【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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経緯と出会い

 小学5年生の時に自動車事故に遭った事がある。信号の無い横断歩道、俺は友達とふざけていて道路を確認していなかった。

 

 走って横断歩道を渡ろうとした俺を、進入してきた乗用車が撥ね飛ばす。激しい痛みと共に車の前方に大きく飛んだ俺は、子供心に『このままのスピードで地面にぶつかればただでは済まない』と死を覚悟した。

 

 次の瞬間、俺は蹴飛ばされたラグビーボールの様に何者かに抱き止められた。

 

「ふぅ、危機一髪。大丈夫かい少年?」

 

 濃緑のブレザーに赤いリボンタイを巻いた高校生くらいの茶髪の女の人で、俺の顔を覗き込みながらニッコリと笑った。

 

 車に撥ねられて空を飛んでいる40kgほどの物体を、走って追いつき優しくキャッチする。そんな真似は普通の人間なら到底不可能だ。

 

 でもそれを可能にする存在がいる。頭に長い耳を持ち、腰からはススキの様な尻尾が生えている。体格は普通の女性と変わらないのに、その瞬発力と筋力は男性アスリートを軽く凌駕する。

 

 それがウマ娘だ。

 

 今俺を抱きかかえているウマ娘のお姉さんは、恐らくは特殊な訓練を積んだ人では無い。その年齢と出で立ちから、近くにある『船橋トレーニングセンター学園』の生徒さんで間違いないだろう。

 

 そう、彼女は人命救助ではなくレースの為に学園に通う『走り』のエキスパートだ。

 一見普通の女子高生に見えてとんでもない怪力の彼女は、決して特別な存在ではない。恐らく今彼女がやってみせた芸当はウマ娘なら誰でも出来るだろう。

 

「あたしはこのままこの子を病院に運んで行くから、ライちゃんは警察に連絡しておいて」

 

 俺を抱きかかえたままのウマ娘は隣りにいた他のウマ娘に声をかけ、まるでペットボトル飲料でも持つかの様な軽快さで俺を病院まで運んでくれた。

 そのおかげなのか、命の危険すらあった俺の事故は、右太腿の骨折だけで済んだのだった。

 

 ☆

 

 この世には3種類の人間がいる。男、女、そしてウマ娘だ……。

 

「ウマ」と呼ばれる異次元世界の英雄の魂が、この世界の胎児の中に宿って生まれる存在。

 男子は生まれず、必ず女子だけが生まれてくる。それ故に『ウマ娘』と呼ばれている。

 通常の人間の何倍もの筋力を持ち、オリンピック選手の3倍のスピードで走る事が出来る。

 走る事をこよなく愛し、人一倍負けず嫌いで、誰よりも早くゴールする事を至上の喜びとする。

 

 そんな特徴を持つ人達だ。

 

 ウマ娘は有史以前から存在し、時代によって『神の使い』とか『悪魔の化身』とか言われて、崇拝と迫害を繰り返しながら人類史と共に歩み続けた。

 

 歴史に翻弄されてきたウマ娘だが、生来の細かいことに拘らないおおらかな性格と、政治的野心の無さから、フィジカル的には完全に人類の上位種にも関わらず、人類に取って代わって世界を支配しようと動くウマ娘は居なかった。

 

 いや、居たかも知れないが、そういった資料の類が存在しないので、いずれも構想段階で終わっている様だ。

 きっと歴史上のウマ娘は、あれこれ陰謀を巡らせたり戦略を考えるよりも、目の前のレースを勝つ事の方が重要だったのだろう。

 

 そんな彼女達も現代では一般市民として、憲法に保証されている「基本的人権」を享受しながら日々を生きている。

 現代日本では「ウマ娘だから」という理由で無意味に待ちあげられたり蔑まれたり、という事はまずありえない。

 

 法的に就職や転居が制限される事は無いが、高いフィジカルから郵便配達や宅配便等の小口輸送業務に就くウマ娘は多い。江戸時代の飛脚や駕籠担ぎはウマ娘の専売特許だったらしい。

 

 そしてウマ娘の最も輝く進路が、古くは「競」と呼ばれる公式レースの数々だ。

 

 URA(ウマ娘レース協会)の主催する「トゥインクル・シリーズ」や「ドリームトロフィー・リーグ」を始め、NAU(地方ウマ娘全国協会)の主催する地方レース等々多数のレースが開催され、多くの国民に健全な娯楽を提供している。

 

 もちろんレースに進まないウマ娘も少なくない。プロスポーツ全般がそうである様に、レースの世界に踏み込めるのはほんの一握りの才能に溢れたウマ娘だけだ。そうではない圧倒的多数の一般ウマ娘は、普通に学校や仕事に行ったり休みの日に遊びに行ったりする『一般人』として生活をする。

 

 俺の通う、東京都「利根川区」にある「私立 江戸城高校」にも中央や地方の「トレセン学園」へ進学しなかったウマ娘が何人か通っている。『1クラスに1人か2人のウマ娘がいる』という人口比に則った、子供の頃から慣れ親しんだよくある構成だ。

 

 ☆

 

 前置きが長くなった。前述の事故でウマ娘のお姉さんに助けられた俺は、物心ついた時から当たり前に存在しているはずの『ウマ娘』という存在に改めて強く惹かれてしまった。

 

 この世界の「ウマ娘」とは一体何なのか? なぜその様な存在が生まれたのか? 普通の人間と何が同じで何が違うのか?

 俺は図書館に籠もって文献を調べたり、ネットで出処の怪しい情報を漁ったり、ウマ娘の同級生に「調べさせてくれ」と言って気味悪がられたり、何年もウマ娘の生態を調べるべく奔走していた。

 

 高校でも「ウマ娘研究会」的な部活を立ち上げたかったのだが、部活動の新設は2年生以降というルールがあるらしく、高校に入って1年は「民俗学研究会」などという毒にも薬にもならない部活で独り細々とウマ娘の研究を続けていた。

 

 そして2年生に進級した俺は「ウマ娘研究会」の創設に向けて動いたが、生徒会より名前が差別的だという指摘を受けた。

 ウマ娘の研究会なのだから「ウマ娘研究会」の何が悪いのかと抗議したが、「実験動物の様なネーミングは学校内にいるウマ娘生徒に悪印象を与えるから」との事らしい。

 

 まぁ名前などはどうでも良いのだ。俺はウマ娘について語れる同志が欲しい。何よりも大事なのは部活動という『器』を作る事だ。

 

 名前を変えれば部の創設は可能らしいので、俺は「比較人類研究部」として改めて申請し、こちらはあっさりと承認された。少々のゴタゴタはあったが、ゴールデンウイーク明けには活動開始出来るだろう。

 

 ここから2ヶ月以内に部員を5名以上にすれば、正式に「部」として承認され、生徒会から予算が回される。

 

 逆に5名集まらなかった場合、3名ならば「同好会」として承認され、「部」の半額だが予算が出る。2名以下だとお取り潰しの憂き目に遭ってしまう訳だ。

 

 頑張って部員を集めよう!

 

 とりあえず俺は仮の住まいとして貸し与えられた教室 (部室)で、これまた貸し与えられたガリ版印刷機で部員勧誘のチラシを作っていた。

 

 すると教室の扉をノックする音が聞こえ、「失礼します…」という女子の声が聞こえてきた。

 一応教室の外に安っぽい手書きの『比較人類研究部 ウマ娘大歓迎!』の看板は出してはいるけど、まだ勧誘活動は何もしていない。

 

 疑問に思いながら振り向くと、そこには亜麻色の髪をポニーテールにまとめた少女が立っていた。

 紺色のセーラー服を着た当校の生徒だ。しかし服装よりも激しく自己主張していたのが、頭にある長い耳と、腰から生えた不安げに揺れるススキの様な尻尾だった。

 

 この娘は『ウマ娘』だ……。

 

「あの、外の看板みて来たんですけど、ウマ娘って滅ぼせませんかね…?」

 

 それが彼女… 水澤(みずさわ) イチとの出会いだった……。

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