんざ弱い者いじめだろ?それは喧嘩じゃねえ。俺の中のドラクエの世界はそんなの許さねえ!」

「これ喧嘩でもなければ勇者の戦い方でもないと思うんだけどなぁ…いっつも春日さんって謎なんだよね。それに、敵の攻撃も自分の攻撃も関係ないよ。相手の出方なんか見ずにこっちから抜刀して奇襲かけた方が…」

「やめとけレックス君。一番はこういう奴なんだよ。突っ込んだら負けだ。」

と、お互いの世界観の違う自称勇者と少年。

そして事情を把握しているナンバがなだめる流れでいよいよ本格的に戦闘開始だ。

 

「なにボヤいてんねん!死ねやぁぁぁぁぁ!!」

と、一番槍のヤクザ崩れがナンバめがけて突っ込んでくる。

ナンバはそれを華麗に回避し、自分の攻勢へと移る。

「お返しだ…!」

そう言うとナンバは口に可燃性の高いアルコールを口に含み、攻撃してきた相手に向けてライターを用意してアルコールを吹きだすことで火を噴く。

「アッツ!!!!!!アチ!チチチッ…!」

ナンバの熱気ブレスで火だるまになった暴漢は戦闘不能になった。

 

「俺の番だな!」

そういって春日はバットのギガスイングで固まっていた敵陣を華麗にぶっ飛ばす。

その一撃で3人がぶっ飛び、内2人はそれだけで戦えなくなった。

「うわーっ!」「グワーッー!!」「うげっー!!」

残された一人はイセザキロードの街路樹へと叩きつけられた衝撃で意識が朦朧とする。

「俺に任せて!」

生き残った敵にレックスは飛び込んで木刀を叩きつけ、追撃する。みぞおちに叩き込まれた木刀の一撃で敵は気絶する。

「ぐはっ…!」ガクッ

 

残された一人はかなりの巨漢だった。かつて春日一番が服役する前日にキリトリのシノギで対峙したグレート平塚、その極道崩れバージョンと言えばわかりやすいであろうか。きっと新種のスジモンかもしれない。

その一人は周りの味方がやられていく中でも冷静に力溜めして好機を窺っていた。

「ハ…ッ!危ないナンバさん!」

と巨漢の行動に気づいたレックスが注意を呼び掛ける。

「え?」

「よそ見すんなやぁ!!!オラァ、死ねやぁぁぁぁぁ!!!!」

春日一番とレックスを見守っていたナンバがいつの間にか自分の後ろにいた巨漢を振り返れば、男が近場の居酒屋の電飾看板を振りかざし、ナンバに襲い掛かる。

「うおっつ!!」

咄嗟に横方向に転がり、巨漢から振り下ろされる電飾看板を回避するナンバ。もう少し遅ければ、今地面に叩きつけられ破損した電飾看板の下敷きになっていただろう。

「…あっぶねぇ…。」

幾たびの死線を越えてもよそ見は厳禁、特に最近は喧嘩とは程遠い介護職をしていたナンバはそう実感する。

 

「よし、俺の番だ。どうした?逃げるなら今のうちだぞ。」

そう虚勢混じりの威嚇を言い放つナンバは巨漢への攻勢に移行する。

ナンバが敵の懐へ飛び込むと

「ぶっはぁぁ…」

「うわっつ!!くっさ…!!!!」

信じられない程臭い息を相手に吹きかける。

…なんでここ2年は清潔な生活をしているはずなのに、ホームレス時代のような臭い息が出るのかは企業秘密だそうだ。だが春日一番との戦いで、これで隙が生まれた敵に対して他の火力に自信のあるメンツが攻撃を仕掛ける、といった戦法はよくやった。特に足立さんと一緒に浜子さんの店に寝泊まりしていた無職3人組だったころはよくやっていた。

 

臭い息を吹きかけられた敵はしばらく悶絶し、冷静になってナンバをにらみ直す。

「てめえ…おちょくっとんのか!!いてこますぞワレぇ!!」

「いや、これでいいんだ。」

すると巨漢に向かって自称勇者と少年が駆け寄ってきていた。

 

「おっしゃあ、行くぜレックスぅ!」

「ああ、春日さん!」

そういうと春日からバットを受け取ったレックスは巨漢の背後へと向かい、春日はドロップキックで敵の姿勢を崩す。

「ふん!!」

「ガハッ!!」

巨漢といえども春日の全力疾走から放たれる渾身の飛び蹴りにはよろめき、姿勢を崩す。

そこへ後ろに回ったレックスから追撃が入る。

「転べ!」

レックスはアンカーショットで敵の脚を引っ掛けて掬い、横転させる。更に

「打ちあがれ!!」

巨漢が倒れこむ前に全身の力を込めた下からのバットスイングで巨漢を街路樹の茂みに届くほど高く打ち上げる。浪漫製作所で強化された勇者のバットは大男の体重でも軋み一つ上げずにかっ飛ばす。昔はもっと重い相手にバットを打ち込んでいたのだ、これしき何の苦にもならない。

そして打ち上がった敵に対してとどめを刺すべく

「頼んだ!春日さん!」

掛け声と共にレックスは春日にバットを投げ渡す。バットを受け取った春日は周りの物を踏み台にして天高く舞い上がり、

「よっしゃあ、とどめだーーーーー!!!」

と、バットで敵を地面に叩きつける。叩きつけられた敵は高所からのバットスイングと地面への叩きつけをモロにくらい、当然戦闘不能になる。

「う…がぁ…」バタッ

 

こうして戦闘に勝利する元ホームレス2人と少年。

「大勝利だ!」

「おう、やりすぎちまったか?」

「春日さん、やったね俺たち!」

「おう!昼から考えてた合体技、バシッと決まったな。」

「レックス君。今のが例の…」

「ああ。アンカーショットだよ。大丈夫さ、人には刺さらないように加工してもらったから。」

「あれで昼のギャングチームの時も敵をバッタバッタと転ばせていったもんな!すげえよコイツ!」

「へへっ。大したことないよ。たまたま敵が攻撃中に自分からブレイク状態になる敵ばかりだったからね。」

「ブレイク?よくわかんねえけどお陰で敵を追撃しやすくて助かったぜ。」

お互い別々の世界の戦闘ルールに則って話す二人。だが自然とコンビネーションがかみ合っているようだ。

「全く。一番の妄想が少年に移らなきゃいいけど…」

ナンバは呆れた表情を浮かべる。尤も彼の世界じゃこれくらい普通なのかも、とも考えた。

 

ちなみに様々な物が壊され、敵が死屍累々とぶちのめされていったが、誓って誰も殺されていない。加えてこれくらいの喧嘩は異人町では日常茶飯事なため、道行く人々はひとしきり事が終わると冷静になって街を歩きだす。大抵は喧嘩する者同士が頑丈な為誰も彼もしばらくすれば何事もなく歩き出す。

 

『春日は「絆技 ドライバーコンボの極み」を使えるようになった』

 

 

 

しかし勝利の余韻に浸っているのもほどほどに、敵の後処理を考える春日とナンバ。

「さて…こいつらどうしようかなぁ?」

「どうしたって?」

「こいつらは近江連合の残党だ。異人町を荒らした連中の生き残りがいたとあっちゃ大問題だ。どこで潜伏してたのかかも気になるし…」

「あ…そっか。」

「ひとまずコミジェルに連絡しようか。ハン・ジュンギにこいつらの身柄を引き渡して、あそこの情報網から潜伏場所を割り出してもらおうぜ。あそこの事だし、もう調査を始めてるかもしれねえし。」

「そうだな。」

と、外様故に完全に置いてけぼりを喰らっているレックスが切り出す。

「盛り上がってるところ悪いけど、飯はまだなの?一仕事終えたから腹減ってるんだけど。」

「すまねぇな、もうちょい待ってくれねぇか?あとコイツ等除けなきゃならねえから手伝ってくれ。」

そして神妙な顔を浮かべる春日を見て事態の重さを察したレックスは素直に頷く。

「…うん。」

そういって一行はヤクザ崩れ5人の身柄を裏道にどけることにした。

 

テッテレーテッテー、テレレレッレレー、テッテレーテッテー、テレレレッレレー

 

という春日のスマホの発信音が鳴り響く。2コール後に相手は出た。

「すまん、春日一番だ。ハン・ジュンギか?」

「はい、春日さん。先ほど組織の者からも連絡を受けました。こちらからも近江の残党と思わしい人間達を確認しておりました。これから彼らの身柄をコミジェルが確保しに参ります。もしご予定がつくのでしたら、春日さんたちもご同行いただけると助かります。」

「勿論だ。こいつら野放しにしちゃおけねぇしな。」

「ありがとうございます。ご協力感謝します。」

「いいってことよ、水臭ぇ。俺たちゃ困ったらお互い様だ。仲間だぜ。」

「ふっ…そうでしたね。では5分後にはそちらに私を含めた使いの者が参ります。」

「ああ、待ってるぜ。」

そう言って春日は通話を終えた。相変わらず仕事が早いな、と心の中で感嘆しつつ、ナンバとレックスに事を伝える。

 

「5分後にハン・ジュンギ達が身柄を預かりに来てくれるみてぇだ。すまんがナンバ、もうちょい一緒に行ってくれるか?」

「勿論だ。元々コミジェル、いや異人三には頭が上がらねぇからな、今の俺。」

ナンバは弟がコミジェルの女性と婚約したことや、彼らの偽札ビジネスに自分が壊滅の引き金を引いたこともあって頭が上がらない。

「レックスは…どうしようかな。これ以上異人三に関わらせんのもどうかと思うし…」

「一番。この子はあくまでカタギなのを忘れちゃいけねえぞ。俺らが振り回していいのは表の世界だけだ。この子供を異人三とかの闇に首突っ込ませるのはまずい。」

自分達が裏の世界とズブズブに繋がっているからマヒしがちだが、本来異人三は泣く子も黙るこの町の裏社会を牛耳る帝王達だ。そんなところに何も関係ない子供を連れていくことはコミジェルにとってもシノギの秘密が知られてしまうし、何よりこの子を闇の世界の危険に晒すことになりかねないから連れていく訳にはいかなかった。レックスの正体を知るナンバも同意見である。

 

「…どうしたの?」

「あ、いや、何でもねぇ。わりぃけど俺急用ができてよ。金は出すからその辺で飯にしてくれねぇか?サバイバーにも自分で帰ってくれ。」

と、レックスを自由行動させることにした。

「うん。分かったけど、何か力になれることがあったら言ってね。春日さんには世話になっているし、助けられたら助け返すもんでしょ?」

サルベージャーの合言葉にも助けられたら助け返せ、という言葉がある。現在、衣食住の世話になっている春日に何でもいいから力になろうとしているレックス。

だが首突っ込ませるわけにはいかない春日達はあえて突き放す。

「ありがとう。気持ちだけもらっておくよ。」

「そういうことだ。今日も仕事が終わったらサバイバーで飲もうぜ。」

「わかったよ、気を付けて。」

「おめえもな。なんかあったらマスターに連絡してくれよ。」

そう言って二人とレックスは一旦別れた。

 

 

 

「さて…どうしたもんか。ここらへんで美味しい飯屋なんて知らないぞ俺。」

と、別れたはいいが行き先を定められないレックス。そもそもこの街に来てまだ5日も経っていないため、土地勘などはゼロである。

「取り敢えず昨日の昼食べさせてもらったギュウドンってのが美味しかったからまた食べてみるか。」

取り敢えず昨日春日に昼飯を奢ってもらった「赤牛屋」に向かうことに決めた。

 

 

一方、レックスと別れることにした春日たちの元にコミジェルの使いが護送用の車と共に現れたが、そこにハン・ジュンギの姿はなかった。

「あれ?ハン・ジュンギは?」

「あの方なら急遽できた別件が済み次第コミジェル内部で合流されるとのことです。」

「ふーん。そっか。」

 




あとがき

前話を見られた方、今話が初めてだという方もここまで読んでいただき本当にありがとうございました!今回はアルストパートはお休みです。
ドライバーコンボがギャングたちに決まりやすかったのは「龍が如く極に登場したカラーズみたいな、ブレイクダンス踊るギャング」→「ブレイクからダウンつなげやすいんじゃね?」っていう事です。

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