【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「えーと… とりあえず今更お前らとあーだこーだ議論するつもりは無いです。水澤くん、約束は約束なんだから四の五の言わずにデータを寄越しなさい」
感情で反対してくる女の戯言に付き合っても、話が進まないばかりか『百害あって一利なし』だ。
彼女らと異性として付き合いたいなら『分かるよ、そうだよね』と無責任に寄り添うのもアリだが、俺はもっと響子先生みたいなアダルト系が好みなんだ。最低でもタカチャン先輩くらいの落ち着きは欲しい。水澤や三崎なんてガキだな、ガキ。
という訳で淡々と正論で要求を伝える。そういうのは好感度が下がると知ってはいるが、いちいち相手をしていても埒が明かないのだ。
「でも同じ女として納得いきません。先輩がイッチーのデータを『ネットに流すぞ?』とか脅して、嫌らしい行為を強制するかも知れないし…」
あーハイハイ、言ってくると思ったよそういうの。当然『それ系』の言い掛かりに対しても反論のシミュレーションはしてある。
「あのな三崎、ウマ娘がヒトと比べて強靭な体を持っているのは周知の事実であって、無名の高校生ウマ娘のデータを今更ネットに流した所で誰も有難がらない。それに仮に俺が水澤に関係を迫ったとして、それこそ非力な一般男性の俺に何が出来るってんだ?
そう、ウマ娘を相手にパワーでどうにか出来る人間はいない。オリンピックの重量挙げチャンピオンですら、その辺の一般ウマ娘を相手に力比べしても勝てないのだ。
「もう良いよナノちゃん。私も公表されて困るデータは消してあるから大丈夫だよ」
水澤も援護射撃をしてくれている。そのまま今度こそしっかりと水澤からコピーを受け取った。
「そうそう、これは比較人類研究部の中の話なのだから、部外者は口出し無用でお願いしま〜す」
わざと煽る様な物言いで三崎を見ると、三崎は本当に『苦虫を噛み潰したよう』なとしか言い表せない険しい顔をしていた。
まぁしょうがないよな。所詮三崎は『部外者』なんだから。
「…しますよ」
「え…?」
三崎が何かを呟いたが、俺には聞き取る事が出来なかった。三崎の横に居た水澤には聞こえた様で、水澤は長いウマ耳をピョコピョコ動かしながら、喜びと驚きの綯い交ぜになった顔で三崎を見つめている。
「『私も入部しますよ』って言ったんです! 純真なイッチーを騙しているのは変わりなさそうですから、これからは正式に私がチェックしますから!」
勝ち誇った顔で俺をにらみつける三崎。だが、入部届けの用紙は職員室か生徒会室にしか常備されていない。
これは不便だが、その場の勢いで無理矢理部員にさせられるという、過剰な部員勧誘を防止する措置だ。
「そうか… 入部希望者を止めるわけにもいかんな。入部届を書いて持って来い。歓迎しよう…」
俺はキメ顔で三崎を微笑んだ。これで新部員もゲットだし、三崎との新たな友情も築けると言うものだな、うん。
対する三崎は今にも唾棄せんと嫌悪を隠さない顔で俺を睨み付け、部室を出ていった。この流れなら間違いなく入部届け用紙を取りに行った筈だ。
「ナノちゃん待ってよ、私も入部届け貰いに行くから一緒に行こう!」
水澤も三崎の後を追って部室から退出していった。ていうか水澤も入部届けを出してなかったんかい?! いやまぁ俺がチェックし忘れていただけなんだけどさ……。
☆
よし、良い具合に1人になれた。この隙に水澤の身体データを吟味させてもらうとしよう。
コピーには身長や体重、握力や走り幅跳び等のデータが書かれていた。体重や胸囲、腹囲、腰囲の項目はマジックで線が引かれ数字が読めない様になっていたが、バカめ、コピートナーの上から線を引いても光に透かせば下の字は読めるのだ。
ふっふっふ、ウマ娘に心を奪われてからの6年間で初めて手にした『ナマの情報』だ。大切に活用させてもらうとしよう。
さて、ウマ娘の体力面が普通の人間よりも遥かに優れているのは何度も既述であるが、水澤が『女子高生』という点から見ても甚だ異常な存在である事が分かる。?の数字は水澤が黒塗りした、彼女が隠したがっていた情報。
身長:165cm
体重:?kg
胸囲:?cm
腹囲:?cm
腰囲:?cm
50m走:5.77秒
握力:138kg
背筋力:422kg
肺活量:4680ml
立位体前屈:2cm
伏臥上体反らし:51.2cm
垂直跳び:158cm
走り幅跳び:14.5m
20mシャトルラン:106回
なるほど興味深い。水澤は元アスリートであって今は専門的なトレーニングはしていない。それでもこの数字なのだ。少し細かく見ていこう。
身長体重は大した問題ではない。それ以降のフィジカルデータだが、まず50m走の5.77秒というのは物凄く微妙な数値だ。確かに世界記録でもこの数値を超えるヒト女子選手は居ない。だが男子ならばオリンピック級の選手であれば結構いる。5.77秒では男子日本記録にすら僅かに届いていない。
確かに水澤のデータはギネスブック級の数字ではあるのだが、それは普通の『ヒト』を相手にした物だ。
恐らくはウマ娘の公式レースは短くても800mと、人間でも中距離レースに相当する長い物だ。
従って『いきなりトップスピード』という走り方はウマ娘には苦手とする物なのかも知れない。
1000mを1分で走るウマ娘でも、1/20の50mを同じく1/20の3秒で走る訳にはいかないって事だな。
ちなみにウマ娘の短距離走選手も存在するが、50mの世界記録は5.40秒を切れていない。
これまたちなみに陸上動物最速のチーターでも、やはりスタートからの時間は大差ないらしいので、これが陸上動物の限界なのかもかなぁ……。
握力や背筋力、肺活量、垂直跳び、走り幅跳びはさすがの超越人類だと思う。その一端をこの身で味わったのだから納得の数値だ。しかも背筋力400とかリアルでゴリラと変わらないじゃねぇか。恐ろしい、水澤をからかうのは良いけど、本気で怒らせたらマジで命の危険だよな。
それにしても前屈や上体反らしで急に一般女子高生になるのは笑うポイントだろうか? この辺はウマ娘というアドバンテージは働かない訳だな。
最後のシャトルランも高校生女子の平均から見ればほぼ倍の数値だが、男子平均より少し良いくらいで世界的なアスリートの数値と比べると格段に見劣りする。
反復横跳びみたいな運動はあまり速度を上げすぎても減速にかかる力や慣性から立て直す力が余計に必要になるので、敏捷性に於いてはヒトとウマ娘の差はあまり無いと言えるかも知れない。
いやぁ、たったこれだけの資料でも多くの学びがあり、検証や推測も捗った。予定外の部員も増えたし、本当に今日は素晴らしい日だな!