【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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耳と尻尾

「えー? 耳ですかぁ? これは半々かなぁ? 普段は大体勝手に動いてます。集中すれば聞きたい方向に向けて、ある程度動かす事も出来ますよ」

 

 水澤はまだ警戒心を(あらわ)にしながらも、対話を続ける気はあるらしかった。こうやって変に根に持たない所は水澤(あいつ)の良い所だと思う。

 個人の性格の問題なのか、ウマ娘という種族全体の傾向なのかは判断に困る部分はあるが。

 

 水澤は集中の為か目を半閉じにし、口を(つぐ)む。水澤の頭の上の耳が動物が首を回す様に左右に回転する。可動域は右耳が10時方向から4時方向まで、左は逆に2時方向から8時方向まで、といった感じだ。

 水澤が耳を左右に展開させようと踏ん張る中で、時々ピョコピョコと耳が動くのが、水澤の言う「勝手に動く」部分なのだろう。

 

 勝手にピョコピョコなぁ……。

 

 そう、集中して耳を動かしている水澤なのだが、同時にもう一箇所勝手にピョコピョコ動いている部分がある。

 

「なるほど、耳は大体分かった。次はその上下左右に不規則に動いている尻尾だ。それは一体どうなってるんだ? それも自由に動かせるのか? 物を掴んだり出来るのか?」

 

 ウマ娘の腰から生えている長い尻尾。これが何の為に有るのか専門家の中でも意見が割れているらしい。有力なのは『走行時のバランサー』という説だが、それとて科学的な検証はされてはいない様だ。

 確かに検証するとなると『尻尾のあるウマ娘』と『尻尾の無いウマ娘』が必要になり、片方は外科的手術での切除が必要となる。協力してくれるウマ娘がいるとは思えない。

 

 俺達ヒトは、かつて人が類人猿から人類に進化した際に、尻尾は不要の物として退化してしまった。 

 だが現代でも人類には尻尾の名残が残っている。腰骨にある尾骨 (尾てい骨)がそれだ。そして初期の胎児には明確に尻尾と言える機関が確認できる。その尻尾が退化せずに現存しているのがウマ娘なのだ。

 

 …いや違う。それならばウマ娘の尻尾は、猿と同様に細長い尻尾に短い毛が生えている物になるはずだ。

 ウマ娘の尻尾はそれとは明らかに違い、細く短い尻尾本体に3〜40cmの長い毛が房の様に生えている。

 

 一時は「ウマ娘は類人猿への先祖返りである」との仮説も考えたが、この耳と尻尾の形状だけでもはっきりと『否』と判断できる。

 

 水澤の尻尾も普段から左右に無作為に揺れていて、何らかの意図を感じた事はない。恐らく耳以上に尻尾の動きは完全に無意識なのだろう。

 

「尻尾ですかぁ? 一応左右に振るくらいはできますよ。でも基本無意識です。これも自分ではよく分からないんですよねぇ… あと毛は長いけど尻尾本体は割と短いんで、物を掴んだりは無理です」

 

 そう言って水澤は俺の方に尻を向け、黒くて長い尻尾を左右に振り始めた。神蛇の玉串の様に俺の目の前でバッサバッサと振られる水澤の尻尾。傍から見たらメチャメチャシュールな絵面だと思う。

 

 そしてそこでまた新たな違和感に気付く。振られている尻尾の中心、付け根が腰にあるのだ。これは想定よりもかなり位置が高い事になる。

 

 前述の通り、ウマ娘の尻尾がヒトの尾骨と同じ物を使っているとしたら、尻尾の付け根はもっと低く臀部(しり)の割れ目上部になるはずだ。腰骨の土台たる仙骨(せんこつ)の下に有るのが尾骨なのだが、水澤の尻尾はその仙骨の上部から生えている様に見受けられる。

 

「先輩、女の子のお尻をそんなに見つめるのはセクハラですよ?」

 

 三崎がまたシュバってきた。水澤の方からケツを向けてきたんだから、どう考えても俺は無罪だろ。

 

「まぁちょうどいいや。三崎、水澤の尻尾を触り心地を確認してくれ」

 

 三崎はまさか仕事を振られるとは思っていなかったみたいで、キョトンと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。形式だけでも部員なんだから、居るだけじゃなくて働いてもらうぞ。

 

「イッチー…?」

「ナノちゃん、優しくしてね…?」

 

 三崎は水澤の反応を見るが、水澤の方は「尻尾触ってOK」らしい。話が早くて助かる。

 

「うわー、なんか凄くサラサラしてますねぇ…」

 

 水澤の尻尾を手に取って梳くように撫でる。水澤は顔を赤らめたまま俯いている。ウマ娘(みずさわ)的にどういう感覚なのか、この表情だけではどうにも察しづらい。

 

「あ、い、一応尻尾用の洗剤とかあって、トリートメントとかもしてるんだよ。何にも手入れしないと臭くなりがちでさ…」

 

 顔を赤くして何かを堪えるように三崎に説明する水澤。尻尾のケアもウマ娘のエチケットなのだな。

 大変だとは思うが、『手入れしないと臭くなる』とは一体どの様な匂いになるのかも機会があれば1度調べてみたいな。でも多分言ったら怒られそうだな。

 

「うひ… あ、あとナノちゃん、根本の方はあまりワシャワシャしないで。くすぐったいんだよ…」

 

 水澤が何かを堪えていたのは『くすぐったさ』だったみたいだ。時々ビクッと動くのはそれに反応していたんだな、見ていてちょっと面白い。

 

 水澤は尻尾の根本と言うが、腰から膝丈まで伸びた尻尾の実際に腰から生えている本体は恐らく15〜20cmといった所だろう。

 ここで最初の疑問に立ち返る。『ウマ娘の尻尾の生え際はどの様になっているのか?』だ。

 

「よし三崎、そのまま尻尾の付け根がどうなっているのか確認してくれ」

 

 この言葉に、水澤も三崎も揃って意外そうな顔をして俺を見つめてきた。三崎が口を開く。

 

「わ、私がイッチーのお尻を確認するんですか…?」

 

「そうだよ。俺が確認しようとすると、どうせ2人してギャーギャー言い出すんだろ? 水澤も背中の事は見えないし、俺が出来ないってんなら三崎(おまえ)に頼むしか無いんだ」

 

 その後、水澤と三崎は2人で見つめ合って揃ってモジモジと赤面する。こっちは待ってるんだから早くしろよ。

 

「あー、じゃあちょっと失礼して…」

 

 と水澤と三崎の2人で連れ立って部室を出ていった。恐らく俺に見られたくないから、女子トイレにでも行ったのだろう。

 漫画やアニメならここでカメラ視点があいつら2人に移って、キャーキャー言いながら戯れるシーンが流れる所だろうが、あいにくここは終始俺の一人語りで進んでいく。

 なので『モサい若者が夕方の部室で1人待たされる』シーンが続く事になる。ご了承願いたい。

 

 ☆

 

「戻りましたぁ…」

 

 水澤と三崎の2人が戻ってきた。走って来た訳でもないのに何故か顔を紅潮させてハァハァと息を荒くしている。

 

 どういう状況だよ全く… 俺だけ()け者で気分悪いぞコラ。

 

「イッチーの尻尾を見てきましたけど…」

 

 未だ興奮冷めやらぬ三崎が何らかの報告をしてくれるようだ。うむ、濃いのを頼むぞ。

 

「スッゴい肌がキレイでビックリしました!」

 

 ……は?

 

 そうじゃねぇんだよ、俺が知りたいのは尻尾の成り立ちとか骨格の差異であってだな……。

 

 まぁ『何を見てこい』と指示しなかった俺が悪いなこれは……。

 

 ☆

 

 トイレに行ってきてから水澤ら2人の空気がおかしい。明らかに何か秘密を共有している奴ら特有の『ウザい空気』が蔓延している。凄く居心地が悪い。

 何となく部内のイニシアチブを取り返すべく、待ち時間に浮かんだ新たな疑問を水澤に投げてみた。

 

「なぁ水澤、ウマ娘の耳って頭の上のが本体だろ? そしたら顔の横、人間の耳の部分はどうなっているんだ…?」

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