【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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演劇と違和感

「そう言えばミノタウロスさんはタカチャン先輩とはどういう繋がりで?」

 

 ミノタウロスの来訪目的が単なる暇つぶしや賑やかしならば何の問題も無いが、ひょっとしたら部の活動内容を秘密裏に探りに来た生徒会の密偵の可能性もある。

 目の前のウシ… もといウマ娘がそんな器用な事が出来るようには到底思えないのではあるが、人は見かけにはよらない。だって俺、見かけは女の子の水澤に右手を粉砕されかけたからね。

 

「んとねぇ〜、演劇部の先輩後輩の関係だよ〜。わたしは演技ヘタで大道具担当なんで、発表の無い時期は割と暇なんだよね〜、みたいな話をタカチャン先輩としていたら『比人研(ここ)』を紹介されたんだよ〜」

 

 ほぉ、演劇部か… 普段見かけるドラマや舞台でもウマ娘の俳優は多い。ウマ娘は総合的に整った顔立ちの娘が多く、過酷な稽古や撮影に耐えられる強靭な体力を持つ。走りだけでなく芸能活動にも高い適正があるのだ。

 

 そして失礼を承知で言わせてもらうが、ミノタウロス女史は性格がマイペースすぎて演技の出来るタイプではない。何かの役柄を与えても『ミノタウロスさん役』にしかならないタイプの娘だ。膂力は高そうなので大道具担当というのは適材適所だと思う。

 

 うーむ、少なくとも密偵の可能性は消して良いだろうな……。

 

「タカチャン先輩に『一緒にいるウマ娘ちゃんも面白い娘だよ〜』って言われてたから気になってたんだよね〜。え〜っと、アビスビーストだからアビちゃん…? それとも水澤ちゃんの方が良い?」

 

「えっと… 水澤でお願いします…」

 

「おっけ〜。んで水澤ちゃんは何があってそんなに拗れちゃったの〜? 良かったらお姉さんに話してみて〜」

 

 確かに背景も語らずに名前云々言われてもミノタウロスだって「???」ってなるよな。そう言えば水澤はタカチャン先輩と話した時に『アビちゃん』って呼ばれていたのを思い出した。それが元で殺されかけた事もな。

 

 水澤がテロル思想に至るまでのしょうもない理由を一通り語って聞かせる。ていうか俺にはずっと拒否していた話題を、初対面のミノタウロスにはペラペラ喋るっておかしくない? いくらウマ娘同士だからってそこまで露骨に差を付けなくても良くないか?

 

 そして水澤のムダに長い話を最後まで大人しく聞いているミノタウロス、その忍耐力だけで『良い人』認定しても良さそうだ。

 

「なるほどねぇ〜、でもやっぱりわたしみたいな落ちこぼれウマ娘からしたら、水澤ちゃんは『速いのに勿体無い』って思うかも〜」

 

 …やっぱりそうだよな、俺だってそう思うもん。

 

「わたしは小さい頃から足が遅くて、ウマ娘のくせに駆けっこが苦手だったんだよねぇ〜。タカチャン先輩もトレセン学園に進める程の速さは無かったみたいでね〜」

 

 そう、たとえ地方トレセン学園であっても、ヒトで言うなら『陸上競技の特待生』と同等の扱いを受ける。中央トレセン学園に至っては比較する存在すら思いつかない。

 

「だからたとえ地方でもトレセン学園に進学できた娘は凄いよねぇ、って言うのがわたしの考えなの〜。水澤ちゃんは『走り』に未練は無いの…?」

 

 わざと意地悪そうな顔をして水澤を覗き込むミノタウロス、水澤は相手を正視できずに俯いてしまった。

 

「わ、私だって走るのは好きだし、トゥインクルシリーズには憧れます… 『アビスビースト』なんて名前じゃなかったらきっと今だって…」

 

 水澤の呟きには大きな未練が感じられた。それほどまでに嫌なのか『アビスビースト』が……。

 

「それに何にしても今から競走ウマ娘人生を目指すのは遅すぎますからね。未練も何ももう手遅れですから…」

 

「そっかぁ〜、でも『走りたい気持ち』があるなら走りを完全に辞めなくても良いと思うんだよねえ〜。ただのジョギングだけでも結構気持ちは違うよ〜?」

 

 このミノタウロス、何が言いたいのだろう? 水澤を何かに誘導しようとしている節があるが、さすがに今更水澤を走りに復帰させるのは無理筋だろ。ここは俺が出た方が良いのかな…?

 

「あの、ミノタウロスさん。水澤の経歴が勿体無いというのは同感なんだけど、水澤も苦悩の末に決断した事なので、あまり揺さぶらないで貰えると…」

 

 差し出がましいのは承知しているが口を出さずにはいられなかった。だって俺、部長だし。ここで変に水澤に目覚められて「退部します!」とかやられると凄く困る。だから水澤には要らん事で悩んだりしないで、俺の為のデータ収集に徹して欲しいのだ。

 

「あ〜、そうだよねぇ〜。ごめんねぇ、変な事聞いて〜。気にしないでねぇ〜」

 

 ミノタウロスは素直に反省の弁を口にしてくれた。だが何だろう? 妙な違和感がある。まるでここまでの流れが全て『台本通り』であるかのような……。

 

「あ、ハイ。大丈夫です。気にしてませんから…」

 

 水澤の返答にニッコリ頷くミノタウロス。何だ…? まるでこの部室全体に蔓延するかの様な違和感の正体は何なんだ…?

 

「実は〜、わたしとタカチャン先輩でよく船橋トレセン近くのフリースペースで走ってるんだけど〜、水澤ちゃんも今度の日曜日にでも都合着いたら一緒に行かないかな〜? っ思ってね〜。タカチャン先輩も会いたがってるし〜」

 

 先輩が後輩を休みの日に遊びに誘う。ごくありふれた光景であり、何らかの心配をする様な事ではない。

 それなのに俺の中の違和感は消えない。三崎は何かに気づいた様子はない。この感覚は俺だけらしい。

 

 違和感が『疑惑』に変わったのは、ミノタウロスの言葉、「てるし〜」の辺りで、目だけで一瞬俺の方を一瞥して、勝ち誇った様な視線を向けてきたのを見てしまったからだ。

 

 このミノタウロスというウマ娘、ウシ娘どころかとんだ『タヌキ娘』かも知れないぞ…?

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