【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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牛と直球

『ミノタウロス』

 ギリシャ神話に登場する半人半獣のモンスター。牛の頭を持つ屈強な男性として描かれる事が多い。クレタ島のミノス王が海神ポセイドンの不興を買い、ポセイドンがミノス王の妻にかけた呪いが元で産まれた悲劇の存在である。

 その後凶暴になっていくミノタウロスはミノス王によって迷宮(ラビュリントス)に閉じ込められ、生贄の少年少女を食っていたが、やがて英雄テーセウスによって討伐される、というストーリーだ。

 

 そして俺の前にはその神話怪物と同名のウマ娘がいる。彼女は2年C組の生徒であり、俺も同学年だから『そういうウマ娘がいる』という情報だけは以前から仕入れている。

 直接会話をした事はないが、恐ろしい名前の割におっとりとした優しい性格であるらしい事は調査済みだ。

 まぁ比人研(うち)には更に恐ろしい名前の『アビスビースト』がいるから、名前と性格には何の関係も無い事は分かっている。

 

 彼女の持つ雰囲気からは、恐ろしいモンスターであるミノタウロスの片鱗も(うかが)えない。むしろミノタウロスのモチーフである、大人しくてのんびりとしている『牛』の印象が強いかも知れない。『ウマ娘』ではなく『ウシ娘』と言った方が想像しやすいだろう。

 

「誰がウシ娘やね〜ん!」

 

 俺達の誰もが無言のままでミノタウロスさんの登場に呆けていると、誰もボケてないのにいきなり関西風のツッコミが飛んできた。まさかミノタウロス(こいつ)、俺の心の中を読む特殊能力を持っているとでもいうのか…?

 

 そして水澤と三崎が顔を合わせて驚きの表情を見せる。2人ともまさに「なぜ考えている事がバレたの?!」という顔だ。つまり俺達3人は同時に同じ事を考えていたのだろう。

 

「あははは、わたしを見た時の印象ってみんな同じ事を考えるみたいなんですよ〜。だから先にツッコんで上げましたぁ〜」

 

 ケタケタと楽しそうに笑い声をあげるミノタウロスさん。なるほど、自分がネタにされるのを込みで、敢えて闘牛の如く突撃するスタイルか。よほど無神経か、よほど肝が座って無なければ出来ない芸当だなこれは。

 

 しかし、このわずかの短時間で部の雰囲気を全部かっさらって行ったムードメーカーなのは間違いない。水澤とは違うが、底が見えないこういうタイプはこういうタイプでなかなか手強いのだ。

 とりあえず部長として舐められないように、この辺で俺がガツンと言う必要がある。

 

「あ… あぁ、ミノタウロスさんね。俺は部長の鷹山、クラスは2-A。明るい娘の見学は大歓迎だよ、適当に空いてる場所に座ってくれ」

 

 ミノタウロスさんは素直に「はぁい」と、俺と水澤達とを等しく正三角形で描くような位置に腰を降ろし、そのままニコニコと俺達を見回す。

 

「お話の途中で割り込んじゃってゴメンなさぁい。続きをどうぞ、黙って見てますから〜」

 

 だそうだ。この直前に何を話していたんだっけ? あ、ウマ娘の目の話だったな。更に伝説に謳われる『ウマ』の話だ。こちらは俺の脳内限定だが。

 

「ウマ娘の目って猫みたいで不思議だねぇって話をしていたんですよ。そう言えばミノタウロス先輩の目も綺麗な薄紫色ですよねぇ、まるでアメジストみたい…」

 

 三崎がミノタウロスの顔を覗き込んで感動した様に呟き、それを受けて嬉しそうに破顔するミノタウロスさん。確かにウマ娘の目は宝石の様な美しさを持っている。

 タカチャン先輩はサファイアの様な青い目をしていたし、水澤の目も琥珀の様な輝きを放っている。

 

 ふと思う。この『目の輝き』も『ウマ』の正体に近づくための何らかのヒントが隠されているのでは無かろうか? 俺は『ウマ』とは、それこそミノタウロスの様に巨大な角や牙を生やした凶暴なモンスターを想像していたが、意外と優しい姿の草食動物だったりするのかも知れない。

 いや、やっぱり水澤とかを見るに、そうやって人を騙して食ったりする悪いモンスターの可能性が高いな……。

 

「あの! 『ミノタウロス』ってゲームとかによく出てくるモンスターの名前ですよね? 先輩は自分の名前が嫌だったりしませんか?!」

 

 お、出たな水澤(ぶし)。しかしミノタウロスの出典がゲームってのはさすがに相手に対して失礼だぞ? ツッコまないけど。

 

 前回のタカチャン先輩は『タカナチャンポン』という名前に対して、何だかんだで違和感を抱きつつも『それが自分だから仕方がない』というスタンスだった。

 今回は神話由来のモンスターの名前だが、ぶっちゃけ俺はカッコイイと思う。「アビスビースト」ほどには厨ニ心を刺激されないが、男子は基本的に好きだろこういうの。出走表に「ミノタウロス」の名前があれば「タカナチャンポン」よりは活躍してくれそうな気がするぞ。

 

「え〜? あんまり考えたこと無いなぁ〜。小さい時から『ミノちゃん』とか呼ばれているから、もう慣れちゃったし、別に嫌では無いかなぁ…?」

 

 頬に指を当て、上目遣いで考えるミノタウロスさん。やはりウマネームについて深く考えるのは稀なパターンみたいだな。またしても同志獲得に失敗した水澤は悔しそうに俯く。小さく「ちっ」って舌打ちしたの聞き逃さなかったからな。

 

「え〜と、貴女は自分の名前が嫌いなの? それってタカチャン先輩よりも変な名前だったりするの?」

 

 おっと、ド直球にぶっ込んできたなこのウシ娘。なにげにタカチャン先輩もディスってきている、恐ろしい娘だ。

 天然すぎてデリカシーが抜けているタイプなのか、或いは毒舌キャラなのを天然シートで覆っている大女優なのか、果たしてどっちだ…?

 

「あ… う… わ、私は『アビスビースト』っていいます… でもこの名前が好きじゃないので、和名の『水澤イチ』で通してます…」

 

 恥ずかしそうに自己紹介する水澤。確かにこの流れで名前を教えないのはおかしい。ついでに横に居た三崎も『水澤の友人』として自己紹介する。

 

 2人の自己紹介を「ほぇ〜」と聞いていたミノタウロスさんは、何だか自分なりに納得した様にふむふむと頷いていた。

 

「ふ〜ん、じゃあわたしも和名を名乗った方がいいかな? えっとね、わたしは『福田ミク』っていいます。よろしくね〜」

 

 …このミノタウロスという人物、俺としてはなんとも『掴み所の無い人』という印象だ。

 とりあえずタカチャン先輩に何を吹き込まれたのかは見当もつかないが、見学者とはいえ、興味を持ってうちの部に来てくれたのだから、上手いこと入部する流れに持っていけたら最高だよなぁ……。

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