【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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鷹山と水澤

「えっ? ゴメン、よく聞こえなかった。何だって…?」

 

 俺の聞き間違いでなければ、目の前のウマ娘は「ウマ娘を滅ぼしたい」旨の発言をしていた。

 

 俺の考える「比較人類研究部」は、確かに『ウマ娘の強さの秘密を解き明かそう』という意図が無いといえば嘘になる。ただ単にウマ娘を愛でるだけでは『研究』などと言えるはずが無いのだから、これは必然な流れだ。

 

 だからと言って「ウマ娘を滅ぼす為に弱点を探ろう」という研究など許される筈もないし、そんなつもりもさらさら無い。そもそもこの娘自身がウマ娘なのに一体何を寝ぼけた事を言っているのか…?

 

「あの… ここってウマ娘キチ… ウマ娘に詳しい先輩の作った部活ですよね…?」

 

 今『キチガイ』って言おうとした?

 

「うん、まぁ… 『詳しい』っていうか『とても興味がある』って言うか…」

 

 ウマ娘の彼女はずっと思い詰めた様な表情で、眉を怒らせ口を尖らせている。少なくとも冗談を言っている雰囲気ではない。

 

「あのっ、私、自分もウマ娘なんですけど、ウマ娘が嫌いなんですよ!」

 

 彼女は俺の目を直視しながらキッパリと言い切った。

 

 ☆

 

「まぁ、とりあえず落ち着いて。何でそんな過激思想に染まっちゃったのか聞かせてくれるかな…? あ、俺は2年A組の鷹山(たかやま) 留吉(とめきち)

 

「1年B組の… 水澤(みずさわ) イチです。すみません興奮してしまって…」

 

 椅子に座らせて番茶を出したら彼女… 水澤イチも落ち着いてくれた。万が一あのまま暴力でも振るわれていたら「比較人類研究部」は創設日に解散する羽目になる所だった……。

 

「『水澤さん』ね… ウマ娘ってそういう日本人としての『和名』とウマ娘としての『ウマネーム (ソウルネーム)』ってのがあるんだよね? そっちも教えて貰って良いかな?」

 

 そう、ウマ娘には生まれて間もない期間は、戸籍作成の為の『日本人名』が必要になる。成長して物心つくと「自分の名前は〇〇(例∶ブラックリリィ)だ」と自覚して、以降はその〇〇の名前が正式に本人の名前として使用される。

 古い和名は親や兄弟、幼馴染くらいからしか呼ばれなくなるのが一般的なウマ娘の生態だ。

 

 ウマ娘なら誰でも持っている2つの名前。自己紹介の延長として軽い気持ちで聞いたのだが、彼女… 水澤から返ってきたのは親の仇を見るような厳しい視線だった。

 

「あの、今それ関係ありますか…?」

 

 怒りを通り越して憎悪の視線で、テーブル越しに詰め寄る水澤。ズイと顔を寄せた時に彼女の亜麻色 (ウマ娘だから『河原毛』と言うべきか)のポニーテールがフリフリと揺れ、そこだけ現実から離れている様な気がした。

 

「あ、うん… 関係無い、かな…? なんかゴメンね…」

 

 俺の怯えを感じ取ったのか、水澤もハッとして正気に戻ってくれたらしい。彼女にとってウマネームの話題は禁則(タブー)みたいだ。マジで殴られそうだったから覚えておこう……。

 

「す、すみません度々… 先輩とは初対面なのに、何か、話しやすくて… 先輩有名だし…」

 

 え…? 俺って有名なの? 何で? 俺は自分で言うのもナンだけど、ただのウマ娘オタクだし、論文とか書いてる訳でもないし、スポーツ出来ないしダサいメガネ掛けてるし髪の毛天パだしイケメンでも無いよ? まさか密かに俺の事を想っている女子が何人かいて、秘密裏にファンクラブ的な物が作られてあったりとか…?

 

「年中ウマ娘の事ばかり気にしているキモ… 独特な人がいて、『ウマ娘をやっつけよう!』っていう部活が出来たと聞いてやって来たんですよ!」

 

 今『キモい』って言おうとした?

 

 …ふん! 良いよ良いよ、分かってたよ。どうせ女子の中の俺のカテゴリなんて『変人』で、それよりまともな扱いなんてされないだろう事は、この鷹山留吉16年の人生の中で嫌というほど痛感しておりますともさ!

 

「あと俺は『ウマ娘をやっつけよう!』なんて欠片も思ってないからね? そんな邪心がある人は帰って下さい!」

 

 俺の言葉に水澤は意外そうに目を丸くしていた。

 

「え? 『ヒトがウマ娘に対抗する為にウマ娘の弱点を研究しよう』って部じゃ無いんですか? 私、その為ならモルモットになるつもりで扉を叩いたんですけど?!」

 

 …え? あ… そういう目的では無いのだけれども、ウマ娘の協力者が居てくれると『研究』の為には物凄く助かるなぁ。

 伝承や医学書をいくら読んでも理解出来ないウマ娘の構造や生態が実際に確認出来るとなると、これはとんでもないアドバンテージとなる。

 

 水澤(この娘)をうまく騙くらかして… いや言いくるめて… いやいや誤解させたままで、ウマ娘の生態の秘密に辿り着けるかも知れない。水澤はリリースしない方が得策だ。

 

「ま、まぁ、そこまで戦闘的な理由では無いが、ヒトとウマ娘の差を埋める様な研究が出来たら良いなぁ、とは思っているよ。どうだろう水澤くん、我々の目指す道は途中までは交わっている気がするんだ。そこまでで構わないから、俺と一緒にこの部で力を奮ってみないか?」

 

 完全に口から出任せだ。声は震えていたし目も泳いでいたと思う。それでも俺の言葉を聞いた水澤は感銘した様に目を輝かせていた。

 

「ええ、それで構いません! お互いの目的の為に今は手を結びましょう! 改めてよろしくお願いします!」

 

 俺と水澤はその場でバシと硬く握手をした。

 

 よし、部員1人ゲットだぜ。

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