【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「おはよーございます…」
ややボンヤリとしてはいるが、水澤は普通に部室にやってきた。まぁ今は放課後なんだけどな?
「お、おう、急に居なくなったから心配していたんだぞ? 今日はあの三崎とか言う娘は居ないのか?」
生徒会室で北野会長から話を聞いている最中に不調を訴えて退室し、そのまま音信不通になっていた水澤だが、少なくとも現在は顔色も良く、悩んでいる素振りもない。土日の2日間でメンタルを立て直すイベントでもあったのだろうか?
「あはは、スミマセン… 会長に言われて私も走ってた頃を少し思い出しちゃって… 懐かしかったと同時に『やっぱり中央に行く様な娘は初めから違うんだなぁ』とか思ったりしまして… あ、あとナノちゃんは保健委員会の会合があるので、それが終わったら顔を出すと思います」
はて? 話がよく見えないな。水澤の過去についてはほとんど聞いたことが無い。レースやライブ以外のウマ娘の姿って普段見る機会が無いから、そういった日常の生活とか考え方とかは「比較人類研究部」の特性上とても価値の高い情報だ。
三崎に関しては挨拶代わりに聞いてみただけだから別にそれ以上の興味は無い。しかし保健委員会か… 水澤に握り潰された右手が疼く。響子先生に湿布を貰いに行くのをすっかり忘れてしまったな……。
「そっか… なぁ水澤、お前が走ってた頃の話って聞かせてもらっても良いかな…?」
「え? イヤです…」
…はい会話終了! そして訪れる長い沈黙……。
ったく、このメスウマが。人がせっかく話題を振ってやったというのに、どうしてくれるんだよこの空気?
「あ… えーと、だってホラ、私って結局走りから
会話が切られて俺が不機嫌になったのを察したのか、水澤が謎のフォローになってないフォローを展開してきた。
「お前な、俺をその辺のウマ娘ミーハーと一緒にするなよ? ウマ娘レース界が血で血を洗う共喰いバトルだって現実は俺だって知ってるよ。ただ水澤もタカチャン先輩も過去にそんなハードな人生を送ってきて、今の一般人的な生活をどう思ってるのかなぁ? って疑問はあるんだよ…」
俺の言葉に水澤は意外そうに目を見開いた。
「でもホント、面白い話じゃ無いですよ? 地元のクラブチームで小学生まで走ってただけで、そこでのグループも普通の友達みたいなノリで仲良くて『ピリピリしたライバル』みたいな感じじゃ無かったし… まぁ1人飛び抜けて速い娘がいたんで、順位を巡って争うとかは無かったかなぁ…?」
水澤は訥々と語りだした。そうそう、そういうので良いんだよそういうので。俺達一般人とレースを走るウマ娘の中間に属している水澤や北野会長みたいな人の経験と意見をこそ欲しているんだよ、こっちは。
「その娘は今、中央でトゥインクルシリーズを走っているんですけど、よくレース中に転んで怪我して、なんてのを繰り返している娘でして… 『ウマ娘レース』なんてのが無ければあの娘も怪我せずに済んでいたのではないかと。やはり現代の体制がですね…」
また水澤の発作が始まってしまったらしい。熱が冷めるまでしばらく放置して1人で喋らせておこう。
しかし水澤の同期にトゥインクルシリーズで走っているウマ娘が居たとは驚きだ。
新馬戦が始まるのは毎年6月からなので、ゴールデンウィーク明けの今の時期にはジュニア級のウマ娘はまだ誰もデビューしていない。
つまり現段階で走っているのならば既にデビューを終えたクラッシック級かシニア級、怪我をしてどうこうという話なら何人か心当たりもある。
シニア級なら、デビューから無敗のまま現在GⅠを7連勝している『伝説』ツキバミが先月の天皇賞(春)の後、つま先の骨折が発表され、長期休業を余儀なくされている。
クラッシック級ならやはり先月の青葉賞を優勝したスターコロボックルというウマ娘がレース後に屈腱炎を発症し、せっかく出走優先権を取った日本ダービーを棄権している。
ダービーがウマ娘にとってどれほど大事なレースかは、ウマ娘を少しでも知っている人間なら分かるはずだ。
スターコロボックルの無念は推し量るにも辛すぎる。たとえ『青葉賞からダービー優勝者は出ない』という長年のジンクスがあったとしてもだ……。
あとは『レース中に転んで』で有名なのは同じクラッシック級のスズシロナズナだな。彼女は昨年秋の未勝利戦の最中、他のウマ娘と接触し転倒、ギャグ漫画みたいな派手な転がり方をした。
その後自力で立ち上がり、大きな怪我もなく歩いてゴールした件はその当時ちょっとしたニュースにもなった。
皐月賞の時も終盤に先頭に立ったもののそこから逸走、失格となってしまった。幸いな事にこちらも軽傷で済んだらしいが、なにかとトラブルを引き寄せるタイプのウマ娘みたいだな。
他にも大きな怪我とか病気とか、ダート戦や未勝利戦まで逐一覚えきれてはいないが、少なくともここ半年ほどは大きな事件は起きていないと思う。
「…先輩、聞いてます?」
しばらく水澤を放置して勝手に喋らせている間に俺は俺のデータベースから水澤の知り合いを引き出そうとしていたが、なにぶん500人程の現役ウマ娘レーサーから1人を絞れる訳もない。
そんな俺の地道な検索活動を『ボーっとしている』と受け取ったのか、無視されたと勘違いした水澤はやや不機嫌気味に俺を問い詰めてきた。
「あ、あぁ、ちょっと考え事をしていてな、んで、その知り合いってのはスズシロナズナで合ってるか?」
俺の質問に水澤は大いに驚き、手で口を押さえ再び目を大きく見開く。まさに『信じられない』といった顔で俺を目つめてくる。この感触は『当たり』だな。
「え?! 凄い! なんで分かったんですか? 私ナズナの『ナ』の字も言ってないのに…?」
まぁ、現役のランナーでデビュー済で『転んで』なんて属性持ちは何人もいるものではない。むしろGⅠを走る様な有力ウマ娘達を俺がチェックしていない訳が無いだろう?
「フッフッフ、俺のウマ娘への愛情を舐めてもらっては困るのだよ水澤くん。その程度の推理、5秒もあれば辿り着けたさ…」
フッ、決まった。俺の冴えた頭脳の
「え? なんで、そんなにマイナーな娘まで詳しいんですか? さすが『ウマ娘オタク』ですねぇ、ちょっとドン引きで怖いんですけど…」
水澤。お前、マジでホントそういうところだぞ?